F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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02.貴族と庶民

 放課後、授業中に板書から先生の発言まで殴り書きしたノートを別のノートに書き写す。てか殴り書きした方のは今日俺が書いたはずなのに既に読解困難な文字がかなりある。

 だから読めなくなる前に復習がてら今日のうちに写しておこうと、明日以降使うつもりだったノートを消費してるわけだ。

 バカなのにペンだこ出来そうで困る。

 

「なぁ桐也……」

「断る」

「まだなんも言ってないのにか!?」

「今は人様のお願い聞ける余裕がねぇんだよ、見ろこのノート何語かわかるか日本語だ。これが読めるうちに日本語擬きを日本語に書き直すのに必死なんだ」

「いや、そのノートのことなんだが」

「板書しっかり取りやがれ」

 

 うっし、大体終わった。明日からは授業内容はノートじゃなくてルーズリーフにでも書くかね。しかし書き直したにも関わらず一割も頭に入ってこないのは俺の頭がポンコツなのか、基礎が足らんだけなのか。PICスゲェ、だけ覚えた。

 

「桐也ぁぁぁ、ノートぉぉぉ」

「寄るなゾンビぃぃぃ! まぁ、貸し一つな」

「助かる……なかなかに汚い字だな」

「るっせ、授業についていけないやつが全部写したらそうなったんだよ。そっちは明日まで貸せるからそれで勘弁してくれ」

 

 見やすい方は復習用だ。正直めんどくささしかないというより受験シーズンまで復習したことない俺が、復習しないといけないと思うとか我ながら重症。

 ひとまず疲れを抜いてからホテルに帰ろうと思い机に伏す。一夏は晩飯を作るためとかで先に帰った……自炊か、すごいな。

 なんとなく机に接してる面から疲労が抜けていってる(気のせいの)感覚に任せたままボーッとしていると、ふと人影が視界に入った。

 

「あら、まだいらしましたわね」

「ヴぁぁぁ……あ、セシリアさん」

「おおよそ人間の口から漏れたと思いたくない音ですわね」

「ちょっと待ってくれ、色々な疲労が口から漏れ出ただけだからその家畜見るような目は止めてほしい」

 

 もっとも元々冷ややかな視線なんだから、その温度を下げて絶対零度にしないでくれ。今は春なんだからそんな冷たさ望んでない、いや一年通していらんが。

 写し終えたノートを畳む、さすがに綺麗に書き直したとはいえ丸々板書を写しただけのノート見られると恥ずか……おっと既に馬鹿なのはクラスに知れ渡ってるので問題なかった。

 

「こんな時間にどうした? 忘れ物か?」

「まさか。あなたがまだいらっしゃると風の噂で聞いたので約束のものを渡しに来ただけですわ。早い方がよいでしょう」

「……あ、参考書」

 

 机の上にドンッと置かれたそれは参考書だった。例の入学前必読なはずが入学前に渡してもらえないという、なんかよくわからねぇなって事態に陥ったやつ。

 そして叩きつけるような音が鳴ったが別に叩きつけられたわけではなく、ただ上から落とされただけ。広辞苑とまでは言わんがなかなかのボリューム、電話帳と間違えて捨てた一夏の気持ちもわからんでもない。これは捨てたくなる。

 

「助かる、わざわざありがとう」

「ええ、感謝なさい。夕食のため部屋を出るついでとはいえわざわざ持ってきて差し上げたのですから」

「ふむ……礼に晩飯なにか奢ろうか?」

「……そうやって現金で、即物的ななにかで礼をしようとする、近寄ろうとするあたり男は嫌ですわ。本当に……そういう人間は、嫌いですわ」

 

 なんか、ごめん。セシリアさんから全国の男の心象を下げるのに貢献してしまった。今後の人生でセシリアに関わる男に頭を下げておく。なんだろう、下心のようなものがあると思われたのだろうか?

