F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

7 / 37
07.才能と過去と

 才能や天賦の才ってのは実際に存在する。俺はそんな言葉ひとつで済ますのはどっちかってと好きでないし、認めたくない人間もきっといるだろうな。しかし事実としてソレは確かに存在する。

 だって個人の才能ってもんがないなら同じ練習量、同じ学習量で過ごせば全く統一されたレベルの人間が出来上がるだろうよ。だけどそんなことは起こり得ないし、現実的にほぼ同量の努力をしたとしても明確な差が生まれることは日常茶飯事だ。

 そう考えると……おんなじクローン人間を産もうとしても無理だろうな。

 それにジャンルが変われば優劣が入れ換わることも少なくねぇし、才能ってのは個性って言い換えてもいいかもしれん。

 

「へぇ、一夏も訓練か」

「桐也もこっちに来いよ、一緒にやろうぜ?」

「肩から手を離せこの野郎、目が据わってんぞ」

 

 まぁ、その個性も無個性が努力すれば追いつけることも少なくない。所詮、才能ってのも基本的に()()()()()というだけで手を抜けば、全力で取り組む奴にいつか迫られるのはわかりきっている。

 ただそれは個性(才能)の持ち主が才能におんぶ抱っこの怠け者の場合に限った話だ。

 

 才能の持ち主をスポーツカー、凡人を乗用車にでも例えりゃわかりやすいかね。スポーツカーのアクセルを浅く踏んでる状態なら乗用車でいくらでも追いつける。

 けどスポーツカーがアクセルペダルを踏み込んだら? 答えは明瞭、簡単にちぎられる。同じ踏み込みでも元々の向き不向き(マシン)に大きな差があるのだから当たり前だ。

 だから同量同質の努力をしたときには、まあ才能のあるやつが勝つだろ。

 実際は自分がどのジャンルに対して才能を持っているか知らずに過ごすことも多いんだけどな。けど、それに気づけて努力した奴の伸びは尋常じゃねぇ。

 

「そこを……その、ズバンッ! って感じだ」

「十三時の方向に60°傾けつつそこで一零停止ですわ」

「両極端過ぎんだろ!?」

「あ、目が死んでた理由がわかったわ」

 

 ──そう、ならば一年で代表候補生になった凰鈴音とは一体どれだけなのか。

 何があったか知らんし何を思って代表候補生になったのかも知るわけない。ただ中国っていう世界最大人口を有する国の13億分の1たる国家代表、その金の卵にまで()()()()()で登り詰めた。いやはや、その才能も努力も測り知れん──や、人の人生なんて他人が測れるもんじゃないんだけどなー。

 

「もっと具体的に教えてくれよ!?」

「この上なく具体的かと思うのですけど」

「セシリアの方じゃない、そっちはもっとほどいた感じに教えてくれ……」

「ならば私の説明でよくないか?」

「いやいや、だから箒の方は……桐也ヘルプ。自分から二人に頼んどいてなんなんだがサッパリだ……」

 

 で、だ。そんなこと考えて現実から目を逸らすのもそろそろ限界というか引き戻された。完全に擬音で説明する箒さん、本当に擬音オンリーだ。数学の解き方を教えず公式だけ見せているかのような説明のセシリアさん、理論でカッチンコッチン。確かに分かりにくい、いやわからん。

 けど、だからって明らかに知識不足な俺に頼るのもどうかと思うんだ。

 

「箒さんとセシリアさんをフュージョンだかフォーチュンだかして二で割れば程よくなるんじゃねぇかなー」

「投げやりだな!?」

「どーしても応用的なことができなくてブルーな俺になに求めるんだよ、コンチクショウ……」

 

 なんで円状制御飛翔(サークル・ロンド)をしてから緊急回避の特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)が出来ねぇんだろうか。瞬時加速より難易度はかなり下ってセシリアさん言ってたのにおかしい、なんだこれ全身筋肉痛になりそうだ。

 ぶっちゃけ特殊無反動旋回ならぬ超激動旋回になってる。ハッキリ言って俺に操縦の才能はない気がする。

 

「一夏さん、ひとつ良いことを教えて差し上げます」

「なんだ……?」

「“名選手、名監督にあらず”ですわ。正直わたくし人に教えるのは得意ではないです」

「……まぁ、私も得意ではないな。だが一夏からの頼みだ。こう、幼馴染みとして付き合おうと思ってだな。近距離格闘戦のため、と……実践経験を積んだ方が早いと思ってな」

「あ、いや……なんかすまん」

「じゃ、そういうことで実践経験を積むといい。俺はここ三日かけてただの一度も成功しない初歩的応用技術を、ただひたすら施行回数を重ねることで成功へと辿り着くから」

「辿り着けますの?」

「正直やめたい」

 

