ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。   作:ちゃんぽんハット

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おひさしぶりです!
結構間が空いてしまいましたが、第4話です!

少しでも楽しんでいただければと思います。

それではどうぞ。


田舎暮しその4

「こ、小町!ちょっと待ってくれ!」

 

「ダメだよお兄ちゃん……もう待てない」

 

瞳を潤ませながらそう呟く一人の少女。

四つん這いになってゆっくりと近づいてくるその姿は、大きめのTシャツからチラリと覗く胸元と相まってとても扇情的であった。

 

彼女から距離をとるために後ろへと下がる。

しかしそれは、背中にトンとぶつかる壁によって阻まれてしまった。

 

 

「お兄ちゃん……」

 

 

少しずつ、確実に二人の距離は縮まっていく。

このままでは……

 

 

「お、おち、落ち着け小町!こんな、ダメだ!俺達は兄妹なんだぞ!」

 

 

逃げ場を失い、後のなくなった少年は必死に彼女の説得を試みる。

 

しかし、

 

 

「小町は……お兄ちゃんならいいよ……

……ううん、お兄ちゃんがいい」

 

 

唇を震わせながらもはっきりと決意のこもった彼女の言葉により、あえなく失敗に終わる。

 

くそ!どうすれば……

 

少年の焦りとは裏腹に、少女はもう目の前にいた。

 

細くてしなやかな、掴みでもしたら簡単に折れてしまいそうな手が、彼の太股に添えられる。

鼓動が一段と早くなった。

 

もうこうなったら無理矢理引き剥がすしか……

 

そう決意を固めようとしたその時、

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん……しよ?」

 

 

 

 

 

下から覗き込むようにして、首を傾けながら吐息混じりに尋ねてくる少女。

 

可愛いの一言では語り尽くせないほどの魅力と色香に、少年の決意は呆気なく砕かれた。

 

 

 

「……小町」

 

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 

 

 

二人の顔がゆっくりと近づく。

 

 

お互いに瞳を閉じ……

 

 

唇をわずかに突き出して……

 

 

そして……

 

 

二人の距離がゼロになろうとしたその時───

 

 

 

 

 

 

 

♪~そんなーやさーしくしないで、どんなーかおーすれーばいいの~♪つみかーピッ。

 

iPhoneから流れる軽快な音楽を止めてムクリと起き上がる。

 

ガシガシと頭を掻いて画面を見ると7時と表示されていた。

 

 

…………あー、夢か。

 

あくびをしながら眠い目をこすり、未だに脳内に鮮明に残っている少女、妹の小町のことを思う。

 

可愛かったなー小町。

もうちょっと寝てたら小町と…………

ちっきしょう!

なんで起きちゃうんだよ!

もう!八幡のバカバカバカ!!意気地無し!

夢の中くらい勇気出しなさいよ!

 

ダメなお兄ちゃんこと比企谷八幡は、朝から一人もんもんとしていた。

人生で最大のチャンスを逃し、後悔に後悔を重ねている。

 

あーあ、惜しいことした。

いやでもなー、やっぱ夢だろうとあんなこと兄妹でするもんじゃないよな。

例え千葉だろうと、俺と小町はちゃんと血が繋がっているわけだし。

うん、やっぱ良くない。

近親相姦ダメぜったい!

 

未だに後悔の念を捨てきれずにはいるが、

とりあえずそう自分に言い聞かせる俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、実際に似たようなことはあったのだが……

 

 

 

 

 

いや、あれですよ?

そこにはちゃんとこう、ね?

色々な事情がありましてですよ?

決して俺と小町がそんな関係という訳ではね?

いい、いいい、言い訳とかないにょろよ!

本当にょろよ!

 

…………焦りすぎですねええ。

取り乱しましたすみません。

 

本当のところ、最近夢の中のようなことはあったのだ。

 

しかしそれは俺の力に関わることで。

言ってしまえば、力を制御するための練習であった。

 

俺の力はどうやら、精神の状況によって効力が変わってくるらしい。

 

簡単に説明すると、落ち着いていると心の声は極力聞こえなくなり、興奮や動揺、喜びや悲しみなどを感じているときにはより聞こえやすくなるということだ。

 

これはプラスにしろマイナスにしろ、感情の振れ幅が大きいときほど力が発揮されるのである。

 

それを発見してくれたのが小町であり、少しでも制御出来るようにと練習に付き合ってくれたのも小町だ。

 

しかしまあ……その練習内容がけっこうあれなのだ。

ぶっちゃけR15くらいの内容なのだ。

 

よくもまあ、あんな精神状態の俺に対してあそこまで接してくることができたものである

我が妹ながらに関心せざるを得ない。

 

ええ?どんな練習かきになるって?

ざ~んねん!

今はまだ教えません~。

詳しい内容はその内ね!

気分が乗ったら教えるぴょん☆

 

…………俺ってこんなキャラだったか?

 

軽く迷走しかけた俺の思考は、コンコンと部屋をノックする音によって現実世界に引き戻される。

 

「八幡いつまで寝てるんだい。さっさと起きて朝ごはん食べな」

 

 

「いつまでって、まだ7時じゃねえか。早すぎだろ」

 

「年寄りの朝は早くてね。私は5時には目が覚めるんだよ」

 

「マジかよ年寄りどんな体の作りしてんの?」

 

「いいからさっさと起きんさい。ご飯が冷めちゃうよ」

 

「へーい」

 

俺はしぶしぶ起き上がって寝間着から着替え、居間へと向かう。

食卓の上にはすでに朝食が並べられていた。

白米に味噌汁、鮭の塩焼き、里芋のゴロゴロ入った煮物、大根の漬物。

ザ、田舎のご飯が用意されていた。

 

うーん旨そうだ。

昨日の晩御飯もそうだったが、俺は結構こういう料理が好きらしい。

もちろんばあちゃんが料理上手というのもあるのだが。

 

いそいそとこたつにもぐり込み、あぁー、と風呂に入るかの様な声を出す。

いやもう本当に炬燵様素晴らしすぎますです。

このまま炬燵と結婚しちゃおっかな!

