やはり俺に彼女が出来るまでの道のりはまちがっている。 作:mochipurin
4000字ぐらいなら結構前にかけてたんですが区切る部分がなかなかなくてズルズルと引き延してしまいました......
や、でも3話ぐらいの分量あるんで、と言ってもズルズル引き延したというだけあってどうも納得いってないんですよね。もしかしたら書き直すかもしれません。
あとコメントでツイッターやってますかとの質問をしてくださったので、一応書いておきます。
@arazin0022
はいそこ。なんでarazin?kusapurinじゃねえの?とか言わない。アラジンと魔法のランプのせいだよ。
ちなみにこのアカウントは、ハーメルン用に作ったものではないので、何かと内輪ネタをツイートするときもありますのでご注意ください。
久しぶりの更新なんだからさっさと読ませろって感じですよね。はい。15話です。どうぞ!
そして夜。今まさに、小学生の大半が初体験であろう夏の風物詩、肝試しが始まろうとしていた。
が、そこでお化け役をする俺たち高校生組は、肝試し会場である森の入り口ではなく、むしろその逆方向に立地している、大きく開けた原っぱにいた。
今頃、唯一司会役として残った小町が、小学生相手にルールなどの説明してくれているだろう。さすが小町たん。コミュニケーション能力の塊。俺は一体どこでこの差がついてしまったのか......
とまあ、俺たちはじゃあ一体何をしているかと言うと、
「よいしょ、っと。これいいかな、的前さん」
「うん、ありがとう葉山くん、それにみんなも。急な話だったのに準備まで付き合ってもらっちゃって」
「全然気にしなくていいよ。同じクラスメイトなんだ、助けるのは当然だよ」
「葉山くんの言う通りだべー。それにこんなテンションのアガること、乗らない方があれっしょー。っと、よっこらせ」
葉山と戸部が、持っていたダンボール箱を芝生の上に置く。
これで荷物の搬入は完了だな。
「うん。本当にこのクラスで良かったよ。ありがとう。じゃあ、私と八幡くん。それに雪乃ちゃんと結衣ちゃんはここで残るから、他の人は肝試しの方に戻ってくれるかな?」
さすがに全員が残れるわけないので、的前プラス奉仕部でセッティング、それが大方終えたあたりで由比ヶ浜、雪ノ下ともに肝試し組へ合流、俺と的前で作戦を最後まで決行、という手はずだ。
俺って最近、的前と一緒にいる状態多くね?正直、嬉しさと緊張がそろそろゲシュタルト崩壊を起こすレベルで意識を占拠してるから困るんですけど。
「うわー、あーし、肝試しとかチョー久しぶりなんですけど」
「私たちはやらないんだからね?小学生に混じって優美子が肝試ししないでよ?」
「そ、そのぐらいわかってるし!バカにすんなし!」
「へー優美子ならやりそうだけど」
「はぁ?!」
ほんと三浦、海老名さんペアって仲良いな。
「あーはいはい。二人漫才はそこまでにして。小町ちゃんも待ってるんだし、早く戻ってあげないと」
「りょーかーい」
「ちょっ、隼人!私、肝試しなんかに浮かれる女じゃないからね?!ね?!」
「はいはい......」
「本当に違うんだってば!」
ギャーギャーと女王様が騒ぎながら、肝試し会場へと続く森へ五人が消えていった。うるさい。
しかし葉山も大変だよな......あのメンツ全員に不満がないようまとめ上げてるとか、苦労が半端じゃねえわ。さすがイケメンくんは違うぜ。俺だったらグループに存在した時点で、不満が蔓延するレベルである。これって無理ゲじゃない?
