ゼルダの伝説 虚無《ゼロ》の少女と時の勇者   作:すもーくまんじゅう

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物言う剣② 王都で出会ったもの

 王都に到着したリンクとルイズは、他の馬よりも立派で美しいエポナの姿にちょっとした騒ぎになりつつも、駅にエポナを預けてから、武器屋に向かってルイズの案内で歩いているところだった。エポナが気ままに疾走するのに任せていたが、普段よりも一時間以上は優に早く着いた。ルイズの驚いた顔を見て得意げな様子になっているエポナを見て、リンクは笑ってそのたてがみを撫でてやった。

 あたりにはまだ朝の涼し気な空気が残っていて、普段と少しだけ違った街の様子にルイズも何だか楽しい気分だった。

 

「ほら、ここがブルドンネ街! すごいでしょ? 王都一番の大通りなの!」

「おおー……!」

 

 案内するルイズが誇らしげに言って示したそれを見て、リンクは思わず感嘆の声を漏らした。路地の角を曲がった先は、広々とした大通りだった。それも、四頭立ての馬車が並んでも余裕で走れるような立派な通りだ。大勢の人で活気に賑わっていて、道の両脇には様々な店が軒を連ねている。

 綺麗な色のアクセサリーを売っている店から新鮮な野菜や香ばしい匂いを漂わせるパンを売っている店、さらには歩きながら食べられるような簡単な食べ物を売っているような店まであって目移りしてしまう。新鮮で色鮮やかな果物が山積みにされた横では店員が威勢のいい声で道行く人々に呼び込みをかけていた。

 

「そして向こうに見えるお城が女王陛下や王女殿下のいらっしゃる王城よ!」

 

 ルイズが指さす先を見ると、ずっと向こうの丘の上にいくつも塔が立ち並ぶ立派な城が立っていた。

 

「あの王城を中心として王立魔法研究所や軍の基地、貴族の邸宅なんかがあって、さらにその周りに平民の住む街が広がってるの」

 

「へぇー……」

 

 感心した声を出してあちこちを見渡すリンクを見て、ルイズはおかしそうに笑った。

 

「ふふっ! どうかしら王都は? 中々のものでしょ?」

「ああ、眺めているだけでも楽しいよ。初めて見る景色はそれだけでわくわくする」

 

 楽しげに返してきたリンクの声にルイズはにこっと笑ってまた歩き出した。

 

「色々案内してあげたいけれど、それは後の楽しみに取っておきましょ? まずは剣を買いに行かなきゃね」

 

 頷いて後に続いたリンクに向かって、ルイズは思い出したようにふと立ち止まると、近づいて小声で囁いた。

 

「そうそう、お財布持ってもらってるけど、結構スリなんかも多いから気を付けてね? いつの間にかなくなっていたっていうのもよくあることだから、近づいてくる怪しい奴には注意して」

 

 心配そうに言ったルイズに、リンクは深くフードを被った自分の恰好を見せて苦笑する。

 

「……俺、今は随分怪しい恰好しているんだけど、それでも手を突っ込んでくるような奴がいるかなあ?」

「……ふふっ、ごめんなさい、確かにいないかも」

 

 ルイズは一瞬きょとんとした顔をした後、膝下ぐらいまである外套の中をわざわざまさぐってくる、まごうことなき不審者を想像して、おかしくなって笑った。

 周りを見渡してもフードを目深にかぶっている者がいないわけではないが、ごく少数だ。スリを働くとしてももっと簡単な人を狙うだろう。もっとも、リンクの懐に手を伸ばした哀れで愚かな人物がいたとしたら、指という指をへし折られるのがおちだろうが。

 

「確かこの辺のはずだけど……」

 

 しばらく歩いた後、ルイズは小さな階段を下りて裏路地へと入っていく。ブルドンネ街よりもずっと道幅は狭く、すえた匂いが辺りには漂っている。道脇には空いた酒瓶が転がっていた。ルイズはあちこちの看板を見て探していたが、お目当ての武器屋を見つけると扉を開けて中へと入っていった。リンクもそれに続く。

 それほど広くない店の中には、いくつか並んだ棚や壁にいくつもの剣や槍、斧や弓が掛けられていた。片隅には手入れ用の道具に矢が並んでいる。装飾の入っているようなものはきちんとスペースをとって掛けられているのに対し、数打ちの品は雑多にまとめて並べられているようだった。無造作にまとめて突っ込まれた剣の中には剣身に錆が浮いているようなものもある。

 

「こんにちは、お邪魔するわ」

「へい、いらっしゃ……って、き、貴族様で!? う、うちは何もお咎めになるようなことはしちゃおりませんが、へへ……」

 

 カウンターに頬杖を突いてこちらを出迎えた店主は、ルイズのマントの留め金を見て取ると慌てて立ち上がり、揉み手をしながら言った。ルイズは困ったように眉をひそめた。

 

