長門はトグロの持つどんな封印を施しても、輪廻眼のチャクラ吸引によって解除することができる。
彼を縛れるのは、うずまき一族に伝わる魂ごと封印する禁術、屍鬼封尽か、日向の宗家に伝わる、ヒザシやトグロでも全く抗えないずば抜けて優秀な封印術のみ。
うずまき一族の封印術は、使用した術者が死んでしまう。だから却下だ。心苦しいが、トグロはヒアシに頼んで日向の封印術で縛ることにした。
これは、全方位にケンカを売った暁に罰を与えるという意味でも、不穏分子の手綱を握っているとダンゾウに示す意味でも、必要なことだった。
長門と弥彦を拘束する数日前、トグロは半蔵に出会っていた。そこで聞かされていたのだ。
「ダンゾウが輪廻眼を狙っている。俺に共謀を持ちかけてきた。この情報は18年前から後の7年間の”借り”を返すものだと思ってくれ。無駄にするなよ」
「ええ。十分です」
日向の封印術なら、対象が眼を奪われようとしたら術者は気付くことができる。これで眼を盗むのは格段に難しくなる。また、日向が輪廻眼の手綱を握ることで、ダンゾウが『危険だからわしが眼を管理する』という理屈を使えなくなる。それでも強行に出る可能性はあるが、規模は小さくならざるを得ないだろう。
さらに、トグロはダンゾウに釘を刺すために、火影にも長門の処遇について伝えた。ダンゾウが狙っているから注意して欲しいとも。その代わり、トグロは霧隠れと雲隠れの前線に桃隠れの戦力を送ることを約束した。
ところが、いざヒアシを呼んでみると、彼は別の方法を提示した。
「この呪印は日向のもの以外に使うことを禁じられている。だが、点穴を突けば、チャクラを封印することができる」
考えてみれば、白眼専用に使ってきた封印術を輪廻眼にも適用するのは強引だった。どんな副作用が出るか分からない。本当に効くかも分からない。
よって、トグロもヒアシが言った方法で行くことにした。ただし、木の葉へのカモフラージュとして、呪いを模した刺青は刻む。長門本人にも本物の呪いだと伝える。時期を見て真実を話す。
長門が眠っている間に、刺青が刻まれた。長門はほどなく目覚める。呪いの話を聞くと怒り、トグロに挑みかかった。
トグロは人里離れた場所へ逃げ、そこで受けて立った。
多重木分身の術。
修羅道、口寄せの術。
トグロが50体もの分身を出す。
長門は修羅道で他世界の兵器を口寄せする。それをトグロに向け、ビームを放った。
「ふっ」
「何!?」
トグロは大いに驚いた。
仙法、光合成。
しかし、自身の特性を思い出し、咄嗟に光を吸収してみる。
実際、できた。光に当たった箇所のチャクラが増し、肉体が膨れる感覚があった。
「チッ」
天道、神羅天征。
長門はそんなトグロを神羅天征で弾き飛ばす。
「ぐおっ! っと」
挿し木の術。天然ゴム。
トグロは天然ゴムを混ぜた枝を地面に刺す。それで踏ん張り、徐々に自身の飛ぶ勢いを抑えていく。
木遁、ゴムの鎧。
さらに、自身の全身もゴム系の木で覆う。もう一度神羅天征を使われた時に、衝撃でダメージを負わないようにだ。
口寄せの術。
そこで、先の戦いで猛威を振るったミサイルを口寄せする。大地の実を食べ、一瞬仙人モードと化し、ミサイルを長門に投擲する。
天道、神羅天征。
「ぐっ」
しかし、またもや神羅天征の衝撃が出る。トグロはミサイルごと自身も弾き飛ばされた。
が、そのすぐ後、トグロの分身が地面から長門に迫る。
木遁、挿し木の術。
「ぐっ、ふっ」
長門は大量の木を避け切れず、押しつぶされていく。トグロは致命傷にはならないように加減していた。しかし木は当たったところから長門のチャクラを吸引していく。
餓鬼道、封術吸印。
が、逆に長門もトグロの木からチャクラを吸引にかかる。本来2人のチャクラ吸引スピードはトグロの方が若干速い。が、分身と本体では長門の方が有利だった。
しかし、そこで分身の1人が仙術チャクラを練ることを思いついた。あれは慣れていない人間にとって毒だ。分身は地面から自然エネルギーを集め、長門と触れる木に流し込んでいく。
「うっ。ぐおおおっ!」
