ワンパンマン〜オリジナルストーリー〜   作:ーカオスー

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第1話

 

 冷ややかな空気が流れ、水の落ちる音さえ響く、静寂な黒い洞窟の中。

 おぞましい笑い声を上げながら、1人の怪人が自身の計画の成功に、喜びの感情を抱いていた。

 紫色のローブを身にまとい、その素顔は黒く、表情を見ることができない。あるのは不気味に光る、2つの小さな赤い光のみ。

 彼の名は幻影の王。幻と影を司る王で、魔法も扱うことができる、非常に類稀な怪人だ。その災害レベルは、推定¨竜¨。

 野球ボール程の青い宝石の付いた杖を手に持ち、それをかがけて儀式を行っていた。目の前には幼い少年が横たわっており、魔法を使用する為の材料となっている。

 

『クカカカ!長年かけて研究した魔法が完成した……! これなら、どんな相手も簡単に倒せる。メモリーズアイ!』

 

 杖を振るうと、ブラックホールのように深い闇の球体出現する。禍々しく、見ていると、嫌な予感で満たさそうな気分になる。

 そんな不吉な球体から一体の怪人が出現した。

 

 赤いマントに、豪華な装飾の施された王冠、直径3mを超える二足歩行の魚人。

 プリプリプリズナーやジェノスと戦闘を繰り広げ、かつてサイタマが一撃で葬った怪人、深海王だ。

 彼には色彩がなく、白黒テレビのような彩りになっている。生物と呼ぶには余りに生気が感じられず、目の光はない。

 操り人形のようだった。

 

『深海王、貴様に指示を与える。今から外で何人か人間を捕まえてこい!』

『ええ、分かったわ。海を束ねる私の力、信頼して待ってなさい』

 

 白黒の深海王はニヤリと三日月に口が裂ける、その不敵な笑みを浮かべながら、洞窟の外へと、ドシドシと足音を立てながら出ていった。

 その光景を見て、魔法使いは再び喜びの海に浸る。

 

『クカカカ! この世を支配してやる、この幻影の王の力で!』

 

 その不気味な笑い声は、すぐには止まらなかった。

 

 

 ☆★☆★☆★☆★

 

 ウー!ウー!

 街にサイレンが響き渡り、多くの人間が助けを求めて逃げ惑う。

 

 地獄。

 この言葉は、誰もがこの今の現状を表す為に作られたのではないかと錯覚するほど悲惨だった。

 何事も無ければお出かけ日和の青空には、戦闘機と交戦する強大な鳥や虫の怪人が飛び回り、地上にはヒーローや軍隊、警察官と戦う多種多様な怪人がいる。

 その全てに色彩はなく、白黒だが、逃げ惑う人々とっては関係ない。

 

「災害レベル神! 人類の危機的な状況です!!現在、Z市を中心に無数の怪人が出没しています! 近くの市民は直ぐにシェルターに逃げて下さい!!」

 

 数百を超える怪人達は無抵抗の人々を蹂躙し、道を真っ赤に染め上げ、人々が積み上げて作った町を破壊しつくしていた。

 1体2体出ただけでも騒ぎになるのに、ヒーロー協会はまだ正確な数すら把握できていない。個々の戦闘力もバラバラで、ビルを一撃で吹き飛ばす怪人もいる。

 事態を重く見て、初となる災害レベル神と、この惨状を位置づけた。

 

「キャッ!」

 

 1人の少女が足滑らせてしまい、その場に横転する。少女の背後からは黒い大きな影が近づいていた。

 

「い…や」

 

 白い毛並みが逆立ちしている、3〜4mはある、狼型の怪人。

 光を反射する、手から伸びる鋭利な爪からは、自分の死を連想することはそう難しくない。

 

「グルぅぅぅ!!!」

 

 狼が腕を振り上げ、少女に爪を振り下ろす。肉を引き裂く、その感触はたまらなく心地がいいのだ。

 グチャリ。

 狼が感じたのは、心地がよい感触ではなく、顔の歪むような激痛。肉が裂ける音が響き渡り、少女の血しぶきではなく、自分自信の腕が舞う光景を目の当たりした。

 

「ちょいと前を失礼」

 

 前に降り立ったのは、見た目の歳に相応しくない若々しさを持ち、町を単独で壊滅させる災害レベル鬼を撃破でき、周囲からは狂っていると認識されている、S級ヒーローの1人。

 銀髪のセットされた髪がそよ風になびき、周囲の人間はその光景に、自分の命の危機を忘れて見とれていた。

 救世主だ。

 

「グルァァァァ!!」

 

 何が起こったからは理解出来ない狼。

 だが、やることは変わらない。王の命(めい)に従い、残ったもう1本の腕で前の人間を引き裂けばいいのだ。

 そう思った狼は、再び腕を振り上げ、眼前の老人に爪の刃を向ける。けれども、余りにもその行動は愚策だということをすぐに知る。

 伸びた腕を軽く撫でられると、関節が折れて、その直後、腹部に数え切れない流水の如き複数の打撃を受ける。余りの威力に、マグナムで撃たれたかのような大穴が形成された。

 決定的な『武』の差。

 その何の工夫もない一撃は、ただの演出にしかならず、怪人はその場に倒れ伏せ、屍と化した。

 

