首に三角巾を引っかけ腕を吊るしている。なんでって折れてたからだよ。
銀の福音の出力がゴリラ過ぎて絶対防御を貫いた衝撃でポッキリ。やけに腫れているとは思ったんだが折れてるとは思わなかった。
今までの人生で骨が折れたことなんぞなかったんだがIS学園入学してから既に二回だ。今度お払いでも頼みに行ってみるか、対象は俺じゃなくて学園にだけどな。無人機の襲撃受けるわ、レーゲンにVTシステム仕込まれてるわ、臨海学校に来てまで暴走した銀の福音に襲撃されるわ。神頼みはしない方だが疫病神の存在はこの頃感じ始めてる。
今回なんて正に骨折り損(物理)のくたびれ儲け。打鉄のダメージレベルが
俺は俺で左腕骨折、全身至るところに軽度熱傷。風呂に入ると痛いし、てかこの臨海学校では安静指示が出た。お陰でもう温泉にすら入れず仕舞い。っかしいな、一夏の方が重症じゃなかったか? なんでピンピンしてるのか。
かくして俺は最終日前日の夜だってのに温泉にもつかれず海岸沿いに佇んでいるのであった。なーんて目的がない訳じゃないんだけどな。日付が変わる前にどうしてもやっておきたいことがあったわけで、背後から砂を踏みしめる音が近づいてきた。箒さんだろう、呼んだの俺だし。
「こんなところに呼び出して何の用だ? 養生していないと皆が心配するぞ」
「寝てたいのは山々なんだがな。今日を逃すといけない用事があったんだよ」
一夏のやつが伝え忘れてやがったせいで用意するもんも出来てないんだけどカタチだけでも一応な。
「お誕生日おめでとーって」
「ああ、そのことか。ふむ、その言葉はありがたく受けとるが……なにもここでなくてもよかっただろう?」
「それがよくねぇんだな。誕生日といえばプレゼントだからな。ほら、こういう満天の星空、月の輝く海辺ってロマンチックじゃん?」
「ふっ、この光景が贈り物など臭いことをいう奴だったか?」
「ねぇよ」
思わず真顔になってしまった。気持ち悪くてさぶいぼがたった。腕をこすって、ちくしょうギプス邪魔だ掻けねぇ。
「まぁ、なんだ。こういうシチュで好きな奴といれたら嬉しいもんじゃねぇかなってお節介焼いてみた」
「ん……? それはどういう」
「んじゃ、ハッピーバースデー」
またザックザクと静かな浜辺に足音。その姿が朧気にしか見えないうちにとっとと退散する。
「あれっ箒? 桐也に呼ばれて来たんだけどな、アイツどこに行ったんだ……」
「そ、そういうことか。粋なことをしてくれる」
「何か言ったか? お、さっそくリボンつけてくれたんだな」
背後から聞こえる会話に半分満足、半分リア充死ねと思うのは決して俺がおかしい訳じゃない。一夏はあとで適当にギプスパンチしてやろう。正当な暴力? いいや、一方的な私怨だよ。まぁ、今回だけは箒さんが喜んでくれたならそれでいいさ。キスでもチューでも接吻でも好きなだけしろや。
みじったらしい思考を投げ捨てた頃、ほどよく旅館に到着する。
入り口の逆光で見にくいがなんか仁王立ちしてるのがふたりいるな。ちんまいのがふたり、ツインテールとロングを風になびかせてるがやや毛が逆立っても見える。ツインテールが吼えた。
ちょっと膝が折れそうなほど疲れてるんだから勘弁してくれ。
「桐也ァ! なに一夏と箒をいい雰囲気にさせてんのよっ! 怪我してなきゃ蹴りの二、三発はいれてるわよ!?」
「フッフゥハァ! 怪我しててよかったぁ!」
「ま、一発くらいいいわよね」
「よくねぇよ、やめろ」
飛び掛かろうとした鈴がつんのめり、前傾した重心そのままに爪先で地を蹴ってその場でバク転着地。その回転で何者かに掴まれていた肩が解放され、勢いよく振り返った。俺からはバク転した鈴に目を丸くしているセシリアさんが見えていた。
「セシリア邪魔するんじゃないわよ!」
「怪我人に飛び掛かろうとしてたら、さすがに止めますわ。はぁ、
「褒めてもなにも出ないわよ?」