「そういうのじゃないわ。剣が欲しくて来たのよ」

「へ? 剣をご所望でございますか? お嬢様が使われるので?」

 

 店主は意外なルイズの言葉に、気の抜けたような声を上げた。目の前の可憐な美少女が剣を振るう姿が全く想像できなかったからだ。

 

「違うわ。彼の剣が欲しいのよ」

 

 ルイズは首を振って、横に立っていたリンクを手で示して言った。店主はフードを目深に被るリンクの姿に一瞬訝し気な表情になったが、すぐに客相手の作り笑顔に戻った。

 

「はあ、左様ですか。従者の方が振るわれるのでしたら納得ってもんでさあ。それでは少々お待ちください」

 

 そう言って店主は奥へと引っ込んでいった。

 

「……ね、従者だって。やっぱりちゃんとそう見えるのね!」

 

 嬉しそうにルイズは小声で囁いた。些細なことだが他人の口からそう聞くとより実感が沸くというものだ。

 しばらくすると店主は細身の剣を抱えて戻ってきた。鍔には美しい装飾が施されている。どうやら高価な代物は店先ではなく奥の方で保管しているらしい。

 

「こちらのレイピアはいかがでございましょうか? 近頃、お貴族様方が従者に持たせるのに流行りの品でございます。ささ、どうぞお手に取って試してくだせぇ」

 

 店主の促しに従って、リンクはレイピアを鞘から抜き放った。鋼が鈍く光を反射する。細い剣身がわずかに揺れるようだった。物珍しそうにレイピアのあちこちを眺めながらルイズは興味をそそられたのか店主に問いかけた。

 

「ふーん、人気なんだ?」

「へえ、近頃は何やら物騒でございますからねぇ……。土くれのフーケとかいうのが巷を騒がせているようでして。トリステイン中の貴族様から恐れられているそうでございますよ。方々の貴族様の邸宅に忍び入っては財宝を片っ端から盗んでいくのだとか」

「土くれ?」

 

 リンクは剣身を眺めながら聞き返した。

 

「ええ、何でも、どんな壁や扉だって『錬金』の魔法で土くれに変えてしまうことからそう呼ばれているのだそうですよ。しかも、大胆不敵なことに盗んだ後には必ず署名を記していくのだとか。フーケの襲撃に警戒して、警備の兵に何か武器をということでこちらをお求めになる方々が多いんでさぁ」

 

 店主は深刻そうな表情で声を低くしてそう答えた。やや演技臭いところが見て取れるが、剣を売り込もうという下心もどこかにあるのだろう。ルイズはその盗賊の話を聞いて憮然とした表情になった。

 

「そんな悪い奴がいるのね、全く……」

「まあ、そんなわけで剣も売れるという訳で、うちのような商売には助かってる、なんて言っちゃあいけねぇんでございますが、へへ……こちらは軽くて扱いやすいところが売りなものでございますから、剣を扱いなれてない者に持たせるにはぴったりでして」

「どう、リンク?」

 

 何度か試しに剣を振るリンクを眺めて、ルイズは問いかけた。リンクは首を横に振って答える。

 

「俺にはあんまり向いてないな。軽いのはいいが、振り回していたら折れそうだ」

 

 リンクはレイピアを鞘に納めた。確かに扱いやすいが、小枝よりも振りごたえがないのではいくら何でも手に馴染まない。ルイズは無理もないとばかりに苦笑した。

 

「あはは……初心者向け、っていうならリンクにはそりゃあ不足よね……」

「お気に召しませんようで……それでは取り扱いは難しいですが、もっと頑丈なものをご用意いたしましょうか」

 

 レイピアをリンクから受け取り、奥に再び向かおうとした店主に向かってルイズが声を掛けた。

 

「単純に頑丈なだけじゃダメよ。この店で一番いい剣を持ってきてちょうだい!」

「はあ、……えっと、一番とは?」

 

 店主が意図を図りかねて問いかけると、ルイズは胸を張って答えた。

 

「一番って言ったら一番よ! この店で一番に良い剣を持ってきてって言ったの!」

「……へぇ、かしこまりました」

 

 店主は口元の笑みはそのままにそう答えると奥へと引っ込んでいった。その後ろ姿を見送ってルイズは満足そうに一つ息をついて腕を組んだ。ぽつりと小声で呟く。

 

「……リンクに相応しい剣を、私が買ってあげるんだから」

 

 

 倉庫となっているカウンターの奥で、店主はレイピアを元あった棚へと戻すと、二人から見えないところで苦々しい表情で呟いた。

 

「一番良い剣だぁ……? けっ、まともな素振り一つもしたことねぇ貴族の嬢ちゃんが生意気に言ってくれるもんだぜ。何が良いのかもわからねぇくせによ。従者の方は、多少は扱い方を知っているのかもわからねぇが……随分、剣を振るのが様になっていやがる……フードなんか被ってなんだか薄気味悪いけどな……。まあいいや、精々吹っ掛けてやるか。払えるもんなら払ってみろってんだ」