(一体どうなっているのじゃ)

 

 腰に手を回し、今の謎の出来事について考える。

 

「「うぉーー!!シルバーファングだーー!!」」

 

 周囲人間が、降り立ったヒーローの名を呼び、地獄に降り立った希望にすがっていた。

 バングは空を見上げて、髭をなぞりながら、1人の青年を思い描いていた。

 隕石をワンパンで破壊し、本人にも説明出来ない圧倒的な力を持つ青年、サイタマ。

 シルバーファングは、この状況をジジババが予言した、『地球がヤバイ』ではないかと推測していた。

 半年以内におきると予言された大災害。すでにあの集会から、タイムリミットは近づいており、今日がその3日前だったからだ。

 

「もしそうなら、お主の力は必ず必要になりそうじゃ」

 

 自身にできるのは、この町にある道場を守ることと、周囲の人間の避難誘導。

 あの青年が味方にいる限り、この惨劇は打破することができるであろうと考えていた。覚醒したガロウすら圧倒し、命まで救ってくれた彼ならば。

 

「ウゴォォォ」

 

 背後から巨大な斧を持ったサイの怪人が出現する。バングはそれを見て、ため息混じりに自身の流派の構えをとった。

 

 ☆★☆★☆★

 

 サイタマは現在、周りの惨状を他所に、地面に手をついていた。

 

「お、俺の家がーー!!」

 

 目の前で自身の家が燃えている。ガロウ騒動がおき、家を破壊され、やっとの思いで転入先を見つけたのに、その努力すら踏みにじられた。

 炎の光が、サイタマの頭に反射し、まるで夕焼けのような光景を作り出している。

 

「先生!」

 

 後ろからジェノスの声がすると、サイタマは顔上げて目を合わせた。

 僅かながらその瞳は潤んでいる。

 

「ジェノスぅ、また俺の家が……」

「そんなことより聞いてください! 今ヒーロー協会が災害レベル神を発令しました!」

「災害レベル…神? それってやばいんだっけ?」

「人類の絶滅を危惧するくらい危ない現状です」

「へぇ、通りで怪人がやたら多いわけだ」

 

 ジェノスはサイタマが通ったであろう道を振り返る。そこには数十体を超える怪人の死体が横たわっていた。

 地面に埋まったり、上半身がなかったり、壁に突き刺さったりと、これは自身の尊敬する先生がやったのだと、考えるまでもなく確信していた。

 怪人の体格から予想して、災害レベル竜を超えていそうのものもいたが、先生の前では蟻も同然。

 先生に敗北があれば、それ即ち人類の敗北。

 

「ここまで大勢の怪人の出現は、前代未聞です。誰かに指揮されたかのように思えます」

 

 ジェノスの考えは、多くの人間が抱いていたものだ。

 

 ーーーけれども。余りに謎が多い。

 

 過去に災害レベル竜や鬼で構成された怪人協会というものはあったが、それは数十体程度。今回のそれとは比較にすらならない。

 しかも、これだけの怪人が潜伏していたとなると、必ず住んでいた痕跡や前触れ、目撃情報があるはずだ。

 ヒーロー協会は、ガロウ騒動後、怪人協会のような組織ぐるみの災害を恐れ、空き家や遺跡など、誰かが住みそうな地帯は虱潰(しらみつぶ)しで調べ尽くしていた。

 S級ヒーローであるジェノスも、搜索に協力していた為に、今回の事件については多くの疑問点を抱いている。

 

 誰かの指示であることは間違いない。だが、それは殆どに不可能に近く、手法が全く思いつかない。

 

(何か俺の知らない未知の力があるのか?)

 

 タマツキの超能力ような、科学で証明できない『何か』を持った怪人がいるのではないだろうか?

 ……ジェノスは暫く考え、サイボーグが科学以外の『何か』について考えるなど、可笑しいものだな、と鼻で自分自信を笑った。

 今は分からなくても、何れは分かる。答えの出ない自問自答より、やるべき事は沢山ある。

 

「ほへー、コイツらを操ってる親玉がいるってことか」

「あくまでも、推測ですが」

 

 サイタマは顎に手をあてて考える素振りを見せながら、パチンと指鳴らした。

 

「ってことは、家を壊したのもそいつかもしれないな。探しに行こうぜ」

「了解です、お供します」

「まぁ、とりあえずその辺にいる奴倒せば出てくるかもしれないし、とりあえずは」

 

 サイタマがグッと足腰に力を貯めて、一気に力を放出しながら走る。

 その速さ音速を軽く超え、蹴った地面に大型のクレーターができる程だ。サイタマが捉えたのは、カマキリ型の怪人。狙いを定めたサイタマは拳を固め、軽く殴った。

 たったそれだけで、5mを超える怪人の体が四方八方に爆烈し、あっけなく死に絶える。怪人が弱いのではない、サイタマが強すぎるのだ。

 