「じゃあ後はちゃちゃっとセッティング済ませちゃおっかー!」
「ええ、まだ時間は十分あるけれど、トラブルのことも考慮すれば、早めに取り掛かった方が良さそうね」
「だな。あとはー......予定通り進行すれば、肝試しが終わるまで二時間無いくらいだな。ちゃっちゃと作業に取り掛かろうぜ。ほれ由比ヶ浜、これ持っといてくれ」
「はいはーい」
携帯で時間を確認した後、由比ヶ浜にダンボールの中身を渡す。
しかし、的前も案外アグレッシブな部分もあるんだな。これも昼間の少女、サキサキの状態に何か思うところがあったのかもしれない。そもそも彼女自体が年端のいかない女の子である。"あんな"過去があるのなら、誰だって助けてあげたいと思うのが当たり前だろう。
「的前」
雪ノ下と由比ヶ浜が散っていったところで、的前に話しかける。
「ん?何かな?」
「この計画、必ず成功させような」
「え、う、うん」
「なんだよ、歯切れ悪いな。あの子、笑顔にさせるんだろ?」
「うん、なんだろう。八幡くんにキザなセリフは似合わないと思うんだよね」
「泣くぞ」
まあ確かに似合わんけども。かなり自分でも無理のあるキャラだったと自覚してるけども。
「でも、うん。頑張るよ、私」
「おう。俺も程々に頑張るわ」
「えー、そこは八幡くんも一生懸命頑張るー、とか言うところなんじゃないのー?」
「言ったらどうせ、そんなセリフは俺に合ってないとか言うんだろうが。だから俺は絶対に言わん」
「もー拗ねないでよー」
「拗ねてねえっての」
「......ふふっ」
「ふっ......」
二人で顔を見合わせて微笑み合う。どうだ葉山。俺みたいなのでも、まるでリア充のような雰囲気を醸し出せるんだぜ?問題は、お前が本物のリア充で、俺は所詮、偽リア充ってところだがな。あ、そもそも立つ土俵が違うわこれ。
「よろしくね、八幡くん」
「ああ、こっちこそよろしくな」
まあ、偽リア充だろうが、なんだろうがどうでもいいさ。真か偽かは当事者である俺が決めることだ。
「あー! 優花ちゃんとヒッキーがなんだかいい雰囲気になってるー!」
なってねえよ。
「あら比企谷く......サボり企谷くんの分際で生意気な態度をとるものね」
「い、いい雰囲気なんかじゃ--」
「雪ノ下、わざわざ言い直す価値あるか?それ」
「--ってそこ?!」
甘いな的前。俺は小町にほぼ毎日、的前との進展はどうだの、今日は何をしてたのだの、うんざりするほど聞かれてんだ。今更由比ヶ浜程度の煽りで動揺なんてしないさ。
「じゃあお願いだから、場を弁えず、盛った、犬のような、行動、をするのだけは控えてちょうだいね。約束よ」
「ばっ、雪ノ下おまえっ!」
こいつ絶対、俺が余裕綽々だったのが気に食わなかっただけだろ!自分で言って頬を赤く染めるぐらいなら無理するなよ恥ずかしい!
「さ、盛った......」
的前もリピートしなくて良いから。というかお前も顔を赤くしないで否定しろ。
「盛った......どういう意味?」
ああ......ああ......この子は......
「由比ヶ浜......今はお前の馬鹿さが心地良い......」
「なんで私馬鹿にされてんの?!」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「やー、にしてもさすがだわ的前さん。なんていうのー?あれ、リーダーシップがぱねーよなー。弓道部の部長だし?やっぱああいうのがみんなに気遣えるんだろーなー。っべーわー、まじっべーわー」
「ああ、そうだな」
仮装をして配置につくため、五人で話をしながら森を歩く。
「あ、や、もちろんハヤトくんも入ってるっしょー?あ、それだとユミコも入ってるしー。あれ?俺らのクラスって結構リーダー系の人多いんじゃねー?!」
「で、ですねー。それに、戸部先輩もなかなかだと思いますよー」
なんだろう。今日の戸部先輩、すごくやかm......うるさい。
あれだろうか、先ほどの三浦先輩と同じく、柄にもなく肝試しが楽しみなんだろうか。参加できないとわかっていて、なぜこうも興奮......あ、脅かす役をするから......?
......だめだ。この人が脅かす役を演じるなんて出来そうにない。いや出来ない。絶対に、ばーっ!って叫ぶところで、っべー!って言っちゃうでしょこの人。
三浦先輩は、仮装なんかしなくても怖そ、
ひっ.......なぜか今寒気が......
