F≠S 《インフィニット・ストラトス》   作:バンビーノ

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12.面倒積もり

 昼飯、シャルルに奢ってもらった一品を満喫しながら完食。ここの生徒、つまり女子から見ればそこそこ多い量、ただし男子高校生的には許容範囲内である量を食べきり一息つく。

 一夏は箒さんに誘われ屋上で昼食を取っている。例によって一夏に一緒にどうだと誘われたが断った。馬に蹴られる気もなければ、折角の奢りを購買で済ませる気もなかった。

 一緒に誘われた鈴は目線を一夏に向けたまま、貸し一つとナニかサインを箒さんに飛ばしていた。いやー、命短し恋せよ乙女って感じだな。短命なのは青春なのだが。

 

「桐也ー! 外の景色見てないで助けてよ!」

「シャルル君って髪の毛伸ばしても似合いそうだよね!」

「え、えっ……そ、そうかな?」

「王子さまって感じで!」

「……あー、そっちかぁ。っていやいや! 男の子は髪の毛伸ばして似合いそうって言われてもそんなに嬉しくないから!」

 

 クッソ、美少年爆ぜねぇかなぁ。別に冷静に考えれば女子に囲まれて質問攻めされるってそこまで羨ましくもないんだがそれはそれだ。なんか腹立つのでもげてほしい、チンコとか。打鉄で気づかれないように出来ねぇかな……チッ、無理か。

 

「桐也さん、デュノアさんが助けを求めてますわよ?」

「ん……? あぁ、セシリアさんに鈴じゃん。ヨッス、また二人してどうしたんだ?」

 専用機持ち同士で集まることは珍しくもないがこの二人だけっていうのはあんまり見ない組み合わせだ。

 

「やっほ、いやぁ山田先生に盛大に負けちゃったから反省会してたのよ」

「……出した結論が山田先生より強くなってブッ飛ばすというのは反省したことになるのでしょうか?」

「桐也たーすーけーてー!」

 なーんも聞こえないナァ。

「なるなる! やー、千冬さんはともかく学園の教師ちょっと舐めてたわー。でもそれがいい! 高い壁が多い方が燃える!」

「といった感じでして、まあ反省会というかお互いの感想を交換した程度でしたわ……桐也さんは見てて何かご感想は?」

「軽い意見交換って感じか。そうだなぁ」

 

 次こそ勝つとガッツポーズ掲げてテンションも鰻登りで目に見えて燃えている鈴はともかく、セシリアさんの方も自身の間合いで十全に戦えなかったことはプライドの琴線にポロロンと触れたらしい。言葉のニュアンスは落ち着いてるが垂れ目がつり目気味な角度に上がってることから容易にわかる。そうでないと偶々出会った俺にまで見てた感想など聞かないだろう。

 

「山田先生が上手いんだろうが二人に自分の戦い方まで持っていかせてなかった。そのことに焦れてきたあたりで隙を作って誘い込む、動きを誘導する戦法にカッチリ嵌まってたことが素人目でもわかったな」

「それに見事に引っ掛かってあたしはショットガンの餌食にぃぃぃ」

「ビット操作に集中できたと思ったら弾幕を浴びましたわ……やはりそうですか。わたくしも思い返せば心当たりしかないのですが、見事に術中に嵌まりました」

 

 奇っ怪なオブジェクトのように身体をねじって捻る鈴と珍しく落ち込む様子のセシリアさんは見てて楽しいが、代表候補生的には新しい課題というか浮き彫りになった課題って感じか。

 けど織斑センセ曰く、まだまだ全員ヒヨコ未満らしいので裏を返せばそれだけ伸び代があるってことだ。山田先生を舐めるわけでもないがこの二人のバイタリティからして勝てる日は近からずも遠からずなんじゃねぇかな。

 

 去っていく二人に手を振り再び外を眺める。別に隣に男らしくドカッと座って猫みたいに息を荒げてるシャルルと眼を合わせたくないわけではない。

 なんか机をバンバン叩いて何か主張してるが俺にはきっと関係ない。誰かの指が顔に食い込んで首の向きを窓から反転させようとしてる気がするが、首の筋肉を総動員し何処か自分のちっぽけさを感じさせる壮大な青空を視界から外さない。

