F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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06.キブンリンリン

「うっふっふー……着いたわ!」

 

 深夜、と呼ぶには少々早い時刻のIS学園正門前。

 小柄な少女が、艶やかな黒髪を頭部の両サイドで括った髪型――俗に言うツイルテールを夜風でいい感じに(なび)かせ仁王立ちしていた。まだ夜になると多少ながらも肌寒い季節なのだが、軽装な少女は気にすることなく顔をほころばせている。

 手荷物はその小さな身体に見合った手提げ鞄のみ。その手提げ鞄は、彼女の内心のテンションを表すかのようにブンブン振り回されている。遠心力と中身の重量で手持ち部分が悲鳴を上げるも少女に届くことはない。

 

 この落ち着きのない少女、実は転校生である。手荷物が少ない理由は単純に既に郵送済みであるからだ。

 諸事情により入学式には間に合わなかったのだが、明日からIS学園一年生になる。

 

 そうして意気揚々と正門、正面ゲートをくぐ――ガシャンッ! れなかった。当たり前である、門はまだ閉められていたのだから。当然の結果として顔を柵にぶつけた少女の鼻は、トナカイもかくやというほど赤くなったが本人は気にも止めない。

 

「あいちちち……アハハー、気がはやりすぎちゃったわ」

 

 今度こそIS学園の生徒手帳をゲート横のスキャナーにかざすことで、門がゆっくりとスライドし始めた。

 そんな門を前に、何故か少女は不意に手提げ鞄を上空に放り投げ、軽くステップを一回、二回、三回――――バクテン。

 小柄な身体に秘められたバネと有り余るエネルギーを爆発させるかのような、しかし華麗にツイルテールとその身体は弧を宙に描き、正面ゲートの門を飛び越えた。

 

「はいっ!」

 

 両足を揃え着地、そこに落下してきた手提げ鞄をキャッチ。十点、十点、十点。ほぼ同時に門が虚しく開ききる。だが、そこを通るはずであった人物は既に学園敷地内にいる。少女のはやる気持ちに対して門はあまりにもスロウリィだった。

 そんな門のことなんて思考の片隅に欠片すら残さず、少女は綺麗に決まった自身のバクテンに満面の笑みである。

 そして目指すべき場所、『本校舎一階総合事務受付』という名称が書かれた紙を取り出し……

 

「ちぇいっや!」

 手刀で裂いた。場所の名前は書いてあるが地図が描かれていないのだ。切れ切れ細々粉々になったメモ帳を夜風が拐っていく。

 

 ――やー、あたしの本国適当すぎないかなぁ?

 

 そんな風に考える少女は実は日本人ではない。顔立ちはほとんど日本の()()だが、よく見ればどことなく鋭角的であり中国人を彷彿とさせる。

 それは当たりであり生まれは中国、育ちは日本なこの少女はわけあって生まれの故郷に一年ほど戻っていた。そして今、久しぶりに育ちの故郷に帰国した彼女、やけにテンションの高い理由はこれであった。

 

 しかし、そんなテンションも強制的にクールダウン。明後日の方向、気持ち的に本国の方向を眺めなつつ、本国の適当さに何とも言えない気持ちになってる少女。

 

「ま、こんなとこで呆けててもなにも変わらないわよね。うん、取り敢えず学園中歩き回ればいつかは着くわよ」

 

 タッタッラッタラ~、と鼻唄混じりにスキップしつつ校舎に入っていく彼女は知らなかった……校舎入り口、玄関横に学園内全体図が貼られていたことを。

 

 だが、幸か不幸か中国生まれの日本育ちなスーパーフィジカル少女。土地勘が良かったのかものの15分ほどで、目的地である本校舎一階総合事務受付に到着したのであった。決して身体能力が高いからスキップが速くて、学園を巡りめぐって辿り着いたわけではないのだ。ないのだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 二組に転校生が来る。そんな噂が一組を駆け巡っていたのだが、始業式より一ヶ月。どうしようもなく半端な時期の転校生、漫画なら主人公ポジションにでもなれそうなタイミングじゃないか。

 いやぁ、ワクワクするな。きっと転校初日にヒロインの全裸を見て決闘になるんだろ? でっちー知ってんだぜ、そういうのが流行ってるって。

 ま、IS学園でそれやると九割九分九厘レズカップルが完成してしまうわけなんだがな。俺は百合が咲き乱れるカップルが、きっと学園内には存在すると信じてる。百合の園、いい響きじゃねぇか。