策は成った。長門は突然苦しみ出す。頭を押さえ、もがき叫ぶ。
人相に変化が始まる。目元に隈が浮き出てる。次には、頭に木の角が生え始める。
天道、神羅天征。
しかし、長門は咄嗟に天道に切り替え、周囲の全てを吹き飛ばした。
「はあ、はあ、はあ」
「はあ、はあ、はあ」
両者息疲れが見えてきた。殺しはしないが、全力の戦いだった。
神羅天征の影響で2人は1キロ程度離れている。が、2人共とても目がいいので、お互いに表情がよく見えている。
「やるな! 前は俺より大分弱かったんだが!」
「はあ、はあ。……ふんっ。昔の俺と同じはずがないだろう!」
これは、サソリの言ったようにヤバイかもしれんな。
トグロは苦い顔で笑った。幼い少年の顔を思い出しながら。あの頃は歳の離れた弟か甥っ子くらいに思っていた。素直でやさしく、かわいらしかった。それが、無駄に力だけつけて、信じられないほど頑固になり、自分に立ちはだかっている。面倒だが少しおもしろくもある。
長門も、どこかすっきりした顔で笑っていた。戦闘自体が楽しいというよりは、自分の力を、思いをぶつけられるのがよかった。彼も心のどこかではトグロを認めていた。このしみったれた世の中で、自分達以上に上手く立ち回っている。しかし、それを認めたくなかった。長門は誰よりもトグロを超えたいと思っていたからだ。
「うおおおおおお!」
「柔拳法……」
この戦いに、下手な小細工はいらない。
2人は言葉を交わすことなく、同時に体術による闘いに移った。
「つあっ! らあっ!」
「ぐっ。ぬんっ! はっ!」
「くっ」
身体能力自体は長門の方が高い。しかし、チャクラ量はトグロの方が上で、チャクラコントロールもそうだった。さらに、柔拳の変則的な動き。長門は対応し切れなかった。
勝てる! まだ勝てるぞ! いよっしゃあああああ!
「せいっ!」
「ぐあああっ!」
鳩尾にトグロの掌低が決まる。長門は吹き飛び、とうとう倒れ伏した。
トグロはゆっくり長門に近づいていく。
「覚えておけ。はあ、はあ。日向は木の葉連合にて最強。はあ、はあ」
「はあ、はあ、はあ」
「……今から言うことは、真面目に聞け」
「はあ、はあ、はあ」
トグロはそう言うと、ゆっくりと長門の隣に座った。
「ダンゾウが輪廻眼を狙っているそうだ」
長門が気だるげにトグロを見上げる。
「そうか」
短くそれだけ言った。
「白眼で点穴を突けば、お前のチャクラを練れなくすることができる。だがしない」
「何の話だ?」
「俺は桃隠れでお前を拘束しない。お前が自分で自分の身を守れるようにな。だが、お前も黙って逃げたりはしないでくれ。3年、いや、1年でいい」
「何故言葉でそれを求める? お前は対話を否定したんじゃないのか? こんなものまで刻んでおいて」
長門は視線を上げて、自身のおでこを示した。
「そうだったな。忘れてくれ」
トグロは苦笑いして立ち上がった。
また、長門に手を差し伸ばし、自身のチャクラを分け与えながら、彼を立ち上がらせた。
「器用なもんだな。全く」
2人はそろって集落に戻った。なお、この戦いは親衛隊や近場の住人も見ていた。ヒアシはいつでも止めに入れるように準備していた。月などは、長門に襲い掛からんばかりの勢いだったので、綱手が必死に押さえたのだった。
長門、弥彦、小南の桃園アカデミー入学が決まった。その初日、長門と弥彦はアウェーの空気を味わうことになった。
「あいつが、ご主人様を……」
「しっ。殺されるわよ」
忠誠心の高い娘達は長門と弥彦に怒りを覚えていた。警備隊候補の少年達も、暁が桃隠れを裏切って草隠れに就いたことは知っているので、いい気はしなかった。
なお、年齢については大した問題ではない。この学園はできたばかりだ。年齢よって段階的に学年を上げるのではなく、能力によってクラスを別けている。修行場としての意味もあるから、現役の親衛隊、警備隊の人間も生徒としてやってくる。技術者コースと学者コースは言わずもがな、高等教育を終えた大人の勉強と研究のための場所だ。メイドコースですら、20代どころか30代の”女子”も通っている。