 

 五分ほど待っていると、今度は太く、見るからに立派な長剣を恭しげに抱えて店主が戻ってきた。蔦の意匠の装飾が金線で鞘には施されており、赤い宝石も埋め込まれている。鍔や柄も豪奢なつくりとなっていて、光を放っていると見まがうばかりに磨かれていた。

 

「どうぞ、お手に取ってごらんになってくだせえ。この店一番の品物でございますよ」

 

 リンクは店主から剣を受け取ると鞘から抜いた。白銀の剣身がきらきらと光を反射した。長さはおおよそ一メートルほどで、均整が見事に取られたその姿は美しさを感じさせるほどだ。

 

「わあ……」

「……」

 

 ルイズは目を輝かせて感嘆の声を上げた。リンクは確かめるように何度か角度を変えて剣身を眺め、試しに素振りをする。横に、縦に、リンクが剣を振るたびに、鋭い風切り音が鳴る。

 

「高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿の作でございます。魔法がかけられてるんで、鉄だろうが何だろうが一刀両断でさ」

 

 店主は笑みを深くし、自信満々にそう告げた。ルイズは弾んだ声を上げた。

 

「すごい、良いじゃない! ねえ、リンク、これはどう!?」

「……うーん、そうだな……」

 

 リンクは何と言ったものか、かすかに眉をひそめて唸った。あまりこの剣を使うことには乗り気になれなかったが、あからさまに悪く言うと、ルイズも店主も気分を悪くしそうだ。

 確かに悪くない剣だとは思う。歪みもなく、刃は鋭い。しかし、大妖精の剣以上のものだとはどうにも思えない。どうにも華美で豪奢な装飾の方に力を入れているような印象を受けて仕方なかった。実用の剣としてよりも、観賞用として飾る方が向いているように思える。また、魔法が掛かっていると言われても試し振りした限りでは感じられる魔力はなかった。もしかしたら物を切った時にだけ発動するのかもしれないが、それはそれで魔法頼りのような気がしてリンクには引っかかるものがあった。

 

「ねえ、これおいくら?」

 

 リンクの内心の葛藤に気付くはずもなく、ルイズは勢い込んで店主に尋ねた。店主はこともなげに答える。

 

「エキュー金貨で二千。新金貨でしたら三千ですな」

「にせっ、二千!? 嘘でしょ!?」

 

 目を見開いてルイズは思わず上擦った声で叫んだ。まだ貨幣の価値がいまいちピンとこないリンクはルイズに尋ねる。

 

「えっと、それってどのくらいの価値?」

「立派な家と森付きの庭が買えちゃうくらい……」

「ああ……」

 

 ルイズの言葉に、リンクは納得したような声を上げた。一番の品だと言われれば仕方ないかもしれないが、確かに嘘だと聞き返したくなるような値段だ。

 店主は自信に満ちた様子で、にこにことしている。内心、この表情が見たかったと満足していることはなるべく出さないように気を付けて。

 

「いかがです? この品でこの値段なら、非常に良心的な価格だとは思いますがねぇ。悪いですが、一エキューたりともまけられませんなぁ」

「うう……剣ってこんなにするものだったんだ……そんなお金ないわ……」

 

 今のルイズの手持ちの全財産はリンクに預けた財布の袋の中身だ。金貨が詰まっているとはいえ、おおよそ二、三百枚といったところで全く足りていない。流石に数千枚単位となってくると、実家の両親に掛け合って出してもらわなければならず、ルイズの一存でどうにかなる話ではなくなってしまう。

 

「ふむ。金貨が足りないというのであればこれをお譲りするわけにはいきませんなぁ。それでしたら、もっと身の丈に合ったものをお求めいただければと思いますが……そのへんの棚に積んでる剣とかでどうです?」

 

 ルイズが金を持っていないと知るや、店主は露骨に態度を変える。さっと笑みを消し、冷たい目つきでルイズを睨んで鼻を鳴らす。

 

「うぅ……」

 

 ルイズは顔を紅くして下を向いてしまう。一番の剣をプレゼントしようと勢い込んでやってきたのに、これでは情けなさ過ぎる。それでも金貨が足りないのではどうしようもなかった。

 ──仕方ないから帰ろうか。リンクが声を掛けようとしたまさにその時、武器屋の扉が勢いよく開いたのだった。

 

「ほほほっ! 剣の一つも買えないだなんて、公爵家の名が泣くわねぇ、ルイズ!」

 

 聞き覚えのある勝ち誇ったような高笑いに嫌な予感を覚えつつも、ルイズが振り返った先にいたのは案の定キュルケだった。口紅で艶やかに彩られた唇をにやりと歪めている。後ろにはタバサもいるが、手に持った本に視線を落としていてこちらに興味はなさそうだった。

