次の日、殺せんせーの様子はいつもと違った。
「なによ、さっきから意味もなく涙なんか流して」
「いえ、これ目じゃなくて鼻なんで鼻水です、目はこっち」
そういうと、殺せんせーの鼻の横に小さく目があるのがわかった。
「夏風邪ですか?せんせー」
「どうも昨日から体調があまり良くなくて、椿季さんの言うように、夏風邪かもしれませんねー」
「マッハの超生物も風邪なんて引くんだな」
そんな話をしていると、今日は休みと思われていた、寺坂が、昼休みに登校してきた。
殺せんせーは鼻水を垂らしながら寺坂に話しかけていた。
「おお、寺坂君今日は休みとかと心配していましたよ、昨日のことなら心配ありません。もうみんな気にしてませんからね?ね?」
「う、うん。わかったから寺坂についてるについてる、やつ拭いてあげてよ、殺せんせー」
茅野がそう言うと、寺坂はせんせー服で粘液を拭いた。
(「君が昨日教室にまいたスプレー缶はやつだけに聞くスギ花粉みたいなものだ、触手生物の感覚を鈍らす効果がある」)
寺坂はシロのその言葉を思い出し、殺せんせーに言い放った。
「おい、タコ、そろそろ本気でぶっ殺してやんよ!放課後プールに来い、弱点なんだってな、水が、てめぇらも全員手伝え!俺がこいつを突き落としてやるからよ!」
クラスのみんながその言葉に静まりかえったが、前原が立ち言う。
「寺坂、お前みんなの暗殺には協力してこなかったよな、それなのにお前の時だけ、みんながハイやりますって言うと思うか?」
「ま、そうだろうな」
柊季は寺坂の方を見ずに、飯を食べながら言う。
「いいぜ、来なくっても、そん時は俺が賞金百億独り占めだ!」
「そう言って、寺坂は教室を出て行った。
「うーん。なんかおかしい」
「 なにがおかしいの?つっちゃん?」
難しい顔をしている椿季に倉橋が言う。
「寺坂君は、ガタイはいいし力もあるから、喧嘩や戦闘は訓練すれば伸びるかもって思ってたけど、作戦立案には向かないタイプだと思ってた」
「どうせ、大した作戦じゃないんじゃない?」
「うーん、それにしては自信ありそうだったようにみえたけど…」
なにもなければいいのだけど、と思いながらも椿季は食事を続けるのだった。
そして放課後、最初はみんな気乗りしていなかったようだが、殺せんせーに諭されて、みんなプールに集まっていた。
「よーしそうだ、そんな感じにプールに散らばっとけ」
「僕は疑問だね、君に他人を泳がせる器量が……」
「うっせー竹林、さっさと入れ!」
そう言って、寺坂は竹林を蹴り飛ばす。
「おい、お前らも入れ!」
寺坂は嵯峨姉弟にもそう言ったのだが、
「俺、今日水着忘れたわ」
「私、今日風邪気味だから、陸上支援に回るよ」
「チッ」
寺坂が舌打ちすると、椿季はナイフをとりだし、柊季は近くの木にもたれかかってその様子を見ていた。
「なるほど、せんせープールに突き落としてみんなに刺させる計画ですか、でもせんせーをどうやって、突き落とすんです?椿季さんのサポートがあったって、せんせーは簡単には水に落ちませんよ」
「うっせー、タコ、覚悟はできたか」
「ええ、もちろんです、鼻水も止まったし」
「ずっとお前が嫌いだったよ、消えて欲しくてしょうがなかった」
「ええ、知ってます、これの後でゆっくりお話ししましょう」
せんせーの顔はシマシマのなめている時の顔で、寺坂は完全にイラついていた。
そして、寺坂は銃を取り出し撃つ、
しかし、それによって起こったのはBB弾の発射ではなく、プールの放水口の爆発だった。
一瞬にて、放水口は壊れ大量の水にみんなが流されていく。
「え、うそだろ」
椿季も柊季も寺坂の方を一瞬見たが、寺坂の唖然とした顔をみて、これが彼にとって想定外の事態であることを悟った。
柊季は流れていったみんなの方に走り出していく。
椿季は何かないかと辺りを見回して、前に茅野が使っていた浮き輪を見つけ、ロープでくくりつけて、思いっきり投げる。
「みんな、つかまって!!」
すると、放水口から比較的遠い場所にいた、奥田や茅野、木村、三村などがなんとか、捕まり、水が引くまでなんと持ち堪えられた。
すると遅れて、カルマがやってくる。
「何、これ?爆音したらプール消えてんだけど」
すると、唖然としている寺坂がカルマの目に入る。
「俺は、何もしてねぇ、知らなかったんだこんなことになるなんて、だから、俺は…」
言い訳をし、詰め寄ってくる寺坂をカルマは思いっきり殴った。
「何もしてない?マッハ20の怪物が標的じゃなかったら、大量殺人の犯人様だよ、流されたのはみんなじゃなくて、寺坂、お前じゃん」
「今はそれより、みんなの無事を確認しないと」
そう言って、椿季とカルマは流されたみんなを追った。
その頃柊季は、ロープを持って岩場につかまっていたクラスメイトの救助をしていた。
「陽菜乃大丈夫か?」
「うん、なんとかね」
「矢田は?」
「うん、大丈夫」
柊季はロープを使って二人を引き上げる。
「それにしても、寺坂君いくらなんでも…」
「いや、あいつも驚いてたみたいだったし、これはもしやすると」
「すると?」
倉橋は柊季にそう聞き返したが、それを遮るように大声で、岡野が言う。
「ねえ、あっちでイトナに殺せんせーが殺されかけてる!!」
「やっぱりか、よし、いこう」
そういって、俺らは崖のほうに向かう。
崖まで行ってみると殺せんせーがイトナにかなり押されていた。