「言葉の裏を探ってくださいまし」
「鈴が止められたか、ならば私だけでも」
「はい、ラウラもストップ。あんまり騒いだら織斑先生呼んじゃうよ?」
次は私だとばかりに前に出ようとしたラウラがシャルロットの言葉により一瞬で撃沈。よくやった、小さいくせにラウラと鈴は身体ポテンシャルが巨人並みだから今の状態じゃ敵わねぇ……万全でも負けそうだけどな。
「それは反則だ!」
「反則とかないからふたりとも大人しくしようね。誕生日くらい多目に見てあげようよ」
「そういうシャルロットが実際の立場になると一番見逃しそうにないな」
「あーわかるわ」
「わかりますわ」
「どういう意味かな!?」
うっせー、声が身体と頭にぐわんぐわん響いてくる。ツインちんまいはツインぱつきんに任せて自室へと戻ろう。制止されたような気がせんでもないが耳を塞いで
自室の襖を開ければ敷かれた布団が、ありがてぇ。途端に筋肉が仕事を放棄して布団に沈む。ぐへぇ、疲れたもう眠い学校やめたい引きこもりてぇ。心地よい柔らかな布団の感触駄目だこれ意識と身体を投げ出しておやすみなさい。
▽▽▽▽
月明かりに照らされた薄暗い崖の上。海を一望できる場所でそんな景色など完全
「ん、今回は駄目駄目かな。望外の箒ちゃんの成長はナッシン。引き出せた紅椿のスペックは50%程度。
ちょうどいいから使ったけど、箒ちゃん的には気の乗らない戦闘だったからかな? 必要なのはシチュエーション? 我が妹ながら解りにくいや」
本来なら絢爛舞踏までで成長が止まる予定ではなかったと独りごちる束の感情は読み取れない。ただ、エネルギーの回復というチートスキルで白式の欠陥を埋めるだけではない。
第四世代の象徴たる展開装甲。それを超近接戦闘特化まで昇華された上で白式と並び立ち、紅椿の無限と白式の零の互いが互いを唯一落とせるような関係になる、までが束の目標だった。まぁ、これに関してはなったらカッコいいのに、くらいの気持ちで立てられた目標なので達成できなくても問題はまったくないが。
「身内贔屓で計算を高く見積もっちゃった束さんの失敗かな? いっくんも第二形態移行したけど、燃費の悪さに振り回されてるしなー」
崖から足をプラプラさせてブーブー唇を尖らせる。スカートははためいて、行儀が悪いことこの上ないが咎めるものは誰もいない。ここにいないのではなく、世界に誰も存在しな──ボスッの束の頭に軽い衝撃。
「いたっ……あ、ちーちゃん」
束が振り返れば、世界中でただひとり束に対等に意見できる存在の千冬が立っていた。
「行儀が悪いし落ちても知らんぞ」
「へへっ、もしも落ちたらちーちゃんが助けてくれるでしょ?」
「ハッ、自力で上がってこい」
「相変わらず厳しいなぁ……でも、よく見つけれたね」
「親友だからな」
「それは理由になってないけど、唯一無二な
クスクスとおかしそうに笑う束は妹と接するときとも他人を視界に入れるときとも違う顔をしていた。千冬はその少女のような笑い方を見るたび、いつもそうであればと思ったものだ。いつもそうでないからこそ、束は世界に適応しなかったわけだが。
「今回の件は誰の仕業だ」
「さぁ? 察しはつくしたぶん当たってるけど今のところは興味ないからね。束さんはノータッチなのだ」
「私の弟とお前の妹が危機に陥ったというのに薄情な奴だ」
「あんなの別に危機じゃなかったじゃん」
一度は瀕死ともいえる傷を負った一夏や絶体絶命ともいえる状況に陥った箒。だが、あの程度はなんてことないと言う。
「そう言えるのは、白式のコアが白騎士のものだからか?」
「お、さすがちーちゃん。気づいちゃった?」
「一夏の傷が癒えたことでようやくな。大したものを使ってくれたな」
「うん、いっくんが使うからね……それくらいないと」
「そうだな、助かる」
「いーよ」
親友の弟だから。それ以外の含みが込められた意図を読み取った上で千冬は頷く。だから助かったではなく、助かると言う。