 

「こっち向けーッ!」

 

 いい加減、首も疲れてきたので諦めて振り向くとシャルルがいた。知ってた。

 散々弄られたのか髪の毛はボブの三つ編みにされている。なまじ綺麗な顔してやがるからモデル雑誌に載っていても違和感ないレベルだ。

「……あ、シャルルじゃん。奇遇ダナ?」

「奇遇も偶然もないよ! 何回も助け呼んだのに無視して!」

「髪型似合ってるぞ!」

「話逸らしたね」

「空が青いな」

「逸らし方が雑すぎるよ!」

 

 未だに顔に添えられている手を振りほどこうにも指先がミチミチと食い込んでる。細腕のどこにそんな力が秘められているのか、一向に握力が落ちることなく顔をロックされる。

 

「離せばわかる、離せ」

「それ言った人の末路は知ってるよね?」

「獅子奮闘、撃たれる弾丸を爪先で弾きあげた教壇を盾に不意討ちに対応。鉄砲の弾は躱し時には叩き落とし、最後には九五式重戦車の凶弾に無念にもだったか」

「待って、僕の知ってる人間と歴史とかけ離れてるんだけひゃンッ!?」

 

 話題に集中したシャルルの腹をつつく。咄嗟に手を離し立ち上がるシャルルの奇声に思わず、にへらっと嗤ってしまう。

「……なにさ」

「いんやぁー、なんでもないですよー?」

 

 拘束から抜けるもジトッとした視線からは抜け出せない。如何にも怒ってますと分かりやすいくらいに分かりやすいサインが飛ばされている。だが、面倒くさいのでそのサインは着信拒否。既に面倒事は谷より深い穴窪みに山より高く積もってるんだってのにこれ以上増やしてたまるかっての。

 

「日本人って場の空気を読むのが上手いって聞いてたけど桐也は意に介さずって感じだよね」

「親譲り親譲り、おっと親の顔が見てみたい? 残念、保護プログラムで写真すら残ってねぇ!」

「…………」

「なんか言えよ、悲しくなるだろ」

 

 小粋なジョークを飛ばすと何故かシャルルが沈痛な面持ちで顔を覆った。そういや前にクラスの置き勉マスター岸里ちゃんに言ったときにも似た反応されたな。話題が話題なもんでブラックジョークというか自虐ネタ過ぎるかと反省したもんだったが。

 同じ境遇であろうシャルルならセーフかと思ったがこのネタはアウトか、むしろ境遇の同じ者として気遣いが足りんかったか。

 

「反応に困るよ……」

「男性IS操縦者同士のネタとして通るかと思ったが配慮が足りんかったみたいだ、すまん」

「ううん、僕の方こそごめんね」

「……なにがだ? シャルルが謝ることあったか?」

「あっ、いやほら、変に拗ねちゃって! さすがにあの人数だと桐也が仲裁に来てもどうしようもなかったよね!」

「ああ、そりゃ気にしてない。気にしてないからスルーしてたし」

「おかしいな、謝罪を撤回したくなっちゃったよ」

 

 ふむ、極めてどうでもいいけどシャルルと出会って数日。何気に会話でかなり細かいながらも齟齬が出たのは今回が初めてだ。俺の性格はこんなんだし日本人とかいうよく分からないアドバンテージを埋めるほど、シャルルが空気や意図を読み取ってたからということに他ならない。親友とか心の友とかそういう間柄なら無意識に出来てるんだがシャルルとは──所詮数日の付き合いだしな。お互い知らないことだらけな訳で。だからこそ、普通なら流す食い違いが引っ掛かった。

 何なんだろうか、ここに来るまでは言葉の弾丸を好き勝手に撃ち合ってるような環境だったからか噛み合いすぎるシャルルとの会話は大なり小なり気を使われてるように感じる。

 

 なのでもっと素で話してくれていいんだけどな。

 そう言うとシャルルが僅かに気まずそうに固まった。一瞬、躊躇った顔を見せ直ぐに引っ込めて、また気まずそうな表情に戻して頬を掻く。

 

