F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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34.セカンドシーズン

 新学期、無事に課題も終わらせた俺たちは平穏にいつものように授業を受けようとしていた。そんな更衣室で──

 

「隙あり」

 

 突然現れた先輩は扇子と手刀を俺たちの首元に突き出してそう言った。わかりやすく一夏は誰この人と顔に出る。個人的には頭おかしい人に絡まれたという感想以外特になし。

 女尊男卑な世の中じゃこういうタイプの女はよくいる。学園内は少ない方だがやっぱり会うときには会ってしまうもので、それだけなら面倒な人に絡まれたで終わる。ただし、それだけで終われなかった。

 

「んふふ、驚いたかしら?」

 

 そう、俺たちはこれから授業で、ここって男子更衣室なんだよ。驚くに決まってんだろ。

 思わせ振りにロッカーの影から出て不意をつくのはいいんだが場所考えろよ。リボンの色からして二年生の彼女は扇子を口許に当てて笑みを浮かべる。どこか余裕を醸し出している態度がもう男子更衣室ってだけで台無しだ。

 

 未知の生物に出会った感覚。けど、ひとつだけわかることがある。あの笑い方はよぉく覚えがある。

 

「あっ」

 

 と声を上げて俺たちの背後を指差した先輩に釣られて一夏が後ろを向いて、俺は先輩から視線を逸らさない。

 

「あ、あら?」

 

 だってこの笑い方は──何故か俺の周りでよく見かける──碌でもないことを考えている奴の笑い方。ちぇっと軽く拗ねた様子の先輩は扇子をパッと開いた。天晴れと書かれたそれを一度、閉じてすぐさま開けば、そこに文字はなにもない。

 思わず怪訝な顔になってしまい、それに満足したのか彼女は言う。

 

「それじゃあね、急がないと織斑先生の授業に遅れるよ」

「……やっべ」

「まずっ!? 急ぐぞ桐也! もうグランド十周はごめんだ!」

「今回は俺たち悪くねぇだろ!?」

「そんな言い訳通ると思ってるのか!?」

「思わねぇぇぇ!」

 

 慌ただしく足をもつれさせながらも全力で駆け出した。ここでの出会いが初めて──って訳でもなかったらしいが短くも会話を交わしたのはここが初めて。

 僅かに遅刻した俺たちは慈悲なくグランドダッシュ。ここらへんで先輩殿への怒りが一ニョッキ。

 

 その翌日には全校集会が行われた。内容は9月の中旬に行われる学園祭について大まかなこと。

 前方の壇上に現れた女子に小さくウゲッと漏らした俺は悪くない。そりゃ、昨日の遅刻の原因があんなところに居れば声もあげたくなる。目が合う前に前列のクラスメイトの頭に焦点を移す。たぶん、目を合わせると碌でもないことになる。

 

「さてと、本当なら夏休み明けの集会で挨拶するところだったけど、色々立て込んでいてしっかり挨拶出来てなかったね。必要ないかもしれないけど、何人かは知らないだろうから名乗っちゃうね。

 私の名前は更識楯無、生徒の長に当たる者よ。以後、よろしく」

 

 ……えっ、あれが生徒会長とか嘘だろ。つい顔をあげてしまった。結局、微笑みを浮かべる生徒会長と視線が合ってしまったものの、手のひらを横に振っていやいやねぇよと真顔で返す。微笑みに若干皹が入った気がした。

 そいで始まる学園祭の説明は聞き流しつつ、中学の学園祭に思い馳せる。おかしなことにまともに頑張った記憶がない。合唱はクラス全員で事前に録音して本番口パクとかそんなことしかしてなかった。

 

「今年は趣を変えた──『各部対抗男子生徒争奪戦』を開催する!」

 

 体育館が歓声でドッと震撼する。気温が上がったんじゃねぇかという熱気だが頬につたる汗は冷や汗だ。一夏を求む声が多数なのだがチラホラと俺の名前も聞こえる。やったね、やってねぇよバカ。

 チクショウ、この学園も頭おかしかった。ここで怒りが二ニョッキ。

 

「ふぁっきん」

「桐也、漏れてる漏れてる」

 

 名簿的に真後ろのシャルロットから小声で注意されるが知ったこっちゃねぇ。

 熱を帯びた体育館内で若干二名のテンションだけドン底なんだよ。学園祭はふけてやろうか。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「じゃあ、織斑くんと出路くんを前面に出す方向性で行くってのはどうかな……あ、駄目そうだね。男子二人揃って不貞腐れてるよ」

 