 

「キュ、キュルケ!? な、なんであんたがここにいるのよ!?」

「あなたが抜け駆けしてリンクを連れ出すから追いかけてきたの。もう大変だったんだから」

「ぬ、抜け駆けなんて、何言ってるのよ! 第一、私とリンクが一緒に出掛けるのに、あんたは関係ないでしょ!」

「いいえ、大ありよ。愛しい人が連れ去られて王都でデートさせられるなんてことを、指をくわえて黙って見ているフォン・ツェルプスト―じゃないのよ。

「いや、連れ去られてなんてないけど……」

 

 リンクの言葉はキュルケに届かなかった。いや、届いたが聞かなかったことにされた、の方が正しいかもしれない。キュルケは腕を組んでルイズに向かって続けた。

 

「しかも、まさか剣をプレゼントしようだなんて! ま、あなたの懐具合じゃ買えなかったみたいだけれど」

「ぐぬっ……!」

 

 そう言って面白そうににまっと笑ったキュルケに、ルイズは腹立たしいとばかりに睨みつけて唸った。所持金が足りないのは悔しいが事実だから言い返せなかった。

 

「ふむ……」

 

 リンクが手にしているシュペー卿作の剣を眺めて、キュルケは呟く。

 

「その剣、私がプレゼントしようかしら」

「んなっ! 何言ってるの!?」

 

 ルイズは信じられないとばかりに目を見開いて思わず叫んだ。キュルケは頬に手をやり、ほうと息を吐く。

 

「私が選んで買ってあげた剣をリンクが振るうなんて素敵じゃない」

「ダ、ダメよ! ホントに何言ってんのよあんた!」

 

 ルイズはまさに同じことを考えてここに来たことにとんでもなく恥ずかしさを覚えた。嫌な汗が出てきそうだ。もしキュルケにバレたらしばらくからかわれるのは確定だ。

 

「私が自分のお金で買ったものを、誰にプレゼントしようと私の自由でしょう?」

「ダメなものはダメよ!」

 

 二人が騒がしく言い争う中、店の隅で雑多にまとめられていた剣の内の一本がカタカタと音を立てた。不機嫌そうな低い声が聞こえてきたのはその時だった。

 

「たくっ、さっきからうるせえなぁ……」

 

 不意に聞こえてきたその声にルイズとキュルケは言い争うのをやめる。続いて聞こえてきたのは罵倒の声だった。

 

「帰れ、帰れ! 小娘は家で編み物でもやってな! どうしても剣が欲しいってんなら木の枝でも振りまわしてろ!」

「んなっ!?  何ですって……って、この声、どこから……?」

 

 突然の罵声にルイズは怒りの声を上げるが、すぐにそれは不思議そうな調子に変わる。店主のものでも、リンクのものでもない男の声だが、周りを見渡しても二人以外には男などここにはいない。

 

「はっ! 目まで悪いのかい! まあそんな見た目だけの剣をありがたがってるようじゃ無理もねぇや。全くこんな嬢ちゃんたちまで客として相手しなくちゃあなんねぇとは、この店も悲しいもんだぜ。いっそ看板なんざ降ろして店なんか畳んじまった方がいいんじゃねぇのか?」

「やい、デル公! てめぇ、なんて口の利き方してやがる! 大体な、てめぇみてぇな錆び錆びのボロ剣にうちの店のことをとやかく言われる筋合いなんざねぇんだよ! いい加減にしねぇと溶鉱炉に突っこんで溶かしてもらうぞ!」

 

 折角吹っ掛けた金額の剣が売れるのを邪魔されては叶わないと、店主が口角泡を飛ばして叫ぶ。

 

「おお、やってもらおうじゃねぇか! こんなしょぼくれた武器屋で積まれてるくらいならいっそ溶かされた方がましってもんだぜ!」

「剣が……喋っているのか?」

 

 ガチャガチャと金属が打ち合う音のする方にリンクが目をやると、剣身の根本の金具をまるで口のように動かしている剣があった。

 

「まさか、意思を持つ魔剣、インテリジェンスソード!?」

 

 ルイズはそう言って声を上げる剣の元へと行くと、それを掴み取った。ルイズの力では両手で何とか持ち上がるくらいで、ずっしりと重い。一メートル半ばになろうかという分厚い片刃の剣身の根本には金具がついていて、先ほどからガチャガチャと音を立てて開閉を繰り返している。それについている鋲がちょうど目のようで、顔がついているように見えた。柄も、鍔も同じ金属で出来ていてとても頑丈そうだ。ただ、剣身はあちこちがボロボロと欠けていて錆まで浮いている。見た目は正直褒めるところがなかった。

