ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。   作:ちゃんぽんハット

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始めに言っておきますが、今回も陽乃は出ません。

申し訳ない。

次回からはバンバン出ますので、ご容赦願います。

それではどうぞ!


田舎暮しその8

「ふむ、なかなかイケテるじゃねえか」

 

真新しい制服に身を包み、真新しい学生鞄を小脇に抱えた、鏡の中の少年を覗きながら感想を漏らす。

 

ファッション雑誌のモデルのようにポーズをとっているイケメンは、言わずもがな俺こと比企谷八幡である。

 

まあ妹の小町いわく、目だけが廃品回収場らしいんだけどな。

おやこの廃品回収場、雨漏りしてるじゃねえか。

ちゃんと直しとけよ、てか涙拭けよ俺。

 

顔はさておき、今までブレザーだったが、案外学ランの方が似合うかもしれない。

いい感じに俺の地味さを引き立ててる。

むしろ俺が学ランの地味さを引き立ててるまである。

あれ、俺の存在感って布より薄いの?

まあ俺って外側ゴムで中身ほとんど空気だしな。

え?存在が空気だって。

おいやめろよ、それもうゴム破けてんじゃん。

避妊はしっかりしろよ?

ワケわかんないですよね、すみません。

 

身支度を済ませて自室を後にする。

 

そのまま玄関に……っとその前に、ばあちゃんに一声かけとかないと。

 

居間のふすまを開けると、ばあちゃんはのんびりとお茶をすすっていた。

 

「ばあちゃん、俺もう行くから」

 

「あいよ、弁当は持ったかい?」

 

「持った」

 

「ハンカチは?」

 

「持った」

 

「ティッシュは?」

 

「持ったって。てかどんだけ心配してんだよ。俺は小学生じゃないんだぞ?」

 

「おや違うのかい?」

 

「違うわ。こんなデカい小学生どこにいるんだよ」

 

「確かにそんなに目の腐った小学生はいないね」

 

「デカいって言っただろ!目の話してねえよ!」

 

てかばあちゃんから見ても俺の目って腐ってるのね。

 

「でも、私はあんたのサイズなんて見たことないからねー。今度見せてくれるかい?」

 

「おいばばあ朝から下の話してんじゃねえよ、てか孫にそんな話するんじゃねえ、ついでに絶対見せないからな!」

 

「はいはい、いいから早くしないと遅刻するよ」

 

「誰のせいだ!」

 

「あ、そうそう八幡、いい忘れてたことがあった」

 

「なんだ?」

 

「自転車、事故らないように気を付けんさいね」

 

「ん?まあ気を付けるけど……車ほとんど通んないし大丈夫じゃねえの?」

 

「車は通んなくても、他の物が通るからねえ」

 

「他の物?」

 

「猪とか鹿とか猿とか、最近は熊はあんまり見なくなったけど……まあ気を付けんさい」

 

「………………おう」

 

マジかよ、そんなん出るのか。

改めて田舎だってことを実感したぜ。

 

ばあちゃんとのやり取りを終え、行ってきますと言って玄関を出る。

全く、朝から何でこんなに疲れなきゃならんのだ。

まあ、このばあちゃんとのやり取りが嫌いなわけではないんだがな。

 

外に出ると冷たい風が吹き付けた。

うう、さっむ。

あまりの寒さに、防寒対策はしているものの、ブルッと身震いをする。

もう12月入ったしな、本格的に寒くなってきたぜ。

雪が降るのも時間の問題だろ。

 

玄関のすぐ近くに止めてある自転車、それも電動式の新品のチャリに股がり、スイッチを入れてペダルを漕ぎ始める。

 

おお!こいつはいい!

軽くしか力をいれてないのにスイスイ進む。

これなら歩いて4時間の山道も楽々行けるな!

まあ一応1時間近く漕ぎ続けなきゃいけないが、別段苦ではないだろう。

金を出してくれたばあちゃんに改めて感謝だな。

 

よし、新しい学校登校初日!

気合いを入れて行きましょうか!

 

ペダルを漕ぐ力をグッと強くする。

快速飛ばして冷たい風を切っていく俺は、野性動物にだけは注意を払いながら、安全運転で意気揚々と学校へと向かうのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

さて、学校に着いてそうそうで悪いが、もう帰りたい。

さっきまで鼻歌混じりに自転車漕いでた自分を殴り飛ばしたくなる。

いやマジ勘弁。

なんかもう高校生見るだけで小便チビっちゃいそう☆

 

というのも、いくら力を抑えられるようになったとはいえ完璧ではないし、トラウマも消え去った訳ではないからだ。

いざ学生の集団を目にしてしまうと、どうもビビってしまって仕方がない。

山の新鮮な空気を吸いながらのツーリングで爽やかになった気分も、今ではすっかり憂鬱なものになってしまった。

 

そんなわけで、現在の俺は校門から少し離れた山の中に隠れて、生徒が全員校舎の中に入っていくのを待っている。

 

幸い俺の通学路に他の生徒の姿は無かったが、やはり朝の校門は生徒が集中する。

今日は最初に職員室行くし、少し遅れてもいいんだが……

明日からは一番乗りするかな。

誰にも会わずに済むし、教室でも心構えができるし。

 

