私ももう少し頑張ります…
パンッ!!
乾いた銃声はコンサートホールの中によく響き、それを境に先ほどまで話していた皆が目の前の光景に唖然としていた。
椿季がその銃声に気付いた時には柊季が椿季を押し倒すような格好になっていた。
「柊季?」
「しっ!油断すんなよ椿季…舞台袖に誰かいる」
柊季がそう言うとクラスの誰もが舞台袖を警戒した。
「よく気付いたなぁボウズ」
そう言って男はゆっくりまたゆっくり一歩歩きながら袖口から出てくる。
「誰にも気づかれずに裏口から回ったつもりだったんだが……どうして気付いた?」
「さっき一回だけ不自然にカーテンが動いた。それと同じことがそこで簀巻きになっているオッサンがここに入ってくるときにも起こったから誰かがこっそり入ってくるのが分かった。それだけだ」
「なるほどねぇ……フフッ、ハハッ、ハハハ」
「何がそんなにおかしい」
柊季は立ち上がり持っていたゴム弾を構え、男にそういうとそいつは顎を上げ見下したようにして言う。
「いや、それが分かっててわざわざ飛び込む馬鹿がいるとは思わなかったよ、一歩間違えれば頬の傷じゃあすまなかったぜ…」
そう言われてクラスのみんなが柊季を見ると確かに柊季の頬は血で赤くにじんでいた。
すると男は手を頭に当てやれやれと首をふりながら言う。
「それにお目当てをこうもあっさり殺そうなんて俺もどうかしてたぜ……」
「お目当て?殺せんせーのことか?」
「ハッ、それは俺にとっておまけみたいなもんだ。俺にとってのメインディッシュは、そいつだ」
「はっ、お前何を……」
「それはそいつに聞いてみな!なぁ正義のヒーローさんよ!!」
正直誰もが最初、この男の言っていることがわからずにいた、しかし、さっきから明らかに様子がおかしい人物が一人いた。
それはこの状況に対する恐怖でもなく、新たなる敵に対する警戒心でもない。
ただ純粋に怒り、そして濃い殺意を身にまとった椿季がいた。
男は椿季を見てまるで知り合いに久しぶりにあったかのような口調で言った。
「よお、久しぶりだな!!5年ぶりかぁ…会いたかったぜ」
「……………」
しかし、椿季は一言として言葉を発しはしなかった。
そして、男の放った5年というキーワードに何人かが気付く。
「5年前って………」
「もしかして………」
「おい!椿季!まさか……」
「私はあの日以来貴方の顔を一度だって忘れたことは無い、お母さんを撃った時にまるでごみのように人を見下したような目をした貴方だけは!!」
椿季は懐から出した警棒を突きだし、男に向けながらそう言った。
すると烏間もその顔を見て言った。
「お前、仲井 成浩(なかい しげひろ)だな。誘拐、強盗、殺人の指名手配犯の」
「ほぉ……俺の名前を知っているとはな、お前も警察の関係者か?」
「警察の関係でなくともお前ほどの極悪人なら知ってて当然だ」
烏間がそんな話をしていると、椿季は音もなくさっとかけよって仲井の懐に入り込み警棒を思いっきり振る。
「おっと、危ねぇ危ねぇ」
仲井はそう言いながら拳を椿季の腹に叩き込もうとするが椿季もなんとかそれを交わそうと後ろに飛ぶ。
「おいおい、不意打ちなんて正義のヒーローらしからぬ行為ねーか?なぁ?」
「うるさい!!お母さんを殺した貴方が気安くそんな言葉を使うな!!」
椿季は男をにらめつけながら言う。
しかし、仲井はまたも高笑いながら言った。
「別にいいじゃねぇか、俺が正義って言葉を使ったって」
「何が言いたい!」
「お前がなんで俺が正義って言葉を使うのがそんなに嫌なのがなんでか?俺が当ててやろうか」
「黙れ!!」
「そ~れ~は~君のお母さんが~……」
「黙れ!黙れ!黙れ!黙れ…………」
「君にとっての正義のヒーローだったからですぅ~」
「黙れって言ってるでしょ!!!」
椿季は大声で怒鳴るようにそう言い、仲井はそれを見てまたケタケタ笑いながら言った。
「今回の仕事でもう一回会えると思ってお前をおちょくるネタをいくつか調べたら山のように出てきたぜ、お前の反吐が出そうな甘ったるい親子だの家族の絆ってやがよお!!」
椿季はそれを聞きさらに顔をしかめた。
「いいねぇ、その顔!さっきまでそこの殺し屋を倒した時の安堵の顔が嘘のよう!その顔が今度は絶望に変わる顔をおじさん見たくてしょうがないよ!!」
仲井のその言葉に頭にきた速水が銃を構えたが、仲井はそれを見るなり発砲し、銃を弾き飛ばした。
「あまりそう言うことお勧めしねーぜ、そういうことするなら君から殺してもいいんだからなぁ、そこのお前とそこのお前もだ」
仲井はそう言うと同じく銃を構えていた千葉と後ろから回り込もうとしていたカルマに向かって銃口を向けた。
「俺は殺し屋じゃあない!だが、今までこの手で何人もの人間を葬ってきた!!暗殺の訓練だがなんだか知らないがお前らに俺を殺せるわけがない!!そんな暇あったら俺がお前らを殺してやるから安心しろ!!」
そういうと男は背中においてあった荷物を椿季に放り投げた。
「それは、俺からお嬢ちゃんへのプレゼントだ!爆発したりしねーから開けてみな!」
「黙れ!!」
「いいから開けろって言ってんだろ!手前ぇ以外の誰かをぶち殺すぞ!!」
そう言うわれると椿季は視線を決して外さずカバンに入っていた代物を取り出した。
それは細長くスポットライトの光を反射し、キラキラと輝いていた。
「それってもしかして……日本刀……」
茅野がそうつぶやくと、仲井はああとつぶやいて言う。
「そうだ。お前の母親が得意だったのは剣道だったそうだから、どうせマザコンのお前も得意なんだろ剣道」
「だったら何?」
「それなら俺とゲームをしよう…お前はその日本刀を使い俺はこの銃を使う…ルールはただ一つ!!どちらかが死ぬまで戦う!要するに殺し合いだ!」
「殺し合いって……」
片岡がそうつぶやくと椿季は日本刀を握りじっと見つめながら言った。
「いいよ、分かった。時間もないしこれで私も決着をつける」
椿季はそう言い構えたが、周りは当然反対した。
「やめなさい!椿季さん!君がこの教室の生徒である以上先生以外の人を殺すことは許しません!」
「そうだよ!落ち着いて!」
「椿季ちゃん!!」
殺せんせーやみんなの言葉に椿季は姿勢は崩さず殺せんせー達のほうをちらりとだけ見て言った。
「せんせー、みんな……ごめんなさい……でも、こうするしかないんです…」
「椿季さん!!」
すると今度は柊季のほうを向いて椿季が言う。
「柊季、みんなが巻き込まれないようにしっかり守ってあげて!柊季なら絶対できるから」
「ふざけんな椿季!!そんなこと良い訳ないだろ!」
しかし、椿季は一瞬だけ殺気を鎮め柊季に微笑むとすぐに刀を構え直した。
すると仲井も構え、互いに向かい合って言った。
「さて、別れの挨拶はできたかい?でも俺はてっきり、お前のことだから俺はみんなには手を出さないでとか頼み込んでくると思ったぜ」
「そんなことをあなたと約束したところでその約束が守られる保証なんてない、それに…」
椿季はさっきよりも鋭い殺気を放って言う。
「貴方を殺してすべてを終わらせてやる!!」