「片っ端からぶちのめすか」

 

 正義の化物が動き出した。

 

 ☆★☆★☆★

 

『クカカカ!!見つけた、アイツにするぞ』

 

 幻影の王はZ市にある電波塔のてっぺんにいた。

 彼は現在、魔法の力で、目の前に中継モニター画面のような物を幾つも出現させている。

 タマツキ、シルバーファング、タンクトップマスター……。

 S級やA級ヒーローと、自分の手駒達の戦いぶりを見て、素質のある人間を探していた。しかし、予想外のことに、全く無名のハゲ頭の青年に、幻影の王は目をつけた。

 

『素晴らしい力だ! 彼の力と私の力が合わさったら、この世に私を超える生命体がいなくなる!』

 

 自身の能力で作った怪人が、赤子以下の扱いを受けている。

 もちろん、他のヒーローも十分に素質はあるが、彼と比べればダイヤモンドと石ころの差があった。いや、比べるだけ酷とすら思える。

 格や次元の違いではない。そもそも人間かどうか怪しい無双っぷりである。

 

 バキン!

 

『ん?』

 

 金属と金属とぶつかりあう甲高い音と共に、電波塔を支える柱の一つが歪な形となって、くの字に折れ曲がっていた。

 幻影の王の視界に写ったのは、リーゼント姿の、一つ前の世代を連想させる不良。

 彼のヒーローネームの元にもなった金属バットを片手に、人外離れした力を見せつけた彼は、幻影の王が目をつけていた素質の一つでもある。

 電波塔が崩れ、激しい土煙を巻き起こる中、金属バットはその光景をまじまじと見つめていた。

 土煙から見える人影に対して、バットを向けながら敵意をむき出しにする。

 

「怪しい野郎だ。人間じゃねぇよな? お前、あそこで何をしていた?」

『人間観察、とでも言いましょうか。アイスランス』

 

 不意打ち気味に、土煙の中から3本の氷の槍が金属バットの元へ飛来する。だが金属バットは焦る様子もなく、それを軽くバットでなぎ払って、内1本を手に持って体を回転させながら投げ飛ばした。

 その速さに土煙が吹き飛び、視界が晴れる。投げた氷の槍は幻影の王の横を通り抜け、後ろにある木々をなぎ倒しながら止まった。

 

「んだぁ? 今のは」

『クカカカ! 魔法だよ!金属バット君、早速だけど君の記憶を覗かせてもらうよ!』

 

 幻影の王は杖を大きく振り上げ、『メモリーズアイ!』と高らかに叫んだ。

 

「なにしてんだ?」

『見える…!見えるぞ! 貴様に葬られた怪人の数々が!』

 

『幻影の王』の赤い光の目が禍禍しく輝きを放つ、金属バットはその光景を奇怪な者を見るような目で見ていた。

 

「いでよ!メルザルガルド!貴様の無念をはらす時がきたのだ!」

 

 ブラックホールような黒い球体が出現し、そこからドシリと巨体が降り立つ。

 金属バットはそれを見て、目を丸くしていた。

 

「お前はあん時の」

 

 ボロス襲来時、驚異的な再生力を見せつけた、首が5つある怪人。

 シルバーファング、アトミック侍、プリプリプリズナーと共に共闘し、打ちのめしたはずの怪人が。

 忘れろ、という方が無理だ。ボロス襲撃時の被害は歴史に名を残すレベルのもので、まだ記憶に新しい。

 

「チッ、そういやここに来るまでに、何回か見た覚えのある怪人がいたっけな」

「クカカカ! これが私の能力。私は相手の記憶を読み取り、記憶内にいる怪人を具現化することができるのだ!」

 

 幻影の王はケラケラと笑いながら勝利を確信していた。

 敵の記憶を読み取り、戦闘パターンを予想、過去の記憶から最も苦戦した怪人を呼び出し、自身の魔法で援護をしながら敵を仕留める。

 必勝とも呼べる己の戦い方に、絶対的な自信を持っていた。

 

「こいつ、あの時の」

「僕達、蘇ったんだね」

「復讐、するかい?」

「復讐、いいと思うよ」

 

 不気味に自身の顔同士でやり通りをしながら、金属バットへと殺意をむき出しにするメルザルガルド。

 それを肌で感じると、金属バットは半歩だけ警戒しながら距離を置く。

 殺気だけで、本物と大差がないことは理解出来た。

 

「この町にいる怪人共はお前の仕業か」

『そうだよ。 君が私を殺すことができれば、幻は霧となって消える。クカカカ!!さて、ヒーロー君、地球の存亡をかける大舞台で、この私を倒すことができるかな?』

 

 金属はペッと唾を吐き捨て、バットを両手で握りながら構えをとった。

 

「上等だ魔法使い。お前が何を呼び出そうがサンドバッグにしてやる。その次はお前だ」

 

 


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