 キュルケはひゅう、と口笛を吹く。見た目のきれいさはともかく、インテリジェンスソードなどそうそうお目にかかるような品ではない。タバサはちらりとそちらに視線を上げた。

 

「おうともよ! 俺こそが伝説の剣、デルフリンガー様よ! わかったらちったあ丁重に扱え、ちみっこ!」

「ちみ、ちみっこ!?」

 

 ルイズに握られたその剣は朗々と名乗りを上げると、ルイズにショックを与えることに成功した。ルイズは口元をわななかせ、眉をぴくりとさせる。

 

「いや、申し訳ありません、お嬢様。こいつはどこの物好きか知りませんが、意思を持つように魔法をかけられた品でして。少しは気の利いた冗談でも言えばいいんですが、口を開けば出てくるのは罵声ばかりという有様なんでさあ。伝説の剣だなんていってますが、じゃあその伝説はどんなもんだと聞けば忘れたと答える始末。おまけに見た目はボロ剣の錆びまみれとくれば、買い手がつかずに困ってるもんなんですよ。もし買うなら新金貨百枚で結構ですよ」

「ふん! こんなちみっこなんかに買われたくなんかないね! 剣を振り上げたらひっくり返っちまいそうな体してんだろうが! 向こうの嬢ちゃんたちも体なんか鍛えてなさそうだし、残ってんのはフードなんて被ったこれ以上なく怪しい男……」

 

 そこまで言ったところでデルフリンガーは喉に詰め物でもされて塞がれたかのように無言になった。ただ金具がカタカタと小刻みに震えている。リンクたちはただ不思議そうに顔を見合わせた。

 

「な、なあ、兄さん、こ、こっちに来てくれないか!?」

 

 興奮を抑えきれないような上擦った声で頼んできたデルフリンガーに、リンクは首を傾げながらも歩み寄る。リンクがすぐ近くまでやってくると、デルフリンガーは感極まったような声を上げた。

 

「ああ、今日はなんて日だ! 兄さん、頼む! 俺を握ってくれ! それでわかる!」

 

 リンクは突然のデルフリンガーの頼みに面食らったが、その必死な声の様子に頷いた。ルイズに目配せしてデルフリンガーを左手で受け取る。

 デルフリンガーをしっかりと握ったその瞬間だった。錆が浮いて鈍い色をしていたデルフリンガーの剣身が光り輝いたのは。白く、神々しさすら感じるほどに眩く輝き、光を纏っている。

 デルフリンガーは歓喜の叫び声をあげた。

 

「はっはー! おでれーた! とんでもねぇ、とんでもねぇ腕だ! まさかこれほどまでの腕前の剣士に会えるなんてよ! あんまりすごいんで姿まで戻っちまった!」

「ど、どういうこと?」

 

 ルイズが困惑した様子で問いかけると、デルフリンガーは興奮した様子で答えた。

 

「俺は自分に触れた人間の技量や腕前が分かるのよ! いや、兄さんがなんとなく凄腕だってのは雰囲気で感じ取れたんだがよ、まさかここまでとはなあ! 今まで出会ったことがねぇよ! 国一番どころか世界一だぜ! あ、ちなみにちみっこの嬢ちゃんに剣は向いてねぇから諦めろ。絶対無理だ」

「喧嘩売ってるの!?」

「ルイズには魔法があるから大丈夫だよ。それで、姿が戻ったっていうのは?」

 

 今すぐに溶鉱炉へデルフリンガーを叩き込みそうな剣幕で叫んだルイズをなだめてリンクが問うと、デルフリンガーは答えた。

 

「へへ! 兄さんに握られて魂が揺さぶられるような衝撃受けたんで思わず戻れたって方が正しいな。この光っている姿が本来の俺なんだが、これまで俺を振るってきたのはどいつもこいつもボンクラばっかりでなぁ! あんまりにもやる気がでねぇ日々が続いてきたんで、いつか相応しい腕前の奴に握られるまでボロ剣に自分を変えていたんだ。なんせ随分昔のことだから、今の今まで忘れちまってたぜ!」

「へぇー、自分で自分の姿を変えるって、流石は魔剣と言ったところかしら……」

「ただ口が悪いだけじゃなかった」

 

 キュルケは感心したような声で呟くと、タバサも意外そうな調子で言った。

 

「なあ、兄さん。名前を教えてくれよ」

「リンクだよ」

 

 デルフリンガーはリンクの名を聞くと、懇願するような声で叫んだ。

 

「ああ、リンク! 俺はあんたに惚れた! 惚れちまったんだ! どうか俺を使ってくれないか!? あんたほどの腕前だ。素晴らしい剣をもう持ってるんだろうが、あんたのような剣士に使ってもらえるなら、剣としてそれ以上の喜びはない! 頼む!」

 

 デルフリンガーの心からの声。リンクは放心したようにしばらく黙っていたが、やがて楽しそうに笑った。

 

