バキバキ!
ボロスの鎧が砕け、その体内にある莫大なエネルギーを外へと放出する。
ただそれだけで、周りに強風の風が吹き、常人なら恐怖で動けなくなるような闘志を放たれた。
全宇宙の覇者という二つ名に相応しい、と誰もが思うであろう。
ただ1人を除いて。
「いくぞぉぉぉ!!!」
咆哮と共に地面を蹴り、サイタマへと殴りかかる。その強烈な連打は、2つしかない拳を数多にも見えさせる。しかし、最強という文字を擬人化したヒーローは、バックステップをしながらそれを片手で防いでいた。
拳と拳が重なりあうだけで、耳を塞ぎたくなるような炸裂音と、周囲を吹き飛ばす衝撃波が広がる。
圧倒的な力の差。
それでもボロスは僅かな勝機に全力を注いでいた。なぜなら、今は自分と同格レベルの仲間がいるのだから。
ガロウは驚異的なスピードで消え、近くにあった電柱の傍に立ち、それを引き抜きないて、やり投げのように投影する。その意思を読んだボロスは、サイタマの胸ぐらを掴んで、飛んできた電柱に投げつけた。
二つの物体がぶつかり、電柱が粉々になる。
土煙の中から出てきたのは、全く応えていない様子のサイタマだった。けれども、2人は余裕の笑みを浮かべている。
今は、どの程度の連携が取れるか実験していただけなのだから。元より、この程度のダメージを食らうレベルなら、以前の戦いで敗北などしていない。
「こりゃ面白くなりそうだ」
サイタマも少しばかり笑みを浮かべ、期待していた。
正義と悪。
怪人とヒーロー。
立場は逆だが、激しい戦闘を心から楽しむ、戦闘狂の集まりだ。
遠目でその光景を見ていた幻影の王は、ある準備に取り掛かっていた。
(クカカカ! 光が強ければ、それだけ影も濃くなるーーー。私は幻と影を司る王。その影なる力を存分に見せつけてやる!)
そう意気込み、着々と呪文の演唱を進めていた。
「フゥーーーーー」
体の酸素を抜き、ドクドクと心臓を脈打つ音が響く。
ガロウは数多な武術を組み合わせた特殊な呼吸法し、全力を出せる準備をしていた。
沢山の死地を潜り抜け、天才と呼ばれた凄まじい武才と、強い信念が生み出したそれは、もう人と呼ぶには余りに異常。
「メテオリックバースト!!」
ボロスも後に続くように、全力を出す準備をする。
先ほどとは比にならない凄まじいエネルギーが一体に飛散し、電撃のような超高温度の熱は、コンクリートや地盤を溶かし尽くす。
「ウォォォォ!!!」
先手を取ったのはボロスだった。莫大なエネルギーを推進力とパワーに変えた絶大な一撃を、サイタマの顔面にぶつける。
サイタマの背後の建物が一瞬光に飲まれたかと思うと、景色が一変、灼熱と化す。
たった一撃の余波だけで、Z市の5分1が消え去った。幸いにも、ゴーストタウンと呼ばれるほど人が少なく、怪人の発生源でもあるここには、ジェノス以外は誰もいない。既に避難は済ませている。
もし、一般人がいたなら、言うまでもなく、戦いに巻き込まれて死んでいただろう。
ボロスは吹き飛ばしたサイタマに駆け寄り、まるで光の様な、視覚できないスピードで四方八方から蹴りや殴りなど徹底的にダメージを与える。
サイタマのマントを掴み、ハンマーなげのように雑に振り回してガロウの元へ投げ飛ばした。
「神殺・奈落落とし」
神という不確かな在処すらも破壊する、究極の武。
ガロウは体をクルッと一回転させ、円描きながら、サイタマの腹に遠心力を込めた蹴りを放つ。サイタマの体がくの字に折れ曲がり、そのままサイタマは重力に引き寄せられるように地盤に激突した。
その衝撃で約1kmのクレーターを作り出す。
しかも、これで終わりではない。ほんの数秒の間に、ボロスは何処から待って来たのだろうか、50階近い高層ビルを引き抜いて走ってきた。それをクレーターの真ん中に投影。規格外のスピードにソニックブームが発生し、先端部分が赤い熱を帯びる。
サイタマにビルが突き刺さると、再びビルにガロウの無数の拳激が炸裂。ビル全体が埋まるほど、杭を打つように地面を掘り進めた。
ボロスはその間に体内のエネルギーを凝縮。凄まじい熱量を持ったエネルギーの塊をレーザに変えてサイタマに放つ。
ビル全体が溶解し、ドロドロになった鉄筋やコンクリートが穴に流れ込んだ。
息の合った2人の連携プレイ。
息を一息つくと、ゴゴゴゴゴ!と大地が唸りをあげた。
震度5クラスの揺れが襲うと、次第に大地が裂け始め、割れ目から人影が飛び出す。
「お、出れた」
余裕の表情に加え、挙句の果てには長靴に入っていた土をポンポンと取り出す始末。
この男にとって、俺達はその程度の存在なのか? と、歯をくいしめてしまう。
仮にも、ボロスとガロウは最強を名乗っていた。ガロウはS級と対峙し、ボロスは宇宙規模で戦闘経験を詰んだ。
積み重なった自信というジェンガを、このサイタマはあざ笑うかのようにことごとく粉砕する。
サイタマは軽くスクワットや背伸びなどをして、体の筋肉をほぐし、準備運動をしていた。
「よし」
呑気な掛け声と同時に、サイタマは地面を蹴る。走る時に地面を蹴るというのは誰もがやることだが、この超人がそれをやると、それだけで破壊を生む。
幾つも小型クレーターが発生し、残像すら残るスピードでガロウとボロスの元へ距離を詰める。
「両手・連携普通のパンチ」
一瞬真っ赤な壁が現れたと錯覚してしまうが、それはサイタマの付けたグローブの色だということに、いち早くガロウは気づいた。
余りの拳の早さに、数百近い攻撃を同時にやったと思ってしまう。
ガロウはボロスを庇うように前に出て、流派の構えをとった。
「流水岩砕拳」
以前は拳と拳の打ち合いで勝利を勝ち取ろうとして、痛い目を見た。幸いにも、今回は盾に徹したとしても、もう1人の矛がいる限りはダメージは与えられる。
慎重に慎重に、数多にある打撃を、順番を間違えることなく、針の穴に糸を通すような繊細な力を操り、隙が出来やすい方向に、水のように拳を流す。
「お」
サイタマも思わず感銘を上げる。
幻影の王が記憶の中から取り出した怪人といっていたが、本物よりも張り合いがあったからだ。
¨手加減¨をさせなくした、と言っていたが、正しくガロウは全力であった。
しかも、1発の拳を受け流す度に、力が強くなっているのが分かる。武術の天才が、格上のものと戦う為に進化しているのだ。
ガロウはサイタマの拳を見切り、しゃがんで足払いをする。宙に浮く形で体勢を崩したサイタマに、ボロスのエネルギーを集中させた回し蹴りがヒットする。
町のあらゆる建物を貫通していくが、サイタマは空中で体勢を立て直し、とあるマンションを足場にして跳躍。その衝撃で建物が消し飛んでしまったが、気にするものはいない。
再び2人の前に降り立つサイタマ。
「やるじゃん」
無気力なその目に、僅かな灯火が付いたのだった。