いよいよ、伏魔島編スタートです。
3年E組にとってこの夏の一大イベントはこの2泊3日の暗殺旅行。期末テストでA組から奪ったこの旅行にクラス全員心躍らせていた。
「東京から6時間って遠くね?」
「まあ、基本船旅だったしょうがないよ」
柊季と倉橋は甲板に立ち島が見えるのを今か今かと待ちわびている。
「楽しい旅行になるといいね」
「そうだな、陽菜乃ずっと楽しみにしてたもんな」
「うん、南の島だよ、海の生き物見れるかも…」
「イルカとかいるかもな」
そう言って目を輝かせる陽菜乃を見て、柊季のほほは一瞬緩んだが、すぐに一回咳払いして言う。
「海の動物もいいけど、暗殺のほうもしっかり準備しないとな」
「わかってるよ~」
「うむ、それならよし」
そんな風に楽しく話す二人を岡島は見て思う。
「チッ、柊季のやつ、爆ぜて海の藻屑になればいいのに…」
「あはは…岡島君。心の声が漏れちゃってるよ」
殺気むき出しの岡島を見て、思わず渚は苦笑いする。
そして殺せんせーも大変そうに……
「ニュヤァ…船はヤバイ…船はマジでヤバイです…柊季君たちのことを観察したいのはやまやまですが…せんせー頭の中身が全部まとめて飛び出そうでそれどころじゃないです…」
「せんせー相変わらず乗り物酔いに弱いですね、大丈夫ですか?」
そう言いながら椿季は持っていた対殺せんせーナイフを振り下ろす。
そして、今度は倉橋が駆け寄ってナイフを振りながら言った。
「せんせー起きて!起きて!見えてきたよ!」
「東京から6時間、せんせーを殺す場所だぜ!!」
杉野がそう言うと中にいた生徒の何人かが甲板出て来て、離島を見て言う。
「「「「「島だ!!」」」」」
みんなはホテルに着くとチェックインを済ませ、荷物を置き、各々ビーチに設置されているコテージへと座った。
「長い船旅お疲れさまでした。ようこそ普久間島リゾートホテルへサービスのトロピカルドリンクでございます」
「いやー、最高だぜ」
「景色も色鮮やかでいいよな」
三村や、岡島はスタッフからジュースを受け取るとそれを飲みつつリゾート気分を満喫していた。
「例のあれは夕食の後にやるからさ」
「それまで遊ぼうぜ殺せんせー」
「修学旅行の時みたいに班別行動でさ」
寺坂、吉田、村松がそう言うと殺せんせーと俺達は早速班別行動に移っていった。
「うわー!!早いです!殺せんせー!!」
「そうでしょ、椿季さん」
「瞬間最大速度150キロを記録しました」
椿季はグライダーに乗りながら殺せんせーの早さを体感し、他の面々はそれを打ち落とそうと銃を構えていた。
「陽菜乃、操縦大丈夫?」
「うん、まだコツつかめないけど頑張る」
そう言いながら、椋橋が運転するグライダーに乗った柊季は殺せんせーに向けて銃を連射していた。
殺せんせーは柊季の玉を軽くかわしながらも言う。
「彼はナイフだけでなく、射撃の腕もなかなかですね、グライダーの上という特異的な状態でも正確にせんせーを狙ってきます」
「はい、射撃は私も敵いません」
「でも、ナイフ術は椿季さんに軍配があがるんじゃないんですか?」
「どうでしょう、確かに剣術なら柊季よりは得意かもしれませんが」
椿季は彼女の母親が死んだ後も、今度は父親から剣道を習い続けていた。
「今回の暗殺でも刀を使うんですか?」
そう聞く殺せんせーに椿季は笑いながら言う。
「ダメですよ、殺せんせー、私が情報漏洩をするわけにはいかないじゃないですか」
「ヌルフフフ、それもそうですね」
「でも、みんなで一生懸命考えたんです。今回こそ殺しますよ、殺せんせー」
「楽しみにしてますよ、椿季さん」
その爽やかな殺意に殺せんせーから思わず笑顔がこぼれた。
そんな感じに1班がグライダーで遊んでいる頃、他の班は着々と準備を進める。
遊びの中に暗殺をうまく混ぜることによって、他の班に目が届かないよううまく工夫されている。
一班が終わると殺せんせーは次の四班へと行き柊季達も準備を始めようとしていた。