「……はははっ! まさか剣にそんなこと言われるとは思わなかったよ」

「ダ、ダメか……?」

 

 おずおずといった様子で問いかけるデルフリンガーに、リンクはにっと笑いかける。

 

「惚れたとまで言われちゃあ、敵わないな」

「そ、それじゃあ!」

「ああ。ただ、命を預けるかは試し斬りをさせてからにしてほしいけど」

「もちろんだとも! よっしゃあ!」

「ルイズ、いいかな?」

 

 リンクの問いかけに、ルイズは若干渋い顔をした。

 

「うーん、リンクが気に入ったならいいけど……それにするの? なんか性格悪くない、そいつ?」

「よろしくな、ちみっこ!」

「ちみっこ言うな!」

 

 コン、とルイズはデルフリンガーの金具を小突くが効果は無いようで、面白そうにデルフリンガーはカタカタと金具を鳴らして笑うばかりだ。リンクもそんな様子を見て微笑む。

 単純に剣としてみれば、大妖精の力が宿る剣の方が上であるかもしれない。だが、たとえそうであったとしても、リンクはデルフリンガーを背負いたかった。心が通う剣。なにより、こいつと一緒に居るのはとても楽しそうだった。

 

「ルイズが嫌だっていうなら、私が買ってあげてもいいわよ?」

「ごめん、約束だから、これはルイズに買ってもらいたいんだ」

 

 キュルケは支払いを申し出たが、リンクは穏やかに、だがきっぱりと断った。それを聞いて、ルイズは胸がきゅっとなるのを感じた。顔がほころびそうになるのを、慌てて下を向いて隠す。

 

「あらそう、残念……」

「代わりに飯が美味い店でも教えてくれると嬉しいな」

「……ふふ、ランチのお誘いってわけね! いいわ、おすすめを教えてあげる! そうと決まればルイズ、早く支払っちゃいましょ! ご主人、金貨百枚だったわね?」

 

 にっこり微笑んだキュルケはリンクにウインクをぱちりとやって、ルイズの手を取った。リンクはルイズに金貨の詰まった袋を手渡す。

 

「へ、い、いやー、その……」

「金貨百枚。そうおっしゃったわよね?」

「……へい、それでようござんす……」

 

 店主は光り輝くデルフリンガーの姿を見て色気を出したが、最初に値段を言ってしまったのが運の尽きだった。もっとも、ボロ剣の状態で金貨百枚は吹っ掛けているにもほどがあるから、十分に元はとっているだろう。

 

「金貨百枚、確かに頂きました。こちらがデル公の鞘でございます。うるさくて敵わねぇようでしたら鞘にしまってやってくだせぇ。自分じゃ外せねぇですから、静かになりまさぁ」

 

 受け取った金貨を数え終わった店主はルイズに鞘を手渡した。まあ、うるさいのが片付いたと思えば悪くない取引だ。

 

「はい、それじゃあリンク、なんだか思っていたのと違うような気もするけど……プレゼントよ」

「ありがとう、ルイズ」

「うん……えへへ」

 

 鞘を手渡し、恥ずかしそうに照れ笑いをするルイズにリンクは微笑んだ。デルフリンガーはカチャカチャと金具を鳴らして嬉しそうな声を上げる。

 

「……へへへ! よぉし! これからよろしくな、相棒!」

「相棒……」

 

 ──ナビィはずっとリンクと一緒だよ。だってナビィは、リンクの相棒だもん! 

 

 ──ま、こうなったら最後まで付き合ってあげるわよ。チャットはアンタの相棒だからね。

 

 瞬間、脳裏に浮かんだのは、かつて冒険を共にした相棒たちの声。リンクは、はっとして言葉を失った。こみ上げてきた想いに、胸が詰まる。また、そう呼んでくれる、そう呼べる誰かが出来た。

 

「……なんだい、相棒? どうかしたか?」

 

 デルフリンガーが不思議がった声で、リンクに問いかけた。

 

「……いや、なんだか懐かしくなっただけさ。こちらこそよろしくな、相棒!」

「おうよ! ……しっかし、本当におでれーた。相棒、お前さん『使い手』でもあるのか?」

「使い手?」

「ああ。……いや、だが力を使っているわけじゃあない。証があるだけ……か?」

 

 デルフリンガーは低い声でそう言った。リンクは不思議そうに首を傾げた。

 

「何の話かよくわからないが……」

「……いや、気にしないでくれ。ただ相棒はすげぇってだけの話さ」

 

 リンクはデルフリンガーの物言いにどこか引っかかるものを感じたが、それ以上は追及しなかった。デルフリンガーは誰の耳にも届かないような小声で呟く。

 

「……封印、か……? それよりも……もっと大きな力で……?」

 

