聖剣伝説 Hunters of Mana   作:変種第二号

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Prologue:上位者狩りの夜

 

 

 

《『青ざめた血』を求めよ。狩りを全うするために》

 

 

 

 

 

【上位者】

嘗て古き民によって見出され、人々に『瞳』を与え給うた者ども。

彼等の血は幾らかの人の脳の内に『瞳』を授け、しかし多数の人々の内に潜む『獣』をも呼び覚ました。

彼等との接触の経緯は多岐に及び、上位者ごとに異なる手法で人々と邂逅を果たし、そして血を交えるに至る。

其々に方法の違いこそ在れど、彼等が求めるものは同一のもの。

 

 

 

『赤子』を!

我等に新たなる『赤子』を!

 

 

 

『ローラン』は『獣』に滅び『トゥメル』は『血』に滅びた。

しかして血の交わりは『ヤーナム』に至り、遂にこそ完全たる『赤子』を得るに至る。

異端の上位者、異端の『赤子』。

故知れぬ『狩人の赤子』を

 

ローラン、トゥメル、ヤーナム。

いずれの時代、いずれの場所にも『獣』を狩る者ども『狩人』は居た。

『獣の病』と呼称される風土病は、その故こそ明らかにならずとも、牙と爪とを以って民への脅威となった。

特にヤーナムに於いては『最初の狩人』が度を超えて優秀だった事も在り、上位者の一体は彼を自身の傀儡とする事で『狩人』の脅威を封ぜざるを得なかった程だ。

しかし彼を封じ、また新たな狩人を管理する為の悪夢こそが、新たなる『赤子』の揺り籠になろうなどと、どの上位者にも予想だにし得なかった事。

そして『赤子』の誕生に至る経緯もまた、上位者たちに未知の可能性への期待を抱かせるには充分に過ぎるものだった。

 

ヤーナムに蔓延る恐ろしい『獣』。

各々の目的、理由から街に留まる『上位者』たち。

その悉くを討ち果たし『成り損ない』の残滓を取り込み。

『獣』を克せんとする外法を否定し、懇願の果てに『瞳』を賜らんとする崇拝を拒絶し。

自らの力で以って『上位者』を討ち果たし、自身をその高みへと導いた異端の『狩人』。

血に酔わず、獣とならず。

常軌を逸した戦い、繰り返される敗北と死、研鑽と摩耗と克服、飛躍と凌駕と超越の果てに。

『狩人』は人としての己を脱ぎ捨て、新たなる『上位者の赤子』となった。

『獣』も『上位者』も、果ては『古き狩人』たちでさえ、彼を止めるには至らなかった。

無限の可能性を秘めた『赤子』の誕生に、上位者たちは沸き返ったものだ。

 

そして、ローランとトゥメルに続き、ヤーナムでさえ記憶と時間の中に埋没して果てた頃。

かの『赤子』は幼年期を脱し、上位者としての成熟の時期へと踏み入った。

時間の概念でさえ人のそれとは異なる時空の虚の中、嘗ての『月の魔物』の残滓でもある『人形』を乳母として育つ彼は、次第に固有の姿を獲得してゆく。

しかし、その姿は他の上位者たちを大いに困惑させた。

彼はあろう事か、上位者となる以前の姿、人間のそれに酷似した外見へと変貌し始めたのだ。

成人よりも幾許か若い男性のそれは、嘗てヤーナムを訪れた際の異邦の『狩人』そのもの。

しかし秘めたる力は確かに上位者のそれであり、有無を言わせぬ説得力となって他の上位者たちを黙らせた。

我等の『赤子』は、次なる世代を託すに相応しい者となる。

全ての上位者が、そんな崇拝にも似た確信を抱いていた。

 

上位者としての成熟が終わる頃、彼は『人形』を通じ他の上位者たちを呼び集めた。

場所は嘗ての『狩人』たちの隠れ家、月が照らす『狩人の夢』。

大樹の下、一面の月見草がそよ風に揺れる其処に、古き上位者たちは集うた。

彼が『最初の狩人』と対峙した時よりも遥かに広く、上位者としての力によって造り直された其処に、無数の異形が集う様は壮観ですらある。

彼等の目的はひとつ、成熟期を終えた彼が覚醒する様を見届ける為。

 

