双子の姉弟が送る!暗殺教室   作:コミ6目半

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第53課 カルマの時間

 スモッグを撃破し、柊季達は再びホテルの最上階を目指そうとしていた……のだが…

 

 

「ダメだ。普通に歩くフリをするので精いっぱいだ…」

 

 

 スモッグの麻酔ガスを浴びた烏間は磯貝に肩を借りて歩いている。

 

 

「烏間先生大丈夫ですか?」

 

「30分で何とかする、それまではさっきのような軽率な行動はとるな」

 

 

 そう言って烏間先生は歩き始める。

 

 

「烏間先生、象も落とす薬吸って意識あるって……」

 

「烏間先生も十分化け物だよね……」

 

 

 菅谷や岡野の言う言葉にクラスの大半がうんうんと頷く。

 

 

 しかし、烏間が戦闘ができない今クラスのみんなは先ほどより緊張した面持ちだった。

 

 ただ一人を除いて……

 

 

「いやぁいよいよ夏休みって感じですねぇ。」

 

 殺せんせーの言葉に柊季達が切れたのは言うまでもない。

 

 

 「何をお気楽な!!!」

 

 「一人だけ絶対安全な形態のくせに!!!」

 

 「渚、振り回せて酔わせろ!!!」

 

 「ニュヤァ!!」

 

 

 渚は真顔でものすごい勢いをつけてせんせーを回す。

 

 

 そして殺せんせーはいつものように酔ってしまった。

 

 

 「よし寺坂こいつねじ込むからパンツ脱いでケツ開いて。」

 

 「死ぬわ!!!」

 

 

 カルマの提案に寺坂は同然怒る。

 

 「柊季何してるの」

 

 「いや、何、さっきの映画のノーカット版があるから、大音量で流してやろうかと」

 

 「柊季君お願いだからやめてー!!」

 

 

 柊季が再生の準備をするの椿季が止めていると。渚が殺せんせーに聞く。

 

 

 「せんせー、どうしてこれが夏休みなの?」

 

 「先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは先生の保護が及ばない所で自立性を養う場でもあります。大丈夫。普段訓練で学んだことをしっかりやれば君たちならクリアできます。この暗殺夏休みを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊季達がそんな話をしている頃、ホテル最上階では……

 

 

 一人の男がラーメンを食べようとしていた。

 

 

 「濃厚な魚介だしにたっぷりのネギと一匙のニンニク……そして銃!!!」

 

 

 男は銃の銃口をラーメンの中にぶち込んだ。

 

 

 「つけ銃うめぇ~。銃身内の絡むスープがたまらねぇ・・・」

 

 「ククク・・・見てるこっちがひやひやするぞ、ガストロ。実弾入りだろ?その銃。」

 

 「ヘマはしないんでご安心を。撃つときにはなんの支障もないんで。今日一番うまい銃が一番手に馴染む、俺の経験則って奴です。」

 

 「奇特なやつだ。あとの二人もそんなか?」

 

 「ええ、俺らみたいな技術を身に付け何度も仕事をしてきた連中は・・・何かしら拘りができるもんです。スモッグも毒は自作で研究室まで作る始末です」

 

 「なるほど」

 

 「それよりあいつは、誰なんですかい?見たこと無いですが」

 

 「ああ、なあに、ちょっとした余興のために呼んだ、役者さ」

 

 「へぇ……」

 

 

 ガストロはいぶかしげな顔をしたが、椅子に腰かけた男はガストロに聞く。

 

 

 「あと一人のグリップは?」

 

 「ええ、まぁあいつはちょっと殺し屋の中でも変わってまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柊季達が5階展望回廊の差し掛かった時に一人の男が通路に立っていた。

 

 

 「おい・・あの人って・・・」

 

 「ああ、あの雰囲気は間違いなく殺し屋だな。」

 

 

 この階は狭くて見通しの良い展望通路で数の利も活かせない。

 

 

(クソ・・・実弾の銃がほしい。まさかこの島で必要になるとは・・・)

 

 