「あ、アハハ、結構素のつもりなんだけど……なんとなくで合わせるのが癖になっちゃってて」

「お前の方がよっぽど良くも悪くも日本人らしいじゃねぇか。全くもって社会を上手く渡れそうな性格しやがって、箸使えないくせに」

「そうならよかったなぁ……って箸使えないのは関係ないでしょ!?」

 アッハッハ、なんかめんどくせぇー。

 

 

▽▽▽▽

 

 

「ですが!」

「断る、二度も理由は言わんぞ」

「……はい」

 

 木陰に潜むは、今の会話を聞かれても問題のない者だった。だからこそ存在に気づいても無視をしていたし、むしろ聞く権利という点であれば十二分にある人物であった。

 ただ、このまま気づかれていないと勘違いさせたまま帰らせるのも何処か面白くない。そう考えた彼女はシニカルな笑みを顔に浮かべソイツに声を掛ける。

 

「一夏、盗み聞きとはいい趣味だな」

「うっげ……千冬ね、先生気づいてたのかよ。てか苗字で呼ばなくていいのか?」

「ふん、既に放課後だ。それにしても弟が盗み聞きを趣味にしているとは悲しいぞ」

「いやいや、千冬姉とラウラが話をしてて去るに去れなかったんだって……アイツ、千冬姉がドイツ軍に教鞭しにいった際の生徒だったんたな」

 

 ISの世界大会、第二回モンド・グロッソ。その第一回の大会で優勝した織斑千冬は決勝戦で原因不明の棄権をした。公式的には、原因不明とされている。

 がしかし、その真相は唯一の家族。弟の織斑一夏が略取されたからであった。千冬の判断は反射とも言えるほどに即決であり、迷いはなかった。弟を救うために使えるものはすべて使い倒し、その際に一番巻き込まれたのがドイツ軍。軍の衛星により一夏の現在地を割り出し織斑千冬へと提供した。

 そのときの借りを返すために千冬は一年間ドイツ軍のIS部隊の教官として働いていた。ラウラ・ボーデヴィッヒはそこで千冬の教鞭を受けた一人であった。

 

「ああ、そうだぞ。なかなか真正直で可愛い奴だ……何故かお前には跳び蹴りしたが」

「千冬姉にも何で跳び蹴りしたのかわからないのかよ」

「日本では人様の弟にいきなり蹴りを入れろと教えた覚えはないのだがな」

 

 そして一夏が聞こえた内容は再びドイツ軍に戻ってもらえないかというお願いであった。

 『日本食の方が旨いので嫌だ』という一言で一刀両断切り捨て御免とバッサリ断られていたわけなのだが。飼い犬が捨てられたかのようにショボンとしたラウラの背中に蹴られた一夏が哀愁を禁じ得なかったほどだ。一方、千冬は変わらぬラウラに笑いを堪えるのに必死であった。

 

「いやなんだ、阿呆過ぎるほどに素直な奴だからな。私関係でお前に我慢しきれない思いがあったのかもしれん」

「というとやっぱり、あの大会のことか……」

「さあな、だが言っておくがあの事に関してはお前が責任を感じることは許さん」

 

 自分が弱かったから、守られる立場だったから千冬に迷惑をかけた、かけてしまった。そう口に出そうと反論しようとした言葉は喉にまでも上がることはなかった。

 視線が交差し姉の瞳がどうしようもなく怒っていると一夏に伝えてきた。そんなことを言わないでくれと言うかのように悲しげな顔をさせてしまった。

 

 ということもなくもなかったが、なにより顔にめり込んだ万力の如き握力が言語としての声をあげることを強制的に中断させていた。

 

「イダダダデデデデデ!?」

「そんな悲しいことは言うな一夏」

「わかった! わかったから離してくれ!」

「ああ、話せばわかる。話し合おうか」

「そっちじゃないからな!? てか千冬姉わかっててやってるだろ!? ちょっと笑ってるし!」

「愚弟が余りにも愚にもつかないことを言おうとするのでな、つい」

 パッと締め付けから解放された一夏はペタペタと顔面が変形していないか確認し無事であることに一息つく。

 

