パラオの曙   作:瑞穂国

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どうも、リアル秋刀魚イベに参加できなかった作者です

ゲーム内の秋刀魚は、取り敢えず十八匹集めました

そもそも、なんで艦隊ゲームで秋刀魚を集めているのか・・・


第二夜

深海棲艦からの最後の空襲を凌ぎ切った摩耶たちは、そのままマリアナ沖に留まり、夜を迎えていた。

 

艦隊内の緊張感は昼にも増して張りつめている。昨夜、マリアナは深海棲艦水上部隊の襲撃を受けている。ル級改flagshipを中核としたこの艦隊は、一、二救艦の奮闘によって退けられたが、あくまで一時的な撤退を図ったものと考えられた。

 

今夜も襲撃がある可能性が高いと、摩耶含めた全員が踏んでいる。

 

敵水上部隊に備えているのは、“摩耶”を筆頭としたパラオ艦隊第一陣(第三救援艦隊と呼称)と一救艦の三隻だ。昨夜の戦闘で損傷した一救艦旗艦の“比叡”は参加していない。角田自身も怪我をしており、本来は戦闘指揮を止められてしかるべきなのだが、本人が頑として譲らなかったため、そのまま“金剛”に将旗を移している。

 

受け入れ先の金剛曰く、

 

―――「夜の戦闘で指揮官を欠くことは、非常に危険デス。角田テイトクの言うことに、一理あることは認めマス。だから、今回は特別に、怪我したまま私に乗ることを許可しマス。バット、角田テイトクがこれ以上比叡ちゃんを傷つけるようなことをしたら、問答無用で海に叩き落してやりマス」

 

とのことであった。

 

“金剛”以下の一救艦は、昨日戦艦部隊の襲撃があった、サイパンよりの方位〇八五の海域に展開している。一方の三救艦は、敵機動部隊とサイパンを結ぶ直線上、方位一三五に展開していた。

 

辺りを警戒するのは、電探と夜間見張り員。雲が濃いため、月は当てになりそうにない。そもそも、今宵の月は、それほど光量が多くないはずだ。

 

「・・・現在時刻、〇〇〇〇」

 

正時を差す蛍光塗料の針を、摩耶が読み上げた。

 

「第二陣到着まで、三時間と少し、といったところか」

 

確認するように清水が呟いた。日の入り前に“大和”から寄越された通信によれば、第二陣到着予定は日本標準時刻の午前三時前後、現地時間で四時前後となる。以後通信がないところを見るに、無事な航海を続けているものと思われた。

 

日没後に沈黙を保っているのは、第一陣も同じだ。ピリッとした空気が、“摩耶”の艦橋にも満ちている。あらゆる目が、暗闇に目を凝らし、敵影の接近に備える。

 

備えている、かに見えた。

 

『う~っ!いい加減暇ぴょん!』

 

緊張感を台無しにしたのは、艦隊最後尾であり、日中の対空戦闘にもあまり参加できていなかった卯月であった。ウサギを思わせるその語尾が、通信機の向こうでぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 

『しーっ!静かにしろって、卯月。夜間警戒中だぞ』

 

それに答えるのは長波だ。注意しているその声は、しかし電波に乗ってしまっている時点ですでに、静かにという言葉と矛盾している。

 

「お前らなあ・・・」

 

せっかく張った緊張の糸を、遠慮会釈なくプッツリと断ち切ってくれた駆逐艦娘に、摩耶は頭を抱えそうになる。

 

その時、清水が動くのがわかった。怒られるか?通信機を取った清水の言葉に耳を傾ける。

 

「いや、静かにしない方がいいかもしれないな」

 

思いもよらない発言に目を見開く。

 

確かに、旗艦の“金剛”から、無線封止の命令が来ているわけではない。しかし、電波を盛んに発することは、その電波を探知されて、敵に見つかる可能性も高くなるということだ。敵発見の報告以外、電探を除いた電波を発するものを使用することは、まずない。

 