 いや、だって円軌道を描きながら射撃を行って、不定期な加速をする円状制御飛翔……いや、回避行動がないから(モド)きか? まあそれは不格好ながらもそこそこ出来るようになるまでかからなかった。

 特殊無反動旋回に至っては10分くらいで出来るようになったんだぞ? なんで足しても一時間もかかないのにふたつ合わせた、というか繋げるだけで三日も時間かかるんだよ。そろそろ坊主になんぞ。

 

「なら気分転換に一緒に模擬戦やろうぜ!」

「ハハハ、お前みたいな一撃必殺仕事人な機体ならともかく俺みたいな量産型はほら、基礎が大切だからナァ」

「ですが行き詰まってるのでしょう? でしたら模擬戦をしてみるのもひとつの手かと。各々にあった訓練方法はやってみるまではどれかはわかりませんもの」

「うわーい、正論で逃げ道潰してくださいやがりましたな」

「それにさっきのは円状制御飛翔ですか? あれは複数の機体で回避行動を交えて行わないと」

「ウィースッ! やっりまーす!」

 

 セシリアさんの正論ででっちーのハートはボロボロだぜ。なんとなく出来ていたつもりの、()()()()()の部分を普通に見透かされた感じがしてすごく恥ずかしいったりゃありゃしねぇ。

 あれだなー、なんとなくをなんとなくで流しちまうから駄目なんだろうなぁ。

 まあ同じところグルグルグルグル回っててもしゃーねぇか。昔の偉いかはわからない人は言いました。押して駄目なら引いてみろ、駄目な方法を延々と繰り返すより他の方法を試すべきってな。

 

「よし……こいよ一夏! 雪片弐型なんて捨ててかかってこい!」

「死亡フラグに乗っかった上に唯一の武器捨てられるか!」

「チッ」

 まあ結果は散々だった。一夏とは素人同士そこそこやりあえたものの零落白夜を使われてから及び腰になっちまって、怯んだところをズパッシ。

 セシリアさんはなんかもう、避けれど避けれど当たる当たる……こんなドのつく素人に警戒心バリバリで不意も突けねぇんですもん。

 では同じ量産型の打鉄を駆る箒さんはどうだったか。

 アレはヤバイ、以上。

 

「一夏さんは追い詰められたときに単調になりすぎですわ。零落白夜からの加速し突撃ばかりでした」

「そうだ、一を極めれば確かに千冬さんのよう(恐ろしいもの)になり得るがこのままではただのワンパターンだぞ」

「あー、どうも焦るとなぁ……てか二人とも普通に指摘できてないか?」

 

 一を極めれば、ウチの世界最強な担任かね? 奇しくも姉弟揃って同系統の単一仕様能力を持ったわけだし、一夏も極めれば或いは、ってことかね。

 なんだろうなこの敵IS絶対ブッコロス姉弟は。

 

 それとこの二人が普通に指摘できてるのはあれだろ。反復のための見直しであって指摘じゃないからってとこじゃないかね。

 

「ですわ、これはただの振り返りですから。練習をしそれを振り返り分析し、そしてまた練習。基本ですわ」

「私も同じだ。素振りをして悪いところを自分なりに見直して鍛練を積む。そしてズバンッ! という形まで仕上げるのだ」

「そっか、最後以外はわかったぜ」

「では桐也さんですけど、ひとつひとつの技術は平均的なライン、もしくは少し上回っている程です。ですが、何故でしょう……改めて戦ってみるとわかったのですが、なんというべきでしょう」

「ふむ、()()()()()と言い表すべきか。とても綺麗な上段を振り下ろしているのに踏み込む足は左右逆になっているとでもいうべきか……」

 

 言われてることは果てしなく抽象的なんだが自覚はある。ひとつの動作から次に繋げるときにどうしても切り換えのための半拍をくってしまってる。結果、一・二・三と繋がった動きができず一・一・一といった独立した動きの連続になっているんだよな。

 稀に上手くいくときもあるんだが基本的に下手なことは自覚している。友人に綺麗なちぐはぐだと言われ、よく笑われたしな。

 