 けど、めげてられんので謝って感謝は伝えておく。

 

「すまん。頭とそういう配慮とかの察しは悪くてな。じゃあ、貸しひとつってことで。何かあったら言ってくれ、手伝うわ」

「別にわたくしは見返りを求めてやったわけではありませんわ。貴族として庶民にほどこしとして与えただけ、それは当然のこと。よって見返りはいりませんわ」

 

 こう、あれだな。口に出さないが、ちょっと親切だがこの意固地な性格……は失礼か、とにかく自分のなかにそういう曲げられない信念みたいなものがあるんだろうな。

 今日の休み時間からの話を聞くにセシリアさんはいい家の令嬢、てか本人の言う通り貴族なんだろう。

 こう、なんか食い違う価値観の出所はきっとそこだ。俺は日本人の根っからの庶民、彼女はイギリス人で恐らく貴族――国籍も異なれば家柄の位も違う。これで価値観に違いがない方がどうかしている。

 

「じゃあ庶民としてありがたく」

「ええ、それでいいのですわ」

 

 これからクラスメイトとしてやっていくのだから出来るかぎりの価値観の擦り合わせを、相違を知っておきたいところだが……難しそうだな。どうにも一夏や俺、男に対する話題のとき彼女は無関心、無関心を装いつつ拒否感嫌悪感が出ているような気がする。

 いや、こうして参考書をわざわざ貸してくれるあたり、俺の思春期特有の被害妄想って可能性もなくもないんだが、やはりセシリアさんから向けられる視線は他の生徒たちのものとは質が違う。

 

 ――なんてごちゃごちゃ考えたが今はどうでもいいんだよな、参考書に感謝感謝。貸してくれるイコールで俺のなかではいい人だ。性格はちょっと難しそうだけどいい人なんだ。

 しかし、こう小心者としては与えられてばかりも怖いのだ。察してくれ貴族様。

 

「ついでに庶民として借りひとつということで」

「……話聞いてましたの? 二度と同じ言葉を繰り返されないと理解できない猿にも劣る頭をされているのかしら? まさか日本の男性は本当に猿でしたの?」

「キッツいな、おい。いやいや貴族としての立場重々承知の上で庶民としての気持ちをいうと、与えられるだけというのは心苦しいからどうか借りひとつにして」

 

 元から睨むような眼をしていたソレを更にキツくし眉間にしわを寄せ真っ直ぐ俺を、俺の目を覗き込んでくる。ナニかを探っているような、見抜こうとしているような――やっべぇ、顔と顔が机ひとつ分の距離しかない、超緊張するので視線を外したい。たぶん実際は一分足らず、俺の体感数十分たっぷり視線をかち合わせていたが不意に彼女はため息を吐いた。なんか諦めたような、なんだお目目合わせてる間にセシリアさんの中で何があった。

「はぁ……わかりましたわ、勝手にしなさいな」

「おうさ」

 

 そうして出ていこうとした彼女だったがふと足を止める。思い出したかのようにこちらを振り返りながら確認をする。

 

「あぁ、あとひとつよろしいでしょうか?」

「いくらでも」

 

 振り返った彼女の表情、明らかにナニかが変わった。明言できない雰囲気のような、彼女のまとう空気とでも言うべきか。ただ感じ取れるのは拒絶、いや嫌悪感……その類いのモノだ。

 

「男性は女性より親切にされるとそれだけで好意と受けとると聞きます」

「まぁ、そうだな。人によるが消ゴム拾ってもらっただけで好意を抱かれてると勘違いしちまう悲しい生き物なんだわ」

「ええ、そうらしいですわね。ですのでわたくしはハッキリと言っておきます」

 

 ――わたくしは貴方が、男が、男性が大嫌いです。

 

 

「では、また明日。予習復習を欠かさないよう頑張ることですわ」

「……おう、また明日」

 