 

「桐也、話聞いてるか?」

「あぁ、百合がどうした」

「全く聞いてなかったな? いや、転校生が二組に来るらしいぜ」

「その子が中国人ってとこまでなら誰に聞くまでもなく耳に入ってきた」

 

 本当にその話題で持ちきりだからな。クラス代表が変わるだのなんだのも聞こえるが、噂話なあたりどこまでが真実かは怪しげなところだけどな。人伝に回ってくる話なんざ数人跨げば既に細部は変わってくるもんだ。意図に至っては他人を一人挟みゃそれだけで崩れる。

 

「一夏、噂を聞いたか?」

「おぉ、箒。転校生のことか。もうクラス中で広まってるぞ?」

「転校生……? そんなものはどうでもいい、私には関係ないからな。そんなことよりもクラス代表対抗戦の賞品だ」

「賞品?」

「そう、賞品だ。なんと学食デザート半年フリーパスらしい……転校生がどうした、こちらの方がよほど大切だ。勝て、勝つのだ一夏!」

 

 グワシッ、と聞こえる力強さで一夏の肩を握る箒さん。目の奥が輝いているが、転校生の話題で持ちきりのなか自分を貫き過ぎだろ。のほほんとした見た目の布仏さんよか自分のペースを保ってるように思えてならねぇ。

 そういや、先日のクラス代表が決定した祝いに開かれたパーティーでもこんな感じだったか……

 

 

▼▼▼▼

 

 

 就任パーティー、一夏が一年一組のクラス代表に決まったことで誰が発案したか、今しがたパンパカパーンとクラッカーが鳴らされ開催された。たぶん、クラスメイトたちなりのお祝い、とただ騒ぎたいだけの年相応の気持ち半々に開かれた集まり。

 寮の食堂に一組全員と見覚えのない顔ぶれが集まっている、明らかに他クラスの人間もいるが固いことは言いっこなしか。

 まぁ、そんなわけで皆は笑顔で楽しそうなのだが、ただ一人ゲンナリしてる奴がいた。一夏だ。

 

「……なんかな、クラスの代表に改めてなっちまったと自覚すると気が重い」

「心中は察するがそう萎びた茄子みたいな顔すんじゃねぇよ」

「ほうだぞいひか……ンッ、こんなにクラスが祝ってくれているんだ。楽しそうな顔をしないか…………私ならごめんだが」

「箒、ボソッとなんか言い足したな!? というより何気に満喫してるだろ!?」

「まぁ、食事が美味なのでな。存外洋食も悪くない、茶を取ってくる」

 

 ここ一ヶ月で知ったのだが箒さんは結構自由だ。いや、規則とかはキッカリ守る性格なのだが、それでもブレないマイペースさがあるというべきか。マイペースっていう軸を中心に規則に対する厳格さを貼り付けたような、そんな感じだ。

 

「一夏はそのへんどう思うよ?」

「前に聞いたらシノノノだから仕方ないなとか、よくわからない返答された……」

「血筋とか遺伝って意味じゃねぇか?」

「んんー、箒の両親は割りと……あ、たば

 

 

▼▼▼▼

 

 

 たば、になんと続けられたのか。あのとき一夏の様子からして心当たりには行き着いたようだが、あいにく新聞部副部長に乱入されたせいで話はそこで途切れた。

 途切れた、のだがどうやら箒さんの我が道を行くってスタイルは家系のものらしい。てか、食い物に食いつきすぎじゃなかろうか。食うのが好きだと言った俺の自己紹介が食われちまってる。

 

「鍛練ならいくらでも付き合おう、だから是非もなく優勝しろ」

「是と答えられるように頑張けどよ……やれるだけやるさ」

「訓練でしたら専用機持ちのよしみで、わたくしも手伝いましてよ? クラスのためでしたら尚のこと。今度はビットに触れさせやしません、ええ」

「訓練だよな……? 再戦と間違ってないよな?」

「似たようなものでしょう、身体で覚えなさいな」

「千冬姉みたいなこと言うなよ……」

 