「盛んに電波を飛ばしていれば、こちらが迎撃の準備をすでに完了していると、深海棲艦に思わせることができる。未然に接近を防げるかもしれないし、少なくとも奇策を用いられることはないはずだ」

 

正面からの戦いなら、こちらにも十分な勝機はある。清水はそう言いたいようだった。

 

―――確かに、一理あるかもしれない。

 

摩耶が深海棲艦を襲撃するとして、だんまりを決め込む相手になら色々と策を考えてみたりもするが、盛んに通信をしている相手の場合、すでにこちらが発見されているものと考えて、一獲千金を狙うような奇策よりも、堅実な作戦を選ぶ。

 

同じ思考は、深海棲艦にも通用する。

 

『・・・クソ提督も大概だったけど。あんたも似たようなもんね』

 

溜め息混じりの言葉は、曙だ。そんな彼女の言葉を、ニヤニヤという言葉が当てはまる、愉快極まりないといった様子で茶化したのは、パラオ着任時から曙を知る木曾だった。

 

『曙って、口を開けば榊原のことだな。何かと、比べる時もあいつが基準だし』

 

『なっ・・・!』

 

木曾の指摘に、曙が絶句する。目の前にいたら、きっと面白い表情が見れたであろうことは、想像に難くなかった。

 

『んなことないわよ!』

 

『えー。それこそ一理ありだろ』

 

長波も木曾に便乗する。摩耶はとりあえず、まだ口を挟まないことにした。

 

『確かに、クソ提督なんて言ってる割には、アイツのことはよくしゃべるわよね』

 

追撃するのは霞。元々、自分にも、他人にも、深海棲艦にも容赦のない艦娘である。

 

『そ、そんなわけ・・・』

 

言葉に詰まるあたり、意外と図星であったのかもしれない。素直になれないのは相変わらずだ。彼女らしいと言えば彼女らしい。

 

『うーちゃん知ってるぴょん。曙の部屋にあるドレッサーの、上から二番目の』

 

『わあーわあーわあーっ!』

 

『・・・おいうるさいぞ。聞こえなかったじゃないか』

 

『知らないわよ!ていうか聞かなくていいから!』

 

歴戦の駆逐艦娘も、防戦一方であった。一方の摩耶もまた、込み上げる笑いの波に防戦一方であった。

 

『あんたたちなんか大っ嫌いよ!』

 

『あ、一応補足すると、今の曙は若干拗ねてツンデレモード入っているから』

 

『つまり今の発言は、大好きという意味でオッケーぴょん?』

 

『そーゆーことになるな』

 

これを受けて曙、完全にいじけてしまった。この場に榊原がいないことが、せめてもの救いであろうか。

 

「・・・本当に容赦がないな、駆逐艦娘は」

 

隊内通信をオフにした状態で、清水がポツリと呟いた。

 

「ここで聞いたことは、榊原には言わない方がいいな」

 

「・・・そうした方が賢明だな」

 

そうした方が面白い、と言わなかった分、自分は良心的であると摩耶は思うことにした。

 

その時、電探が影を捉えた。摩耶の意識は、急激に冷却されて目の前の状況に向きあう。

 

夜の戦闘は、いつでも突然訪れる。

 

「電探に感!」

 

「距離、方位報せ」

 

弾んでいた少女たちの会話が、ピタリと止まっている。摩耶は電探に映る影の諸元を読み上げた。

 

「本艦よりの方位一三五、距離三五〇」

 

「合戦準備。一救艦に通報。もう少し引き付けたのち、こちらから仕掛ける」

 

端的に指示を飛ばした後、清水はさらに一言、付け加える。

 

「まだ話していていいぞ。その方が、変な力が入らずに済む」

 

言われてぎくりとしたのは摩耶だ。名指しはしないが、見抜かれていただろうか。

 

日中から何となく感じてはいたが、やはり肩に力が入らずにはいられなかった。今も少し痛い。

 

『・・・で、結局、曙のドレッサーには何が隠されてるんだ?』

 

『それはねえ~』

 

