サイタマは大地を強く踏み込み、手始めにマグニチュード10を超える大地震を起こす。
そのまま地面を蹴り、サイタマは幻影の王に拳を向けた。
「連続普通のパンチ」
刹那。
数百を超える、烈火の如く殴打が襲いかかる。1発1発がミサイルより破壊能力がある、自称普通の威力が牙を剥く。
幻影の王はニヤリと笑みをうかべながら1歩足を踏み出し、ガロウの見せた流派の構えをとった。水のように攻撃を流し、 掌にエルルギーを圧縮させ、 隙の出来たサイタマの腹を強烈に殴る。
視野できる衝撃波ができ、一瞬閃光が閃くと、レーザーと共に弾丸のようにサイタマは吹き飛ぶ。
『ガーハッハッ!!負ける気がしないな。いでよ、ファントムヒューマン』
幻影の王が地面を叩き、魔法を発動させる。紫色の巨大な羅針盤が出現し、そこから探偵アニメの犯人役のような、真っ黒な人間が数え切れないほど出現した。
影人は、各々がピストルや剣、ライフルやチェーンソーなど多種多様な獲物を持っている。その全てがサイタマに矛先向けた。
単体で、災害レベル竜を軽く超える。
ビルに突っ込んだサイタマはゆっくりと、頭をポリポリと掻きながら地面に足をつけた。
「どうやらマジみたいらしいな」
自分の腹を撫でる。
僅かなながらズキズキと痛み、ダメージを与えられていた。
視線を前に向けると、影人が剣を振り下ろしていた。軽くそれを避け、回し蹴りを当てると、影人は空高く舞い上がり霧となって消えていく。
飛来する弾丸を避け、チェーンソーを噛み砕き、ロケットランチャーをデコピンで弾き返す。
大勢で歯向かうも、拳圧で蹴散らされていく。
「すげぇ数。チマチマ相手にしたらキリがないな」
サイタマは低く腰を落とし、クラウンングスタートの構えをとる。
ーマジシリーズー
「マジ走り」
文明を破壊し、地形を変動させながら、光の如くスピードで突き進む。
サイタマは3kmほど吹き飛ばされていたが、幻影の王の前に、瞬きすら許さない速さで迫った。
道中にいた影人は、チャーハンを作る際フライパンを振るうように舞い上がっていた。
「マジ連続・普通のパンチ」
『神殺瞬拳』
重なる言葉と重なる拳。
けれども、それは余りにサイタマに不利であった。
サイタマがガロウを相手に有利に運べたのは、サイタマが攻撃力、防御力、スピード等全てを何倍も上回っていたからだ。だが、いま拳を重ねている相手は、自身の長所を吸収した敵で、その話は通じない。
基礎ステータスが同じであるために、勝敗は巧さに別れる。
サイタマは少しずつ押され始めていることに驚き、後方に飛んで距離をとった。
いつぶりだろうか、サイタマが怪人を相手に退いたのは。
そこからは一進一退の攻防を繰り広げた。
全ての生物を超越した最強の奏でる、常人が聞けば死へと巻き込むレクイエム。
市を超え、県を超え、国を超え、大陸を超え。
踏み込んだ大地は砕け、拳圧は人類が育んだ文明を蹂躙し、大海も灼熱に変える。
軍隊でも、怪人でも、ヒーローでも。頂点を決める戦いに割って入れば、ゴミのように死に絶えてしまう。
そんな圧倒的な戦いだった。
地球を1周して、元の位置に戻ると、サイタマの外傷は目に見えて増えていた。頭からは血を流し、服装もボロボロになっていた。
それに対して幻影の王は無傷……ではなかった。数発ほど攻撃を貰い、鎧に損失を負っていた。
(おかしい……確かに俺様は奴の力を吸収した上に、ボロスやガロウの力まで奪った)
なら、勝負は一方的なものになるはずだ。吸収した力の差を考えて、1発たりとも拳を受けない自信があった。
手を抜いたわけでも、油断していたわけでもない。
完封できるだけの実力差があるはずなのに。
「やはり、戦いってのはこうでなくちゃな」
何気ないサイタマの一言。
『まさか……』
額に嫌な汗を流す。
普通、絶対的な力を得たら、それと同時に安心を得るはずだ。
それなのに。
なぜ、いま不安を感じたのだろうか。
『遊んでいる暇はないな』
力を開放させる。
周囲に紫色の閃光が閃き、大地を揺るがせ、雷が鳴り響き、竜巻が巻き起こる。余波だけで、人より勝ると呼ばれた自然界のパワーバランスが崩壊する。
『演舞』
幻影の王は高速で歩より、サイタマの胸元を右手で殴る。サイタマはそれを両手でカードするが、その部位に熱が襲った。
『火』
殴った同時に、大爆発が巻き起こる。核爆弾並のエネルギーの発火、火柱が天空を貫く。それをまともに浴びたサイタマは宙を舞っていた。
『氷』
状況の天変地異。
全てが炎に包みこまれたと思うと、幻影の王が振り下ろした手を合図に、サイタマを中心とした1000mの氷山が出来上がる。
絶対零度。生き物が許されない過酷な環境。
『雷』
雲から雷鳴が轟く。
正しく、神の怒りを具現化したような破壊の鉄槌。氷を砕き、身動きの取れないサイタマを襲った。
空中で多大なダメージを受けたサイタマはピクリとも動かず、重力に引き寄せられていく。