 そんなことを話しているとクラスメイトの一人、谷本さんが話題に入ってきた。下の名前は恐らく、ゆっこ。周りがそう呼んでるからきっとそうだろう、覚えてないだけとも言う。

「そんなこといってデザートパスが欲しかったりするんじゃないのー?」

「いえ、わたくしはパスがなくても欲しければ節度をもって自分で買いますわよ?」

「おお~、セッシーブルジョワだ~!」

「くっそぅ、お金持ちめ! 織斑くん、優勝してね!」

「せっ、しー……?」

 

 いつの間にかトントン拍子で人が集まっている。わいわいガヤガヤと賑わい始めるも、箒さん離脱早過ぎんだろ。もう席について素知らぬ顔してるぞ。

「あ、でも二組の転校生って中国の代表候補生らしいよ」

「それに二組のクラス代表に交代でなったとか!」

「その通ぉぉぉりッ! あたし、見ッ参!」

 

 正直、そこまでいくと眉唾な噂だと話し半分に聞き始めたそのとき。一組のドアが砕けんばかりの勢いで開けられ、背丈の小さな生徒が現れた。

 突然の登場にクラスメイトが全員動きを止め、ポカンと彼女を見つめる。

 

「……あによ、なにか反応してくれないと恥ずかしいじゃない。テイク2やっていいかしら?」

 返答を待たずに顔を赤らめ教室を出ていく。

 

「えっ、今の鈴か……?」

「知り合いか?」

「あ、あぁ。小五の」

 

 一夏の言葉を遮るように、自己紹介は自分でするのだと主張せんばかりに再び扉が開かれた。気持ち先ほどより控えめな勢いで。

 

「その通りよ! 二組代表は中国代表候補生のこのあたし、凰鈴ニイッ……噛んだ」

「テイク3いるか?」

「……うん」

 

 トボトボと教室を再び出ていく少女の小さな背中は哀愁を背負っていた。心なしかツインテールに髪飾りも気落ちして下向いて見える。

 隣にいる一夏が『鈴だ……どう見ても鈴だ、転校生って鈴だったのか……!?』とか呟いてるが、何でもいいから知り合いなら助けてやれって。大勢の前でリアクションを起こして反応がなかったら死にたくなるんだぜ?

 そして三度目、静かにスッと扉を開けて入室。

 

「二組の転校生、凰鈴音(ファン・リンイン)よ。よろしく!」

 

 パチパチとクラスが拍手で満たされる。温かい雰囲気でこれ以上なく転校生を受け入れるには適した状態になったと言えそうだ。ここは一組で凰さんが二組ということを除けばな。

 

「一夏、ひさしぶり!」

「鈴だよな、やっぱり鈴だよな! 元気にしてたか? それに中国の代表候補生って」

「ふっふっふー、見ての通りよ! 代表候補生については後々色々話したげる。先輩も教官も上司もなぎ倒してのしあがった、超大編(大変)鈴ちゃんスペクタクルストーリーを聞かせたげるわ!」

「上司までなぎ倒しちゃったのか……」

「えへへ、勢い余っちゃって」

 

 どう見ても一夏の知り合いなんだし、照れり照れりと可愛くはにかんでるが上司薙ぎ倒したって内容のためギャップがすげぇ。断じて萌えない。

 おっと、セシリアさんが出てきた。軽く一礼し挨拶。

 

「こんにちわ、凰鈴音さん。わたくしセシリア・オルコットですわ。あなたと同じく、代表候補生です」

「セシリア、オルコット……? いやぁ、ごめんね。あたしってばここ一年の間は、自分の実力伸ばすために内を見すぎて外に裂くほど意識が無かったのよね! だからこれから知っていくことにするわ! よろしくセシリア!」

「一年……? いえ違う国とは言え、同じ代表候補生の立場。時に協力し、時にしのぎを削り合いましょう」

「ふふん、いつでも受けてたつわ! どうする? 右手じゃなくて左手で握手しとく?」

「いえ、あくまでも学園にいる間は学友ですので右手にしましょう」

「よねー、あたしもそっちの方がいいわ」

 

 凰さんが差し出した両手から()()を取り、手短に握手。右手は友好、左手は敵対ってか。ま、右手の握手ってのは利き手に武器を持ってませんよ、なので仲良くなりたいんですよって意思表示とも聞くしな。

