ぼっちな俺はとある理由で田舎で暮らす。   作:ちゃんぽんハット

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いろはす短編とは別に書いていきます!
思い付いたので書き始めてみました。
こちらはかなり亀更新になりそうですが、ゆっくりとお付き合い願います。




田舎暮しその1

「それじゃお母さん、八幡のことよろしくね」

 

「はいよ。あんたも風邪引かんように気を付けな」

 

「ええ。……八幡、こっちでの生活頑張ってね。何かあったらすぐ連絡しなさい」

 

「ああ、わかった」

 

「……またね八幡」

 

お袋は俺とばあちゃんに別れを告げると、車に乗って去って行く。

どこか後ろ髪を引かれるように、ノロノロとしたスピードで遠ざかっていく車はしばらくすると見えなくなった。

辺りの山の木々はほとんど葉を落としており、寒々とした空の下にポツンと立っていると少しだけ寂しい気持ちになった。

冷たい風が顔にささる。

 

「ほれ八幡、いつまでもそんなとこに突っ立ってないで中にお入り」

 

「ああ、今行く」

 

ばあちゃんに促され家の中に入る。

築40年は軽く越えてそうな木造建築の平屋は、隙間風が所々から吹き込み外の寒さと大差なかった。

 

ほんとマジで寒すぎだろここ。いや千葉もそれなりに寒かったけど、こりゃ別格の寒さですわ。

 

「先にこたつ入って暖まっときなさい」

 

そう言って台所に行くと、お茶の用意を始める。

コンロに火を付けてお湯を沸かす。

一応こんな田舎の山奥でもガスはあるみたいだ。

 

おっと、いつまでも廊下に突っ立ってないで早くこたつに入ろう。

俺は足早に居間まで行き、すでに暖められているであろうこたつの中にもぐりこんだ。

 

あぁぁ~、暖けぇぇ~。

下から来る冷えた体をじんわりと暖める温もりに、はふぅ、と気の抜けた声が漏れる。

マジ、こたつ、文明の利器、最強で最高。

掘りごたつというのがまたいい。

無性に中に潜りたい衝動に駆られたが、さすがに俺も高校2年生。

その辺りはわきまえている。

よし、今度ばあちゃんが留守の時に潜りこもう。

 

掘りごたつの魅力にとりつかれてどうでもいいことを考えていると、ばあちゃんが急須にお茶を入れて持ってきた。

湯飲みにお茶をコポコポと注ぐと、湯気と共にほのかにいい香りが広がる。

 

「ほら熱いから気をつけてお飲み」

 

差し出された湯飲みを手で包み込むと、これまたこたつと違った心地よい温もりが手のひらにじんわりと広がる。

なんだろうこの温かさ。

今まで感じたことのないような優しさを感じる。

いや、よく考えたら今まで一度たりとも優しさとか感じたことなかったわ。

てことはこれが初めて?

やーん、こたつと湯飲みに初めて奪われちゃった☆

 

冗談はさておき、猫舌な俺は熱々のお茶をフーフーと冷まし、ずずずっと音を立てながらゆっくりと飲む。

うーんうまい。

普段はMAXコーヒーばかり飲んでいるが、たまにはこういうのも悪くはない。

 

ずず、ずず、っと半分ほど飲み終わり、湯飲みを机の上に置いてひと心地つく。

 

ええやん、田舎、思ったより素敵やん。

リラックスしきった俺の頬は自然と緩んでいた。

 

『なんだいこの子は気持ち悪い笑顔を浮かべて』

 

わーおグランマ、なんてことおっしゃる!

まさかこんなクソ田舎に来てまでそんな悪口言われるとは思ってなかったぜ!

