「あみたん娘」のキャラクターたちが自分たちの方向性を考える話

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会議(?)

まず、自己紹介させてもらう、俺は阿弥貴(あみたか)。エメラルドの髪、整った顔立ち、スラリと伸びた足、どこをどう見ても美男子だ。小さくて愛らしい「あみたん」も俺であることには変わりないのだが、分けておいてほしい。

「なにしてんの、あみたん。」

どうやら呼ばれたようなので、俺は声の主の元に向かうとする。声の主は「かのん」短めのストレートにお気に入りのパーカーを着ている。となりには「おとなしい」を具現したような「せしる」がいる。

「あぁ、すまない。呼び出しておいて。」

「まったくよ、私の都合を考えなさいな。」

「まぁまぁ、かのんちゃん。それで話って…?」

「それはだな、俺たちの方針を決めたいと思う。」

「そうよね、キャラデザとちょっとした設定だけだもんね。」

おぉぉい、いきなり言ってしまうのか。しかし、いずれは言わなくていけないものではあるから、今ここで片付けられるのはいいのかもしれない。俺たちは『高岡市を元気にする』と言う崇高な目的のために生み出されたキャラクター「あみたん娘」(俺もそのキャラクターの1人)のだ。

「大体、小学5年生ってどうよ、動かしヅライでしょ。キャラ的に。」

で、かのんは自分たちの設定に噛み付いているという訳だ。と言うかマズくないか、キャラが自分の設定にケチを付けるの。

「高学年だし、見聞も結構広くて深く考えることができると思うけど。」

せしる、それは模範解答だけど、君自身が一般的な小学生の範疇を超えると思うよ。確かに小学5年生ならある程度できるだろうが、動かすなら、中学生〜高校生の方がありがたいとは感じる。感情移入しやすいし。

「変身ギミックもあるけど、いるの?」

「それは…ちょっと…。そうだ、方針だ!!方針を考えよう。」慌てて軌道修正を図るも

「ダメです。」

えっ…ブルータス、いや、せしる、お前もか。味方だと思っていた彼女の裏切りで唖然とする俺に

「自分たちの設定を見直してからじゃないと、方針もないですよ。」とのありがたいお言葉。

「そうだな、せしる。」と手を握るとちょっと意外そうな顔して照れくれた、かわいい。

「ラブコメはいいから。」鋭い声が貫いた、そうだった。手を放すとちょっと名残惜しそうに俯いた、せしる、やっぱりかわいい。

「んじゃ、お前たちは中1ってことにするのか。」

「それがいいでしょうね。それで変身はtransformationは?」

「ちょっと待ってくれ、考え時間をだな。そういうかのんはどうなんだ。」

「成長(?)は無くしたいわ。」

「それはちょっとありますね。そもそものデザインをもっと今風にしたいですね。」

なんちゅーことをと言おうと思ったが、俺自身も思っていることなので、黙っておくことにした。

「デザインはとりあえず置いておくてして、変身はどうしたい?」

「巻く!!」かのんが腹部あたりに何かを巻く動作をして言った。

「おいい、怒られるわ。商標も取られてんだからな。お前、女子じゃないのか。」

「身体は女子小学生、頭脳はオッサンてね。」かのんんん、お前ここではそんなキャラなのかよと困惑する俺のとなりで

「それでは身体変化系ということで苦しみながら姿を徐々に変えると?」と更なる爆弾だ投下された。

「衣装チェンジだけですよね、ねぇ!?」不安しかなかった。

「それでは質量保存の法則が成り立たなくなる可能性が…」

「何を心配してる、せしる!!」

「ファンタジーに何を言っているの。」おぉ、助かった。

「スーツアクターさんに変わるからいいでしょ。」って助かってねぇ。

「ちょっといいか?」

「予算、予算の話ですか?」

「だっ、違う。そんな現実的にならなくても、ある程度自由で…」

「予算は出るですね。」

「ここのプロデューサー、やるじゃん。」

仕方なく小一時間2人に物理法則に縛られなくてもいいこと、そこまでリアリズムにならなくてもいいことなどを伝えた。

 