しんみりしかけた空気を払拭するように束は別の話題を口にする。
「でも強いて言えばさ、死にかけたのはちーちゃんの生徒のアレだけだよね……あー、駄目だ。顔も名前も出てこないや。シングルNo.のコアの子に乗ってるやつ」
「出路桐也のことか」
「それ、聞いても覚える気はないけど。でもアレのISだけはちょっと興味あるかも」
「止めろ、お前が関心を向ければ録なことが……いや、待て。シングルNo.のコアだと?」
「うん、初めは気づかなかったけどね?」
というかそもそも欠片の興味もなかったと束は言う。一夏と箒が逃げる時間を稼ぐためか、銀の福音と無謀にも戦い、落とされるところまで見ていた。それでも興味は湧かなかった。むしろ、どうせ死に体になれど保護帰納でギリギリ生きてるだろうし、痛い目見てザマァと思ったくらいだ。
ただピンピンとして生還したことには首を傾げた。より正確にいうならば、
「それで調べてみたらシングルNo.だったよ。でもだからって機体の修復速度には何も関係ないから意味わかんない」
そこまで言い切って千冬の顔をうかがえば頭上にはハテナマークが踊っていた。だよねぇと内心で親友の人並み頭脳力に理解を示しつつ、ピッと指を立てて説明する。
「私が心血注いで作ったのがコアNo.1。その志みたいなものの残りカスで作ったのがシングルNo.のコア。あとの456個は惰性で量産だね。
そして箒ちゃんの紅椿は今までの私の技術の結晶、っていいたいけど、ちーちゃんが押さえろっていうし押さえ気味。だけど本気のコア」
結論を言えばだ、最初と最後のコアが束にとっての傑作。シングルNo.のコアは秀作、他はただの手癖で作った凡作といったところ。
「でも別にシングルNo.って
そのうえであの打鉄は機体の自己修復の速度が桁ひとつ違ったんだよ。ダメージDを越えてから数時間でパッケージまで直すとかちーちゃん見たことある?」
「少なくとも私はないな。確かに異常な早さだ」
以前、タッグトーナメントでVTシステムにより大破したレーゲン。あれもダメージレベルで言えばC~Dだった。そのレーゲンは自己修復ではなく予備の装甲を使うことで長期間の修理を避けていた。
しかし、銀の福音に破壊された打鉄はものの数時間で修復してしまった。
出路桐也が無事だったことや銀の福音が健在であったことで千冬は流してしまっていた事だが、こうして事象を比べれば異常性がハッキリとしてくる。
「それにあれって第二形態移行もしてないし、ましてや単一仕様能力でもないんだよ」
「白騎士の、白式の生体回復機能みたいなものか」
「単一仕様能力じゃないって点ではそうだね。ならどうして発現したのかってのはわからないんだけど」
「ほう、お前がか?」
千冬はその言葉に驚きを示す。目の前の親友といえば手のひらで世界を転がしているようなイメージだったものだ。本人に伝えたところどんなイメージだよと珍しく真顔で突っ込まれもしたが。
そもそもブラックボックスは束でもわかっていない、束にもわからないことはちゃんと存在するのだ。それが極端に少ないだけで。
「そもそもアレがイレギュラーな存在なんだけど、あーあ、予想外な事態は続くって本当って始めて知ったよ。別に支障がある訳じゃないけどさー」
「そこまで関心を向けておいて名前を覚えないのか?」
千冬の不意な質問にそっぽを向いてしまう束。その顔は割りと嫌悪感丸出し。他人に興味なしがデフォルトな束にしてはこれまた珍しい。
たっぷり数秒間黙りこくったあと、苦虫を噛み潰したような声音でボソボソと答えを口にする。
「……だってアイツ、出会い頭に私のパンツ見たし、っていうかなんか、普通に嫌い」
「はっ? パンツ……あぁ、あのとき、ふはっ、ハハハハハハッ! そうか、パンツを見られたから嫌いか!」
「パンツっていうか、それよりもなんとなく感覚的にっていうか……ちーちゃん、どんだけ笑うのかな?」
