パラオの曙   作:瑞穂国

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ようやくながーーーい説明が終わろうとしている・・・

作者ワールド全開でしたが、どうか今回までお付き合いいただきたく




本日をもって、我が「刃櫻会」の活動は事実上終了することとなる。我々が関わってきた本事案が、収束とは程遠い状態とはいえ、帝国の敗戦という事態を鑑み、今後予想される連合国による機密情報の回収を懸念し、我が会の活動に関する資料の一切を焼却処分とすることを決定した。

 

しかしながら、本事案と“幻”はいまだ予断を許すものではなく、今後帝国の将来において重大な損害を与える可能性を加味し、私を含めた一部の同志によってその資料を抜粋、然るべき時に然るべき人物に渡るよう画策するものである。

 

(中略)

 

「刃櫻会」は表向き、敗色濃厚となった帝国の将来と、終戦時の混乱から陛下をお守りするべく結成されたものということになっている。結成は一九四四年十二月。もちろん、秘密裏に結成された組織であり、その存在は侍従長や海軍大臣といった非常に限られた人間しか知り得ない。であるが、実際に「刃櫻会」が行っていた活動を知るのは、さらに限られた人物のみである。

 

「刃櫻会」の前身である「草薙研究会」が結成されたのは、故山本五十六元帥が連合艦隊司令長官であった時分である。研究会を主宰していた櫻井(仮名)少佐(当時。終戦時大佐)は、山本長官の懐刀とも呼ばれ、いわば研究会は山本長官の直属という形でスタートしたこととなる。

 

海軍甲事件により、山本長官が戦死なされた後は、しばらく独自に活動をしていたものの、“幻”の内地回航決定に際して連合艦隊司令長官預かりという形になり、一九四四年に「刃櫻会」となるまでは連合艦隊司令部直属組織として従来通りの活動を続けている。

 

 

昭和十六年十二月八日。帝国、米英に対し宣戦布告。

 

(中略)

 

昭和十七年六月七日。MI作戦中止。

 

同月八日。航空母艦“鳳翔”所属九六式艦攻が海上にて漂流中の所属不明艦船を発見。山本長官、敵艦隊襲撃の懸念なしと判断し、曳航を指示。駆逐艦“舞風”、“野分”が曳航作業に入る。

 

同月十二日。所属不明艦船をトラックへ入港。この時点で、仮称を「不明巨大戦艦」とする。

 

同年七月七日。不明巨大戦艦の調査を目的とし、山本長官の密命を受けた「草薙研究会」が発足。櫻井(仮名)少佐を首班とする。

 

同月八日。研究会員はトラックへ移動。

 

同月十四日。第一回調査。機関区を調査せるも、駆動理論、構造ともに現用のものと大きく異なり、始動は困難と判断。艦体構成素材についても、未知の合金である可能性が高し。

 

同月二十一日。艦内にて、所属不明の民間人女性二人を保護。意識なし。トラック海軍病院へ移送、隔離。すでに調査済みの場所に倒れており、どこから艦内に侵入したかは不明。

 

同月二十二日。女性一人の意識が回復。身体に異常認められず。食事可。なれど記憶障害あり。

 

同月二十三日。もう一人の女性も意識が回復。身体に異常認められず。食事可。なれど記憶障害あり。

 

同月三十日。第二回調査。女性二名も同行。艦橋施設を調査せるも、こちらは機関区と違い、現行装備と相違は認められず。

 

同年八月八日。米軍ガ島上陸。第一次ソロモン沖海戦。

 

同月十日。不明巨大戦艦の機関が突如として始動。保護女性、自らを不明巨大戦艦の「船魂」と名乗る。

 

同月十一日。女性二名による不明巨大戦艦の操作(機関・発電機始動、兵装駆動系動作)を確認。以後は二名を不明巨大戦艦の船魂と仮定する。

 

同月十五日。第三回調査、及び第一回試験航海。不明巨大戦艦、機関始動の後主機駆動を確認。女性二名による操艦は不安定なるも、原速での航行及び転針に成功。

 

同月十七日。連合艦隊司令部内地を出港。

 

同月十八日。不明巨大戦艦の研究会内呼称を“幻(マホロバ)”に決定。二名の女性を、それぞれナキとナミと命名。女性の承諾を得る。

 

同月二十八日。連合艦隊旗艦“大和”、及び連合艦隊司令部、トラックに到着。研究会の途中報告を提出。

 

同月二十九日。山本長官、内密にナキ、ナミと会談。両名、以後連合艦隊司令部の管理下に入ることを承諾。

 