 そう言い捨てると踵を返しそのまま教室から去っていくセシリアさんを見送る。

 なんか、あれだな。好かれてるとは思わなかったけど正面からの拒絶は中々に堪える。ああ、気のせいでもなんでもなく嫌悪されてたなぁ。というかここまで嫌いと言いながら、親切に振る舞えるセシリアさんってば大人すぎねぇか? 自分でも貴族といってたがそれだけ苦労の多い人生だったのだろうか――やめだ、止め。んなこと考えても推測、妄想でしかねぇ。ただ事実として明確な嫌いを叩きつけられただけだろ。

 

 うん、素直に受け取った方が好感度下げずに済んだんじゃないかとか、絶賛後悔中のでっちが教室で頭抱える姿なんてなかった。なかったんだよ、かっこわりー。

 

 そんな事実があったりなかったりしてたら教室に織斑先生がやって来た。放課後の教室なのに来客が多いな。ようこそ、放課後の教室へ。忘れ物ですか?

 

「こんな時間まで何をしているんだ」

「いや、授業で書き殴ってミミズがのたうち回ったかのようなノートを新しくまとめてました」

「ほう、入学初日から精が出るな。三日坊主せずにそのまま頑張れよ半人前未満」

「歯に衣着せなさに涙が止まらない……で先生はどうされたんですかね?」

 

 そして伝えられる衝撃の事実、ホテルにはもう帰らず寮に暮らせと。あれだ、命の危機があるからとかそんな理由だろう。これからは女だらけのここで生活……SPのおっちゃん(ハゲ)が恋しくなるぜ。

 

「織斑と同じ1025号室だ」

 

 キーを投げ渡される。ひたすらどうでもいいけど、鍵を投げる動作だけで様になってて織斑先生カッケェな。

 何て考えていたら急に近づかれた、それはいい。近づいたタイミングが視界に入ってたのにわからなかった怖い怖い怖い。けど真面目な顔をしてるので話を聞くため姿勢を整える、決して睨まれてるようで竦み上がったわけじゃない。

 セシリアさんのウン億倍威圧感がすごいとかちっとも思ったわけじゃない。

 

「少し真面目な話をするぞ」

 

 織斑先生から話された内容は一夏と俺の立場について、現在世界中で二人しかいない男性IS操縦者としてのだ。

 その立場は非常に危うく、男がISに乗れることを快く思わない女に狙われる。ついでに賛成派でも俺を解剖でもして、ISに乗れるメカニズムを解明しようとする奴もいる。

 世界に二人という俺たち珍獣もとい珍人を狙う、珍人ハンターたちはゴロゴロといる。日々彼ら彼女らは俺の身体を狙ってるらしい、いやん。

 

「そこに酷なことを言えばお前は織斑よりある意味狙われやすい」

「あぁ、織斑先生の有無の差ですか」

「その通りだ。これでも元世界最強の身でな……逆にそのせいで織斑が狙われることもあるかもしれんが手の出しにくさはお前と比べるまでもない」

 

 嫌だなぁ、めんどくせぇなー。なんとなく自分でも理解してたけど他人から言われっと重みが違うよな。たぶん卒業後のこととかも、在学中にどうにかしないといけないんだろうし……俺の青春どこ行ったんだろうか?

 

「うーん、卒業したら解剖されて各国で誕生日ケーキを切り分けるかの如く俺の身体を……ゾッとしないなぁ」

「そこまでマイナスに考えるな。何も考えなくていいとは言えんが、この学園にいるかぎり進路についても私たち教員も出来る限りのことはする」

「そこはホントお願いします。ケーキは食うだけで満腹なんで」

 

 切り分けられるケーキにはなりたくないしな。

 

 入学一日目にして既に濃度的には半年分くらいのイベントをこなした気分になりつつ、悩んでても仕方ないと寮へと帰る。我ながら切り替えの早さは長所だと思っている。切り替えるまでが長いだけだ。

 借りた参考書にも目を通したいし、寝たいし寝たいし寝たい。情報量が既に脳内キャパをオーバーしてるから整理するためにも睡眠が必要だ。

 

 寮内を歩けば扉が斬り裂かれた部屋もあるが、まあ寮だそんなこともあるだろう。ただ、それが1025号室の扉なのはちょっと見逃せない。脳内のキャパオーバーしてるつってんだろ、ふざけんな。

