ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。 作:ちゃんぽんハット
前回は皆さんの想像以上に重い話だったかもですが、気長にお付き合い願います。
一応の補足ですが、八幡は前の学校では他のキャラとは誰とも会っておりません。
それではどうぞ。
ゆっくりと目を開き、記憶の海から帰ってくる。
ベトベトとした気持ちの悪い何かが、そのまま塩のように身体中にこびりついてきた。
ああ、思い出すんじゃなかった。
思い出したところで意味など無いのに。
自分の行為のバカさ加減に自虐的な笑みを浮かべる。
……はあ、どうしてこうなったのだろうか
──比企谷八幡は、人の心の声が聞こえるようになった。
それは彼が望んで欲したものではなく、むしろ望んででも欲しくない力であった。
何故なら彼はぼっちであったから。
上手く人と付き合う事ができない。
話が出来るのは家族くらい。
友人などいない。
人の視線が、声が、意識が、自分に向けられることを極端に恐れながら生きている。
それがぼっちである比企谷八幡。
そんな彼に、聞きたくもない人間の心の声が聞こえたらどうなるか。想像するのは容易いだろう。
自分への敵意であろうと無かろうと、その人間の本心が聞こえてくるというのは、ことさら八幡にとっては恐ろしい事であった。
だからあの日、彼は本能的に逃げ出した。
少しでも人の居ないところへ。
少しでも身を守れるところへ。
わけもからず逃げることしかできなかった。
結局担任に偶然見つかり、それが八幡を恐怖のどん底へと突き落とす決定打になったのだが──
頭の中を埋め尽くそうとする黒いもやを、頭をガシガシと掻いて振り払おうとする。
けれどそれはそう簡単には消えてくれなかった。
あの日から一ヶ月ほど、俺は自室に引きこもっていた。
誰とも会いたくなかったのだ。
会えば聞こえてしまうから。
耳を塞いでも聞こえてしまうから。
その時の俺の塞ぎこみようは相当ひどかった。
一日中毛布にくるまり微動だにしなかった。
死のうかと考えたこともあった。
しかしそんな俺にも幸運なことはあった。
家族、特に妹の小町は俺のことを本当に愛してくれていたということだ。
心の声が聞こえてしまうからこそわかったこと。
心の底から心配してくれる家族の存在により、俺は何とか最悪の事態を免れる事ができた。
そして俺の事情を知った家族は、俺が田舎のばあちゃん家で暮らすことを提案してくれた。
少しでも人のいない所の方が俺の負担が減るだろうと考えての事である。
それは辛い決断でもあったが、俺のためにと考えてくれた家族の好意が嬉しく、俺自身もこのまま引きこもっているだけではダメだと思い田舎暮らしを始めることにしたのである。
まあそこに至るまでには、俺と家族の涙無しでは語れない感動話があるのだがそれはまたの機会に。
ついでに詳しい話もそのうち明らかになるだろう(希望的観測)
とここまで長々と説明してきたわけだが……
つまり要約すると、
ある日不思議な力を手に入れた比企谷八幡は、己の力の強大さを恐れ山奥の村へと逃げ込む。
人との関わりを極力排除し、自らの身を守るために密かにこっそりと生きていくと心に誓う八幡。
果たして八幡の運命やいかに!!
究極のぼっち生活in田舎!
ここに今一つの伝説が生まれる!!
ということだ。
……いや少し……だいぶ違うな。
なにこの映画の宣伝。
これっぽっちも面白そうじゃないんだけど。
まあとりあえず読者の諸君はこの事を押さえておけば後々苦労することはないだろう!
ところで読者ってなんだろう?
八幡わかんない。
とそこで体がブルリと震える。
部屋の隙間から冷たい外気が中に入り込んでいる。
気づくと体がキンキンに冷えてやがった。
てか寒!
どうやらかなりの時間物思いにふけっていたらしい。
まずいまずい、このままでは風邪を引いてしまう。
早いとこ戻って炬燵にもぐろう。
嫌な記憶を無理矢理頭の隅へと押しやり部屋を後にする。
廊下に出ると夕飯のいい匂いが広がっていた。
おお、今夜は御馳走かな?
先ほどまでの憂鬱な気持ちがいくらか和らぎ、俺はパタパタと居間に向かうのだった。
────とある高校の職員室────
「しーずっかちゃあーん!」
「ん?なんだお前、まだ学校にいたのか」
「むふふー。静ちゃんが仕事終わるの待ってたんだよ?」
「先生と呼べと何度言ったらわかるのだ……まあいい。もう終わるから少し待ってろ」
「はーい!…………ねえ、それ見せて?」
「ん?……あ、こら!勝手に取るな!」
「…………ふーん。転校生か……」
「おい、それは生徒に見せていいものでは……はあ、もういい。」
「……比企谷八幡……へえー。面白そうな子だね」
「変なちょっかいをかけるなよ」
「やだなー、私がそんな事するわけないじゃん」
「…………はぁ」
「でもなんでこんな時期に転校なんてしてきたんだろうね?しかもこんな田舎に」
「さあな。一身上の都合としか私も知らない」
「虐められたとかかな?」
「そうとも限らん」
「でも写真の目、ものすごく腐ってるよ?」
「それは……まあそうだが、見た目だけで人を判断してはいけない」
「それもそうだね。どうせ会えばわかることだし」
「程々にしておけよ?」
「わかってるってー」
「……はあ、全く。ほら帰るぞ」
「はーい!」
「比企谷八幡……ふふ、どんな子だろう?」
やった!彼女が少しだけ顔を出したぞ!!
ついでにあのお方も。
話は変わりますが。
お気に入りや評価、ご感想を下さった方々ありがとうございます!
とても嬉しいですます!
今後も頑張りますので応援よろしくお願いいたします。
さて、そろそろ彼と彼女が出会うかも!
会えたらいいな!
それでは今日はこの辺で。