 

誉めてたったの3秒後に田舎をディスる自分のことは棚にあげ、心のなかで不満を述べる。

 

まあばあちゃんも悪意があってのことではないようだ。

ただ単に思ったことを口にしただけだろう。

なにそれ、余計にダメージデカイんですけど。

 

そんな俺の心の内を知ってか知らずか、ばあちゃんも湯飲みを置いて俺に話しかける。

 

「あんた高校はいつからだい?」

 

「来週の月曜から。まあ1回先生に挨拶には行くけど」

 

「それまではどうするのさ?」

 

「特に何もしねーよ。本読んだり勉強したりしながら適当に時間つぶす。こんな寒さじゃ外にも出たくねーしな」

 

「そうかい。暇なら散歩でもしてくるといい。山ばかりで退屈かもしれんがの」

 

「いやだから外出ねえって、寒いから」

 

「年寄りは耳が悪くてね、時たま聞こえんことがあるのさ。特に都合が悪い事なんかはね」

 

「なにそれ年寄り超高スペックじゃん」

 

本当に羨ましすぎる能力だ。

特に今の俺の状態だとなおさら強く思う。

 

「まあなに、あんたがしたいようにすればいいさ。ここでは自由にのんびり生活しんさい。散歩とかしてね」

 

「どんだけ散歩推してくんだよ」

 

ほっほっほっ、と年寄りらしく笑うばあちゃん。

ばあちゃんとの会話は特に気を使う必要もないから割と好きだ。

どうしようここから恋なんかに発展しちゃったら!

キャー、年の差恋愛な上に近親相姦とか八幡だーいーたーんー!

いや、普通にあり得ませんけどね?

 

「さて、そろそろ晩御飯の準備でもするとしますかね。

あんたはご飯できるまで荷物の整理でもしてな」

 

「えー、後でやるよ」

 

「今しなさい。嫌なことはさっさと終らすに限る」

 

「…仕方ない、さっさと終わらすか」

 

このあったか安らぎ空間から出るのは正直嫌だったが、ばあちゃんの言うことは最もなので素直に従うことにする。

 

残りのお茶をぐいっと飲み干すと、こたつからのそのそと出て自室となる部屋へと向かった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

居間から一番離れた部屋、そこが俺の新しいマイルームである。

元々は死んだじいちゃんの仕事部屋で、ばあちゃんに頼んでこの部屋を使わせてもらうことにした。

 

理由は簡単。

小説家だったじいちゃんの仕事部屋には大量の本があるからだ。

 

そもそも俺の本好きはじいちゃんのせいだ。

小さい頃からこの家に来ると、じいちゃんはたくさんの本を読ませてくれた。

絵本からミステリー小説、海外小説に至るまで俺に様々な本を教えてくれた。

なぜか自分の書いたものだけは絶対に見せようとはしなかったが、それは学校の図書館でこっそりと読んだ。

内容は意外にも恋愛ものだったが、心温まる物語で俺はすごく好きだった。

その事を伝えると、じいちゃんはやめんかと言いながらも嬉しそうに顔を綻ばせていた。

 

とまあそんなわけで、昔からよく入り浸っていたじいちゃんの執筆部屋を自分の部屋にすることにした。

ここでかなりの本を読んだ記憶があったが、それでもまだまだ読んだことのない本がずらりと本棚に並んでいる。

これから少しずつ読んでいこうと、うきうきとした気持ちで荷ほどきをしていく。

 

持ってきた荷物はさほど多くなく、ほんの十数分で整理は終わった。

 

いやー、本当にこの本に囲まれた部屋いいね。

都会と違って超静かだし落ち着くわ。

居間からも離れてるしこれなら好きなことし放題!

何が言いたいかというとナニがやりたいほうゲフンゲフン!!ゴムラゴムラ!!

今のは失言だ見逃しておくれブラザー。

べ、べつにそれ目的でこの部屋を選んだわけじゃないんだからね!

 

誰に対する言い訳なのかもわからないし誰得なのかもわからないツンデレごっこをした後、俺は床にごろりと寝転んだ。

ぶっちゃけ超寒いけどなんとなく、今はこうしたい気分だった。

 

懐かしさと寂しさとのせいだろうか、俺は目を閉じて物思いにふける。

頭に浮かんだのはほんの数ヶ月前のことだ。

 

 




陽乃の出番はもう少し先になりそうです。
そして田舎の描写が難しい。
駄文ですがお付き合いありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
それでは今日はこの辺で。

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