 デルフリンガーをリンクは外套の下で大妖精の剣と同じように背中に背負った。完全に鞘に収まる一歩手前に窪みで留まるところがあり、そこでならデルフリンガーは口を開くことが出来るようだ。うるさければこれを越えてしまいこめばいいらしい。もう一度金貨を数え直している店主に向かって、リンクは声を掛けた。

 

「ああ、そういえば店主。矢束はあそこに置いてある以上に在庫はあるか? もしあれば砥石一式と一緒にまとめて欲しいんだが」

 

 店主は思ってもみなかった申し出に目をぱちくりとさせながらも頷いた。

 

「へ、へえ。ございますとも。倉庫から出してきますので、少々お待ちくだせぇ」

 

 そう言って店主は奥へと引っ込んでいった。隣にいたルイズが、リンクに不思議そうに聞いた。

 

「矢束? 砥石? どうしてそんなものが欲しいの、リンク?」

「ああ、言ってなかったけど、俺は弓矢も使うんだよ。だけど召喚される前は長い山脈越えの途中で、あんまり補充できてなくてさ。せっかく町に来られたから買っておきたくって。それと、砥石はこいつを磨いてやらなきゃいけないからな」

 

 デルフリンガーはリンクの言葉を聞いて嬉しそうな声を上げた。

 

「へっへっへ! ありがてぇ! 相棒の手で磨いてくれるんならこんなに嬉しいことはないぜ! おっと、言っておくがさっきまでの錆びた剣身には戻らねぇからよ、やりすぎねぇでくれよ!」

「なんだ、また戻っちまうのかと思ったぞ。錆が抜けるまで随分磨いてやらなきゃいけないかと思ったのに」

「おいおい、よしてくれよ! そんなにやられたら痩せすぎて折れちまうぜ!」

「ははは! 冗談だよ。心配すんな、ちゃんと磨いてやるさ」

 

 そうリンクは答えると、デルフリンガーを掲げる。今は白く光り輝く刃になっているが、磨いてやるに越したことはない。なにより普段の武具の手入れは日課のようなものだった。

 しばらくして、店主が在庫の矢束を抱えて戻ってきた。使うのに十分な質であることを確認し、必要な分だけ選り分けた。かなりの量だが、そうそう気軽に買い物に来られるわけでもないのでまとめ買いしておくことにする。装備を入れている懐や腰に下げたポーチなどは、魔法が掛かっていて見た目以上に入るようになっているので携帯にも問題ない。ハイラルでは市場でルピーさえ出せば割と手に入る品だが、聞けばこういった代物もやはり貴重品ということだった。

 

「お支払いはいかがします? 全部で金貨十枚と言ったところですが」

「異国の金なんだが……ちょっとこっちで見てもらってもいいかな」

「ふうむ、価値のあるものなら構いませんが……」

「あら、まだお金なら余裕があるし、買ってあげるわよ?」

 

 ルイズの言葉にリンクは苦笑で返した。

 

「ありがとう。でも、こっちは完全に自分の買物だから、出来れば自分で払いたいんだ」

「そんなの気にしなくても……」

 

 いいのに、とルイズが続けようとした言葉は引っ込んで出てこなくなってしまった。店主もカエルがつぶれたような音を立てて息をのみ、気絶しそうになるのをなんとか耐えた。リンクが懐から取り出した袋から転がり出てきたものを見てしまった衝撃があまりにも大きかったからだ。リンクは袋を何度か振って、さらに何個か中身を取り出す。

 

「俺の国のお金で、ルピーっていうんだ。ダメなら両替してもらってから出直してくるけどどうかな?」

「……は? こ、ここ、これ、これ、これが、お金……?」

「うん、そうだけど……もしかして全然足りないかな?」

 

 リンクの問いかけに全力でルイズは首を横に振った。

 

「ぎゃ、逆! 逆よ! 足りすぎ!」

 

 ルイズの慌てように、キュルケとタバサもなにごとかとカウンターの上を覗き込んで、同じように絶句した。無造作にごろごろと転がっているものが何なのか信じられなかったからだ。

 そこにあったのはリンクが取り出したルピーが乗っていた。様々な色のルピーがそれぞれ数個ずつ。すなわち、拳よりも大きな宝石がごろんと転がっているのだった。

 ルイズがわなわなと手を震わせながらそれらを手に取ると、放心したような声で呟いた。

 

「エ、エメラルドに、ルビー、サファイア……これなんて、ダ、ダイヤモンド……」

「しかもこの大きさ……とんでもないわよ。王冠についているのなんかよりずっと大きいんじゃないの?」

 

 キュルケの言葉を聞いてタバサが手を伸ばし、ルピーを光に透かす。

 

「それだけじゃない。透明度も完璧。このカウンターに出てるものの半数もあればこの店が買える」

「そ、そんなにか……て、店主、どうかな?」

 

 リンクの問いに店主の答えは返ってこなかった。完全に白目を向いて意識を手放してしまっていたからだ。何とかこの場に意識を戻してもらい、支払いはルイズのお金から建て替えることにして、全てが済んだのは、たっぷり二十分は立ってからだった。