「よし、次は俺らが準備の番だな」
殺せんせーは今イルカを見に沖に出てるからここの様子は見えない。
「じゃあ、俺らは渚たちの奴の続きやってくるな」
「よろしく頼んだ磯貝、じゃあ椿季、陽菜乃、俺は三村の編集の手伝いやってくるわ」
「了解こっちは任せて」
倉橋は柊季にそう言い、柊季は三村たちのいるチャペルへと向かった。
「じゃあ、私たちも準備しちゃおうか」
「うん」
そう言いながら椿季はみんなが暗殺に使う武器や道具の数を数え始める。
「ねえ、つっちゃん」
「どうしたの陽菜ちゃん?」
「うまくいくのかな」
「陽菜ちゃんはこの計画が不安?」
倉橋は「ううん」と首を横に振ったものの言った。
「そうじゃないんだけど何となく緊張しちゃって」
「分かる、分かる」
椿季も笑いながら言う。
「だよねぇ…自信もってやらなきゃなんだけど」
「うーんそうだな」
椿季は一通り武器の確認を終えると、対殺せんせーナイフをいくつか取り、倉橋に渡す。
「陽菜ちゃん、ちょっと体動かさない?」
「??」
「ナイフ術で私と勝負しよう」
「えっ!つっちゃんと!?」
倉橋は驚いたように言うと椿季はうんと頷いた。
「何か悩んでいることがあったら体を動かすと気分も紛れるよ。私もよくむしゃくしゃすると未だに竹刀振ったりするもん。まあ、もちろん夜に本番を控えているから軽くだけどね」
「でも、つっちゃんと私で勝負になるのかな…」
「大丈夫、陽菜ちゃんナイフ術の成績いいし、それにあれだけ練習したんだもん」
「そっか…よし!やろう!」
「そうこなくっちゃ!」
そう言って椿季と陽菜乃はナイフを構える。
「行くよ!陽菜ちゃん!」
「うん!」
倉橋がそう言うと二人はナイフを交えた。
準備は大方整い、夕食は船上レストラン、乗り物に弱い殺せんせーを船酔いさせ、体力を奪うのが目的だ。
「なるほどねえ、せんせーをじっくりと酔わせて弱らせようという魂胆ですね……ですが、暗殺の前に気合の入った先生がこのぐらいの乗り物に酔うとでも……」
「せんせー、焼けすぎ…」
殺せんせーの顔は歯まで真っ黒に焼け、最早表情さえ分からないほどだった。
「前々、から思ってたけど、せんせーの体の構造ってどうなってんだ」
「ヌルフフフ、それは秘密です、柊季君」
「どっちにしてもなんとかしてよ、表情すらわかんないんだから」
片岡がそういうと殺せんせーは笑いながら言う。
「ヌルフフフ。お忘れですか皆さん、せんせーには脱皮があり、それをこう使えば・・・ほらこれで元どーり」
「あ、月一回の脱皮だ」
「こんな使い方もできるんですよ、不破さん」
得意げなせんせーに思わず柊季がつっこむ。
「せんせー、このあと暗殺なんだけど……」
「……………ニュヤ!!」
自らのあまりに初歩的すぎる失敗に思わず顔を隠す。
そしてこのとき生徒の大半は思った。どうしてこんなドジを殺せないのだろうと…
「ま、まあ、おかげで一個考えるべきことは減ったけどな」
「そうだね…」
柊季と倉橋は苦笑いを浮かべていう。
食事は進み、暗殺の時間が刻一刻と迫る中、潮田渚は緊張した面持ちで殺せんせーを見つめていたのだった。
そして、船は港につき遂に運命の時はやってくる。
「ニュゥ……気持ち悪い……やっぱりせんせーに船は無理です…」
「せんせー、飯の後はいよいよお待ちかねのあれだ」
「会場はこちらですぜ」
そう菅谷が言いクラス全員で会場の水上チャペルへと案内する。
チャペルの真ん中にはテレビが置かれ、せんせーはその真ん前の椅子に着席した。
そしてクラス委員であり、今回の作戦のまとめ役である磯貝が話し始める。
「それでは、まず三村がたちが編集した映画を見てもらい、その後テストで勝った8人が触手を破壊して暗殺を始める。それでいいですね?殺せんせー」
「もちろんです。君たちの知恵と工夫と本気の努力。それを見るのが何よりもの楽しみです!全力の暗殺を期待します!」
一学期の集大成を集めた暗殺が今、ついに始まる!!