3人の案内はクシナに任された。川影のトグロが出向いては3人を特別扱いし過ぎることになり、他の生徒が余計に警戒してしまう。
桃園アカデミーの門を潜ってすぐ、大きな張り紙が壁一面に張っていた。
「あれは成績表ってばね。競争意識を煽ってるらしいってば」
見ると、『学期末共通試験の結果』と書いてあった。自然と一位に目が行った。
「なっ! 綱手さん!?」
一番上、492という数字の横に、綱手の文字がある。これには3人とも驚いた。彼女は生徒ではないはずだ。
しかし、さらに見ていくと、どういうことか分かった。
順位 点数 名前 役職
1 492 綱手 名誉顧問
2 461 サソリ 遊撃隊長
3 450 イズモ 技術者主任
4 446 千石 学者主任
5 435 フジタカ 学者歴史
7 419 アンヌ 遊撃隊二
9 400 トグロ 川影
10 365 タズナ 技術者建築
12 345 初 親衛隊副
15 337 長袖 警備隊長
・・・
110 239 スリミ 親衛隊六
113 235 ミゾレ 親衛隊四
122 210 月 親衛隊長
・・・
217 140 クシナ 川影補佐
220 138 ダイナ 親衛隊五
「なるほど。綱手さんが幹部の中で一位だったということか。さすがだな」
要するに、主要な役職に就いている人間の成績だけ載せているのだ。弱い立場の生徒ではなく、強い立場の教師が体を張って競争意識を煽る。そういうことだろう。
「そこ。5と7の間の6位が抜けてるのは?」
小南が5と7の間を指差す。6位は生徒なのだろうと予想はできるが、一応確認だ。
「ああ、6番はアラレちゃんだってばね。あの子は隊長とか幹部じゃないから名前は出ないってばね」
「なるほどね。…………え?」
あの子って、そんなに賢かったの?
「ほ、本気!?」
「何がってば?」
「いや、だってアラレちゃん!」
ほよよのイメージしかない。
天才だとは思っていたけども。けども! そういう意味の天才なの!?
「へえ、すごいじゃないか。このメンバーで6番か」
「アラレちゃんってどの子だっけ?」
小南は叫びたかったが、長門も弥彦も反応が薄かった。
それでいいの!? あなた達それでいいの!?
小南は心の中で叫んだ。
「ぷふっ。トグロのやつ8人に負けてんじゃねえか。川影のクセに」
「ま、忙しいから勉強の時間がなかった、とも考えられるがな」
長門と弥彦は「ははは」と軽く笑った。
しかし、不意にクシナがずーんと重い雰囲気になった。
「トグロはこれでちょうどいいってばね。これ以上賢くなったら私が点数取れなくなるってばね」
3人とも触れなかったが、見えていた。ビリ2がクシナがあることは。
しかし、少し言い方がおかしい気がした。小南が尋ねる。
「トグロが賢くなっても、クシナの点数には関係ないでしょう? あなたは自分の点数を上げればいいじゃない」
「違うってばね。テストはトグロが400点になるような問題を作り、採点されるってばね。だからあいつが忙しくて勉強できないと助かるってばね」
「それは問題があるだろう。徐々にテストが難しくなる」
「あんたから言って欲しいってばね! あいつ厳しくなる分には構わないとか言ってるってばね!」
「そうだな。機会があればな」
なんて言いながら、4人は最初の教室に向かった。
なお、綱手は不正をしている模様。
本当は440点くらいですが、見栄っ張りなので。
というわけで本当はサソリが一位です。風影になるために英才教育を受けてきて、本人も傀儡に血系限界を使わせられるほどの鬼才ですから。
タズナさんは波の国から引き抜きました。理系教科はほぼ満点です。
ちなみに他の主要な生徒は
順位 点数 名前
6 425 アラレ
8 418 ター坊(技術者コースの天才。本編にはまだ出ていません)
11 355 正就(半蔵の長男)
13 342 シズネ
20 322 バキ
47 285 ナデシコ(謝罪の前に歴史の勉強をする必要があると悟り、学者コースに来た。大名の三女)
のような感じです。英才教育を受けてきたナデシコより点数が高い子どもは間違いなく秀才です。トグロも地味に賢い設定です。