 

「待て、桐也! 待ってくれ、ヘルプ!」

「……なんだよ、その斬り裂かれた扉と関係ないなら助けるが」

「ふむ、残念だったな一夏。見捨てられたぞ、大人しくお縄につけ。桐也だったか、時間をとらせたな。帰っていいぞ」

「いやいや、待て箒。そもそもあれは事故だろ!」

 

 可哀想な扉付きの自室に帰ろうとしたら箒、さんだっけ? と遭遇。

 半強制的に話を聞かされたところによれば、同室者もいないので少し部屋にお邪魔して昔話をしようとしたら――なんやかんやで一夏が箒さんのブラ発掘。

 木刀を取り出した箒さんに恐怖を抱いた一夏は自室に逃亡、しかし木刀一閃。無惨にも扉はあの様だ。

 待て、なんやかんやでブラ発掘ってなんだよ。なんなの一夏はブラジャーハンターなの? お、語呂がいいな、極めてどうでもいいが。

 

「私にもわからん、その……一夏は昔からこうなのだ。それで発した言葉が謝罪でなく、あ、箒もブラ着けるようになったんだな? さすがに堪忍袋の緒が切れたぞ」

 

 ふむ、つまり天性の女難(ラッキースケベ)持ちか。そうかそうか……

 

「一夏、ギルティ。扉と同じ運命を辿れや、えーっと誰さんだっけ?」

「篠ノ之箒だ、箒で構わん」

「よし、箒さん俺ごとやっちまえ」

「ちょ、桐也!? 離せ、話せばわかるから!」

「残念一夏、離さねぇし話すこともねぇな。裁判抜きで即刻ギルティだ。主に俺の私怨で法の裁きならぬ、木刀の捌きを受けろ」

 

 羽交い締めにして一夏の動きを止めた俺は再度やれと言う。必死の抵抗をする一夏だが、残念ながら美人の下着をゲットという私怨で強化というか狂化した俺はビクともしない。精神的に若干ダウン気味で八つ当たり半分に意地でも離さん。

 

 そして箒さんから放たれるドアをも斬り裂く木刀――はさすがに一夏が死ぬと思ったのか見事なドロップキック、白色か。俺にも貫通ダメージが来たあたり手加減ならぬ足加減なしの一撃だった。蹴り飛ばされた一夏と俺は部屋の中に転がり込む。ぐぇ、一夏と床にサンドイッチされた。

 

「グホッゲホッ……し、死ぬ」

「美人の下着堀り当てたんだ、仕方無いな」

「そんなものなのか……」

 

 反省しろこの野郎。ほら、箒さんがヤンキーみたいに木刀で肩をポンポン叩きながら来たぞ。廊下の明かりが逆光となりめっちゃ怖い、チビりそう。

 

「一夏、私は割りと寛大なつもりだ。その上でひとつ問いたいのだが、なにか言うことはないか?」

「ほんっとうにすみませんでしたぁぁぁ!」

 

 それは綺麗な土下座だった、へたりこんだ姿勢からどこの筋肉を稼働させたのか甚だ疑問だが跳ねるように上体を起こし、勢いそのままに五体投地。たぶんあれ、何が悪いかわかってないけど反射的に謝ってるな。本能が謝れって訴えたんだろ。そしてそれは懸命な判断だろうな、今の箒さんとはマシンガン持っても対峙したくない。

 

「そもそもお前は女心がわかっていなさすぎる、完全に理解しろとは言わんが少しくらい察せられるようになれ」

「……はい」

「たとえばだ、少し恥ずかしげに顔を俯かせながらド素人のお前にISについて教えてあげようかという生徒がいる。どう思う?」

「え、顔を俯かせてるなら気が向かないんだろうし断るな。男同士で気楽に桐也とやるさ」

「見ろ桐也、この様だ。しかしこれで惚れる奴があとを絶えんから手におえん」

 