腹を抱えて身を捩って笑う千冬。下着程度を見れたくらい気にも止めないはずの親友が、それを乙女のように恥ずかしがり嫌悪を示す様が可笑しくて仕方なかった。
──無関心じゃない、嫌いという感情。一個人として認識してしまっているじゃないか。他人と同じ無関心を装うために名前を覚えてないが、覚えられないではなく覚える気がないと言っていたではないか。しっかりと嫌いになってるじゃないか。
「くっ、ハハハッ!」
「ちーちゃん笑いすぎだろ!」
「だってお前が、他人にパンツを見られくふっ」
「もぉぉぉ! なんなんだよ!」
怒り心頭な束がぶぉんぶぉんずばんっ! と拳を振るう音と千冬の愉快そうな笑い声が、静かな夜にしばしの間響き続けた。
▽▽▽▽
「ねぇ、桐也。どうして拳握ってるのかな」
「あそこに銀の福音のパイロットがいるだろ? 察して手を離せよ」
「察した結果、意地でも離せなくなったかな」
「おいおい勘違いすんなよ? 俺のちっぽけな拳じゃアメリカは殴れねぇ……だからあの人に八つ当たりすんだよ」
「大当たりだよ、察した通りだよ。怪我してるんだからジッとしててほしいんだけど」
バスのなかでギャーギャーと騒ぐ出路を見て、千冬は軽い頭痛を覚える。昨夜の話を思い出すが、どうにもアレがなにか持ってるようには見えなくて困る。
目の前の女にも困ったものだが……と視線を戻した先にはニコニコとしているナターシャ・ファイルス。銀の福音のパイロット、今回の暴走事件に巻き込まれたひとり。鮮やかな金髪は日差しで輝き、タイトなスーツに身を包んでいるが、暴走した無理な稼働の反動か襟首などからは包帯が見え隠れしていた。
「あんな様子だが話がしたいのか?」
「もちろん、織斑くんも出路くんもなかなか話せない子達だし……なによりも私たちを止めるために頑張ってくれたからね」
「篠ノ之はいいのか?」
「博士に目をつけられる可能性はノーセンキュー」
そう言ってウィンクするナターシャ。どこまで本当なのか怪しいものだ。
千冬はどうなっても知らんぞと言ってふたりをバスから呼び出す。一夏は怪我を負っている彼女に少し同情のような感情を交えながら、どう反応するか迷っているのが見てとれる。
桐也は鼻息荒くズカズカとナターシャに近寄り、拳の届く距離になった途端に手を彼女へ勢いよく突き出す。
「そらぁ!」
「イッ──たぁい!?」
全力のデコピンが放たれた。バヂッンッ! と小気味良いを通り越した普通に痛い音がした。ナターシャは涙目で額を押さえ、桐也も中指をギプスで押さえて若干の涙目。爪が、爪が割れると呟く声は間抜けそのものだった。
なにしてんだ、阿呆だという二種類の視線が突き刺さる。しかし、気にするつもりもなく、その余裕もない彼は指の痛みが引いてきた頃にナターシャへと向き直る。
「い、今のであんた個人への恨みつらみはチャラにしてやる」
「いつつぅ……こんなのでいいのかしら? 貴方もそこの彼も死にかけたんでしょ?」
「それに関してはよくはない。銀の福音開発国は大嫌いになったし暴走の原因作った奴は死ねって思う。けど、あんたへの恨みは大方八つ当たりだしな! ほぅら、織斑センセがメッチャ睨んでる怖い帰りてぇ!」
やりたいこともやりきって、バスに逃げ込もうかと思う桐也だが残念。バスの入り口に仁王立ちした千冬を見て諦めた。桐也は一夏の後ろに回り掠れた口笛を吹き始める。
それに呆れつつも前に押された一夏がナターシャへと応対することになる。
「桐也がすみません……それで話ってなんでしょうか?」
「貴方たちみたいな子供に迷惑をかけて、危ない目に合わせてごめんなさいって言いたくて。それと、あの子を止めてくれてありがとうって伝えたかったの」
「だってよ、桐也」
「やめろ、ここで俺に話題を振るなよ。八つ当たりした俺が恥ずかしくて死にそうになる」