 するとその男、グリップは背もたれにしていた窓を手でヒビを入れた。

 

 

 「つまらぬ。足音を聞く限り手ごわいと思えるものが一人も居らぬ。精鋭部隊出身の引率教師もいるはずだがぬ。どうやらスモッグのガスにやられたようだぬ。半ば相打ちぬといったところか…出てこいぬ」

 

 

 そう言われて次々に陰から出て行く。

 

 

 「ねえ、柊季、あの人…」

 

 「ああ、言いたいことは分かる。でも…」

 

 

 顔が怖すぎて誰もなにも言わなかった……が、

 

 

 「ぬ…多くね?おじさん」

 

 

 (((良かった!カルマがいて!!)))

 

 

 「ぬをつけると侍っぽい口調になると聞いたぬ。だから試してみたぬ。ちがうならそれでも良いぬ。この場の全員殺してからぬを取れば恥にもならぬ」

 

 

 とおじさんは手をゴキゴキ鳴らしながら言う。

 

 

 「なるほど・・・あなたの武器は素手ですか」

 

 「こう見えて需要があるぬ。身体検査に引っかからない利点は大きいぬ。近づきざまに頸椎を一捻りぬ。その気になれば、頭蓋骨もつぶせるぬ」

 

 

 それを想像した岡野が頭を押さえて怯えていた。

 

 

 「強い敵と戦えると思っていたのに、お目当てがこの様じゃつまらぬ。雑魚を一人で潰すのも面倒だ。ボスと仲間を呼んで皆殺しぬ」

 

 

 グリップは連絡をしようと携帯を取り出すがカルマが廊下にあった観葉植物で窓に叩き付ける。

 

 

 「ねぇおじさんぬ。意外とプロって普通なんだね。ガラスとか頭蓋骨なら俺でも割れるよ?ていうか速攻で仲間呼んじゃうあたり中坊とタイマン張るのも怖い人?」

 

 

 「おい、無茶だ!それ以上は…」

 

 

 「ストップです。烏間先生。顎が引けている」

 

 「何?」

 

 

 そう言ってみんながカルマを見ると確かに顎が引かれていた。

 

 

 「今までのカルマ君なら相手を余裕をひけらせてアゴを突き出し相手を見下す構えをしていた、ですが今はしっかりと正面から相手の姿を観察している」

 

「いいだろう。試してやるぬ」

 

 

 そういって、上着を脱ぎ詰め寄るグリップにカルマは観葉植物を振りまわすが、素手で抑えられ握りつぶされた。

 

 

 「柔いぬ・・・もっと良い武器を探すべきだぬ」

 

 「必要ないね」

 

 

 距離を詰めてくるグリップの腕をよく見て、カルマは身を引いて避ける。

 

 

 (捕まったら潰される、一見無理ゲーだけど、立場が違うだけでいつもやってんだよね)

 

 

 グリップの連続攻撃を全て捌くか避けるカルマの動きに烏間は驚いていた。

 

 

(殺し屋にとって防御技術は優先度が低い、だから授業では教えたつもりはないが、目で見て盗んだな、俺が生徒たちのナイフをよける様子を見て……赤羽 カルマ。彼もやはり、E組の中ではトップクラスの戦闘の才能の持ち主だ)

 

 

 カルマは次々にグリップの攻撃をさばいていたが、グリップは急に攻撃を止め問いかけた。

 

 

 「どうしたぬ? 攻撃してこぬならここを永久に抜けられぬぞ?」

 

 「あんたを引き付けられるだけ引き付けておいて、その間に皆を1人ずつ抜け出させるのもいいかなぁ、って思ってさ」

 

 「………」

 

 

 「なんてね、安心しなよ、そんなこすい事は無しさ。あんたに合わせて、正々堂々素手でやるから」

 

 

 

 二人はまるでストリートボクシングのようにパンチをうったり交わしたりを繰り返したが、カルマは一瞬だがグリップの意識が左腕のガードに向けたのを見て、カルマは脛へと思いっきり蹴り込んだ。

 

 

 「ぬっ・・・」

 

 

 グリップも距離を取ろうとするが、痛みで思わずよろめいた。

 

 

 「チャンス」

 

 

 カルマはそれを見逃さずに詰め寄った……その時だった。

 

 

 

 プシュー!!