『ファイナルメテオリックバースト!!!』
幻が編み出した技を、我が者ように扱う。
ガロウの呼吸法、ボロスのエネルギー活用。 それに加え、身体能力の向上させる魔法を付与する。本物と大差ないほど完璧に使えこなせる幻影の王だからこそ、絶大なダメージを与えることができる。
足し算ではなく、かけ算で威力は上昇していく。
『ウォォォォ!!!』
無抵抗のサイタマに、四方八方から蹴りや打撃を急所に狙ってダメージを与え続け、その度に血噴が舞い上がらせる。
サイタマを1度上から叩きつけ、地面に落ちていく中を、先回りして高く蹴り上がる。
爆風が巻き起こり、ロケットのように打ち上げられた。
『消し去ってやる! 幻影武装、ロンギヌス槍!』
手元に、神話を元にした、紅の螺旋の形を描いた1本の槍が出現する。
神殺しの槍と呼ばれた、聖なる武器。
それを掴むと、吹き飛ばしたサイタマの元へ投影する。ボロスのエネルギーを付与し、スピードは正に光の如く。
槍はサイタマに突き刺さると、そのまま直進しながら月を破壊し、それでもスピードは止まることはなく……。
「ん?」
吹き飛ばされた先からは、地球が米粒ほどの大きさまで小さく見えるほど、かなり遠い位置にいた。
突き刺ささった槍を引き抜く。神を殺す槍を持ってしても、僅かに穴を開ける程度だった。
サイタマは立ち上がり、地球を目指して跳躍する。
降り立った小惑星が、足場にしただけで半壊した。
『やったか……?』
そんな思想も、爆撃のような着地音と共に消し飛ぶ。
無傷ではないが、致命傷にまでは到達していない。
未だにピンピンしており、戦闘続行、と瞳が訴えている。
『……なぜだ』
全力を尽くした。
『なぜだ』
俺様の方が強いはず。
『なぜだ』
震えが止まらない。
『なぜだ』
頭に敗北の文字がよぎる。
「どうした、戦いはもう終わりか? ならこっちから行くぞ」
サイタマが駆け寄り、拳を振り下ろす。それを軽く受け流して、再び宇宙空間まで蹴りあげた。
素人丸出しの、大したことのない一撃。何度こようと、全てカウンターで返せるはず。
幻影の王とサイタマは、名も無き惑星に降り立ち、再び拳を交える。
『神殺・雷神拳』
幻影の王は自身に雷をまとい、イナズマのようにステップを踏んでサイタマに襲いかかる。
サイタマはそれを迎撃しようと殴りかがるが、手応えはなく、ガロウの特殊な技法で生み出した虚像を貫いただけだった。
刹那。背後から数十発に及ぶ攻撃を雨のように浴びて、痺れながらも吹き飛ぶ。
『幻影武装・エクスカリバー』
幻影の王の手元に、再び神話を元にした剣が現れる。
剣を握りしめ、ガロウの記憶を掘り起こしながら、サイタマの横を斬撃を加えて通り過ぎる。
視界に無数の糸のような切れ目が走る。
『アトミック斬』
コンマ数秒後、切れ目にほぼ同時に斬撃のダメージが走る。
怪人を細切れにする、驚異のスピードの剣激。
サイタマは苦痛に顔を歪めながら、体中から血を吹き出して地面に顔をつける。
『やっと終わったか、手間をかけさせやがる』
手元にある聖剣が、霧となって消えていく。
……ピクリ。
サイタマの指先が動き、再び立ち上がる。
『まだ分からないのか? 馬鹿でも理解できるはずだ。貴様の力を吸収した時点で、俺様に敗北はない』
幻影の王の問を無視して、無言のまま拳を握りしめる。
ーマジシリーズー
「マジモード」
サイタマが全力を出す。
(速い!)
警戒していたのに、一瞬で懐まで潜りこまれる。
幻影の王の体全体に、星を砕く威力を持った連続攻撃が幾つも突き刺さる。
『ぐはぁ!!!』
サイタマが吹き飛ばした先は地球。
幻影の王が突っ込んだ衝撃で、地図を1から作り直す必要が出るほどの地殻変動が巻き起こる。
サイタマは後を追い、そこから烈火の如く追撃を与える。
「マジ連続・マジ殴り」
全てをワンパンで葬りさる、暴力の嵐。
球体状の地球が歪な形となっていき、原型を保てなく、ついには無残に崩壊してしまう。
『舐めるなぁぁぁぁぉ!!!!』
余波だけで惑星砕く一撃を、武術の力を借りてなんと凌ぐ。
次第に足場が無くなり、遂には星そのものが消えていった。
(コイツ……1発1発の威力がどんどん強くなっていきやがる!)
何とか隙を狙い突いて、サイタマの腹を殴り飛ばし、今度は全エネルギーを込めた、絶大な一撃を放つ。
幻影の王の拳に、光と闇がまとわりつく。
『神殺・崩星突き』
耳元で爆弾が爆発したような音ともに、ビックバンような衝撃波が広がり。
その余波だけで、周囲の惑星を粉々に砕いていく。
サイタマは宇宙空間の中を高速で突き進んでいき、数え切れない星を貫き、推し量れない距離を移動する。
「ぐっ!」
吐血。
口の中に鉄の味が広がり、体の骨がバキバキと折れた音がする。
だが、何故だろうか。
不思議と痛みより、懐かしいという感情の方が強い。
サイタマはそのまま目を閉じて、意識を闇の中へと落とした。