短慮にやってまったと額に手を当ててる桐也。その様子をバスから眺めていた友人はため息を吐いていた。
ナターシャはそんな彼を見て楽しげに笑う。年相応なところのある少年だと、それ故によく銀の福音を止めるために動いてくれたとも思う。それを溢すと桐也は睥睨したような顔を隠しもしない。
「ちょいと譲れないものがあったと言いますか……でも二度目があったら俺はもう参加しませんよ、死にかけるなんて懲り懲りだ」
「それでも貴方は、きっと参加しそうね」
「はい?」
「それで織斑一夏くんはどうしてかしら?」
「皆を守るためです。まだまだ力不足って思い知らされましたけど」
千冬のような眩しさと、力と心が足りないが故の危うさを秘めた少年だとナターシャは思う。真っ直ぐに進めばきっと姉のような存在にだってなれるかもしれない。でも困難な道だろう。
話は終わったかと勝手に結論出してバスに戻ろうとしている少年は、弱くても脆くても譲らない芯を持っていると見た。折れれど曲がれど傷つけど、きっとどれだけ擦り切れても通そうとするものを持っている。
そんな思考に区切りをつけて離れる少年を引き寄せ、近くの少年を抱え込む。
「ありがとう、小さなナイトさんたち」
「いえ、そんな、えっ?」
「ナイトとか柄じゃ、ね──うぇ?」
少年ふたりは抱き寄せられ頬にキスをされた。それが今回の事件に尽力した報酬、それが今回の臨海学校のイベントの締めとなった。
「それじゃ、ばーい。また会いましょうね?」
「……は、あ」
「あ……え?」
固まった初な少年たちに手を振り、揺れるバスから離れた彼女は千冬に近づく。後ろには駆けていく少年と追いかける少女たち、踞る少年と囃し立てる少女たちとなんとも言えない顔の少女がいた。
「いい子たちね」
「私の生徒だから当然だ……お前はいらん火種を残してくれたがな」
「ごめんなさいね。頑張りようが愛らしくなっちゃって、つい」
「まったく」
今年に入ってから増えた溜め息の数を更新させつつ千冬は頭を振る。
「今回の件で銀の福音はどうなる?」
「一時凍結になってしまったわ。本当なら一時なんかじゃなくて正真正銘凍結処理がされるところだったのだけれど、そこだけは不幸中の幸い」
銀の福音が初めて意思を表出化させたとされるISであるからか、それとも他の理由があるのか。事件の深刻さと被害の割りには軽いともいえる処分がくだされた。
とは言えどさすがに軍事的な開発の方向性は完全に途絶えた。また別のプランが組み立てられることになるだろう。
「私はまたあの子と空を飛べればいいから、いいんですけれどね? あの子を暴走させた奴らだけは許しません」
細まり鋭いものへと変貌した視線を受けとめつつも、千冬は少し顔を背ける。ナターシャのデコが赤くなり始めて吹きそうになったとかではない。
「私もな、銀の福音は正直どうなったところで関係はない。ただ私の生徒を危ない目に合わせた輩は許せんな」
「そうですか。ではまたいずれ」
「ああ、銀の福音と飛べるようになったら遊びにでも来るといいさ」
「ふふっ、本当に行きますよ? って露骨に嫌そうな顔しないでくれませんか? ねぇちょっと」
「いつまで騒いでいる馬鹿ども! 帰りの支度をしろ!」
「ちょっとー!」
ここまで読んでくださった方に感謝を。
銀の福音編おしまい。次はあれです、夏休みにプールで強盗とメイド服着て夏祭りでキスする話でしたね。
・誕生日:キスはしてない。
・白騎士:たぶんコアには白騎士子ちゃんと白式子ちゃんがいる。
・シルグルNo.:白騎士へ注いだ情熱の残りカス。一般的に他と大差はないとされている。
・嫌い:パンツ見られたからだけじゃなくて、なんとなく普通に嫌い。たまにある現象。嫌われた側的には割りと理不尽。
・八つ当たり:割り切れない少年の暴走。
・ふたりの少年:未完成の成長過程。
・ナターシャ:銀の福音の操縦者。お姉さまよりお姉さんかお姉ちゃん系。