ありやとうごぜぇやす!
頑張ります!
「あなたは『スタンド使い』なの?」
「・・・・・・は?」
何言ってんだこいつ。
落ち着け、落ち着くんだ比企谷八幡。
俺にパニックという言葉は以下同文。
まず、状況を整理してみよう。
放課後の教室で椅子に座り美少女と二人きり。
ラブコメでよくある、甘酸っぱいシチュエーション。
だが、これは巧妙なハニートラップである!
プロのぼっちは屈しない!
そこまでは良い。
なんだスタンド使いって。
「雪ノ下、お前ってもしかして電波系?」
「質問に質問で返さないで頂戴。それとも、あなたの通って来た学校では疑問文には疑問文で答えろと教わったのかしら?」
・・・・・・・怖っ。
なんか人を何人か殺してそうな目で睨んできたんだけど。
目の中に光灯ってなさ過ぎだろ。
俺は思わず視線をそらしてしまう。
「い、いや、スタンド使いかどうかって言われても、そもそもスタンドっていうの?それ自体知らないんだけど」
「・・・・・・説明するより、見せた方が早いわね」
「は?見せるって何、を・・・?」
雪ノ下の目付きが怖すぎて逸らしていた視線を戻した時、雪ノ下の背後に何かが『居た』。
おおよそ人とは思えない肌の色をした『何か』は腕を組みつつ、雪ノ下の背後に佇み続ける。
「・・・私の『キラークイーン』が見えているという事は、やはりあなた、スタンド使いね」
「あ、ああ。もしかして、この悪霊をスタンドって言うのか?」
「側に現れ立つというところから来ているそうよ。それよりも、私はこうしてスタンドを見せたわ、あなたのも披露してもらえるかしら?」
「ん、ああ、俺のスタンドはコレだ」
俺は自分の背後にヴィジョンを発現させた。
雪ノ下は俺のスタンドをふむふむと頷きながら鑑定する。
あ、名前言ってなかったな。
「なるほど、取り付くしか芸のなさそうなスタンドね。あなたらしいわ」
「こいつの名前は『ハイエロファント・グリーン』っておいちょっと待てそれは酷すぎねぇか?」
俺のスタンド第一印象で酷評されすぎじゃね?
「だってあなた、将来の夢とか専業主夫とかって言ってるそうじゃない」
「どっ、どこでそれをって、平塚先生に決まってるか。そんなことより、俺からも一つ、質問していいか?」
「許可するわ」
なんだこいつ議長か何かか。
それでは、言わせてもらおう。
「ここは、何をする所なんだ?」
「・・・そうね、では一つゲームをしましょう」
「・・・・・・ゲーム?」
話聞いてたかこのアマ。
こいつこそ言葉のキャッチボール出来てないじゃないか。
しかし、雪ノ下の背後の『キラークイーン』が怖くて指摘できない。
なんであいつずっとこっち睨んでんの?
「そう、ここが何部か当てるゲーム。さぁ、ここは何部でしょう?」
「・・・・・・他に部員は?」
「いないわ、私一人よ」
「それって、部として存続出来るのかよ?」
悪態を吐きつつ考える。
たった一人でも成立する部活。
そして、学校に申請しなくてはいけないはずだから、スタンドは無関係、あるいは隠すために「スタンド部」とかにはしないはずだ。
てかなんだその部活クッソ入りたくねえ。
「文芸部か」
「へぇ・・・」
雪ノ下は少しだけ驚いたように目を見開く。
その反応を見て俺は正解を確信する。
フッ、こんくらい朝飯前だぜ!
「次にお前は『正解よ』と言う」
「はずれ」
違うんかい。
雪ノ下はフッと物凄く馬鹿にした感じで笑う。
おいこれすっごい恥ずかしいけど。
これがまさしく恥ずか死だわ。
「そ、それじゃあ何部なんだ?」
恥ずかしくて目を逸らしながら問いかける。
しかし、雪ノ下はゲームを続行する。
「では、ヒントを一つだけ。私がここでこうしていることがこの部活の活動内容よ」
ヒントを聞いても文芸部しかでてこない。
だが、プロのぼっちはうろたえないィィィ!
こんな部員一人の部活に顔を出すくらいだ、平塚先生自体もスタンドとやらのことは知っているんだろう。
つまり、顧問の承認は平塚先生から取れるということだ。
導き出される答えは一つ!
「スタンド同好会ッ!これっきゃねぇ!」
「はずれ。部って言ったじゃない」
「・・・スタンド研究部!」
「はずれ。そんなアホ丸出しの部活なんて作るわけないでしょう?」
心底俺を蔑んだ、いやむしろ哀れんだ目で見てくる雪ノ下。
あれは養豚場の豚を見る目だった。
「降参だ、全くわからねえ」
「持つものが持たざる者に慈悲の心を持ってこれを与える。人はそれをボランティアと呼ぶの。困っている人に救いの手を差し伸べる。それがこの部の活動内容。ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」
「お、おう」
言葉は優しいのに声がキッツイ。
お陰で歓迎されてる感がほぼゼロである。
あといつまでスタンド出してんの?