 学園祭で一組は何を出すかという議題のHR。織斑センセに山田先生は教師がいては決めにくかろうと粋な計らいで職員室に引っ込んでいた。そんななか俺と一夏はわかりやすくやる気がなかった。

 協調性がないとかクラスの和が乱れるとか雰囲気よくないのはわかる。わかるがこっちも勝手に景品にされてどうしてやろうかと考えているのだ。

 

 サボりたい欲がかつてなくわき起こるが口に出せば、さすがにブーイングがくるだろうし、そこまでクラスの雰囲気を壊すわけにはいかない。別に担任が怖いからとかそういうわけじゃない、断じてない。

 

「嫁に桐也よ。集会でのことが理不尽だったのは私でもわかる。だが、クラスで文化祭を楽しむというのはまた別の話ではないか?」

 

 腐った蜜柑のような俺たちに寄ってきたラウラが少し悲しげな瞳で語りかける。カビが取れてきた。

 

「それに私的なことなんだが、私は文化祭というものが初めてなのだ……だから」

「よしっ、やるか桐也」

「おうよ、お祭り騒ぎの時間だぜ」

 

 急にやる気を出した様にクラスメイトの大半が目を丸くするなか、クラス委員長の一夏が前に出て仕切り直す。

 

 さすがにラウラにここまで言われて、やる気ないままではいられない。軍属だし文化祭が初めてな理由も色々あったんだろう。そこらへんの事情を聞く気はないし、知ってそうな一夏もやる気出してんだしやらいでか。

 集会でのことは文化祭とは別枠って考えようじゃねぇか。こっちはこっちで楽しむ、あっちはあっちでまぁなんとかしよう。生徒会長の飲み物に下剤混ぜるとかそういう方向でいこう。

 

「ダァーッ! なんで俺たちがメインの出し物ばっかなんだよ!?」

「我がクラスの目玉じゃない!」

「もっと普通のでいいだろ! ラウラも初めてなんだぞ! 変な趣向じゃなくてだな」

「キャーッ! ラウラの初めてだなんて織斑君大胆っ!」

「桐也に向かいがちなセクハラが俺にも……!? これが、文化祭パワー……!?」

 

 一夏が腐っていたことを恥じるように皆の意見を募って、クラスの出し物を決めていく様は委員長の姿にふさわしかった。白熱したHRも落ち着くところに落ち着き、メイド喫茶を催すことに決まった。需要を見越して利益と効率のよさ、なによりも楽しそうという理由が決定打。

 

 ──そんな様子を眺めてる俺だった。委員長でもなんでもないからな、今やる気出してもやることなかったわ。あと俺にセクハラが向かうのがデフォみたいに言うなや。

 

 催し物が決まれば伝えに来いと言われていた一夏は教務室に向かう。俺もそれに同行する。

 なぜか俺も来るように言われていた。最近なにかやらかした覚えはないのだが……いや、ちょっと、それなりにあるかもしれないけど、バレたら現行犯で呼ばれる類いなのでバレてないはず。ちょいちょい自室でIS一発芸とか言って遊んでるとか知られたら説教確定だしな!

 

「喫茶店か。お前たちにしてはまともな案で安心したぞ。発案者は誰だ?」

「ラウラですけど」

 

 一瞬、織斑センセがポカンと呆けた顔をした。失礼ながらこのとき『あ、この人もこんな顔するのか』なんて考えていたが、途端に声をあげて笑い始めた。

 なんなのだろうか、この情緒不安定な世界最強は。正直怖いんだけど。

 

「そうかそうか! アイツがか! ククッ、素直なだけに拗らせていたがボーデヴィッヒも変わってきたな」

「拗らせていた、ですか?」

「ああ、嫌いな相手には出会い頭に蹴りを入れるほどに愚直だったな」

 

 あー、と懐かしげに納得。そして転進、目指せ出口。

 

「人は変わるってことでしょうね、ってことで失礼しますね」

「まぁ、待て出路。なんのためにお前たちを揃って呼んだと思う?」

「一夏と揃って叱られることをやった覚えはないんすけど……」

「ひとりでならあるのかよ」

「そうか、出路とはまたの機会にじっくり話すとしよう」

「ヒューッ! 墓穴ゥ!」

 

 穴があったら入りたい! ただしそこは墓穴! みたいな!