「で、でも本当に凄いですよねー。一人のために、あんな大胆な行動をすぐ実践できるのって」
「ねー。あーし、いきなり的前さんとヒキオが、肝試しの役するの降りたいとか言うじゃん?ちゃんと先生を含めて計画まで練ってるのにしょーもない理由だったら、軽くシメてやろうかとか思ってたんだけど、ああいった内容の話されちゃったら、むしろ感動ものじゃん?あれでかなり的前さんの認識変わったわ、あーし」
とか言いつつ最初、私のこと睨んでましたよね?
「おれもおれもー」
「私もー」
「部長に抜擢されるのもわかるよ。技力もあるんだろうけど、結局は周りからの信頼だからな」
「ですねー」
全員がそれぞれ肯定の相づちを打つ。
なお、ここまでに先輩の話題はない模様。かわいそうな人です。アーメン。
「急ごしらえとはいえ、美咲ちゃん、でしたっけ?その子のためにも、うまく成功してくれるといいんですけどねー」
「だべだべ」
「まあ、他人の心配もほどほどにしといたほうが良さそうだな。もう少しすれば肝試しも始まる。由比ヶ浜さんと雪ノ下さんも、あっちの準備を終えて、もうじきこちらに戻ってくるはずだ。美咲ちゃんのためにも、出来るだけの事をしてコンディションを整えておこう!せーの、えい、えい、」
「「「「「おー!」」」」」
先輩、全く誰にも触れてもらえてませんでしたが、私ぐらいは応援しておいてあげますから。頑張ってくださいね。そしてせいぜい、私と葉山先輩の架け橋になって使い倒されてください。
"花火" 上手く打ち上がるといいですね。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「っへくし!」
なんだろう。凄く失礼な事を考えられてた気がする。具体的には、あざとい後輩に巧みに利用されそうな。
「大丈夫? 風邪とか引いてない?」
「や、大丈夫。それよりこっちの準備は完了したぞ。的前の方はどうだ?」
「うん。こっちも今終わったよー。あとは由比ヶ浜さんから、肝試しの終了の連絡を待つだけだね」
打ち上げ花火の粗方のセッティングを終え、葉山達を追った由比ヶ浜から先程、肝試しが始まった旨をメールで伝えられたので、今から一時間程、ここで的前と待機ということになる。
一見余裕そうに見えるが、本来肝試しの後にはキャンプファイアー行われる予定だったのだ。それを無理言ってずらしてもらっているので、迅速かつスピーディに行わなければならない。
でも事実、この待機時間は暇なわけで、
「ねえ、八幡くん。一袋だけ......ダメかな?」
恐る恐る、まるで躾の厳しい母親におもちゃをせがむような顔で、手持ち花火の入った袋を俺に見せてきた。なにこれクッソ可愛い。
それは四人で設置した打ち上げ花火とは別に、キャンプファイアーの時にでも小学生に配ろうと予定していたものだ。もちろん、足りなくならないようかなり余裕をもてる量を買ってきたので、多少は大丈夫だろう。っていうか、
「そもそも経費の半分は的前が出してるんだし、あいつらなら責めやしないだろ」
そうなのである。林間学校のボランティアに、なぜそんな金を持ってきてるのかは知らないが、買い出しで山の麓のスーパーまで行ったとき、半分出すと言って財布から諭吉さんが数枚出てきたのには驚いたものだ。