「いってぇ……取り敢えず、今度向こうから来たら何が気にくわないのか聞いてみるよ」

「ふっ、お前も大概素直な奴だな。普通蹴ってきた奴なんぞ無条件に避けるものだ」

「そうかな、だとしたら千冬姉の育て方が良かったんだな。ラウラも素直みたいだし」

「……平然と小っ恥ずかしいことを言うな、馬鹿者」

「千冬姉は夕食どうするんだ? 早いなら作っとくけど」

「はぁ、構わん。どうせ遅くなるだろうからお前は友人と食堂ででも食べておけ。仕事ができた」

「えっ……あー、わかった」

 

 姉弟は並んで歩く。家族水入らずというに相応しいその光景は、ひとつのレンズに収められていた。日夜影に日向に潜む新聞部がその決定的瞬間を捉え、号外記事のために隠密に部室へと帰り──その日のその後の彼女の記憶はない。ただ、僅かに覚えているのは出席簿。この怪奇な事件は迷宮入りし、IS学園の七不思議となるのだがこれはまた別のお話。

 

 一夏はどうせなので桐也やシャルルを誘おうと夕食の予定をたてた。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 出路桐也はアリーナにしこたま出来たクレーターを埋めるための土を運ぶ。打鉄の盾に乗せれるだけ土を乗せ皹割れた地面の修復を行う。一零停止や瞬時加速の応用、他諸々の飛行方法を片っ端から実践してみた結果がこれだ。

 普段アリーナに穴のひとつやふたつ出来た程度なら誰も気にも止めないところなのだが、局地的に何処が元の平地かわからぬほどに荒れている。その実行犯としてはこのままにしておくのも忍びない。さすがの惨状に無意識に漏れそうになった溜め息を噛み殺し、人もまばらになった場でヘラヘラしつつ凸凹を平らに直す。

 

「最高加速からの軌道変更はほぼほぼ難あり、というか難しかなしと……」

 

 ちょっとこのまま打鉄で空の向こう、遥か彼方まで飛んでいきてぇな。などという思春期特有の現実逃避を出来ないとわかっていても考えてしまう。いい加減に単純な飛行技術の組合せくらいはまともに出来るようになりたいと出路は考える。

 ──ただ、実際のところ出路桐也の技術が底辺かと言えばそういうわけでもない。確かに単純な操縦では既に少なくない生徒に劣るところもある。だが現状で専用機持ちを除いた一年生のなかに瞬時加速が行える者など数えるほどもいないだろう。出来る出来ないが極端すぎるだけなのだ。

 そのことには気づいている、けど周りがどうにも優秀すぎる。周囲がどんどん出来なかったことを出来るにしていくなかで停滞しているような感覚に陥ってしまう。

 

 非固定浮遊盾をびったんびったん叩きつけ地面をならしつつ頭をかく。そもそもこんな考え自体が贅沢とは自覚している。

 なにしろ出路は専用機を持ちいくらでも練習が出来る。座学はともかくISの実習については一般生徒の比にならないほどの練習時間を費やせる。

 

「……めんどくせぇ」

 

 だが出路桐也が毎日練習を行うことはない。座学が追い付けないので補習を受けるから、だけの理由ではない。単に努力といった行為に慣れてない、ただサボり癖のついたどこまでも普通の学生だった。面倒なことは極力避け、厄介事は眺めるだけで首は突っ込まない。あとは友人とバカをして生きてきた。

 つまるところ、この才女溢れる学園に放り込まれてから今まで何とか頑張っていたものの、そろそろ気力も尽きかけているわけであった。

 

 しかし、さすがにこの学園で必要最低限の努力を怠ればどうなるかもわかっている。そうならないためにも頑張らないといけないという気持ちと何かもういいやって思いがかろうじて拮抗している出路の内心。

 

 地面の整備も程々にアリーナを後にする。こんなときは食って発散するに限るというデブに成りかねない思考を巡らせつつ寮へ向かう。振り切れない思考を重々しく感じつつも学食に思い馳せさせて──道端で三角座りしている銀髪が視界の端に引っ掛かった。(くだん)のオモシロ転校生ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

「食事、食事……確かにジャガイモやウインナーくらいしかないですが」

 出路には何を言っているのかサッパリな訳だが。

 