 話が進まないから一度黙るように言われた。話を振ったのは織斑センセなのに理不尽な。

 

「学園祭には各国の軍事関係者からIS企業の重鎮、他にも色々厄介な身分な者が来場する」

「織斑センセの本音がポロリしてるんすけど」

「ラウラのこと話してからガサツな地が出て──アイデッ!?」

 

 デコピンが額に炸裂し一夏の頭が後方に弾けた。被弾部を押さえて(うずくま)ったのを尻目に真面目な顔を取り繕う。お前の犠牲は無駄にはしねぇ。

 というか企業の重鎮ってことは俺の打鉄のメンテしてくれてるとこの所長も来るかもしれんのか……んー、どう考えてもケツ蹴られる気しかしねぇ。

 

「んんっ、それでだ。一般人の参加は基本的には不可能だ。ただし生徒一人につき一枚配られるチケットで入場できる」

「へー、全校生徒の人数分だけ素性不明の人間が学校に入れるんですね」

「お前は時たま勘がいいな。だが本題は次だ」

 

 渡す相手いねぇって独り言は辛うじて飲み込んだ。貰ったら紙飛行機に挟んで屋上から、おっと織斑センセの視線が鋭くなったよ。

 

「それでだ。特にお前たちは良くも悪くも注目されている……なるべく阿呆なことはしでかすなよ?」

「なるべくじゃなくて、それくらい言われずともわかってますって。いやいや本当に」

「そうだよちふ、織斑先生。俺たちだってバカじゃないんだからさ」

「いや、お前たちは馬鹿者だろう」

 

 織斑センセが真顔になった。一夏も俺も視線を逸らす。

 

「でもですね。俺たちがなにもしなくても何か起こる気がするんすけど」

「たしかに。今のところ事あるごとに乱入とか事故ったり暴走したりしてるもんな」

「俺たちなんもしてないのにな」

「……」

 

 今度は珍しくも織斑センセが視線を逸らした。そのまま生徒の数だけチケット配って来場可能にしたら、セキュリティレベル下がるのは確かだと言われた。

 しかし、学園自体が普段は他国・企業からの不干渉を貫いているため、こうして時にはリスクを孕みながらも学園の透明性を示す必要もあるらしい。

 

「だからこそ馬鹿は控えろと思っていた、のだがな」

 

 ひとつ特大のため息を吐いた。

 

「既に大バカを仕出かした学生のトップがいたな。あれも考えなしな訳ではないが、お前たちからすれば堪ったものではないのは理解しているつもりだ」

 

 シニカルな笑みを浮かべた織斑センセはなにかを振り切っていた。

 

「──構わん、お前たちも盛大にバカをやってしまえ」

「え、えぇ!? 織斑先生!?」

「自分と周りを危険に巻き込まないなら、余程でないかぎり学園祭に限っては私が責を負ってやろう」

「……マジです?」

「大マジだ。人は集団のなかで生きざるをえないからこそ我慢すべき事が多い。だがお前たちばかりを抑圧するつもりもない──あとは文化祭で必要な物品や費用をまとめて提出しろ。話は以上だ」

 

 さっさと帰れと手をぞんざいに振られ呆気に取られたまま職員室をあとにした。

 お互いに間抜け面を合わせて無言のまま片手を上げて、全力で叩きつけ合いハイタッチ。

 

「「よっしゃああああッ!」」

 

 ──織斑センセのいう、正真正銘馬鹿者ふたりの魂の咆哮が学園に響くのであった。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 廊下から聞こえてくる叫び声に頭を押さえるのは千冬であった。少し早まったかと小さくぼやきながらも口許には僅かに笑みが浮かんでいた。

 

「織斑先生。よかったんですか?」

「更識か。ノックもなしに入るな」

「ふふっ、扉の音もなしに入るとは! って感じですか」

「窓から入るな馬鹿者ということだ」

「バレてましたか」

 

 悪びれた様子のない楯無。どうせ正面から指摘しても笑みと話術で煙に巻いて自分の流れにするだろう。半ばこういう性質の人間とカテゴリしている千冬は敢えて叱ることなく話を進める。

 

「それでなんの用だ」

「わかってらっしゃるくせに。どうして彼らに好きにしろだなんて言ったんです? 安全を考えるならなるべくこちらで動きを把握できるようにした方がいいはずです」

「だからこその男子生徒争奪戦(イベント)か。確かに部に所属していないことへの他生徒の不満とアイツらの安全、まとめて解決できるのかもしれんな。

 だがアイツらの不満は溜まるばかりだぞ? 安全のためにとは聞こえはいいがな」

 

 立場が変わったので行動を弁えろ。身柄の安全を保障する代わりと思えば、ある意味当然のことではある。常に好き勝手する人間なんてとてもじゃないが守れない。

 ただ、それにも限度がある。あれもこれもそれも我慢しろではいつか自棄っぱちになって、大惨事を起こす可能性だって大いにある。

 