「ま、繰り返して繰り返してトライ&エラー。あとは慣れるまでひたすらやるしかないわけだ」

「ええ、なによりひとつひとつの技術が出来ている分アドバイスしにくく……お力になれず申し訳ないですわ」

「いんや、謝らんでくれ。間違いなく俺の性質のせいだから、これ」

「おう、それに練習なら俺がいくらでも付き合うしな!」

「素人と素人の練習……あっれー、泥沼な未来しか見えねぇぞ?」

「お互いを高めあう好敵手というより足を引っ張り合いそうだな」

 

 ごもっともで。

 このあと更衣室に戻ると鈴がいた。具体的に言えば俺たちが向かったわけだから男子用の更衣室に鈴(女子)がいた。ちょっとよくわからなかったんで一夏を残して着替えずに部屋に戻ることにした。

 鈴とのすれ違い様に男前に投げつけられた缶ジュースをチビチビ飲みながら……ISスーツを来たまま部屋へと帰、れなかった。おい誰だ、織斑先生にチクった奴!

 

 

▽▽▽▽

 

 

 長椅子に並んで座る一夏と鈴。二人が離れてから一年、懐かしいやらなんやらで積もる話を語り合う。何故、凰鈴音という少女が男子更衣室にいたかなどという疑問は頭の片隅に押しやっていた。そんななかケタケタと笑っていた鈴の表情が少し陰った。具体的には一夏が凰鈴音の両親について聞いたその時に。

 

「あー、お父さんとお母さんね、別れちゃった。離婚しちゃったの。あたしが国に帰ったのもそれが理由だったんだ」

「そうだったのか……すま」

「謝らないでいいわ、でもちょっと聞いてくれる?」

 

 見たこともないような、力ない触ると壊れてしまうのではないか、そう思わせる表情をした鈴を見て一夏は黙って頷く。だがそのとき織斑一夏は見逃していた。弱ったかのように見えるその顔の瞳、その奥には何かを決意した力強さがあることに。

 ため息をひとつ吐き、艶やかながらも引き締まった脚をプラプラと揺らし、天井を見上げた鈴の表情は一夏には伺えない。

 

「やー、あたしはずっと変わらないけど一緒にいると心地よい家族ってのが続くって思ってたんだけどね。でもずっとなんて、永遠なんてないって知ったわ」

「……」

「ううん、少なくとも()()努力しない限り存在しないことを知ったの。だから、だからね一夏」

 

 ダンッ! と揺らしていた両足を叩きつけるかのように音を鳴らし、長椅子から立ち上がった鈴は向き直り一夏を見下ろす。

 その爛々と輝く瞳と表情には先程までの陰りは微塵も見られない。チャームポイントの犬歯を剥き出しにしニヤリと笑みを見せた。

 

「私は私の幸せために頑張ったの、ここに帰ってくるために。そしてそれは叶ったわ! あとは鈍チンなあんたを振り向かせるの!」

「ん? 振り向くもなにも今は真っ直ぐ鈴を見てるんだが……」

「あーあー! キコエナーイ! その反応が返ってくるのは期待の範囲外だけど予想の範囲内よ! だからこれは私のためのこれからもあたしが頑張るための宣言よ!」

「お、おう」

「じゃ、あたしは部屋に戻るわ!」

 

 そう捲し立てた鈴はピューッ! と一夏が止める暇なく出ていった。そんな姿を呆けた顔のまま見送り、理解できないこともあったが鈴はとっても頑張っててこれからも頑張るという、特に後半部分に関してはフワッとした理解をした一夏。そして着替えようと脱ごうとした瞬間、鈴が戻ってきた。

 

「あ、言い忘れてたわ。空気読んで着替えもせず出ていった桐也にお礼言っといて! じゃ!」

 

 出ていった。

 

「お、おー……相変わらずせわしないなぁ」

 呆けたままであった表情を崩しつつ着替えた一夏は色々あったであろうに、なのに、いやだからこそか。どこか強くなっている幼馴染みに笑みをこぼすのであった。

 

 

 ──翌日、一夏と桐也が噛み殺しきれない欠伸(あくび)を口から漏らしつつ、玄関前廊下に集まる人だかり、その先に貼り出された紙を見つけた。

 内容は、まあクラス代表対抗戦日程表であった──一回戦一組対二組。つまり、織斑一夏と凰鈴音。

 そのとき横にいた桐也が見た織斑一夏は、とてもやる気に満ちた表情をしていたという。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「というわけで桐也、付き合ってくれ」

「主語入れろや」

「あ、すまんすまん。放課後練習に付き合ってくれないか? あれ、なんで周りが舌打ちしてるんだ?」

「なんでだろうね、俺にはわっかんねーわー」

 