 あー、鈍感なのか。そして知り合いの箒さんはそれを知っていると。呆れた顔をしつつ、どこか達観してている彼女はどれどけ苦労してきたのか……

 

「不躾ながら箒さんはどうなんだ?」

「察してくれ。久し振りに会った男を、初日に大した用なく自室に誘うんだ。普通わかるだろう」

「あー、えー、なんかすまん」

「いい、慣れている。慣れたくなかったがな」

 

 一夏はモテるけど当の本人は鈍感、そしてここは女しかいない学園。修羅場の臭いがプンプンするぜ。

 このとき俺が抱いたこの思い、何一つ間違っちゃいなかったことをこれから先の三年間で思い知ることとなった。知る、ではなく思い知る。流れ弾がビュンビュン来やがったのだ。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 翌朝、今までホテルで寝泊まりしてたんだから寝起きの一瞬ここがどこかわからず微妙に混乱したなんて事実は捨て置きさぁ朝飯だ。

 正面に座る一夏はご飯、俺はパン。朝はパン派なんだよ。

 

「ご飯じゃないと腹に溜まらなくないか?」

「むしろ朝から腹に溜めると気持ち悪くなんだよ、今の今まで朝食はパンだ」

「けど朝昼をガッツリ食べて夜を少なめにした方が健康にいいんだぜ?」

「相変わらずジジ臭いな一夏は」

 

 っと、箒さんか。一夏の隣をどうぞと指差す。それが良くなかったのかもしれん。

 いや、箒さんを招いたことが悪いのではなく男二人の食事に“女”を受け入れたことか。気づくべきだった、不自然なほど俺と一夏の周りに人がおらず距離をとられてることに。ナニかに遮られているかのように妙な空間が出来ていたということを。ドーナツ現象的な、いや全くドーナツ現象ではないがイメージ的にそれだ。

 そして箒さん一人が何の気なしに幼馴染みの一夏のところへやって来たところで──ナニか、のラインは決壊した。さながらダムが決壊し水が押し寄せるように食堂にいた女子たちが押し寄せてきた。

 

「ねぇ! 私たちも一緒にご飯食べていい!?」

「私も!」

「ちょっと押さないで!」

「あー、座れるとこ座ればいいんじゃ……ふぅ、ごっつぁんしたー」

「桐也食い終わるの早くないか!?」

「俺アッサリ食パン一枚、一夏ガッツリ定食プラス一品系。アンダスタン?」

「待て、桐也! 待ってくれ、置いてかないでくれ!」

 

 昨日も似た台詞聞いたぞ。それにさすがにこの中に男一人放置するほど薄情でもない、明らかに一夏がホッとしてるが本当に行くと思ったのか? さて、このままでは手持ち無沙汰なのでもう一杯牛乳を飲もうと……ふむ、人が多すぎて身動きがとれん。

 

「その、たぶん私のせいか。すまない、私もこういう人の機敏に鈍くてな……血筋というかなんというかな」

「血筋……?」

「いや、なんでもない。とにかく賑やかな朝食になってしまって申し訳ない」

「早いか遅いかの違いだろうしいいんじゃね? すぐ収まるだろうし」

「出路くん朝御飯それだけで足りるの?」

「足りる、足りなくても耐えれば昼が来る。むしろ俺は他の皆の朝御飯がそれで足りるのか不安……いや、箒さんが普通に定食頼んでることに対しての遠回しな嫌みとかじゃないから」

「……ふん、私は昔から朝はしっかりと取る質なのだ」

「あー、昔は箒も俺と同じくらい食ってたもんな」

 

 ピタッと全員の動きが音が止まる。これはあれだな、嵐の前のなんとやら来るぞ来るぞ──爆発、質問の嵐が一夏と箒さんを襲う。すぐ収まるって言ったの誰だ、俺だ爆発してんじゃねぇかよ。

 ──昔からってどういうことなのか、二人はどういう関係なのか、出路(俺)とも昔から親交はあるのかむしろどういう関係なのか。おい、最後の奴出てこいや。

 