「ねえ、いくら何でも、殺せんせー押され過ぎじゃない?」
「うん。あれくらいの水のハンデ何とかなると思うんだけど」
矢田と片岡がそう言うと後から来た寺坂が説明した。
「ただの水じゃねぇ、あれには触手の動きを鈍らせる成分が溶けてんだ、それに、あそこみて見ろ」
そう言ってクラス一同寺坂の指す方を見てみると細い木の枝にぶら下がっている原さんがいた。
「原さん!!」
「あいつヘビーで、太ましいからあぶねーぞ」
「寺坂、お前まさか…」
磯貝の質問に寺坂は開き直ったようにいった。
「ああ、そうだよ、あいつらの言いなりにいろんなことをやったよ、まさかあんなことになるとは思はなかったけどな、俺みたいな短絡的な奴は頭のいいやつに操られる運命なんだよ、けどな」
この時の寺坂の顔はいつになく真面目だった。
「操られる奴くらいは選びてぇ、奴らはもうこりごりだ、賞金持っていかれるのもやっぱり気に食わねぇ、だからカルマてめぇが俺を操って見ろや」
そう言う寺坂を見てカルマは寺坂に近寄りながら言った。
「いいの?俺の作戦死ぬかもよ?」
「やってやらぁ、こっちは実績持っている実行犯だぜ」
「じゃあねぇ」
寺坂に作戦をカルマが伝える。
「おい、それ、原はどうすんだよ」
「いいから、いいから、俺を信じなって」
そのころシロは明らかに水を吸って速度が落ちた殺せんせーをあと一歩のところまで追いつめていた。
「さて、足元の触手も水を吸って大分動きが落ちてきたね。イトナ、そろそろトドメだ。全ての触手を落とし、その上で心臓を、」
「おい、シロ、イトナ」
「ん?寺坂君?そこは危ないから下がっていなさい」
シロはそう忠告したが、寺坂は怒鳴っていった。
「俺を騙しやがってどの口が言う!!」
「ごめんごめん、でもいいじゃないか、気に入らないクラスメイト達だったんだろ?」
「うるせぇ!てめえらは許さねぇ!イトナ俺とタイマン張れや!」
「やめなさい寺坂くん!君のかなう相手じゃない!」
「すっこんでろ!フクレタコ!」
殺せんせーは静止したが、当然それを聞く寺坂ではない。
「ははは、健気だね…まあいい、やりなさい、イトナ」
イトナは殺せんせーから寺坂に目標を切り替え、触手をふる。
寺坂はそれを上着で防ごうとしたが、そんなものに防御力はなく、寺坂はおなかを抱えうずくまった。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「よく耐えたね、イトナもう一発だ」
「ハクション!!」
イトナは急にくしゃみやら鼻水やらをしだしとても触手を振れる状況じゃなかった。
「これは…」
「ああ、言い忘れてたけど、寺坂のそのシャツ昨日と同じだから、昨日の薬品物凄いついてるよ、それがイトナにくっついたなら殺せんせーと同じになると思ったけど大正解だったみたいだね」
「そして、そんな状態になれば原さんは殺せんせーが勝手に助けてくれる、即興にしてはよく考えられてるねぇカルマの作戦」
滝の上から柊季がカルマの作戦に感心していると、柊季の横から誰かが飛び出る、木刀のようなものを持ったそいつはイトナの触手を一太刀し、返す刀でイトナの腹にそれを叩き込み吹っ飛ばす。
「ふぅーっ、これは流されたみんなの分のお返しね」
そう言って椿季はウインクしたが、廻りはそれを唖然と見ていた。
「つっちゃんこの高さを軽々飛び降りたよ…」
「ああ、前みたいに我を忘れてないから大丈夫だとは思うが…」
柊季は自分の姉の無茶に思わず苦笑いした。
「殺せんせーと弱点一緒なんだよね?嵯峨さんが触手切ってくれたし、水をかければどうなるかはわかるよね」
カルマの合図で崖の上に待機していたE組が次々に飛び降りる。
着地の水しぶきをイトナは回避することができず、イトナの触手はどんどん水を吸っていく。
「どうします?シロさん?ハンデはほとんどありませんが、まだやります?」
椿季がそう言う後ろでみんなはイトナに水をかける準備をしていた。
「してやられたな、丁寧に積み上げられた戦略が、たかが生徒の作戦と実行でめちゃくちゃにされるとは、ここは引こう、イトナ」
すると殺せんせーがイトナに言う。
「どうです、楽しそうな学校でしょ?そろそろ、普通に登校してみませんか?」
「イトナ」
シロがそう言うと、イトナは黙って従い二人はその場を後にした。
「とりあえず、これでよしかな」
「うん。みんな無事で何よりだよ」
「まあ、今から無事じゃないやつがあそこに一人…」
柊季と椿季がそんな話をしていると原さんが怒り心頭に寺坂を攻め立てていた。
「あはは、まあ、いいんじゃない?」
「そういや、椿季、おまえいつの間にそんなもん準備してたんだ?」
「烏間先生に頼んでおいて昨日できたの、クラスのみんなに見せようかと思ったら、みんな粉まみれだったから」
「ああ、あの時か」
そんな話をしていると殺せんせーが寄ってきた。
「また新たな武器を手に入れたようですね椿季さん」
「本当はせんせーに最初に使うつもりだったんだけど、しょうがないね」
「ヌルフフフ、いつでも暗殺しにやってきてください」
「そうします」
柊季はこの事件をきっかけに、寺坂はクラスになじんできていたのを感じたし、彼の実行力は今後の暗殺に必要になるものだともまた考えていた。
そして季節は七月下旬。一学期の終わりを前にあのイベントがE組にも近づいていた。