 予鈴が鳴る。セシリアは席に帰ろうとし、足を止め振り返らずに一言忠告をした。

 

「ええ、ですので学友として早速ひとつアドバイスを。そろそろ教室に帰った方がよろしくてよ?」

「なんでよぉ、次は一夏との積年のつもり積もった話があんのよー。積年っても一年だけど」

「予鈴が聞こえんかったか凰? 久しい再会は喜ばしいが教室に戻れ」

「お久し振りです千冬さん! って、転校生初日から遅刻の危機……!? 戻ります、迅速に!」

「織斑先生と呼、べ……相変わらずそそっかしい奴だ。そら、お前たちもさっさと席につけ。SHRを始めるぞ」

 

 入り口に立った織斑先生の小脇をスルリと駆け抜け出ていった。そんなすばしっこい彼女の背中を見送りながら、クラスメイトたちは席につき今日も授業が始まる。

 

 完全に余談ながらも多少は授業に追従できるようにはなった。応用に関してはパーだが、単純なことだけならそれなりだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 昼休み、一夏から凰さんを紹介されるついでに説明された。箒さんと入れ違いで転校してきたセカンド幼馴染みだとかなんとかっつってた。セカンドってなんだ、サードでもいるのかって思っても口にはしなかった。

 まぁ、一年前に親の事情で一旦中国に帰ってたらしいが、晴れてまた日本に来たとか。

 軽く自己紹介をして、まぁ鈴って呼んでくれりゃ良いと言われたのでそう呼ぶことにした、てか()()付けが気持ち悪いと言われた。スマイル100%で。

 

 ついでに、そこでテーブルを離脱することとした。

 一夏、鈴に箒さんは同じ卓を囲い飯を食っていた。当然そんな集まりとなれば人もさきの休み時間の如くワラワラ集まってきたし、一夏と鈴の関係が気になるのか今回は箒さんは離脱せずに座ったまま。

 

 逆に俺が抜け出した。ほら、幼馴染みにセカンド幼馴染みのような関係のなかに俺だけ居たらアウェーじゃねぇか。空気を読んだのだ、居たたまれなくなって抜けたのでは断じてない。

 

「それ確実に逃げてきただけですわよね?」

「いや、ちげぇよ。なんか懐かしの昔話とかするなか俺がいたら俺がめっちゃ浮いて半端なく寂しいじゃん? うん、逃げてきてたわ」

「まぁ、気持ちはわからなくもないですが……わたくしも凰さんとは少しお話してみたかったのですが後日にしますわ。久々の再会に水を指すのも無粋でしょう」

 

 そうだな、と同意したかったのだが無粋も糞もないくらいに一夏たちのいるテーブルには人がたかっていた。それを気にせず話してる一夏や鈴も大概だが。

 

「それにしても鈴と話したいって、やっぱり同じ代表候補生同士だからか?」

「えぇ、もちろんそれもあります。けれど彼女は、わたくしを知らない理由として()()の間、内を見るのに集中していたからと仰いました。その言葉が少し引っ掛かりまして……」

 

 ふぅん、たしかに一年見る余裕がないにしてもそのあとに見れば……待て待て待て、一年だと?

 

「……鈴が中国に帰国したのが一年前って聞いたんだが」

「あぁ、そういうことですの」

「待てって、それまで何をするでもなく普通に学生してた女子中学生が一年で、たった一年でなったってのか?」

「事実現実を見ればそういうことでしょう。彼女は一年前に帰国し――それから今日という日までの間に代表候補生まで登り詰めた。外を見てる余裕がなかったと言うのも納得ですわ」

 

 本当に鈴は中学二年の終わりに中国に帰国し、高校一年になるまでの間に代表候補生になったってのか。なんのためにかは知らない、ただ手を抜いてなれるものでもないソレに。並大抵どころではない、それこそ文字通り()()()の努力の研鑽を重ねないとなれねぇはずなのに。

 

「おっそろしいな、化物染みた努力の賜物っつーべきか……見た目から想像できねぇけど」

「あら、才能の塊とおっしゃるかと思いましたけど予想外な発言ですわね」

「才能の塊ならセシリアを知る余裕もあったろうよ」

「ふっ、その通りですわ」

 