あと素行の良い的前ですらこんなことを言うのだ。俺が耐えられる訳ない、花火したい。めっちゃ花火したい。うわー、何年ぶりだろうなー。花火なんて眺めてるだけで、したことないから凄く新鮮だなー。何年ぶりとか言う問題じゃなかったなこれ。記憶がないほど昔の俺が花火を体験していることを願うばかりである。
「いや、みんなが頑張ってるのに私達だけ楽しんでて良いのかなーってのがちょっと......ね」
「っは、んなもん大丈夫大丈夫。待つのだって立派な仕事のうちの一つだ一つ」
「うーん、そういうものなのかな......あ」
「そういうもんそういうもん。よっと」
的前から袋をぶんどり、容赦なく開け放ち一束取り出す。
「あーもー、もしバレたら八幡くんのせいにするからねー」
苦笑いしながら罪をなすりつけてくる的前。
「ちょっとまて。誘ってきたのお前だろ。なんで俺のせいになるんだ」
「みんななら許してくれるんでしょ?」
「断じて違う。的前は大きな勘違いをしている。それは的前という個人だから許されることであって、俺という存在が許されるかどうかはまた別問題なんだよ。そして恐らく雪ノ下に蔑まれる」
「う、嘘だって。そこまで必死にならなくても......というかしれっと八幡くんの存在が否定されかけてない?」
「雪ノ下の罵倒を受けていないからそう言えるんだ。てかライターどこだ」
的前の俺を見る目が、段々と慈悲に満ちてきたので、話を逸らすべくダンボールの中を漁ってライター探す。
「あ、ライターは私が持ってるんだった。はい」
「さ、さんきゅー。ほら、最初は的前がやれよ。俺が火持っててやるから」
話逸らそうとしても決まらねえな......俺。
「ほんと? ありがと。わー、実は私ってこういう花火、手持ち花火って言うんだっけ?初めてなんだよねー。いつもは打ち上げ花火を眺めてばかりで」
えっ
「えっ」
あまりに衝撃の事実に、心と声がシンクロ。
「え?」
「え? じゃなくてだな、的前はてっきりこういうのは、友達とか家族でやってるものなんだと」
もしかして意外に俺と同じ類の奴っているの? まじ? 今俺の常識が覆されそうなんだけど。
「あはは、やっぱり変だよね......この歳にもなってそういう思い出が無いのって」
あれ?!地雷踏んだ?!
「おかしくなんかねーよ。俺だって記憶が正しければ手持ち花火なんて生まれてこのかたしたことないし」
せいぜい小町がしてるのを端から見てたぐらいだ。小さい頃の話だが。
なんで見てたのかって、そりゃあ両手に花火を持ってはしゃぎまくる小町を暖かい目で見守ってたからに決まってるだろいい加減にしろ。
「え?! ほんと?! わーわー! 初めて手持ち花火したことない人に出会えた! まさか八幡くんもだったなんて! もー、びっくりだよー!」
「お、おう」
え、なんでこの子こんなに嬉しそうなの。喜ぶ基準おかしいでしょ。今までで一番喜んでる気がする。
「じゃあ今からすることは、私と八幡くん、お互いに初めての体験なんだねー、なんて。えへへ」
「............」
くっそかわいいんですけど。え、ほんとに俺と同じ人類なのこれは。
つかめちゃくちゃ恥ずかしい。もう自分が打ち上げ花火になっていいですか?
「えへへ、へ......へ......あ」
あ、今絶対自分が大胆発言したのに気づいたよこの子。ティ◯ァールも目じゃないくらい急速に赤くなってるよ。
「や、その、ちがっ!ちがくてっ!私が言ったのは決してそんな意味じゃなくてっ!」
「わかってる、わかってるから」
「本当にわかってる?
