オリジナルストーリー後編。
倉橋にスポットを当てたお話です。
楽しんでいただけたら幸いです。
椿季の思惑とは全く逆に、倉橋は携帯を忘れたことに全く気付かず、 彼女はとぼとぼと夜道を一人で帰っていた。
「はぁ…どうしよこれ…」
倉橋はせっかく買った柊季へのプレゼントを見ながら、ため息をついた。
「中々渡せるチャンスなくって、結局、渡しそびれちゃったよ…」
するとそこに黒い一台の車が止まる。
「倉橋 陽菜乃さんですね?」
倉橋は車の窓から顔を出した女性にそう問いかけられた。
「はい、そうですけど、貴方は?」
「柊学園理事長、柊暦です」
「柊学園?」
「あなたには銀杏学園の理事長といった方がわかりやすいでしょうか?」
そう言われて倉橋は理解した。この女性が椿季や柊季の通っていた学校の元理事長であることに
倉橋の顔が少しこわばる。
「フフフ、そんなに構えなくても大丈夫です。でもちょっとお話よろしいですか?」
そういって、暦は倉橋を車に乗せた。
「それで、お話というのは?」
倉橋は少し緊張した様子で聞く。
「あの二人は元気にやってますか?」
「はい、楽しくやっていると思います」
「それはいいことです」
倉橋は話ながらも常に警戒を怠ったりはしなかった。なんか裏があるのではないか、この人と話しているとそんな気配さえした。
「あの二人は実に面白い二人だと私は思うのです」
「面白い?」
倉橋は思わず聞き返す。
「姉の椿季さんは、面倒見がよく、文武両道、いわゆる優等生として我が校でも評判の生徒でした。教師、生徒誰に聞いても優等生と答える、2年生の頃はソフトボール部の4番として全国大会にも行ったんですよ」
そういって、暦はタブレットでその時の写真を倉橋に見せてくれた。
「逆に、弟の柊季君は、問題行動が多くクラスメイト達からは邪険に扱われたことが多かったですね…」
「それは…」
倉橋が反論しようとすると、暦はうなずきこういった。
「もちろん、彼の人間としての本質がそこにあると私は思いません。彼はもともと正義感が強い子ですから…」
そういって、にっこり暦は微笑む。
「どうして、理事長であるあなたが、あの二人をそこまで気にかけるんですか?」
倉橋は思ったことを聞くと、暦はちょっと考えた後に、納得したような顔をして話した。
「倉橋さんは、あの子たちが今二人で暮らしていることを知っていますよね?」
「はい」
「あの子たちのお父さんは海外の出張が多い人ですからねぇ。なかなか帰っても来ないんでしょう」
「はぁ」
「そして、あの子たちのお母さん嵯峨 碧(さが あおい)さんは私の知り合いだったんですよ」
「えっ…」
暦は目をつぶり思い出すように語る。
「彼女と私は少し年が離れていますが、彼女と私はとても仲が良かったんです。今の私があるのはひとえに彼女のおかげそう言っても過言ではないでしょう」
暦は話を続ける。
「あの二人はほんと碧さんそっくりです、文武両道、明るく前向きで誰からも愛されるところは今の椿季さんのようで、正義感が強く自分の信念を決して曲げようとはしないところは柊季君に似ていますね」
倉橋は少し驚いた。あの二人は自分たちのことについてはなかなか話さないし、お母さんが亡くなったことは知っているのでそう言ったことを聞くこともできない。でも、二人のいいところはそう言うお母さん譲りのところがったのだなぁと倉橋は思った。
「私も小さい頃からあの子たちは知っています。二人とも明るく色々な才能に恵まれたいい子たちです。でも…」
「でも?」
倉橋は続きを聞いた、その後二人に何が起きたのかは気になったからだ。
しかし、暦は小さくふぅと息を吐くとこう言った。
「ここから先は私の口からは言いいませんし、話すべきではありません。続きはまた聞く機会がきっとあるでしょうし」
話を気になるところで切られ、不服そうな顔をする倉橋に暦はそう笑顔で返し、車の扉をSPに開けさせた。
