比企谷八幡は動かない   作:ヘッツァー

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あまりこの組み合わせのSSを見かけなかったので書いてみました。
お手柔らかにオナシャス!


第1話

高校生活において、友情は偽りである。

いや、これは高校生活に限らず人生全般に言える事だが、友情とは、いかに相手を自分に都合良く行動させるか、その為に存在する言葉である。

よく「心の友」だとか「大親友」だとかやたらと響きの良い言葉を使う者がいるが、そう言う者程その傾向が強くなる。

しかし、友情の乱用で訴えられる事などない。

何故なら、その方が都合が良いからである。

この世には、強者と弱者が存在し、そして本来交わる事のないその二つの存在を繋ぎ合わせる言葉こそが友情なのである。

つまり、強者と弱者の線引きを曖昧にし、使い使われる関係を上手く隠す事が狙いなのである。

 

結論を言おう。

友情爆ぜ散れ。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

「この作文は何だ、比企谷?」

 

国語担当教師の平塚静は俺の作文を大声で読み上げた後、そう俺に問いかけてきた。

無駄に美人なだけあって睨んだ時の迫力はもの凄い。

これだけで土下座までは余裕で行えるまである。

 

「何って、『高校生活を振り返って』というテーマの作文ですが。こう言ってはなんですが、上手く書けた自信はあります」

「そうだな、最低限日本語は書けている。内容が問題なんだよ、君は一人で暴動でも起こそうとしているのかね?」

 

平塚先生はやれやれ、といった風にため息をつきつつ、胸ポケットからタバコを取り出す。

あれ、ここって高校だよな。

そしてここは職員室だよな?

良いの?これって生徒指導、いや先生指導じゃないの?

平塚先生はタバコを一服した後、こちらをギロリと睨みつける。

 

「さて、比企谷。一応聞くが、言い訳はあるかね?」

「別に、ありませんけど」

 

あー、早く終わんないかな。

最近ハマっているゲームがあるからそれの続きがしたい。

 

「比企谷、何も私は怒っているわけじゃあ無いんだ」

「ははっ、ご冗談を。そんなに青筋立ててそんな事言っても説得力が」ヒュッ

 

一陣の風が吹く。

予備動作が全く見えなかったグー。

それが俺の頬を掠めていた。

 

「私が本気で怒ったなら、君は五体満足ではいられないからな?」

「・・・・・・肝に銘じておきます。」

 

ヤバイこの人何がヤバイってマジヤバイ。

おいさっきから冷や汗が止まらないのですが?

俺の本体が故障したからカスタマーセンターに電話しないと。

とりあえずこれ以上刺激したら死ぬな、俺。

じんせいってたのしかったなぁー、あははー。

 

「君は、部活には所属しているか?」

「いえ、入ってませんが・・・・・・」

「・・・・・・友達って知ってるか?」

 

二つの問題の落差あり過ぎだろ。

友達がいない事前提じゃないか。

 

「友達、という単語の意味は知ってますが、作った事はありません。」

「やれやれ、それはきっと出来ないの間違いだぞ。まず、作文は書き直せ。そして、それとは別にこんな作文を書いた罰を与える」

 

あー面倒臭いパターンだ、なんかの作業とか手伝うとかだろうか。

こんな事なら嘘偽り混ぜまくってそれらしい作文を書くべきだった。

 

「君の様な人種を矯正するのも学校の役目だと私は思っている。という訳で、付いてきたまえ」

「・・・・・・うっす」

「やけに素直だな。さては観念したか?」

「違いますよ、反抗しても意味無いし、死にたくはないですから」

「そうか、そんな考えだからそこまで目が腐っているのかもしれんな」

「そっすね」

 

軽口を叩き合いながら、目的地に向け歩き出す。

道中、作文に書いた友情について考えていた。

一体、人には生きている間に真に心を通わせる事の出来る人間が何人出来るのだろう、と。

きっと俺には現れない、現れるはずがないのだ。

俺と仲良くなろうとする奴はかなり限られているしな。

俺どれだけ変なやつ認定されてるんだろう。

なんかぼっち道極めたのか知らんが最近変な物まで見える様になったし。

なんだこの人生詰んでる。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

特別棟の廊下を二人で歩いて行く。

この辺りは普段来る事が少ないので、自然とキョロキョロしてしまう。

なるほど、この辺りは人が少なそうだな。

新たなベストプライス探しが捗るかもしれない。

やがて平塚先生はある教室の前で歩みを止める。

その教室のネームプレートには何も記されておらず、何に使用されている教室かは分からない。

 