そんな中、彼はその傍らに人形を控えさせ、嘗ての『最初の狩人』の様に車椅子に腰掛けていた。

その身に纏う装いは、遥かな昔に彼が身に着けていたもの。

枯れた羽を模した帽子、目元から下を隠す覆面、肩口から短いマントを掛けた外套、鈍く光を照らし返す金属と革で作られた手甲とブーツ。

漆黒の狩人の装束を身に纏った彼が、其処に居た。

そして、人形が告げる。

 

 

「本日はこの狩人の夢にお集まり頂き、誠に有難う御座います。この度、無事に成熟を果たした狩人様から、皆様にお伝えする事が在ります」

 

 

その言葉に、彼等は一様に内心で首を傾げた。

この作り物は、一体何と言ったのだ。

狩人様、自身の主人をそう呼んだのか。

まさか彼が、そう呼ばせているのだろうか。

 

そんな疑問を余所に、彼は緩慢な動作で車椅子から立ち上がる。

次いで自身の背後からゆっくりと翳された左手に握られたそれを、眼前に集う上位者たちに見せ付ける様に掲げてみせた。

それが何であるかを知らぬ者は訝し気に彼を見つめ、知る者は困惑と恐怖とに身を強張らせる。

そして、彼は殊更にゆっくりと、左手を左右に振ってみせた。

鳴り響く澄んだ音色、鐘の音。

 

 

 

―――『狩人呼びの鐘』

 

 

 

「狩人様は言っておられます……『狩りを全うすべし』と」

 

 

佇む彼の右隣に、長身の男が姿を現す。

目深に被られた広鍔の狩帽子、目元を覆う包帯。

その手に握られた獣狩りの斧と、大型の短銃を改造した散弾銃。

 

彼を挟んだ反対側に、黄色の狩装束を纏った男が現れる。

胸元から腰回りまで、至る所に仕込まれた小振りな投げナイフ。

膨大な量の血と脂に汚れたノコギリ鉈、使い込まれた獣狩りの短銃。

 

彼の後方に、翼を纏った狩装束が現れる。

黒死病関連の医療者が用いるマスクにも似た木彫りの仮面、烏羽を模したマント。

右手に握られていた隕鉄の短刀である慈悲の刃、それは火花と金属音を放つと共に一瞬にして双刃と化した。

 

異邦の狩装束に身を包み、トップハットを改造した狩帽子を目深に被った男。

槍にも似た長銃を背に担ぎ、右手に持つ刃を一旦は納刀した後に再度抜き放つ。

現れるは血染めの長刀、呪い纏う鮮血の刃。

 

 

「……今や夜は汚物に満ち、塗れ、溢れ返っている」

 

 

初めて放たれた声に、恐慌に呑まれていた上位者たちの意識は一瞬にして彼へと戻された。

その眼前で、彼は一歩を踏み出す。

彼の両手には、何時の間にやら嘗ての得物、幾つも存在するそれらの内2つが握られていた。

 

右手、どす黒く変色した血がこびり付いたノコギリ槍。

左手に、穢れた血族の騎士たちが用いた銃。

振り抜かれる右腕、重厚な金属音と共に変形したノコギリ槍が、紫電の閃光を纏う。

 

 

「素晴らしいじゃあないか。存分に狩り、殺したまえよ」

 

 

其処で漸く、上位者たちは気付いた。

声を発しているのは彼ではない。

何時の間にか彼の背後に佇んでいた、円柱状の鉄兜を被り、嘗ての官憲の制服に身を包んだ人物が声を発しているのだと。

 

 

「同士たち『連盟』の狩人が協力するのだから……そうだろう? 最後の同士よ」

 

 

官憲の制服を纏う人物が、その手に持つ大振りなメイスを背後へと振り被る。

金属がぶつかり合う音、そして擦れ合う耳障りな甲高い音。

再び現れたメイスの先端には、稼動する二重の刃を纏う円盤状の回転ノコギリが装着されていた。

 

 

「よくぞ我らを導いてくれた……同士たちも喜んでいるだろう。この素晴らしい一夜を供してくれた事、心から感謝する」

 

 

周囲を、無数の『狩人』が囲んでゆく。

次々に現れる彼等は、しかし同様の『声』を纏っている事に、上位者たちは気付いた。

暗く淀み、怨嗟と血の渇きに満ちた『声』。

そして同じ『淀み』が、彼の周囲にも渦巻いている事に。

更には『淀み』を纏わぬ『狩人』たちもまた、未だ数を増やし続けていた。

 