同年九月三日。第四回調査、及び第二回試験航海。第一戦速の発揮に成功。

 

同月十五日。第五回調査、及び第一回公試。第三戦速の発揮に成功。主砲照準(測敵、諸元計算、俯仰旋回)試験異常なし。注排水系統異常なし。予想される余剰浮力は、“大和”型の倍以上であると推定。

 

同月十八日。第六回調査、及び第二回公試。機関最大出力による運転に成功。艦橋速力計が計測せる速力二八ノット。高角砲、及び機銃群照準試験異常なし。この時点で、“幻”機関の燃費が、既存のものよりも遥かに良好なことが判明。重油タンクの容積から計算するに、巡航での航続距離は三万海里に達するものと思われる。

 

同月二十日。第七回調査、及び第三回公試。主砲公試を開始。四〇度の最大仰角にて交互撃ち方を三度実施。最大到達距離五万を記録。

 

同月二十一日。第八回調査、及び第四回公試。第一戦速での主砲公試。仰角二〇度にて斉射を三度実施。発砲遅延装置の搭載を確認。散布界狭。

 

同月二十三日。第九回調査、及び最終公試。曳船を用いての動目標射撃を実施。交互撃ち方六回、斉射三回。

 

同年十月三日。連合艦隊司令部、“幻”をこのままトラックに留め置くことを決定。

 

同月十日。第十回調査、及び砲術訓練。交互撃ち方九回、斉射四回。帰途にて敵潜の雷撃を受けるも、目立った損害なし。

 

同月十一日。潜水夫による被雷箇所の確認を行うも、損傷見当たらず。なれど艦内防水区画に浸水発生。排水作業後、浸水の原因調査に入る。以後、しばらくの出港を取り止め。

 

同月十二日。浸水区画の調査を行うも、目立った破損個所、及び亀裂等浸水の原因と思しきものは発見されず。

 

(中略)

 

昭和十八年四月七日。い号作戦発動。

 

同月十八日。海軍甲事件。山本長官戦死(公式発表は一か月後)。研究会は後ろ盾を失うが、独自に活動を続けることで総意を見る。

 

同月二十一日。古賀峯一大将が連合艦隊司令長官となる。

 

同年五月二日。電波探信儀の優先配備が決定。設置場所の検討が行われる。

 

同月二十日。工作艦“明石”による電探設置作業を行うも、設置予定位置に台座を設置できず、断念。調査の結果、“幻”艦体を構成する未知の合金は、空いた穴を自己増殖によって塞いでしまう能力があることが判明。先の被雷に際して、破孔等が見つからなかったにもかかわらず浸水が発生していたのは、この特殊合金の特性によるものと思われる。以後、この特殊合金を「蒼鋼」と呼称する。

 

同月二十一日。電探増設作業断念。今回の結果を鑑みるに、人類製の兵装等を増設することは困難を極めると思われる。また、ナキ、ナミ曰く、増設された兵装は彼女らで操ることができないとのこと。彼女らの感覚的操作が及ぶのは、蒼鋼で構成されている部分に留まる模様。研究会内に、この蒼鋼に関する研究を行う部門を立ち上げる。

 

(中略)

 

昭和十八年十月七日。“幻”の内地回航が決定。回航に際し、臨時艦長として大石(仮名)大佐が着任。この時点で、研究会は連合艦隊司令長官預かりとなった。

 

同月十四日。“幻”、トラックを抜錨。

 

同月二十五日。“幻”、柱島に投錨。

 

(中略)

 

昭和十九年九月十日。リンガに投錨。

 

同年十月十九日。捷一号作戦発動を受け、リンガを抜錨。別働隊として第二艦隊のレイテ湾突入を支援するべく、比島へ向かう。

 

同月二十三日。レイテ沖海戦始まる。

 

同月二十五日。栗田艦隊反転に際し、“幻”もレイテ湾突入を断念。レイテ沖海戦終了。

 

(中略)

 

昭和二十年三月十日。東京大空襲(九日深夜)。

 

同年四月一日。米軍沖縄侵攻を開始。

 

同月六日。菊水作戦発動。戦艦“大和”出撃。これを支援するべく、“幻”も出撃する。

 

同月七日。“大和”沈没。“幻”、単艦での沖縄突入を図るも作戦中止を受け反転する。その際、米軍偵察機と思しき機体が上空を通過するが、空襲はなし。

 

(中略)

 

昭和二十年七月二十五日。横須賀回航が決定。

 

同月二十六日。呉を抜錨。

 

