ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。 作:ちゃんぽんハット
記憶の薄れてるかたは、前話のラスト辺りだけでも読んでからお読みになることをオススメします。
どうぞお楽しみ下さい。
あれは夏休みの終わった2学期初日のこと。
「今日からまた学校とかマジだりーわー」
「ほんとそれな。もう一回夏休みエンジョイしたいわ」
「でもー、皆と会えて私は嬉しいよ?」
「うわー、あんたそれあざとい。ハンパない」
「そんなことないよー、ひどいなまったくもう!」
「まあまあ、新学期そうそう喧嘩するなよ」
教室は朝のホームルーム前、久しぶりに友人たちと会い語らう姿は、口では皆文句を言ってはいるもののどこか楽しげであった。
もちろん先ほどの中に八幡はおりませぬ。
私めは安定のぼっち!
これはどの戦線であっても変わらぬ事実でごぜえます。
やだ、てことは来世も全く期待出来ないじゃない。
これは一刻も早く解脱して輪廻から抜け出さねば!
俺は新学期だろうと相も変わらず1人机に突っ伏して寝たフリをしている。
てかさっきの会話なに?
やたらリア充感と頭の悪さが満載で思わず爆笑しそうになったんですけど。
いやまあうちは一応進学校なので頭は悪くないのだろうが。
そもそもどの辺りがハンパないのかわからなすぎてマジハンパない。
なおもお喋りを続けていた生徒たちも、担任が教室に入ってきたことで各々自分の席に着く。
新学期の軽い挨拶と今日の日程を伝えホームルームは終わり、俺たちは始業式のために体育館へと向かった。
それは本当に、本当に突然だった。
体育館へと向かう途中、後ろから2人の男子生徒が「やべぇ遅れるぞ」とわいわいしながら走ってきた。
俺はそれを横にずれて避けようとする。
しかし少し遅かったのか1人の男子と肩がぶつかってしまった。
「あ、すんません!」
謝られた俺は軽く頭を下げてそれに応える。
ちゃんと謝ってくれたし大したことはない。
そう思って特に気にすることもなく歩き出そうとした。
すると、思いもよらぬ言葉が聞こえてきた。
『なにこいつ、うっざ』
…………え?
俺は自分の耳を疑った。
今、聞こえたのはなんだ?
周りに人はほとんどおらず、先ほどの男子生徒達がちょうど駆け出したところである。
今のはあいつが言ったのか?
いやしかし既にあっちを向いて走り出してる……
おかしい。
こんなにはっきりと聞こえることあるか?
てか悪口ならもっとバレないように言えよ。
いやそうじゃなくて……なんだ、今の?
唐突に聞こえた悪口に軽く混乱する。
別にその手のことには慣れてはいるが、こうもはっきり言われるのは初めてだ。
だからだろうか、妙に違和感を感じた。
なんとも言えない気持ちのまま、ひとまずもうすぐ始まるであろう始業式に遅れないために体育館へと足を早めた。
体育館に近づくに連れて生徒の声がだんだんと大きくなる。
よかった、まだ始まっていない。
そう安心してもう少しで入り口に辿り着きそうだというとき、ふと妙なことに気付いた。
……生徒の喋り声がいつもより多い。
いくら始業式が始まってはいないとはいえ、さすがにこれは騒がしすぎやしないか?
話の内容までは聞き取れないものの、ザワザワと耳障りな音がする。
みな新学期だからテンションが上がっているのだろうか。
そんなことを思いながら体育館へと足を踏み入れた。
──するとその瞬間、すべての声が俺の耳に飛び込んできた。
『はあー、マジ始業式めんどくせー』
『部活今日はあったけな』
『やべぇ宿題わすれてた!』
『ああー、山岡君に彼氏できたとか最悪。てか彼女フツーにブサイクなんですけど』
『あいつなんか前よりエロくなったな。あー、やりてえ』
『進路どうしよーかなー』
『だりー、超だりー、帰りてえー、だりー』
『隣のやつ汗臭いんだけど』
『髪型変えたけどたっくん誉めてくれるかなー』
『ホントに『今日のこの後は『お前ら少しは静かに『ねむ『あ、私今日ノーブ『数学はあ『マジでな『年上の人はやっぱ『家庭教師が来るのあし『誕生日プレゼ『やめ『本当にこんなこと『左手の小指が『くさあ『とかまさかそん『ジでうけるんだけど『よりはあた『はやく高……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
なんだこれ?なんだこれ?
何で皆の会話が聞こえて、違うこんなの会話じゃない……
は?いやまて、一体何が起きて……
俺はパニックに陥った。
自分の身に起こっていることが全く理解できない。
ただひたすらとどまることなく、ガヤガヤと誰とも分からない声が聞こえ続ける。
体の血がサーッと下に下りていき、少しフラフラする。
本当にどうなったんだ俺。
そんな混乱の中、ひとつの声がやけにハッキリと俺の耳に届いた。
『うわ、比企谷じゃん。キモッ』
その瞬間身体中から汗が吹き出した。
ゾワリと、嫌な感覚が全身を撫で付ける。
それは今まで感じたことのない恐怖だった。
俺は走り出した。
どこへ向かってるのかもわからない、けれどもとにかく全力で走る。
ただただ体育館から離れたかった。
頭の中はぐちゃぐちゃで思考が定まらない。
ひたすら脇目もふらずに走り続ける。
途中誰かとすれ違った。
名前を呼ばれた気がしたが構ってる暇はない。
今はここにいたくない。
逃げなければ。
──ひたすら走り続けて、気が付くと教室へと戻ってきていた。
今は始業式のため誰もいない。
おかけで少し落ち着くことができる。
呼吸を整えながら先ほどのことを思い出す。
ダメだ、体が震える。
頭を整理しようにも何が何だか訳が分からない。
……でも、あれはきっと、もしかしたら。
……いやでも現実であり得るかそんなこと、そんな、まさか……
ガラリ、教室の扉が開けられた。
ビクッと体が反応する。
入口に目をやるとそこには担任が立っていた。
「比企谷どうしたんだ。もう始業式始まってるぞ」
そう言ってこちらへと近づいてくる担任。
どうやら先ほどすれ違ったのはこの人であったらしい。
──再び鼓動が速くなる。
──心臓が張り裂けそうだ。
コツ……コツ……
──1歩2歩と、担任は教室の隅にいる自分との距離をゆっくりと縮めてくる。
コツ……コツ……
──やめろ、それ以上近づくな。
──今お前がこっちに来たらきっと……
コツ……コツ……
──目をつぶり耳を塞ぐ。
コツ……コツ……
──やめろ…………っやめろ…………!
コツ……
──それでもその声は、無情にもはっきりと俺の元まで届いた。
『俺に手を掛けさせるなよクソガキが』
──比企谷八幡はこの日
心の声が聞こえるようになった。
陽乃はまだ……できるだけ早く出しますとも、ええ。
この話は少し設定があれなため、書くのが大変ですが結構楽しいです。
次もできるだけ早く書けるよう頑張ります!
それでは今日はこの辺で。