『ああもう、あんたたちは!それをぶり返すか!帰ったら特別訓練をつけてやる!』

 

桑原桑原と、摩耶は心中で手を合わせる。曙の特別訓練は、霞と比べ物にならないくらい、容赦がない。つくづく、駆逐艦娘でなくてよかったと、摩耶は思った。

 

『いいんじゃない。日頃の訓練の成果を見せてきなさいよ』

 

普段、秘書艦の曙に代わって駆逐艦の訓練を受け持つ霞が、さらっと特別訓練をすり抜けている。

 

『いやー、ちょっとあたしは遠慮しとくかな』

 

長波は早速卯月を裏切ってしまった。

 

『じゃ、卯月とマンツーマンね』

 

『ま、待つぴょん!普段嚮導する側の霞こそ、たまには訓練をつけてあげるべきだと思うぴょん!その方が霞のためになるとうーちゃん思うぴょん!』

 

卯月、一旦は逃れた霞を巻き込む。

 

『卯月、後で特別訓練つけてあげるわ。感謝しなさい』

 

霞の声に、卯月は墓穴を掘ったことに気づく。曙ほどではないとはいえ、霞の特別訓練も、大浴場の浴槽で脱力する程度には厳しいものである。

 

他愛のない会話はなおも続いていた。しかしながらその間にも、各艦は着実に戦闘の準備を進めている。もはや身に染みついた作業だ。

 

「距離三〇〇」

 

「第二戦速、艦隊逐次回頭、針路〇六五」

 

清水の指示通り、三救艦の六隻が回頭を始める。丁度、接近する敵艦隊に対して、頭を抑えに行く形だ。

 

『清水少佐、聞こえる?』

 

“摩耶”に入感した、戦闘中でものん気な声は、一救艦を率いる手負いの将、角田だ。清水が元々連合艦隊付きで横須賀に所属していたということもあり、お互いに顔見知りではあるらしい。

 

「感度良好です。どうぞ」

 

『ん、オッケー。そっちに着くのは、十分後くらいになると思うから、そのつもりで。あまり無理はしないようにね』

 

それを貴女が言うか、というツッコミを、摩耶は胸の内に仕舞い込むことにした。

 

「そっくりそのまま、お返ししたい気分ですよ」

 

が、せっかく摩耶が飲み込んだ言葉とほぼ同義のことを、清水は通信機の向こうへ返答する。角田の笑い声が聞こえてきた。

 

『言ってくれるねえ』

 

「塚原大佐からは、貴女のことも頼まれています」

 

『まったく、心配性なんだから』

 

その言葉はおそらく、横須賀で機動部隊を率いている提督に向けられたものだ。

 

『まあ、お互い無理し過ぎない範囲で、無理をするということで』

 

「・・・そういうことにしておきます」

 

『じゃあ、よろしくー』

 

そう言って切られた通信に、摩耶ならば盛大な溜め息を吐き出したいところであった。

 

「距離二〇〇」

 

いよいよ、彼我の距離が二万メートルに迫っていた。まだ目視はできない。さすがの夜間見張り員でも、ほとんど光の漏れ出ていない暗闇の中、二万メートル先の敵艦を発見するのは、よほどの幸運がなければ不可能であった。

 

今は電探に頼るしかない。しかしながら、“摩耶”搭載の二一号や二二号は、射撃管制に使えない。最終的には、測距儀による目視で諸元を算出するしかないのだ。

 

「零水偵、発艦準備完了」

 

頼みの綱は、上空から吊光弾を投下して敵艦を照らす、水上偵察機であった。

 

火薬の炸裂音が響き、カタパルトから零水偵が押し出される。高度を稼いだ機体は、電探の捉えた敵影へと接近を図った。

 

やがて、吊光弾が投下される。月に代わって、淡く白い光が波間を照らし、暗闇にゴツゴツとした敵艦の姿を映し出した。




・・・あれえ、おかしいね

当初は摩耶様のシリアス回だったはずなのに、曙弄り大会になっておる・・・

はい、せめて戦闘だけは真面目に書きます

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