 こんな女ばっかの学園で百合の花が咲き乱れる反面、一部は腐り落ちてるとかそんな事実いらねぇんだよ。是非とも腐葉土として百合の養分にでもなっていてほしい。

 

「で、どうだ?」

「えー、クラス代表対抗戦のアリーナの席取れたから転売しようと思ってんだけど」

「それ一昨日に同じことした二年生が千冬姉に制裁下されてたの見たぞ」

「一夏、俺アリーナで応援してるからな!」

「清々しいほどの手のひら返しだな」

 

 あと少しで観戦チケットが地獄への片道切符になるとこだった。正直、女子に囲まれてアリーナにいるより校内のモニターで悠々と見たかったんで売却する予定だったんだがなぁ。

 予定がお釈迦だが、まぁ俺がお釈迦に迎えられるかの二択なら余裕で前者の方がいいとも。

 

 だけど練習に付き合うっても、俺よかセシリアさんや箒さんのが絶対にレベルアップには繋がるんじゃないのか云々かんぬん。と聞けば二人とも今日は用事が入ってるとのこと。

「じゃあ、せっかくだ……一回ガチンコでやってみるか?」

「おお、いいな。結局クラス代表を決めるときには戦えなかったしな。手加減なし、負けないぞ桐也!」

「はっ、零落白夜の攻略法を見つけた俺に死角はねぇよ」

「えっ?」

 

 超嘘だけど。一撃貰ったらほぼ負け確定の技なんて、スゲェ怖いんでできたら使わないでくんないかね。いやはや、口だけはホントによく回って困るぜ。

 取り合えずハッタリとして意味深に笑みを浮かべておく。焦った顔の一夏を見てるのは楽しいが残念だったな。内心は俺の方が焦ってるぜ!

 

 そんな俺の焦りを知ったこっちゃないとばかりに互いにISを装着した俺と一夏。もうなるようになれよ、決して俺は嘘をついたんじゃない、間違っただけだからな。人は嘘をつくんじゃない、ただ間違うだけなんだゼ?

 

「そんじゃあ、やりますかァ!」

「おう!」

 一夏の癖は開幕直後の突撃。ただし今までそこで零落白夜は使ったことはないので今回も使ってこない、はずだ。使ってくれるな、むしろ終わりまで使うな!

 振るわれたのは硬質な、エネルギー体でない物理の刃。大雑把な予測にもならない予想は的中、胸部を横一閃しようと肉薄する刃を左側非固定浮遊盾(アンロック・シールド)を割り込ませることで強引に火花を散らせながら弾く。唯一の武装が弾かれた一夏の胴体が無防備となった。

 

 展開したのは大口径ショットガン、ただし吐き出す弾丸は散弾ではなく──スラッグ弾。その銃口を白式に押し当て。

「ブッ飛べ一夏ァ!」

 

 引き金に掛けた指を引く。撃ち出されたバレーボール大のそれは本来のように散弾として散ることはなく、ひとつの弾丸として白式の胸部装甲を捉える。一夏に伝わった衝撃は如何ほどか、衝撃性による破壊力を重視したソレは胸部装甲に波紋状に罅を広げ一夏を大きく仰け反らせた。

 ただこちらも一息つく暇などなく、続けて二発目を撃つが一夏の反応の良さ、スラッグ弾の初速の遅さのせいかこの近距離で避けられる。決して俺の標準が甘かったわけではないと信じたい。

 

「へっ、先制は取られちまったな!」

「撃つべし撃つべし撃つべし!」

「ぬお!? 会話のゆとりを持とうぜ!?」

「うっせー! こちとら雪片さんちの零落白夜ちゃんがいつ出てくるか気が気じゃねぇんだよ! さっさと落ちろや!」

「なんだよそれ!?」

 

 言葉のドッジボールをしながら盲撃(めくらう)ちするが白式は余裕で躱し、再び距離を縮めてくる。

 正直、俺の射撃テクじゃマシンガンに切り換えたところで弾幕も上手く張れずに毎度一夏に距離を詰められるのがオチだ。散弾銃を投げつけ――普通に斬り払われた、南無三――刀型ブレードを展開。一夏の熱くなりすぎる性格を利用した一回コッキリの作戦擬き、決して開き直りではないぞ。

 非固定浮遊盾も織り混ぜたナンチャッテチャンバラで一夏の猛攻を辛うじて凌ぐ。わかってたけど凌いでるだけで防戦一方だよチクショウ! あっ、雪片弐型の刃が青白いエネルギー体に──零落白夜ちゃんが出てきやがった!