......なんだかここまでとりみだしてると、少しいじめたくなるな。よし。
「というか俺は花火のことだと思ってたんだがなー。的前の言う、そんな意味って、どういうことなんだ?」
「ふぇぁ?! そ、そんなの言えるわけないじゃんバカ! はちまんくんのいじわる!」
「ぉぉ......」
はっ、いかんいかん危うく新しい扉を開け放つところだったぜ。ナイス自制心。
「......え、えっちなことじゃないんだからね!!」
開けていいですかね?新しい扉。
「わ、悪かったから。ほら、ライターつけるから花火出せって」
「......じゃあもう変な意地悪しない?」
「ああ、この通りだ」
THE土下座を繰り出し、もう二度としないことを誓う。(しないとは言ってない)
「むー......わかった」
少し拗ねただけで、どうにかなったぽい。ナイスライター。
しかし取り乱した的前、あれは危険だな。下手すりゃ俺が犯罪級の過ちを犯す可能性まである。気を付けよう。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
「わわ、すごいよ八幡くん! すごいシュワーって、シュワーっていってる!」
はしゃいでる。めっちゃはしゃいでるよこの子。拗ねた的前どこいった。
火花を放ち始めた手持ち花火を見た瞬間、機嫌を直す的前まじちょろい。
あと的前の精神年齢が著しく低下してない? こんな無邪気はしゃぐキャラじゃなかったよね? どんだけ花火に興味津々なの。
「ほらほら八幡くんも!」
「お、おう」
どうも調子狂うんだよなぁ、異性、その上同級生にこういう接し方されると。無邪気パワーにゃ敵いませんわ。
ドギマギしつつも今度は的前に火をつけてもらう。なんだっけかこの花火の種類、確かテレビで見た記憶が正しければ、ススキとかそんな感じ。
どうでもいい記憶を掘り起こしていると、先端から黄金色に輝く火花がで始めた。確かに心なしかススキのように見えないこともない。
「おお、実物だとなかなか違うもんだな」
「だねー! あ、終わっちゃった。次は......こ、これにしっよかな」
次に的前が手に取ったのは......パンダさんがプリントされた絵型花火だった。なぜ二本目でそれをチョイスしたのか。
だ、だめだ。ギャップで笑いが堪えられねぇ。
「え、えーっとライターライター」
「ほ、ほれ、ライター代わりに俺の花火使えよ。くっ」
「あー! 今笑ったでしょ! 前からしたかったんだからいいでしょ!」
「わかったわかった。ほれ、火傷するなよ。っくく」
「うぅ......なんだか今日の八幡くん意地悪だよ......もしかしてそれが本性なの? うわぁ、最低......」
「まて、勝手に自己完結して俺を最低野郎にすんな。俺はただ困ってる的前がかわい、じゃない、面白くてだな」
おっと危うく本音が。
「か、可愛い......」
漏れてました。
「おい、面白いからって言ってんだろ。可愛いなんぞ一言も言ってない」
そういう小っ恥ずかしいセリフ掘り返さないでくれますかねぇ......。蘇った黒歴史の記憶と相まってアッパーKOされそうになるんで。
「......ほんと?」
Oh my shit......
「......あー、まあ、そのなんだ。少しは可愛いかった、ぞ」
反則だろ。涙目でそれは反則すぎるだろ......。この子末恐ろし過ぎるんですけど。可能性の化け物かよ。
「ねぇ、八幡くん」
「ん?」
妙に頬を赤らめながら、おずおずと口を開く的前。
「その、困ってる私がか、可愛いって言ってくれたけど、じゃあ私自身のことは、あの、どう思ってくれてるのかなって......」
..................は?
「や、お前、何言って」
「............」
なんで黙りなんですかねぇ......
「あのー的前さん?」
「............」
ふ、ふえぇ......無言のプレッシャー半端じゃないよぉ......僕もう胃袋が締め付けられすぎて死んじゃうぅ、助けてドラ◯もーん!
prrrr...prrrr...
「「!!」」
ポケットに入れていたスマホに振動が走る。このタイミングで着信ってことは......
着信元 : 由比ヶ浜
ああ......あなたが神であられましたか......
というか今日はやけに由比ヶ浜に助けられてる気がする。いつかマッ缶でも買ってやろう。
「......出ていいか?」
「うん......」
確認を取らなければいけない雰囲気な気がしたので一応。
「あー、もしもし。俺だ」
『あ、ヒッキー? 調子はどう? こっちはもう十分もすれば、今出てる組の子達が帰ってきそうなんだけど、準備の方は終わった?』
あっちの方は少し予定より早くおわりそうだが問題はなかったみたいだな。まあ、あの面子で問題なんて起こらないだろうし、そこは信用してるけどな。
「ああ、悪いな。準備といい、肝試しといい、いろいろやってもらって。助かった、さんきゅ」
『えっ......ゆ、ゆきのんゆきのん!た、大変だよ! ヒッキーが! ヒッキーがスマホ越しとはいえ素直にお礼を!!』
『由比ヶ浜さん、早く電話を切りなさい。今喋ってるのは恐らく地球外生命体よ。比企谷くんに化けているのだわ。それだと彼はもう......』
『ええっ?! そんなっ! ヒッキー!! 大丈夫?! そこにいるなら返事して!!』
「雪ノ下さん? 由比ヶ浜の頭じゃ本当に信じ込むからそういうのやめてくれません?」
『あら、私としてはかなり真剣に言ったつもりなのだけれど』
こいつ......!