てかこのあと自己紹介すんのかよ……

あー、マジでいやだ。

このままバックレようかしら。

いやさすがにそれは不味いか。

なんのために来たんだよってなるしな。

 

色々と考え事をしていると、ほとんどの生徒は校舎の中へと消えていた。

よし、もうそろそろ行っても大丈夫だろ。

 

山の中から自転車を押して、元の道に戻ろうとする。

と、その時。

 

「あんた、なにしてんの?」

 

「は、はひ!?」

 

突然後ろから声をかけられた。

予想外の出来事に、思わず変な声をあげる。

そりゃそうだ、ただでさえ日頃声なんか掛けられないのに、不意打ちでされては驚いて当然である。

むしろ気絶しなかっただけでも誉めてほしい。

 

恐る恐る顔だけ後ろに回して、俺に声を掛けた人物を見てみる。

するとそこには、紺色のセーラー服を着崩して髪の毛を金髪に染めた女子高生がいた。

いわゆるギャルというやつである。

まあ少し化粧は濃いが、かなり可愛い部類の顔だ。。

制服の性で分かりづらいが、スタイルもかなり良いに違いない。

ぼっちは観察力に長けてるからその辺には自信がある。

 

いやそうじゃなくて……何でこんなとこに人がいるんだ?

 

「こんなところで何してんのかって聞いてんですけど?」

 

俺の困惑など全く気にもとめず、少しイラだたしげに訪ねてくるギャル。

 

こいつこっわ!

今にも縦巻きロールの髪の毛が回転し始めそうじゃないですか。

ちょっと見てみたい気もするけどな。

 

とりあえず、ここは適当に誤魔化しとこう。

幸い能力も発動していないみたいだし、割と落ち着いているようだ。

ならば、俺の巧みな話術を見せてやるぜ!

 

「…………いや、その、あの……すいません」

 

どうよこの一流弁護士バリの話術!

すごいだろ!

これで相手も納得して引き下がる……

 

「はあ?何謝ってんの?ワケわかんないんですけど」

 

わけないですよね、分かってましたよごめんなさい。

いきなり謝る弁護士とかそれもう弁護するつもりないしな。

 

にしても怖すぎないこのお方。

俺を睨む目付きなんか、肉食動物のそれですもん。

てことは俺は草食動物?

やーん八幡食べられちゃう☆

……早く答えよ。

 

身の危険を察知して、何とか頭を整理しながら途切れ途切れに答える。

 

「えっと、あ……俺、転校生で、えっと……道ちょっと迷って、その、えっと……すいません」

 

「だから何で謝んだし。まあいいけど」

 

「どもっす……」

 

「にしても転校生ね……ふーん」

 

品定めするように俺をジロジロと見てくる。

 

くっ……リア充からのこういう目線が俺は大嫌いだ。

何でそんな上から目線で俺に評価付けようとすんだよ。

俺の価値はプライスレスだぞこんちくしょう。

 

「あんたさ」

 

「は、はい!」

 

「キモいね」

 

「はぐぅ!?」

 

容赦なく浴びせられる罵声に、八幡に八万のダメージが与えられる。

効果は抜群だ!

 

こ、この女、初対面のやつ相手にキモいだと!?

なんて非常識な野郎だ。

 

しかし、そこでさらに追い討ちをかけるように、

 

『マジこいつキモいんですけど』

 

ギャル子の心の声が襲いかかってきた。

 

ふんぐぉぎゃんるんるしびんがはぁ!?

比企谷八幡はオーバーキルされました。

蘇生しますか?

出来ることなら悪魔にでも転生させてください。

 

「やば、早くしないと遅刻しちゃうじゃん」

 

そう言うと、俺を傷つけるだけ傷つけてギャル子は足早に校舎へと向かうのだった。

 

彼女の背中を目で追いながら、自転車に体を預けてしばらくうなだれる。

 

何でこんなとこにいたのか理由は分からなかったし、傷だけ残していくし……何なんだあいつ……

くそ、しかも3分の1の確率であいつと同じクラスなんだろ……

はあ、本当にお家帰りたい。

 

そうは思うものの、結局帰るわけにも行かず、俺は重たい足取りでとりあえず職員室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実はこの時、八幡はそれほど傷ついていなかった。

不思議と彼女の言葉は、前の学校で聞こえてきた奴らの心の声のように、嫌な感じがしなかったのだ。

まあショックを受けた事には変わり無いんのだが。

 

その理由が何かは分からない。

しかし、学校に行こうと思えるくらいには彼女の言葉は彼を傷つけていなかったのだ。

 

この事を八幡が自覚するのは、もう少し後のお話である。




陽乃……ごめんよ次からは出すからさ。
君はちゃんとメインヒロインだからね?

はいという訳で今回新たに出てきたギャル子は一体だれなのか?

まあ察しはついてると思いますが。

くどいようですが、次回からは陽乃と八幡がどんどん絡むので、気長にお付き合い願います。

それと、お気に入りや感想、評価などを下さる方々、本当にありがとうございます!
おかげでヤル気が満ち満ちてございます。
……まあ相変わらず更新は遅くなりますが……

今後ともよろしくお願いします‼

それでは今日はこの辺で。

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