「わかっているつもりです。今回は彼らのストレスになりかねません。だから限界を迎えるまでには発散させる機会は設けるつもりではあったのですが」

「もう限界だろうな」

「……はい?」

 

 今日の天気は晴れだよ。とそれほどになんてないこと言うかのように、気負った様子なく返された楯無は思わず流暢な弁が止まった。

 

「織斑はともかく出路の方は限界だ。なにせ入学までの人間関係の一切を切り捨てられているんだ」

 

 合わせて二度死にかけている。

 無意識かはわからないが外へと感情を出さず、自分のなかで消化したと錯覚させることが多くなっている。ように千冬には見えた。もう限界、というのは早計かもしれない。だがこのまま放置すれば遠からず、とも感じていた。

 

「あとは一夏の存在か。比較する対象がいるだけ余計にだな」

「織斑クンは家族がすぐそばにいるから、ですか」

「そうだ。私自身が既に特殊な立場だったから仕方ないと言えばそれまでだが、感情は理屈じゃないからな」

「ふむふむ、私が妹と距離感が微妙なようにですね」

「それは知らん。どうせお前のせいだろう」

 

 軽口を一刀両断。会話のペースを一切渡す気がないのが伺える。

 

「出路自身は自覚があるのかわからんが、やけに入学前のことを思い出すような素振りが増えている」

「素振りでそこまでわかるのは織斑先生だけだと思いますけど……わかりました。彼らを自由にさせたうえで護衛して見せますよ」

「ふんっ、任せたぞ()()

「ええ。でもよくわかりましたね。よっぽど彼らのことを気にかけてらっしゃるので?」

「たわけ、嫌でも目に入るだけだ。それに出路桐也はISを動かしたときに警備員を蹴り飛ばして暴れたような奴なのを忘れたか? それにしては大人しすぎるだろう」

 

 まぁ、バカには変わりないがなと千冬は付け加えた。

 それにしたってよく見ていないと気づけないはずだと楯無は思う。彼女だって書面でとはいえ彼らの経歴や行動の把握はしていたし、心情の動きも推察はしていた。しかし、直接かれらを見ていた千冬には一歩及ばなかったようだ。

 

 そして、その考えは当たっている。絶対に千冬は口に出さないが一夏と桐也に他の生徒より注意を払っていた。

 たとえば死に瀕した一度目、無人機の際には恐怖を口にしてそれを払うように狂ったように笑い感情を発露させていた。それが正常だ。喜怒哀楽、どのような感情でも理性で制御しきれなくなったときに何らかの形で肉体が反応を起こす。

 ならば二度目、銀の福音のときはどうであったか──()()()()()()()怒っただけだ。クラスメイトにからかわれたときのような、死にかけたにしては感情のブレ幅が余りにも小さかった。

 勘の鋭い千冬にはそこが引っ掛かった。

 

「アイツはな、意図的か無意識か知らんが自分の負の感情に蓋をするようになってきている。だから、いつも変わらないように見える、見えてしまう」

 

 だが蓋をしたからといって無くなるわけじゃない。発散されなかった感情は煮詰まりよりドス黒くなるだけだ。

 そもそもの前提がハードモードとも言える。少年の今までの人生すべて、15年分の人間関係から周囲の環境全てを強制的に取り上げられているのだ。今だってどれだけのものを溜め込んでいるのか、何を支えに耐えていたのか。

 

「溜め込めばいつか溢れ出す──勘弁してくれ。出路は元から予想できんやつなんだ。爆発の方向性も被害も予想できん」

 

 本当に面倒事を目の前にしたかのように頭が痛そうな千冬に楯無も苦笑で返すしかなかった。

 

 しかし、楯無からすれば織斑千冬がここまで生徒を見ていたことに驚きであった。世界最強の彼女がここまで人の内面を見ることに長けていることに驚愕していた。

 公的な場ではカリスマを誇る彼女が私生活ではズボラなように、秀でた戦力の反面で人の心を推し測ることは苦手なのではという先入観。

 

「ククッ、脳筋かと思っていた私が存外他人を思いやれて意外か?