『まあ先ほど由比ヶ浜さんが言った通りあと十分、いえ、あなたが無駄話をしているからあと五分程で肝試しが終了するわ。そろそろ準備しておいてくれるかしら』
「無駄話し始めたのお前らからだろ......。まあわかったわ。いつでも打ち上げられるよう待機しとく。今だ、ってところでまた連絡してくれ」
『了解よ。成功を祈ってるわ』
「は? お前が祈るとかなんの冗談?」
ふっ、最後に少しは仕返しを......
ブツッ......プー...プー...プー...
「あんの野郎......っ!」
普通に切りやがったよ。なんだ、そんなに俺に言い返されるのが怖いか。はっ! 雑魚め! ......これを負け犬の遠吠えって言うんだろうな。
「あのー八幡くん。あっちはなんて......?」
「あー、肝試しは予定より少し速く終わるっぽいな。また連絡をよこしてくれるから、それまでにすぐ打ち上げられるようにしとくぞ」
「あ、うん、わかった」
ポケットに入れてたライターを取り出し、最初に打ち上げる予定の花火の前でしゃがみこむ。花火は一列に並べてあるので、的前は数メートル離れた花火のところで待機だ。
「ねえ、八幡くんとさ、雪ノ下さんって仲いいよね。もちろん由比ヶ浜さんもだけど」
座った的前がふとそんなことを言い出した。あのぉ......また拗ねてます? 言葉のところどころに棘があるんですけど。
「ねーよ。なんだ藪から棒に。由比ヶ浜はともかく、雪ノ下とは言い合いばっかしてるんだ。あれを見てどこが仲良く見えるんだか」
「こう、なんでも言い合える仲って感じがしてさー?」
「あれは悪口しか言ってねえだろ......」
「ふーん」
面倒くせぇ......ほんとなんで拗ねてんのかわかんねぇ......。
なんかライターいじいじして火つけてるし。
「あ、わかった。お前雪ノ下と仲良くなりたいのか。だから俺が雪ノ下と仲よさげに話してててヤキモチを......大丈夫だ。あいつはなんだかんだ言って相手の好意は拒めないタイプだからな。初めはあれだろうが、いざ話してみれば大丈夫だ」
なお俺から向けられる感情は何だろうが容赦なく一刀両断される模様。
「八幡くんてよく酷い勘違いするよね。ヤキモチはあってるけどズレてるし......正直わざとなんじゃないかって思うくらい」
「え、なんで......あ、雪ノ下じゃなくて由比ヶ浜の方か」
「......はぁ」
挙げ句の果てにため息までつかれる始末。言いたいことあるんならさっさと言わんかい。
「小町ちゃん。八幡くんは一体どうしたら気づいてくれるのかなぁ」
「あ? 小町がどうしたって?」
「なんでもないですよーだ。この鈍感シスコン」
「なんだその新しいあだ名」
鈍感ってなんだよ。むしろ鋭すぎるまでだろ。目つきとか。
そしてそれを境に会話がポツリと止んでしまう俺、コミュ障の塊(笑)
「............」
「............」
胃が、胃がキリキリ締め付けられるでおじゃるぅ......どうしてこんな気まずい雰囲気の中で気になる女子と一緒におらにゃならんのだ。俺は帰らせてもらうぞ!