 

「桐也、見せてもらうぜ! 零落白夜の攻略法を!」

「あー、そんなこと言ってたなぁ! 忘れった!」

「あ、もしかしてハッタリか!?」

「アッハッハ!」

 

 笑って誤魔化しつつブレードを投げつけ――やっぱり弾かれた――反転、一夏の間合いから()()()()外れた距離を維持し全開ではないものの全力の逃走を始める。ただし大切なのは逃げることでなく、一夏と俺の間隔。届くと、当てることが出来ると思える距離だ。

「なっ、待て!」

「古今東西その台詞を言われて待った奴はいねぇよ!」

 

 当然、一夏は追ってくる。一太刀浴びせれば落とせる一撃必殺をおっ下げて、それを()()()()()()な。初めのスラッグ弾、俺を追い初めてからの経過時間。そろそろかね。

 打鉄のスラスターからエネルギーを放出してぇ……!

 

「一夏ぁ! 零落白夜を展開したままどれだけ経ったよ?」

「えっ、あっ……!」

 再吸収からの瞬時加速ォ! ただし用途は逃走でなく飛び蹴り、つまり向かう方向は一夏きゅん。ゴシャア! と巨大な金属同士が衝突する轟音、俺にとっては快音とともに白式はアリーナ中央に落ちていった。我ながら呆けたところにいいカウンターを決めれた。しかし打鉄のシールドエネルギーがごっそり半減してるのは、あれだな。

 万が一にでもカウンターにカウンター被せられないように、瞬時加速使ったのにどういう反射神経してやがりますかねぇ。蹴り飛ばされる瞬間に雪片弐型を意識的にか無意識にか、振り上げやがった一太刀が左胸部を掠めていった。最後まで目ぇ離さずにあの一瞬で切り返してくるし、もう目が一瞬輝いたとすら錯覚した。

 別にビビったわけでも怖かったわけでもない、断じてない。

 

 

「ガー! くっそー、負けたぁ!」

「まあ、ぶっちゃけ奇策で奇をてらったというか、一夏の癖みたいなの利用しただけだから次からはまた負けそうなんだがなー」

「え、俺の癖?」

 

 更衣室、模擬戦を終えた頃にはアリーナ閉鎖時間もほどほどに近づいてきていたので今日は少し早めに引き上げることにした。着替えながら今日の振り返りを少々。

 

「ああ、熱くなると深追いするというか、引くってことをしねぇからな。零落白夜を当てれば終わるってのはそりゃあ大きな利点だが、消費エネルギーが頭からすっぽ抜けたらただの自爆技だ」

「あ、あぁ!? 桐也がスラスター全開にして逃げてなかったのって」

「イエス、当てれそうな距離を保ったら意地になって零落白夜当てに来るかと予想したらビンゴってわけだ。一夏がワンオフを使用したままなら逃げ続ければ」

「白式のエネルギーが尽きてさっきみたいに自爆か」

 

 失敗した瞬間に俺が負けるから冷や汗もんだったがな! 実際、最後の一瞬であれだけ持っていかれてるわけで、正直二度とやりたくねぇ。二度もするまでもなく通用しねぇえんだろうけど。

 

「してやられたってわけかぁ」

「最後にカウンター被せられたのは俺も焦ったけどなー」

「え、俺が?」

「お前以外誰がやるんだよ」

「そうなんだけど。いや、必死だったから最後の瞬間の記憶がなくて」

「ナニソレ怖い。まあそういうこともあるか。とりあえず一夏は突進癖と熱くなりすぎるのを直した方がいい気がしたぞ」

「突進癖に関しては雪片弐型しか武装がないんだが……」

 

 あっ。微妙な沈黙が更衣室を満たす。

 

「しょ、所詮は素人目線だからな、うん……ガンバ!」

「他人事か!?」

「うっせー! こちとら一世代前の機体で頑張ってんだ! どうせ武装の数があってもほとんど使いこなせないんだから、そっちの方がいいじゃねぇか!」

「やめろよな、言っていい嘘と悪い事実があるんだぞ!?」

「多科目一気に勉強しようとして小テストボロボロだった一夏くんが何か言ってらぁー!」

「やめてくれ桐也、その言葉は俺に効く……! あと今日のIS改修基礎のノート見せてください!」

「またかよ!?」

 

 クラス代表対抗戦二週間前――こんなんで大丈夫か心配になる今日この頃であった。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
ホーキちゃん、ヤバイ。
酢豚の約束いずこへ。
相変わらずのハッタリでっちー。
一夏きゅんお目目ギンギラリン。

の四本でお送りしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。