「さぁ、着いたぞ、ここだ。邪魔するぞ、雪ノ下」

 

平塚先生がガラリと扉を開け、教室の中に入って行く。

その後を追って入ってみれば、机や椅子が後ろの方に片付けられ、がらんとした教室の中でぽつんと一人、椅子に腰掛ける女生徒がいた。

その光景を見た時、『綺麗』だ。

不覚にも、そう思ってしまった。

 

その女生徒は、読んでいた本を閉じ、こちらを向く。

 

「平塚先生、入る時はノックをして下さいといつも言っているじゃないですか」

「はっはっは、いいじゃないか。それにノックをして君が返事を返した事などないだろう」

「返事をする前に先生が入ってきているんですよ・・・」

 

うーん、このまま世間話とか始めてくれたら俺帰るんだけどなぁ。

そう考えていると、女生徒は俺を一瞥してから再び平塚先生に話しかける。

 

「で、そこで突っ立っている不審者は誰ですか?」

 

どうやら俺は制服を着ていても不審者扱いのようだ。

きっ、傷付いてねぇし、本当だし!

でも、それも仕方無いかもしれない。

俺は彼女を知っている。

雪ノ下雪乃。

帰国子女や留学志望の連中が集まる国際教養クラスの中でトップを誇る成績。

加えて容姿もトップクラスときたもんだ。

校内で彼女、雪ノ下雪乃を知らない人は殆どいないだろう。

かたや俺はその辺に掃いて捨てるほど、いや、むしろ珍しいくらい見事にスクールカーストの底辺に位置する存在。

そんな俺のことを知っているかと思うことがすでにおこがましいし、知っていて欲しいとも思わない。

 

「彼は比企谷、入部希望者だ。仲良くしてやってくれ」

 

雪ノ下の問いに、何故か俺ではなく平塚先生が答える。

ってちょっと待て。

 

「ちょっ、平塚先生、入部って何すか⁉︎」

「これが君への罰だ。異論等は一切認めんからそのつもりでな。そういうわけで雪ノ下、こいつの清々しいほど腐りきった性格の矯正を依頼したい」

 

そう平塚先生は判決を下す。

これは横暴も過ぎるぞ。

てか清々しいほどってなんだよ。

それってもはや一周回って綺麗だろ。

 

「嫌です。そんな下卑た目をした男を入部させる事は出来ません」

 

入部に反対ってとこは同意だが、もう少し言い方あったよね?

まぁ、慣れてるからこれくらいでは軽く死にたくなるくらいだが。

 

「心配するな、雪ノ下。この男のヘタレさは小悪党並みに素晴らしい、刑事罰に問われるような事はしないさ」

「そこは危機管理能力に優れてるとか他に褒め方あるでしょ」

 

小悪党って何だ小悪党って。

 

「小悪党、なるほど・・・・・・」

 

雪ノ下は、ふむふむと頷きながらそう呟く。

納得するんかい。

雪ノ下はため息を吐きつつ結論を下す。

 

「まぁ、先生からの依頼であれば無碍にはできませんし・・・・・・。承りました」

 

雪ノ下が苦虫十匹くらいまとめて噛んだんじゃないかってくらい嫌そうな顔をしながらそう言った。

 

「そうか、じゃあ頼んだぞ」

 

そう告げて平塚先生はさっさと教室を後にする。

マジかよこれどうしろってんだよ。

落ち着け、落ち着くんだ比企谷八幡。

俺にパニックという言葉はない!

教室の扉が閉まりきった後、雪ノ下は読んでいた本に栞を挟み、ぱたんと閉じてこちらに向き直る。

 

「単刀直入に聞くわ。あなたは『スタンド使い』なの?」

「・・・・・・は?」


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