 たしかに才能もあんのかも知れねぇけど、その一言で片付けれるもんでもないだろ。そもそも俺が語れることでもねぇ。

 ……いやぁ、この学園に入ると、なぁなぁでやってきた自分の耳には痛いことばかりで辛いねぇ。

 

「中国代表候補生、凰鈴音ですか。わたくしも気が抜けませんわね」

「気なんてそうそう抜かねぇくせによく言うぜ……」

「オルコット家の当主として当然ですわ、日本でもいうではありませんか。勝って兜の緒を締めよ、と」

「じゃあ負けた俺は鎧具の緩みを締めるところからかねぇ」

「まず着るところからではありませんか?」

「ぐっ……ほっほう、ならその鎧を着てないやつにセシリアさんは距離を詰められたと」

 

 ヒクリとセシリアさんの眉と口角が動く。我ながらISは負けるが口喧嘩だけなら達者なもんだ。

 

「えぇ、えぇ、そうですとも。認めます、あのときは慢心なんて捨てたつもりでしたが明らかに無意識の慢心がありましたわ。そのせいで一度ならず二度までも、あなたの突拍子のない行動に虚を突かれました……!」

「おーい、セシリアさん? 目が怖いんだが、垂れ目がつり上がってんだけど?」

「ですが、ですが! あれからわたくしも何も学ばないほど愚かでないことを次戦う際には見せつけて、魅せますわ」

 

 机をバンッと叩き顔を寄せてくる、怖い。ふぅ、と一息つき椅子に座るセシリアさんは、仕切り直しと言わんばかりに紅茶を飲んで落ち着いた雰囲気に戻る。

 

「お、おう……」

「らしくなく熱くなりすぎましたわ。桐也さん、口はよく回りますわね、主に挑発面で」

「自覚はある、精々実力も追いつけるよう努力するわ」

「そうしなさいな」

 

 口だけってのは直したいところだが、この頃これも俺の個性なんじゃないかって思い始めた。これのせいで今までの友達もなんか個性的()なやつ多かったがな。

 

「それは、わたくしも変な奴と遠回しに言ってるのかしら……?」

「いやいやそんなことねぇって。てかセシリアさんにとって俺って友達以前に嫌いなクラスメイトだろ?」

「…………これはわたくしが悪いのかしら? たしかにはっきりと言葉にして撤回はしてませんが、いえそんな」

「セシリアさーん? 何ぶつぶつ言ってんだ? おーい、セッシー」

「誰がセッシーですか……んんっ。いえ、そうじゃありませんわ。桐也さん一つ申し上げておきますわ。わたくしは男性が嫌いでした、なので桐也さんのことも嫌いと言い切ったこともあります」

「安心しろ、バッチリ覚えてらぁな」

 

 学園入学以来ぶっちぎりで心に来たエピソードだからな。

 まぁ心に射す影を無視しつつ、サムズアップしつつ答えたらガックシと頭を落とされた。なんだ、なにが不満だというのか。前にも言ったがそういう察しは悪いんだ、ストレートに言ってくれ。

 

「はぁ、そうですか。そうですわよね、これはわたくしが悪いんですわね」

「なんだ、珍しくやけに情緒不安定だな」

「ある意味安定してますわ、えー先程の続きです。嫌いと言ったこともありますが、今はそうではありません。貴方たちと戦ってから男性がみな弱いモノという価値観を改めさせられまして……ええ、うまく言えませんがとにかくもう嫌いではありません。友人のつもりですわ」

「そうか、そうか……」

 

 良かった。それはとても良かった。基本的にいい性格な人から嫌われてるって案外辛かったんだ、主に胃的なところがな。赤の他人ならどうでもいいが、そうでない人間から嫌悪されるってクるからな。ウハハ、飯が旨い。

 

「あら……そうコロコロ価値観が変わるとは尻軽だな、くらいは言われるかと思いましたが淡白な反応ですわね」

「おい、セシリアさんのなかで俺のイメージどうなってんだ」

「ふふっ、冗談ですわ」

 

 これが一夏が放課後訓練に鈴も来ていいか聞きに来て、俺たちが人波に飲まれる5秒前の会話であった、マル。




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・鈴ちゃん:活発に、活発に。跳ねる跳ねる。
・でっちー:察しが悪い。
・温かい拍手:優しい世界(クラス)。

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