 実際のところ説得より殴って黙らせる方が得意だがな。得手不得手の問題だけでやってやれんことはない」

 

 ──なんとなーくではあるが負けた気がして少し悔しい楯無であった。更識としても、彼らの年長者としても。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 世界最強から好きにやってしまえよとお墨付きをもらった俺たち。果てしなくテンションが上がったものの、やっていいと突然言われてもなにをするか悩むはめになった。さすがに全校生徒のスカートめくりとかそういうバカをしていいってわけでもなかろうし、こういうときこそ塩梅が大事なんだ。

 しかし、目的は直ぐ様見つかった。目下、俺たちの最大の敵は──生徒会長。

 

「勝手に景品とかされてちゃ堪ったもんじゃないもんな」

「ってわけで第一回アンチ生徒会長会議を開催だ」

「いえーい!」

 

 こういう中身がないような内容で盛り上がれるのが男子だ。その中身のない会議で被害を被る予定の生徒会長は震えて眠れ。

 

「権力者へのスタンダードな嫌がらせってネガキャンか」

「なんでサラッと権力者への嫌がらせが出てくるかは置いといて例えば具体案ってあるのか?」

「淫らな関係みたいな、スキャンダラスなのがあると楽だよな。なくてもあるように吹聴できればいいけど」

「普通にゲスい……ってか女子がほとんどの学園でそういう関係って風潮したら俺たちのどっちかにも被害がいかないか?」

「おいおい一夏なに言ってんだよ。女同士でもいいだろ」

「桐也の方がなに言ってるんだよ。やめよう、もうちょっと他の手段にしようぜ」

 

 割りと効果的そうだったんだがなぁ。一夏には合わんか。

 このあとも何個か案をあげてみたものの一夏の倫理観に拒否され続けた。おっかしいな、自由にやっていいならこれくらい普通じゃねぇの?

 

「普通じゃないだろ!? 会長の食事に下剤仕込んだうえに全トイレ封鎖して交渉とか!」

「まぁ、それは他の女子にも邪魔されそうだし廃案だよな。わかるわかる」

「問題なのはそこだけじゃないからな!」

「ええい、この綺麗好きめ! お前本気で俺たちの争奪戦を止める気あるのかっての!」

「あるけど、あるけど……桐也の案って基本的に『うわぁ……』ってなるやつじゃねーか!」

「犯罪じゃないしセーフだろ」

「ここで素のトーン、だと……!?」

 

 そんなこんな、なかなかどうしてうまく話はまとまらなかった。俺の出す案が尽く生徒会長になにかしら被害を負わせるのが一夏としてはNGらしい。俺のニョキニョキした怒りをぶつけたかったんだが仕方ねぇなぁ。

 まぁ、それだけ話せば主題から脱線もするもので。ISの話題になったり、待機状態の話になったりしていた。たしかISを使った案から話題が逸れた。

 

「白式ってガントレットみたいだけど邪魔じゃねぇの?」

「邪魔というか目立つのが困るかな。けど無くしにくいのはいいな」

「なるほどね。指輪だと確かに無くす」

「おい、無くすなよ」

「大丈夫だ。呼べばだいたい出てくる」

「ペットかよ」

 

 相棒だよ。

 

「その感覚わかるかもしれないなぁ。一緒に戦ってるとISってただの道具って思えなくなってくるし」

「そのうち会話できたりしてな」

「ハハッ、そうだと面白いな」

 

 ──なんかガントレットと指輪がカタカタと震えてる気がしたんだが地震か?

 ほどなくして揺れが収まり、話題も元の路線に戻った。少々、渋い顔をした一夏が聞いてくる。

 

「というかここまで思いつくなら穏便なのもあるんじゃないのか?」

「あるにはあるけど。要するに俺たちが部活に入ってないからこういうイベントを催しやがったんだろ」

「あー、なるほど。そういうことになるのか」

「なら俺たちで部活を作ればいい」

「えっ? ……えっ?」

「部活をしよう」

 

 俺たちによる、男子のための、その場しのぎの部活だァー!




ここまで読んでくださった方に感謝を。
真面目っぽい話題が入ったかもしれませんが気のせいです。あの立場なら堪るものがあるだろうってだけの単純な話でした、いえ性欲ではないです違います。
ただしすべて千冬の推察、真実は猫箱。

・にんまり:にへらっと異なるけどそう変わらないあれ。何が違うのか。
・ただし~みたいな!:葵井巫女子ネタ流用。
・織斑千冬:○○が得意だから●●が苦手って先入観を敢えて否定せず楽する。どこかの親友も頭超良くて身体能力もバリ高いとか。
・なにを支えに:誰に誇れなくても自分だけは納得できる以下略

・出路桐也:客観的に見たらそれなりな状況。
・震える待機状態のISたち:地震じゃない。
・部活をしよう:バンドや野球はしない。

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