いや、考えろ。俺は鈍感系主人公じゃねえんだから分かるはずだ。なぜ的前が拗ねているのか。
まず俺が由比ヶ浜、雪ノ下と電話をしたから拗ねた、正確にはヤキモチを妬いたわけだ。
しかし的前は二人に対してヤキモチをついてはいないという。じゃあつまり俺にヤキモチを......?
いやなぜそんなばかな。あの会話の中のどこにそうなる要素があった。いや、ない(確信)
となると電話がかかってくる前............あ、あー......
「な、なあ。的前」
「......なにかな」
言う。言うぞ。頑張れ俺、絶対に噛むなよ......
「その、あれだ。お前はいつも、ま、まあまあ可愛いとは、その、思う......ぞ」
ああああああああああああ、穴があったら入って塞いで冬眠したい......
......反応なくね?
恥ずかしさで伏せていた顔をそろりと上げてみるトォ?!
突如顔面に衝撃が走る。なんでビンタされてますねん。意味わからんわ。
「ちょ! まて、少し落ち着--」
「ばかばかばか! どうしていつもそんなセリフを不意打ちで言ってくるの! 恥ずかしんだよ?! いつも照れ隠しするの大変だし、声のトーン抑えるのだって必死なんだよ?! このたらし!!」
あーそういうこといっちゃう? カッチーンときた。
「......ああそうかいそうかい! なら俺からも言わせてもらうとだな。今日のお前は喜怒哀楽がコロコロ変わりすぎなんだよ! 俺も接し方がもうちょっと心に余裕持てや!」
なんかしれっとすごいこと言われてる気がするが無視だ無視。
「なっ! それは今関係ないでしょ?! というかそれだったら八幡くんだって!」
「ああ?」
「なによ!」
「なに痴話喧嘩してんのさこのカップルは......」
「「カップルじゃない!! ......あれ?」」
「もう息までぴったしじゃんか......」
はぁ、とため息を吐く小町たんがそこにはいました。
「え、おま、小町、なんで」
「なんでって......お兄ちゃんと優香さんが二人っきりだったから?」
なんでこの妹はそこまでして湧いて出てくるのだろう。将来記者にでもなりそうなんですがそれは。
「ね、ねえ小町ちゃん。一体いつからそこに......」
「そうですねー......『じゃあ私自身のことは、あの、どう思っ--」
「わーわーわー!!」
「思いっきり最初からじゃねえか......」
「やー! さすが高校生は違いますねぇ! もうあの大胆発言! 眼福眼福♪」
「おっさんかよ」
「奥手だと思っていた優香さんが、ここぞとばかりに攻めに転じた姿にはさすがに驚きましたよー!」
「あぅぅぅぅぅぅ......」
やめて!的前の(精神)ライフはもうゼロよ!そしてこれ以上の口撃は私のライフも削ることになるわ!
「やー、でもほんとに、びっくりしましたよー。お兄ちゃんの告白紛いも結構なものでしたが、まさか喧嘩になるとは。お兄ちゃんも甲斐性がないなぁ」
「あれはどう考えても的前が悪いだろ。叩かたり罵られたり、いろいろと理不尽すぎる」
「はぁ......いい加減小町も叩きたくなってきたよ」
先ほどとは違い、完全に呆れ切ったため息をつかれると同時に、謎の攻撃を宣言される。なんで?
「あの、小町ちゃん。このことは誰にも......」
顔を俯かせ、人差し指をツンツンしながら、ええい!いちいち反応がかわいい!
「え、あ、やー、誠に申し上げにくいんですけど。そのー」
「なんだ。気持ち悪いまでに敬語使って。小町らしくもない」
どうせもう誰かしろに言っちゃったとかなんだろうな。真剣に一色でないことを願う。
「そのー。みなさん、どうぞ」
「......は?」
みなさん、どうぞ? おいおい小町、今年受験生なのに大丈夫なのか。動詞つけろどう......し......
「あ、あはは。やっはろー?」
「まったくあれほど盛るなと言っておいたのに」
「っべーわー。ちょー的前さん大胆だわー」
「は、八幡。なんかごめんなさい」
ぞろぞろと近くの茂みから出てくること出てくること。は? 死んでいい?