「そんなところでどーしたよ、ラウラさん?」

「誰だ……出路か。いや、ドイツの科学は世界一だが、食事は日本がナンバーワンだと痛感していたところだ」

「え、そんなことないぞ」

「なに!? ドイツの食事も負けていないか!?」

「うんにゃ? 日本の科学が負けてないだろって。ISの開発者は日本人だし」

「なん、だと……? いや、しかしそこを譲ってしまえばクラリッサから聞いたドイツの美点がなくなってしまうぞ……!」

 

 いやドイツ頑張れよ、クラリなんとかさんも頑張れよ。

「てか質問戻すけど何してんだ?」

「……教官にドイツ軍で再び教鞭を取っていただけないか打診したところフラれてな」

 

 教官とは誰かと束の間思考を巡らせると直ぐに思い当たった。授業中などにラウラからそう呼ばれていた人物は織斑千冬のみであり、まあ軍で教鞭を取っていても不思議でないカリスマ性というかオーラを放っていることも直ぐに思い至った一因となった。

 学園に就く前は一時期ドイツ軍でISの操縦などを教えてたことに想像を交えたおおよその推測を出路は立てる。

 それでラウラ・ボーデヴィッヒがドイツ軍所属とは、人は見かけによらんというか眼帯以外そういう()()()がないように見える。例えここで出路と戦えば10秒とかからず制圧できるとしても見かけは少女でしかなく、出路のなかでは今一ピンと来なかった。

 それはさて置き、出路が同じお願いされても織斑千冬の立場なら断るだろう。

 

「そりゃ弟をいきなり蹴った奴に言われてもな」

「ぐふっ」

「しかも、唯一の家族。もう教師と生徒の立場でなけりゃ叩きおされ、いや一夏もろともやられてたか」

「う、うぁぁぁ……!」

「やっべぇ、ラウラが面白いほど震えてる」

 

 三角座りしているまま、直下地震にでも見舞われたかの如く縦揺れするラウラ。一時はドイツの冷や水とも言われていた彼女は何処へやら。

 誰よりも強く気高い織斑千冬に憧れたからこそ表出する感情は常にフラットだった。しかしその後も織斑千冬をよく見ていくうちに想像より遥かに感情に富んでいたことを知り、彼女本来の感情の豊かさを意図して止めることもなく発露していくようになった。

 そしてドイツ軍のオアシス(本人非公認)となった彼女。

 

 閑話休題。そんな経緯など欠片ほども知らず知る必要も別段ない出路はいい機会だと気になっていたことを尋ねる。

 震えていたラウラがピタリと止まり露骨に目を逸らされた。

 

「なんで一夏蹴ったんだ、ってオイ。滅茶苦茶目ぇ逸らすな」

「別になんだっていいだろう、お前に言う必要もない」

「織斑一夏の友人として、アイツが蹴られた理由くらいは知っておきたい」

「……教か」

「という建前を置いておいて俺の好奇心が止まらねぇ!」

「絶対に言わんからな!?」

 

 感情論と正論を合わせたかのような台詞に一瞬ほだされそうになったラウラだったが直ぐに続く言葉を飲み込んだ。かくいう出路は出路で内心軽く冷や汗をかいていた。なんか面倒そうな事情に踏み込みかけたけどセーフ、ナイス俺! といった様子。声音や表情から何となく感じただけだが全力で避けた、平時の彼は割りと人間性としては低め克つチキンであった。

 

「まあ、どうせ一夏がブラジャー掴んじゃったとかそこらへんだろ」

「待て、そんな理由があって堪る……真顔、だと?」

 

 木枯らしが、二人の間を虚しく吹き抜けた。




ここまで読んでくださった方に感謝を。

・はなせばわかる:わかりあえなかった。
・親の顔:現在保護プログラムによりこの情報は公開されていません。
・一夏くん略取事件:略取は力付くで拐うこと。誘拐は言葉巧みに連れ去ることだったりする。犯人はたぶんファントムなんとか。
・日本食:ドイツの黒ビールに心惹かれたのは千冬のみぞ知る。
・ドイツ軍のオアシス:黒ウサギな某副隊長が言い始めた。
・木枯らし:まだ秋ではないので吹かない。

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