同月二十七日。横須賀投錨。

 

同月二十八日。呉空襲。

 

同年八月六日。広島に新型爆弾が投下。後に原子爆弾と判明。

 

同月八日。ソ連宣戦布告。

 

同月九日。長崎に原爆投下。

 

同月十四日。御前会議にてポツダム宣言受諾が決定。海軍の若手将校がこれに反発、反乱を企てる。“幻”の掌握を画策、強制乗艦。混乱の中、ナミが行方不明となる。その後、“幻”強制出港。唯一の生存者、坂上(仮名)少尉の証言によれば、大石(仮名)艦長以下艦内に残る会員は全員が戦死。“幻”は、残った十数名の反乱軍と共に、ナキの独断で出港した模様。以後、一切の消息が不明となる。

 

同月十五日。玉音放送。帝国、連合軍に降伏。

 

同年九月二日。戦艦“ミズーリ”艦上にて、降伏文書の調印が執り行われる。

 

同月三日。「刃櫻会」解散を決定。一切の活動に関する書類を焼却処分。(なお、本書を含めた一部は、有志が独自に保管)

 

 

 

“幻”諸元(推定)

 

全長・・・三五三・七メートル

 

全幅・・・四三・二メートル

 

排水量・・・一一万七〇〇〇トン

 

速力・・・二八ノット

 

五〇口径五六サンチ三連装砲四基

 

五〇口径一二・七サンチ連装高角砲十八基

 

二十五ミリ機銃多数

 

 

「船魂計画」

 

我々が邂逅した“幻”は、かくも巨大なる戦艦であるが、その操艦、及び戦闘行動に必要な人員は、わずか二人と非常に少ないものである。これはひとえに、ナキとナミ、二人の少女が持つ特殊な艦体制御方法にある。

 

仮に「精神同調」と呼んでいるこの手法が確立されれば、我が帝国はより一層の飛躍を遂げることとなるであろう。そこで「草薙研究会」のうちの数名は、この精神同調に関する基礎技術を研究、本土において種々の実験を行うことを試みた次第である。

 

ナキとナミは、“幻”の艦体を運用する際、特殊な機器の補助を受けずに精神同調を行っている。これは艦体を構成する蒼鋼に直接触れることで、艦内各部との接続を可能にしていると考えられる。また、あれだけの規模の艦体を掌握する負担は、両名が役割を分担(ナキは航海、ナミは戦闘)することで軽減している。

 

これを人類側の技術に落とし込む場合はどうなるであろうか?

 

現状の技術では、帝国、否世界中のどこにも、蒼鋼の働きを再現することは不可能であろう。となると、艦体については、通常の鋼鉄で作ることになる。したがって、蒼鋼を介した直接的精神同調は断念せざるを得ない。

 

しかし、精神同調を補助する装置を介することで、同様の制御を行うことは可能である。「草薙研究会」に所属する理化学研究所員は、“幻”の調査によってその基礎理論を特定、私を含めた数名の研究会員と共に内地へ戻り、精神同調補助装置(ここでは単純に「装置」と称する)の完成を目指す。初期達成目標は、人間単独での航海系操作全般の掌握とした。

 

試験艦としては、マル五計画の改定による空母の建造にあたって、突貫工事の後ドックから引き出された第三〇一号艦(“伊吹”型二番艦)の艦体を流用することが決定。欺瞞工作として、第三〇一号艦は、“天城”建造のため解体され、ドックを明け渡したこととした。

 

装置の完成は昭和十九年二月。第三〇一号艦は艤装作業が四割程度しか進んでいなかったが、ともかく装置を航海系の設備と接続し、精神同調の試験に入った。

 

同年五月、精神同調に初めて成功する。成功者は民間の協力者で光瀬(仮名)女史。

 

同年十月まで行われた試験の結果、成功者は四名。いずれも女性である。このことから、現在未解明の精神同調に関わる脳の働きが、女性の方が適合性が高いと判断される(追研究の結果、この現象は艦船のみに限られることが判明)。

 

また、現行の装置の性能では、航行の制御をするので精一杯であり、戦闘行動には乗組員が必要である。これは、装置の性能向上によって解決されると思われる。

 

しかしながら、戦局の悪化にともない、入手できる資材等の問題を鑑みて第三〇一号艦の完成を断念。本計画もまた、凍結されることとなった。




・・・うん、ようやくこの話の着地点が見えてきた気がする

由良さんのレベルが、浴衣になってから急速に上がっていく・・・。て言っても、92から96だけど

あと、長波様可愛い。おみあしスリスリしたい

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