「さて、変身はアイテム使うのか。」

「商品化が可能なものがいいでしょうね。」

「それはいいから、自由な発想でいこうよ。」

「公式サイトにあのよく分からない『棒』あったじゃん。あれはどうする?」

「普段持ち歩くには困るサイズですよね。」

「何か別のアイテムで呼び出したり、変化してあのサイズにしたりいろいろできると思うぞ。」

「いいですね。」「いいアイディアだと思う。」

「俺は指輪で異空間から取り出すのがいいと思う。」

「中学生で指輪ってどうよ。」

「学校から禁止されませんか?」

なんでったってコイツらはいらん批評を入れてくるんだ。

「見えないとか気にならないとかの設定を加えればいいだろう。」

「変身はそれでいいとして、バトル物にする?」

「妥当なんじゃないのか?」

「でも、高岡のまちは確実に被害を受けるでしょうね。それはいいのですが、物語の進行の過程で死人がでます。」

「死人って、やりすぎじゃ…」

「なんの犠牲もなく進むと面白みがないでしょ?子どもっぽくなるし。」

「確かにもともとのデザインでも中高生向けだしな。」

「それも男子。」うむと言うと。

「だから、巻こうよ、ベルト。」と再び腹部に巻く動作をしてくる、その笑顔はまぶしいが、

「却下。」えぇ〜というその仕草はかわいいのだが、ダメなものはダメだ。確かに男子なら観ていた(orいる)かもしれないけど、それはだめだ。というか余計かさばるだろ、ベルトだとすると。

「商標を取っておくべきですね。」いや、せしる、無理だからね。

「そもそもバトル・アクション物はマズイとそう言う訳だな。」レールを敷き直すことにした。

「でも、それなら変身ってなんの意味があるの?」

あー、確かに変身って普段とは異なる状況に対してすることが多いから。ほのぼのしてると使う機会ないよな。じゃあ、異世界でってすると高岡市の意味が薄れる。

「歩きましょうか。」せしるがにこやかに言ってくる。

設定がロクにできていない世界だから俺たちの他にはだれもいない。という訳で城跡を利用した公園を歩くことにした。

「ひっ」

「どうした、せしる?」

彼女が指す先にはそのカラダを波打って自分の毛をぐねらせて進む蝶か蛾の幼虫、ケムシがいた。なるほど、グロテスクではある、だが、触れなければいい。そうは言っても、完全に怯えてしまったせしるを見てしまってはどこか別の場所に移させてもらうか。そう思って落ちている枝を拾うとしたその時だった。

「とう」とかのんがなんの躊躇もなく踏みつけた。ジャンプからのその動作の俊敏さは美しさがあったが、ケムシは哀れ、体液を撒き散らし平べったくなっていた。先ほどより不気味さが増している。

「それじゃ、洗ってくるから待ってて。」その屈託のない顔で言われてちょっとこちらの表情もゆるんだ。その後ハッとしてツッコミを入れようとした時には彼女の姿はなかった。

 

しばらくしてかのんは戻ってきた。

「おまたせ〜。」その一点の曇りのない笑顔でさっきの出来事を忘れそうになった。

「だっ、大丈夫?」本人よりも心配するせしる。

大丈夫だって、そう?そんなやりとりはほほえましいのだが、かのんの設定を見返してみると思いっきり「苦手なもの:計算, 虫, じっとしていること」とあった。

「かのん、お前、虫が苦手なんじゃないのか!?」

「それりゃ、好きじゃないわよ、ニガテよ。」

苦手って、普通はせしるみたいになるんじゃないのかと思ったが、自分のキャラデザに文句言うんだから諦めることにした。俺としては活発な女の子が見せる隙ってことでいいと思う、少し損した気分だ。

「私は地元、つまり高岡の人間なのでしょうか?」

「んっ?」

「私は首都圏などから引っ越してきたという設定なら、かのんちゃんとの比較もできて、私に教えるという形で地元の説明も自然にできると思います。」

「なるほど。」思わず、手を打った。もともとの設定も割りと対比になっているし、悪くないと思う。

「問題は変身要素だよな…」仮に俺が悪役だとして高岡を襲う意味が見いだせない。日本各地で襲うより首都機能を落とした方が楽そうだし。

「見て見て〜」かのんの声だ。いつの間にか何かのオブジェのてっぺんに座っている。どうやって登ったんだ。

そう言うと「変身!!」と掛け声のもとで飛び降りた。手には先ほど仮決定した道具を手にしている。光の環をくぐると衣服が変化するようだ。危なけもなく着地を決めてこちらに走ってきた。

「演出はもっと派手でいいんじゃないか?」

「テンポが悪くなりますから、長くするメリットは薄いですね。これでいいと思います。」しっかりとした意見すぎて何も言えない。

「この要素をどう活かすかだな…」

「別に戦闘しなくてもいいんじゃないかな?」

「でも、それじゃ、変身意味が…」

「スポーツみたいにするんだよ!!」

「さすが、かのんちゃん、ルールを決めてその上で戦うと。」

「いいなそれ、アイドルバトルみたいな形式にするんだな!!」

「おもしろそうでしょ。」

「方向は決まりだな。」

よし、うまいものでも食いに行くかと言おうとして、やめた。俺らの他に誰もいないんだった…



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