「桐也とは昨日会ったばかりだけど箒とは幼馴染みだ」

「お、幼馴染み……一歩リードされてる……!」

「まだよ、学園生活はまだまだじゃない!」

「はいはーい! 二人は何号室にいるの?」

 

 その質問を聞き少し悩む。素直に伝えてよいものなのか、人が押し寄せてきたりしないか。いや俺目当ての子が来るんじゃないかとかそういう脳内お花畑なことを考えてるのではない。単純に身の安全とか考慮した上で、ああチクショウ一夏が普通に答えやがった。

 

 ……まぁ、遅かれ早かれわかることだから問題はないか。昨日、自身のみの危険について聞かされたばかりで少々神経質になりすぎたか? 神経質になりすぎるのもいかんな。

 

「どうした桐也黙り込んで?」

「いや、眠いだけだ。今日のノートとっといてくれ」

「任せろ! ……真っ白なノートになるかもしれんが」

「おい、ふざけんなお前も寝る気か」

 

 そんな下らんことを話してる間にもわいのわいのと押し寄せる人の波。

 タイムセールの主婦と無尽蔵の体力持ちの園児、それに十代の女子の活気は底が知れないと思っていたがこれは予想外にパワーがある。そうだよな、園児を経て主婦へと至る途中経過だもんな。そりゃ力あるわ。その後も織斑先生がさっさと飯を食い終えろと言いに来るまでこの波は引かなかった。

 

「いつまで食べ……騒いでいる! 食事は迅速に効率よく取れ!」

「つまり迅速に食える俺の朝食量はなにも間違ってなかった。一夏急げ、遅刻したらグラウンド十周らしいぞ」

 

 ちなみに一周5km、十倍にすれば50km。ストレートにいうが死ぬ、フルマラソン余裕で越える距離じゃねえか。正直体力はからっきしなので勘弁願いたい、なので一夏はさっさと食い終われ。

 さっきまで夜灯に群がる羽虫……失礼、とにかく寄って集ってきてた生徒だって既に姿が見当たらん。つまり時間がやべぇんだよ。

 

「す、すまん! というか先に行っててくれていいぞ!」

「そうだなこのままじゃ遅刻しそうだし行くべきだろうな、だが断る。待つって言ったし待つぞ。てか口を話すためじゃなく、食物噛み砕いて嚥下するために動かせや。残り5分だぞ」

 

 一夏は残りを掻き込んだ。そして俺たちは走った、残りはもう分すら残っていないかもしれない。けど一組が視界に入った、そして一夏が入室、続いて俺も――チャイムが鳴り渡った。

 

「と、桐也……」

「残念、あと一歩踏み込みが足りなかった」

「そうだな出路、そしてその一歩が何万倍になるかもわかるな? 喜べ、お前が今年度かつ一年のなかで遅刻第一号だ」

「一年一組の一号とは何とも景気が良さそうですね」

 

 一夏ならなお景気が良さげだった。

 だが50kmか、放課後からやって明日までに終わるか? 自慢じゃないが先述の通り持久力には自信がない、得意なのは短距離のみだ。一夏が本気で申し訳なさそうな顔してるけど別に一夏のせいでもねぇし、適当に手をヒラヒラ振って気にするなと合図しておく。

 

「……はぁ、次からは気をつけろ。今回は初犯だ、半分で許す」

「ういっす」

「返事はハイだ」

「はい」

 

 えー、半分だから……25kmか。まぁ、なんとかなるだろ。その後始まる授業は相変わらずわからないところが多く板書をノートに殴り書きで写す作業となった。親指が炎症起こしそう、早く必要なものか必要じゃないものか判断してノート取れるようになりてぇ……隣のノートを覗き見ても俺の半分程度しか書いてない。

 

 ──昨日、一夏のノートは後半真っ白だったのは余談だ。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・セッシー:男性嫌い、けど陰口も嫌い、正面から拒絶。
・シノノノホーキちゃん:突きでドアに穴を開けない、正面から斬り裂く侍ガール。

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