「ごめんね? さっきの電話した時点でもう肝試し終わっちゃってたんだよねー。そこでちょっといたずらしちゃおっかってこと......で、小町.....が......」
「小町」
「は、はいっ!」
いつぶりだろうか。ここまで低い声が出たのは。
「おまえ、家帰ったら覚えとけよ。帰るまでに罰考えとくから」
「え、じょ、冗談だよね? 小町に何もしないよね?」
わたわたと目を涙ぐませながら俺にしがみついてくる。
「......冗談言ってると思うか?」
「は、はい......ごめんなさい......」
「よろしい」
「あ、あの、ひっきー......」
と、由比ヶ浜が怯える子犬のような顔でおずおずと口を開いた。
「あ、由比ヶ浜とかは別に何もないぞ。全てはこの妹が招いた結果だからな。自業自得だ」
「ぅ......」
「あ、そ、そっかー。よかったー」
今度は、捨てられていた自分を誰かが拾ってくれたかのような安堵を見せる。
え? 俺そんなに怖かったです?
「すまないヒキタニくん。出たくても出られない状況だったとはいえ、黙って傍観なんてことをしてしまって」
「や、別に怒ってねえよ。それに場所もわきまえず言い合ってた俺たちにも非がある」
「そうか。そう言ってもらえると助かるよ」
「おう」
すげえな。場の雰囲気を一気に収束に持っていったぞこのイケメン。
「一見比企谷くんと的前さんがゴールインすると見せかけての百八十度ターン! 略奪愛で比企谷くんをメロメロにするが葉山くん! でも、ベットでは葉山くんが下手に回って、あたっ」
「やめなさい」
すげえな、この数回の受け答えでかなり具体的な妄想をしたぞこの腐女子。そして三浦様。ナイス抑制です。
ん?ていうか的前まったく喋らないけどどうし--
「あ......ぃぅ......みら......みられ......ぁ......ぁ......」
「大丈夫かおまえ」
耐性なさすぎだろ。そんなぐらいだったら大胆発言って言われるほどのことすんなよ。
「あの、優香さん。その、すいませんでした。ちょっとした出来心だったんです」
「ひぅ......」
「ちょ、おま」
他人の視線どころか声にも怯えているようで、スッっと俺の背中に隠れてしまう。っく......もうメンタルが持たない......っ!殺せっ!
「ありゃぁ......完全にダメだよこれ」
「このままだと非常に花火が打ち上げづらいわね。比企谷くん、どうにかしなさい」
「なぜ俺なんだ。こんなのは同性がするもんだろ」
「あなたバカなのかしら。ここで同性である私たちが出しゃばるより、比企谷くんの方が効果あるに決まってるでしょ」
「「「「うんうん」」」」
ええ......そういうもんなのか......
「ほら先輩。的前先輩のことならなんでも知ってるんですから。ここで気の利く一言でもお願いしますよぉ」
この後輩、ここぞとばかりに借りを作って、後で自分と葉山をくっつけること手伝わせる気満々だろ。隠す気もねえし、若干煽りも入ってるし。
そして場の空気が完全に俺に言わせるムードな件。腹を括らざるを得ない。
「安心しろ的前、大丈夫だ。俺が(この件は秘密として)守ってやるから。正気になれ」
「............」
ふらりと。俺の服を掴んでいた手の力がふっと抜ける。
「え、ちょ?! なんで倒れるんだよ! 大丈夫か的前!!」
「「「「「「「バカだ」」」」」」」
呆れ切った罵声も気に留めず、的前がなぜ倒れたのか不思議でしょうがなかった俺であった。
ね?ズルズル引き延した様な文章でしたでしょ?
スットクもへったくれもありませんが次回更新は出来るだけ早くしようと思います。過度な期待はせずにのんびりとお待ちくださいませ。
と、そういえばまた性懲りもなくもう一本ssを書き始めたバカいますようで。しかもまた見切り発進らしいですよ?
あ、いろはルートです。まだ1話しか投稿してないですが、よければそちらの方もお願いします。
できれば感想・評価お願いいたします。