きゃはっ☆

…………どうやらまだ寝ぼけているようだ。

 

さて、ばあちゃんも席に着いたところで頂きますと言って箸を取る。

俺はまず味噌汁に手を伸ばした。

ばあちゃんの味噌汁は厚切りのじゃがいもと大量のモヤシが入っていて、これがめちゃくちゃ旨い。

口に入れるとホロホロと溶けていくじゃがいもと、しゃきしゃきのモヤシの食感が絶妙にマッチする。

汁は白味噌仕立てでこれまた優しい味がする。

このお椀1つで身体中がポカポカとしてくるのだ。

 

あーんもうお味噌汁最高!

旨味と優しさを噛み締めながら、ばあちゃん特性の味噌汁に舌鼓を打つ。

 

さてお次はー、と白米に行くか鮭に行くかで迷っているとばあちゃんが話しかけてきた。

 

「あんた今日はどうするんだい?」

 

「んあ?あー、一応学校に挨拶に行くつもりだけど。嫌なことはさっさと終らすに限るしな」

 

「それはあんたにとって嫌な事なのかい?」

 

「当たり前だ。そもそも外に出ること自体が嫌だしな」

 

「あんたって子はまったくもう」

 

若干呆れたように溜め息をつくばあちゃんは、煮物へと箸を伸ばす。

おいおいばあちゃん、溜め息つくと幸せが逃げて言っちゃうぜ?

まあ俺なんかしょっちゅう溜め息たいてるけどな。

なんなら呼吸と溜め息が等号で繋がるまである。

 

「私は町内会の集まりでお昼いないけど、弁当作って置いたからこれを持っていきんさい」

 

そう言うと俺に弁当の入った包みを渡してくれた。

 

「ああサンキュ、弁当は家で食べるから置いといてくれよ」

 

「あんた何言ってんのさ?お昼食べてから学校行くつもりかい?」

 

「いや、午前中にさっさと終わらせてくるつもりだけど」

 

「学校までここから歩いて4時間はかかるよ?」

 

「………………は?」

 

「学校までここから歩いて4時間はかかるよ?」

 

「………………なん、だと?」

 

あまりにも予想外のことにかなり動揺する。

 

『この子は本当にバ』

 

おっと危ない!

ばあちゃんの心の声が聞こえるところだったぜ。

ふふん!

さっきも言ったが、小町との練習のお陰でこの程度なら能力を制御出来るようになったのだ!

どうだ!すごいだろ!もっと誉めてもいいんだぜ?

まあ、かといって完璧じゃないし結構ムラもあるんだけどな。

そこは今後、こののんびりクソ田舎で少しずつ練習していこうということだ。

 

…………いや今はそうじゃなくて……

 

「自転車とかある?」

 

「家にはないねー」

 

「バスは?」

 

「一日二本ぐらいしかないね」

 

「電車とか」

 

「あるわけないでしょうがバカ孫」

 

あ、このばばあ普通にバカとか言ってきたぞ。

さっきわざわざ聞かないようにしたのに。

 

それにしてもそれは非常に面倒だ。

田舎だとは思っていたがまさかこれほどまでとは。

ちくしょう侮ってたぜクソ田舎!

 

「挨拶ついでに自転車とか必要な物を買ってきんさい。お金はあげるから」

 

「すまねえばあちゃん」

 

「なに謝ってるんだよバカだね」

 

あ、またバカって言ったなこのクソば……

 

「孫がばあちゃんに頼るのは当たり前の事だよ。遠慮なんてしなさんな」

 

……ば、ばあちゃん。

あんたなんていい人なんだ。

いやもう本当に田舎最高!

温もり万歳!優しさ万歳!

クソばばあとか言おうとして本当にごめんなさい!

マジ許してちょんまげ☆

……はい本当の本当にごめんなさい。

 

心の中で土下座をした俺は、ありがたくばあちゃんから弁当とお金、それから学校までの地図を貰って、まだ明るくなったばかりの冬の空の下を歩いていった。

 

あ、ご飯は美味しく平らげました!

食レポはまたの機会に都合が付けば。

(やるとは言ってない)

 

にしてもさみーな。

かなり着込んではいるが、それでも何にも覆われていない顔なんかは超寒い。

しかし、不思議と雪はまだ降っていなかった。

 

ばあちゃん曰く、例年ならすでに積もっている時期らしいが今年はまだのようだ。

まあ今から4時間歩き続けなければならない俺からしてみれば、ありがたいことこのうえない。

 

iPhoneに入れた曲をイヤホンから流し、寒さをいっそう感じさせる裸の木々を眺めながら、山道を1人でゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──しかしその日八幡は後悔する。

こんなところに来たのは間違いだったと。

自分はやはり呪われているのではないかと。

こんなところで悪魔に出くわすだなんてと。

田舎なんか来なければよかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪ノ下陽乃に出会わなければよかったと──

 

 

 




いやー自分でもびっくりするくらい引っ張ること(笑)

なかなか陽乃が出なくてすみません。

しかし!次回から遂に陽乃も加わり話が本格始動します!
暖かい目で見守って下さい。

亀更新ですがお付き合い願います。

それでは今日はこの辺で。

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