 

 

 カルマの視界がガスに防がれると共に、勢いを失くしてカルマは倒れた。

 

 

 それを見て、グリップはカルマの顔を掴んで片手であげる。

 

 

 「一丁上がりぬ・・・長引きそうだったんでスモッグのガスを使ってみたぬ」

 

 

 それを見て、吉田は叫ぶ。

 

 

 「きたねえ!! そんなモン持ってやがって、どこがフェアだよ!!」

 

 「誰も素手だけで戦うとは言ってないぬ・・・拘る事に拘り過ぎない。これが仕事を長くやっていく秘訣だぬ」

 

 「へー、そうなんだ。でもおじさんいくら長く殺し屋やっててもこれだけの数の中学生相手にしたこと無いでしょ」

 

 

 柊季がまるで余裕綽々の様子で懐から警棒を取り出しグリップに言う。

 

 

 「何だぬ?数に物を言わせれば勝てると思ったら大間違いだぞぬ」

 

 

 「そういうことじゃないさ、ただこれだけ数がいれば…」

 

 

 プシュー!!

 

 

 「なっ!!」

 

 「それだけ暗殺方法も多様化するってわけ」

 

 「奇遇だね、おじさんぬ。2人ともおんなじ事考えてた」

 

 

 ニヤリと笑うカルマは、ハンカチを捨てつつそう言い放った。グリップもなんとか反撃を試みるが麻痺した体では俊敏さも落ち、カルマに簡単に取り押さえられていた。

 

 

 「ほらほら、寺坂、早く早くこんな化け物みんなで分担して縛ってやんないと勝てないって」

 

 

 その言葉に寺坂は小さくため息を吐きつつ、男子を中心にでのしかかってグリップを縛り上げた。

 

 

 「何故だ……俺のガス攻撃……お前は読んでいたから吸わなかった。俺は素手しか見せてないのに……何故……」

 

 「当然っしょ、素手以外の全部を警戒してたよ。あんたが素手の闘いをしたかったのはほんとだろうけど、この状況で素手に固執し続けるようじゃプロじゃないし、俺等をここで止めるためにはどんな手段でも使うべきだし。俺でも逆の立場ならそうしてる…………あんたのプロ意識を信じたんだよ。信じたから警戒できた」

 

 

 そんなカルマの様子を見て渚は小声でつぶやいた。

 

 

 「カルマくん変わったな…いい感じに」

 

 「ええ、大きな敗北を知らなかったカルマ君は…期末テストで敗者となって身をもって知ったでしょう。敗者だって自分と同じ、いろいろ考えて生きてる人間なんだと。それに気づいたものは必然的に…勝負の場で相手を見くびらなくなる。敵に対し敬意を持って警戒できる人を戦場では「隙が無い」というのです」

 

 

 

 殺せんせーがそう言うとカルマはごそごそと何かを取り出す。

 

 

 「何してんの?カルマ君?」

 

 「ん?ああ、せっかくだから、これから楽しもうかと思って?」

 

 「「「「「えっ」」」」」

 

 

 カルマの両手にはわさびとからしのチューブが握られていた。

 

 

 「ワサビとからし。おじさんぬの鼻の穴にねじ込むの。さっきまでは警戒してたけどこんだけ拘束してれば警戒もクソもないよね」

 

 

 カルマはそう言い爽やかな笑顔でワサビとからしを鼻にねじ込んだ。

 

 

 「さぁおじさんぬ。今こそプロの意地をを見せるときだぬ。」

 

 

 その後グリップが叫び声とも取れないうめき声をあげたのは言うまでもない。

 

 

 

 「人間は簡単に変わらない、これだけは今日はっきりわかった気がするよ」

 

 「ははっ……」

 

 

 椿季が目を閉じそう言った言葉に柊季は苦笑いし、クラスのみんなはただ頷くのだった。

 

 


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