 ルイズはまだどこかふわふわしているような心持で呟いた。

 

「まさか、リンクがあんなにお金持ちだなんて思わなかったわ……あんな、拳よりも大きな宝石がごろごろ出てくるなんて……」

 

 リンクは頬を掻いて苦笑した。

 

「いや、自分じゃそんなつもりなかったんだけど……これまでの旅じゃあ、どこでも通貨として使われるほどありふれたものだったから」

「恐るべし、ハイラル……異世界だなんて信じてなかったけど、これはちょっと信じざるを得ないかも……」

「あ、あはは……」

 

 キュルケはリンクの言葉を聞いて、ふるふると首を振りながら呟いた。横を歩くタバサも頷いて同意を示している。ルイズは恐る恐るといった様子でリンクに聞いた。

 

「もしかして……まだまだ出てくる……?」

「うん、まあ、サイフが空になるまでは……多分半日以上かかるけど」

 

 リンクが今持っているサイフは、『底なしのサイフ』と呼ばれる代物だ。拡張魔法が限界までかけられたおかげで、それこそ無限と思われるほどの容量を誇るサイフである。これがどのくらい詰まっているかというと、おおよそ九割超。ほぼ満杯であった。路銀を除けばこれまで特に使い道もなかったため、貯め込み続けられたルピーで底なしのサイフの底は見えかけるところまで来ているのだった。

 

「な、なんか想像しただけで頭痛くなってきちゃった……と、とりあえず、ご飯の前に宝石商の所に行っていくらか換金しましょうか。さっきみたいなことをあちこちでやっていると変な騒ぎを起こしちゃいそうだし……それからお昼にして、あちこち周ってから帰りましょう。案内するわ」

「リンク! 私のおすすめのところに行きましょう! とってもロマンチックな場所があるのよ!」

 

 キュルケはリンクの腕にぎゅっと抱き着くと弾んだ声でそう言った。ぐっと身を寄せると、耳元でリンクにだけ聞こえるように甘く囁く。

 

「……私だってあなたに惚れてるんだから……忘れないでよね?」

 

 リンクが思わずその顔を見ると、キュルケはただ蠱惑的に微笑むだけだった。リンクは背中のむずがゆさを感じながら苦笑する。

 キュルケの秘密の囁きなど聞こえていないルイズは諦めたようにため息をつく。

 

「付いてくるのは確定なのね……まあ、もういいけど……あんたのおすすめのランチってどこ? おごりなさいよね……キュルケ、くっつきすぎよ、離れなさい。離れなさいったら! ああ、もう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都を一通り回ってから学院へと戻ってきたリンクは、夕食を済ませてから広場へと出てきていた。デルフリンガーを含めた道具の手入れと試し斬りを兼ねての腹積もりだ。傍らにはルイズ、キュルケ、タバサ、それにギーシュとモンモランシーがいた。デルフリンガーがただ口の悪いだけではないことを確かめようというところで、ギーシュとモンモランシーに出くわしたのだった。

 ギーシュは赤い薔薇の花束をリンクに差し出し、その情熱をたっぷりと伝えてきた。目を丸くしていたリンクに、要は友達になりたいのだ、というモンモランシーからの的確なフォローが入り、二人は再び握手をしてここにいるという訳である。

 夜も深くなり、空は双月が浮かぶ。星々が煌めき、その光を投げかけている。リンクはデルフリンガーを抜き放つと周りにいる皆に話しかけた。

 

「手入れから見たいっていうのも中々物好きだな。地味であんまり面白くないと思うけど」

「いやいや、そんなことはないとも! 君のような達人がどのように普段武具を取り扱っているのか、大いに興味はあるよ!」

「見たことがないからどんなふうにしているのかって興味はあるわよ。まあ、もちろん一番の興味はその剣が叩いてる大口がホントかどうかってところにあるけど」

 

 神々しく白い光を放つデルフリンガーにギーシュは目を輝かせて、ルイズはいまいち信じられないというようなじとっとした目でそう言った。

 

「へへへっ! 今に度肝を抜いてやるから、ちみっこは大人しく待ってなって!」

「だから! そのちみっこっていうのやめなさいよ!」

「ははは……それじゃギーシュ、後でワルキューレを頼むよ」

「任せてくれたまえ!」

 

 リンクが腰を下ろして手入れ道具を広げようとしたその時、地響きがした。大地を揺らす轟音。身体の根本も揺るがすようなその響きは、本塔のすぐ傍からした。そこには数瞬前には決していなかったはずのものが確かにそびえたっていた。無骨な岩が連なり人の形を象った、二十メートルは優に超える巨大な岩のゴーレム。月光に照らされたその動く岩の塊は拳を振り上げ、本塔へと振り下ろした。


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