「あ、そうそう、一つ言い忘れてました」
「?」
「あそこであなたを拾う前に柊季君にはメールをしておきました」
「えっ……」
そういって、タブレットの画面を見せてもらうと、こう書いてあった。
柊季君へ
あなたの大切なお友達、倉橋陽菜乃さんは丁重にもてなさせてもらっています。
返してほしくば椚が丘公園に着なさい。
柊暦
「暦さんこれって…」
「フフフ、きっと彼慌ててきますよ」
そういうとタイミングよく柊季が倉橋から小さくだが見えてきた。
「では、私はこれで失礼します」
「あ、ちょっと」
「そのプレゼント渡せるといいですね」
そういって、彼女を乗せた車は公園から去っていった。
「倉橋!」
そういわれて、倉橋は後ろを振り向く。
そこには、全力で走ってきたと思われる柊季の姿があった。
「はぁはぁはぁ……」
「さがっち、大丈夫?」
柊季は息を整えると倉橋の肩に手を置き、
「大丈夫?それはこっちのセリフだ。あのわけのわからん理事長に何をされたんだ?」
「いや、大丈夫だよ。さがっち。私は大丈夫だから」
「本当か?」
「本当だよ」
すると柊季はその場に崩れ落ちた。
「よかった。お前の忘れた携帯届けようと思ったら、急に理事長からあんなメールくるんだから、こっちは心配になるじゃねーか」
その言葉を聞いて倉橋は少し赤くなった。
(さがっちそんなに心配してくれたんだ…)
柊季は話を続ける。
「電話をしようにもお前、電話持ってないし、理事長に電話しようとしたけど、よくよく考えたら俺あの人の電話番号を知るわけないいんだよなぁ」
「ふふふっ」
「笑い事じゃない」
柊季は少し真面目な顔をしたが、ふぅと小さく息を吐いて聞いた。
「そういや、理事長は倉橋さらって何がしたかったんだ?」
倉橋はどう言おうか少し考えたが、結局ありのままのことを話すことにした。椿季と柊季のこと。お母さんのこと。包み隠さずすべて、
「あの理事長、余計なことを、倉橋、俺の家族のことは……」
「大丈夫、誰にも言わないし、詮索もしないから」
「悪いな…」
正直言うと、倉橋はそのことが気になってしょうがなかった、暦が言った「でも…」はとっても重みのあるものだったと彼女自身は感じていたからだ。しかし、やはりそれを無理に聞くのは彼らを傷つけてしまうこともまた理解していた。
それから少しして、柊季はゆっくり立って言った。
「よし、帰るか」
「うん」
二人は公園を出ようと歩き始める。
(渡すなら今しかないよね……)
すると、倉橋は歩き始めた柊季の手を取り…
「あのね、さがっち!これ!」
倉橋は柊季へとプレゼントを渡す。
「お誕生日おめでとう!」
倉橋はにっこり笑ってそう言った。
「これ俺にくれるのか?」
「うん。つっちゃんと一緒に買いに行ったの」
「中身空けてもいいか?」
「うん」
柊季は包装紙を破り中身を見る。そこに入っていたのはちょっと大人っぽい感じではあるがペンギンがあしらわれた多機能ペンだった。
「さがっち、前に海の動物好きって言ってたんだけど、なんかかわいい感じのしかなくって、でもそれならかっこいいかなって思ったからそれを選んだんだ」
柊季はそれを大切に上着の胸ポケットにしまった。
「ありがとう、倉橋、大切にする」
「うん、それとね」
倉橋は恥ずかしそうにしていたが、勇気を出していった。
「私のこと下の名前で呼んで欲しいの、そしたら私も下の名前で呼ぶから」
「!?」
「だめかな…」
柊季は頬を赤く染め、困っていたが、それを倉橋に見せまいと後ろを向いてこういった。
「分かった」
「本当!?」
倉橋は嬉しそうに笑って、それを見た柊季は早口で言う。
「ほら、もう遅いから早く帰るぞ、陽菜乃」
「うん!」
そういって、二人は並んで公園を出るのだった。
とりあえず、二人の仲が一段階進みましたかね?
誤字指摘、感想、これからもよろしくお願いします。