とりあえず家を出てしまったものの、どうすればいいのだろうか……きっとこのまま行けば恐らく由比ヶ浜とその飼い犬のサ、サ……サブロー? には会えるだろうが、このまま轢かれるのも楽しくはないだろう。それにそんな趣味持ちたくない。
そもそも、本当にただの夢だったという可能性もある。ホントは轢かれることもないかもしれない。飼い犬に野球選手の名前付ける女子とかもいないだろうからな、俺でさえ飼い猫にラミレスとか名付けなかったのに。まぁ、ロッテの選手じゃないしな。それに第一、奉仕部とか聞いたこと無いな……色々考えた結果、正夢率がどんどん減少していく。
……よし、ここは夢のことを含めないで考えてみよう。
何故早く起きたか? それは入学ぼっちを避けるためでもあったはずだ。その目的を忘れてはいけない。……いや、待てよ。純ぼっちの俺が友達を作ってしまったら『もう何も怖くない』とか言って、うっかり死亡フラグを立ててしまうかもしれないな。やっぱり友達とか要らない。死にたくないし。結論を言うと、『死ぬのはイヤ』と言うことらしい。どのみち死亡フラグは回避出来ないのだろうか。轢かれるしかないんですね、はいわかります……
そんなことを考えていると、問題の道路が見えてきてしまった。このままのペースで漕げば、俺が轢かれるか犬が轢かれるかしかないのだろう。何か今の言い方だと俺と犬が同格に聞こえるんだがきっと実際は犬の方が格上。
とにかく問題は、「俺が轢かれて夢が再現される可能性をとる」か「犬が轢かれてバッドエンド」。どちらにしようかな、天の神様の言う通り、鉄砲うって、バンバンバン。鉄砲どこから来たんだろうな。あと、たまに出てくる柿の種も。小学生の頃によくやってる奴らいたよな、俺はぼっちなんでやらなかったけれども。
ふと前を向くと、信号が点滅していた。考える時間は無いらしいが、いつもの「早く家に帰りたい」という反射からか、無意識にペダルを深く踏みこんでいた。
なんとか赤になる前に信号を渡りきると自転車を止め、これまで走ってきた家の方向に向き直る。……さて、どうしたものか。まだ犬が轢かれる可能性が消えていない。俺が轢かれる可能性も。
そう考えていた時、後ろから何やら犬の吠える声と飼い主らしき人物の声が聞こえてきた。同時に、左からは何やら物騒な黒い車が走ってくる。
後ろを向いて待機していると、夢とは違うアングルだが、見慣れた犬がリードを引きずって走ってきた。
──今だ。
多少乱暴だが手で捕まえるよりは確実だろう、車輪でその犬を止めにかかる。思いのほか犬が早く、ようやくバリケードになるように自転車を構えると、既に犬までの距離が50センチあるかどうかというところだった。
待ち構えていると、あと少しのところで急に進路を変更し、自転車のやや外側を何事も無かったかの進んでいく。
とっさにリードを掴もうと地面に向かって手を伸ばすが、そのはずみで自転車ごと車道側に倒れた。
***
恐る恐る目を開け、伸ばした自分の手を見るために頭を動かそうとすると、由比ヶ浜らしき人物がこちらに走って来るのが見えた。あの犬を抱きかかえて。
「すいませんっ‼︎ あの、大丈夫ですか?」
他人行儀な言葉遣いに一瞬返事に困ったが、夢の影響か、難なく言葉が出てきた。
「……大丈夫です。すみません」
いや、実際には出てくるまでに少しかかったが、俺ルールで一分以内に喋ればセーフ。何だよそれ、俺ルールとか初めて聞いたぞ。
由比ヶ浜は知らない人とでもはっきり話せるらしく、素早く返答がくる。
「いえ、あの、すいませんでした。えっと、自転車が……」
由比ヶ浜の話を聞きながら少し痛む足を手で抑えて立ち上がると、由比ヶ浜の言葉が途切れた。
由比ヶ浜の視線を追っていくと、どうも俺の後ろにあるものらしい。え、何、後光とか差しちゃってる感じ? 成仏しろって言いたい感じ? 妖怪のせいって感じ? 脳内でふざけながらさらに視線を追っていくと、黒く光るハイヤーが停まっていた。
申し訳ありません。時間がかかってしまいました。これからのペースも遅くなる可能性がありますが、読んでいただけたら嬉しいです。
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