白く枯れた羽を模した狩帽子、同じく煤けた白い狩装束を纏った壮年の男。

重厚な金属音と共に、右腕に装着された巨大な杭が肘方向へと『装填』される。

複雑怪奇な機構により構築された巨大なパイルハンマー、年季を感じさせる使い込まれた散弾銃。

 

その白い『狩人』の背後に、更に3人の『狩人』が姿を現す。

ノコギリ槍と短銃、銃槍と短銃の『狩人』。

そしてノコギリ槍と、凡そ人が持つ物ではない巨大なガトリング銃を携えた『狩人』が後に続く。

 

一見すると襤褸にすら見える、粗末な衣装に身を包んだ男。

だが彼の腕には、貧民街に屯する宿無しには持ち得ない曲刀が握られている。

そして次の瞬間、曲刀は金属音と共に巨大な弓へと変貌した。

 

医療教会の『狩人』、その中でも『聖杯』の探求へと繰り出す者たちが纏う装束。

長銃型の散弾銃を背負い、右手に携えた大剣を頭上に翳す男性。

その刀身を左手が撫ぜるや否や、眩いばかりの翠玉色の輝きが更に巨大な刀身を形成する。

 

 

「こんな事になるとは……成程、夢の終わりは近いという訳かね」

 

「時も、人も、世でさえも……何もかも別物と成り果てたが、それでも夜明けを迎えるのだろう……望外ではありませんか、ゲールマン?」

 

 

大樹の下、彼が立ち上がった後の車椅子。

その左右に2人の男女が佇んでいた。

傍らの人形に良く似た容貌を持ち、レイピアの様な長刀と短刀を携える、貴族然とした狩装束の女性。

義足でありながらその手に曲刀を携え、腰元に散弾銃を据え付けた老齢の男性。

 

 

「目覚めにはあと一歩足りぬという事かね、狩人よ。成程、ならば我々が喚ばれるのも道理というもの」

 

 

女性からゲールマンと呼ばれた老人が、背負った長柄に曲刀の柄元を叩き付ける。

瞬間、勢いによって身体を回り込んできたそれを掴んだ老人の手の内には、死神のそれにも似た長柄の鎌が握られていた。

鎌、葬送の刃を構え義足の一歩を踏み出すと、老人が纏っていた儚い雰囲気は一変し、圧倒的な覇気が周囲を埋め尽くす。

 

 

「ローレンス……最早、約束は果たせそうにないが……せめて、後始末は我々の手で為す。それが道理というものだろう……違うかね、マリア?」

 

「ええ……遅すぎるとはいえ、それが始めた者の義務でしょう」

 

 

最早、上位者たちも気付いていた。

異端の上位者、我らの『赤子』。

彼が何を為そうとしているのか、それに気付いてしまった。

 

 

「ウィレーム先生は言っていたな……そう、そうだ。『上位者狩り』だ」

 

 

この夜、今から始まるこの夜こそが。

 

 

「これは『獣狩りの夜』ではない……『上位者狩りの夜』だ」

 

 

『狩人』たちが夢見た夜。

『獣の病』の元を根絶する、待ちに待った本懐の夜なのだ。

そう、彼は、彼の根源こそは。

 

 

「『狩人狩り』に『上位者』を狩れとはね。最後まで年上の話を聞かない奴じゃないか」

 

「諸君、この夜こそは『連盟』の本懐。『虫』を根絶する為の、千載一遇の好機。同士諸君……殺し尽くせ、何もかも」

 

「夢見るは一夜……誰であれ最早、悔いなど在るまい」

 

 

血によって人となり、人を超え、人を失い。

『上位者』の一員となってなお、それでも決して違える事の無かった彼の本質。

彼は、何処までも。

 

 

「……『狩人』の狩りを知るがいい」

 

 

『狩人』だったのだ。

 

 

 

 

 

その絶叫は、どの上位者の物だったであろうか。

それを引き金に『狩人』たちが一斉にその場を飛び出す。

程なくして続く、肉の裂ける音と血飛沫が地に叩き付けられる音。

無数の神秘の炸裂と銃撃、爆発音。

 

 

 

最後の『狩り』は、こうして始まった。

 

 

 




放射血質!
放射血質31.5%!!
都市伝説じゃなかった!!!



で、2つ目はいつ出るんですかねぇ(白目)

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