あいつそろそろ何かしてくるんじゃね?
「優れた者は哀れな者を救う義務がある、のだそうよ。平塚先生に頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたの人格やその腐りきった目を矯正してあげる。感謝しなさい」
「おー、まぁ、頑張ってな」
俺は他人事のように本を取り出して読もうとすると、ギロッと睨んできた雪ノ下と目が合った。
「あなた、自分の問題をちゃんと分かってる?」
「問題?俺は友達がいないことと彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだぞ?容姿だって目以外は良いし、国語は学年三位だ!」
「最初に致命的な欠点が聞こえたのだけれど・・・それであなたは、そのスタンドに目覚めたのはいつ頃?」
その質問唐突すぎないか?
俺のスペックにそれがどう関わるのか知らないが、説明して差し上げようではないか。
「そう、あれは四月のことじゃった・・・」
「うざっ」
心折れるからやめて雪ノ下さん。
「俺、入学式の日に事故にあってさ、一ヶ月ほど入院する位の骨折をしちまったんだよ。その病室で、変な女の人に会ったんだ」
あの夜、俺はどうも寝付けなくてな、スマホも触る気分じゃなかったんで窓ばかりボケーッと見てたんだ。
静かな夜だった・・・月に雲がかかって薄暗い感じが良かったなぁ。
その時だ、誰かに闇の中から見られる感じがしたんだ。
「また小町が来ちまったのかな・・・」
そう思ったが違っていたんだ。
あ、小町っていうのは俺の妹兼天使でって、その話はいらない?
あ、そう・・・・・・。
まぁとにかく、暗い病室の中に、『女』がいたんだ。
ベッドの頭のすぐ近くにな。
学生服を着た『女』だった。
『少女』と言わず『女』と言うのは顔が暗くて見えなかったからだ。
若いようであったし、年寄りのようでもあった。
俺はこの『女』が何者かと思う前に・・・・・・。
「あっ、あんた、いつからいるんだッ!」
そして次に
「どこから入ったッ⁉︎」
そう思った。
俺の問いに一切答えずにいる『女』を見ていたら、なにやら「弓」と「矢」の様な物を持っているのに気がついた。
とてつもなく古い弓矢だった!
『何百年もたっている』
そんな感じだった!
そして、いきなり俺に向かってその「弓矢」を引き始めたんだ!
あれはマジにビビったぜ。
そして、叫び声を上げる暇もないうちに
矢が、俺の喉を貫いていた。
「なぁ・・・俺が夢を見たとでも思うか?寝ぼけてたとでも思うか?でもよ」
「良いから話を続けて頂戴。」
「アッハイ」
でも、俺は死ななかったんだ。
まぁ、死んでたらこうしてここにいる羽目にもなってないけどな。
とにかく、確かに矢に貫かれたのに生きてたんだよ。
俺は必死に喉から矢を抜こうとしたが、ショックで上手く力が入らないんだ。
その時、『女』はここで初めて喋った。
「生きてたね、おめでとう。あなたには『素質』がある。『素質』の無い者は死んでいたよ。」
「あぐっ、ぐ、ぐあ」
「この『聖なる矢』に貫かれて生きていたということはつまり、あなたは、ある才能を身に付けたということなんだよ。」
「ぐっ」
あ、さっきから呻いてるの俺ね、念の為。
「それは精神の才能なんだよ。その才能が今、あなたの精神から引き出されんだ。君はなんだか面白そうだからね、君を選ばせてもらったよ」
そして、その『女』は俺の喉元に深々と突き刺さる矢に手をかけ、一気に引き抜いた。
その時だ、『ハイエロファント・グリーン』が発現したのは。
ちなみに名付けたのもその『女』だった。
「これで君は予定よりも早く退院出来るはずだよ。退院したら好きなことをしてね。君の精神の赴くままに、ね」
「なっ、何者だあんたは⁉︎」
「今は気にしなくていいよ、ただ、これだけは覚えておいて。わたしも君の仲間だよ、君やわたしの様な才能を持つ仲間が欲しかっただけ。じゃ、またねー」
『女』がその後どうやって病室から出たのかは知らない。
気付いた時には『消えていた』。
な、なにを言っているのか分からねーと思うが、つまりはそういうことだ。
「俺のスタンドのルーツはこれが全てだ。その『女』が何者で俺を仲間にして何をしようとしていたのかは俺には分からない。」
「その話・・・・・・・」
「まぁ、嘘くせえよな。俺だってこれを夢だと思って忘れようとしてたし」
「いや、信用するわ」
「・・・どうしてだ?まぁ、スタンドが存在する時点である程度は許容できるとは思うけど」
「そんな行動を取りそうな人に心当たりがあるのよ。全く、何を考えているのかしら・・・そして、そうね」
やれやれ、と雪ノ下はため息をつく。
本当はあの人が誰か聞きたかったが、何か話しそうだったので後にする。
そして、雪ノ下は俺に対してこう結論付ける。
「あなたに友達ができないのは、その自称高スペックやスタンドのせいではなく、あなた自身の性格やその腐った目が問題ということがしっかりと立証されたわね」
目は関係なくね?