まず、比企谷八幡は夢をみた。   作:★ドリーム

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新しい作品です。これまでの作品とは少し作風も変わっています。
どうぞよろしくお願いします。


0-プロローグ

……とても長い間、夢を見ていたらしい。

 

 目が覚めると俺は自分の部屋で寝ていた。別にいつもと何ら変わらない朝である。あえて違う点を挙げるとすれば……今日は総武高校の入学式だということだろうか。

 どうして俺が今、違和感を持ったのかといえば、それは俺が見ていた夢にあるのだろう。

 その夢が始まったのは丁度今日からだった。早めに学校に着こうと意気込み、家を早く出ることにしたのだ。そうして俺は学校に向かった。その途中で俺は一匹の犬を守ろうとして事故に遭う。俺はそのまま高校でもひとりぼっちだったが、高校二年の春によく分からん自称アラサー先生によって氷の女王みたいで俺を罵倒してくるヤツが部長の『奉仕部』という部活に入部させられた。

 その後はその犬の飼い主のアホの子と会ったり、天使みたいな素晴らしい天使と出会ったり、夏に合宿に行ったり、花火を見たり、文化祭やったり、京都に行ったり、水族館に行ったり、とまぁそれだけ聞けば楽しそうだが中々大変だったようにも思う。

 それにしても、本当に夢だったのだろうか。現実にしか思えないというのに、高校二年のその日々はどこかに行ってしまったらしい。

 いや、だが正夢という可能性も無くは無いし、俺の記憶違いなだけで今日は妹の小町の総武高校の入学式なのかもしれない。とにかく誰かと話さないことには今がどういう状況なのかがつかめない。

 ほんの少しの希望を持ちながら、誰かと話すべく、制服に着替えてからリビングに向かうとソファで寝ながら小町がスマホをいじっていた。小町は足音で俺に気付いたのか顔を上げると、素敵な笑顔で話しかけてくる。

「あ、お兄ちゃん。おはよ! 今日は珍しく早いね」

 

何と答えればいいのか迷ったが、なるべく自然に返事をする。

「……そうだな、おはよう」

 

 自然に返事をしたつもりだったが、答えるまでに少し間が空いたのがいけなかったのか、小町は眉をひそめながら言う。

「どーしたの、お兄ちゃん。元気ないの?」

「いや、ある。全然大丈夫だ」

 

 俺が素早くそう言うと、小町は相変わらず少し疑うような顔をしていたが、右腕を上げると、今度はまた笑顔で右手でピースをしながら返事をする。

「んっ。だいじょぶそうだね! そんじゃがんばってね~」

 

 おまえ何で平和願っちゃてんのとか、何RPGの王様みたいなこと言っちゃってんのとか色々突っ込みたいことはあるが、とりあえず起きた時からの疑問を解消しようと思い、少し怖いながら訊ねる。

「俺は……今日から高校生なんだよな?」

 

 まるで、構ってもらえるまで勇者を城から出さない割には、話したい内容が終わると嫌がらせの様に同じことしか言わないRPGの王様よろしく小町はスマホを見ていたが、俺の声を認識すると顔を上げて言った。

「……え……え?」

 

 いくらRPG多しといえど、メインの話が終わってから『え?』しか言わない王様なんて会ったことないぜすげぇこいつコミュ障なんじゃないのとかそんなことを考えつつも、頭のほとんどの部分では、あの夢が現実であってくれ、今の俺は高校二年であってくれと願っていた。

 小町はそんなことを知らないだろうがスマホの電源を切ってソファに座ると、ひどく困惑した顔をしながら答えた。

「え……違うの? 今日、みんなで入学式行くんじゃなかったの?」

 どうもかなり酷い思い違いをしていたらしい。淡い期待が消えると、また新しい希望がわいた。

 ーー早く家を出なければ。

「だよな。いや、実感がわかなかっただけだ。中学の奴らともう会わなくて良いってのが嬉しくてな」

「なんだぁ、じゃ、行ってらっしゃ~い」

「ああ……朝食べてからな」

「あ、忘れてた。テーブルに置いてあるよ」

「ありがとうな」

「ん~」

 

 興味のある記事があるのか、小町は既にスマホをつけ直していて、適当な返事をした。

 さて、どうしたものか……このまま家を出れば俺は轢かれるだろう。それも自ら。そうすれば、もしかしたらあの夢が本当になるかもしれない……が、残念ながら俺には轢かれると知りながら轢かれる程の勇気は無い。轢かれずにあの犬を助ける方法は無いかとしばらく考えるが、そもそも俺が轢かれないことにはあの生活は始まらないのだ。

 轢かれて骨折してあの夢を現実で体感することと、轢かれないで恐らく普通の高校生活を秤にかけてみるか。それ以前に夢をよく思い出す必要がある。

 

 そのアラサー先生は……何だったか、平清盛みたいな性格と名前だった。平清盛よく知らんけど。『平塚静』だったか? 静な要素が殆ど見受けられない方でしたね、はい。

 氷の女王はよく覚えている。『雪ノ下雪乃』だ。名前の通りの性格。あと猫が好き、ついでにパンさんも。

 その犬の飼い主もよく覚えている。『由比ヶ浜結衣』だった。アホの子、それに尽きるが良い奴だった。あとアホ。

 天使の名前は『戸塚彩加』である。天使過ぎて言葉では表せない。

 あとは……川なんとかさんか。ちょっと怖かったかもしれない。ブラコン、そしてその弟は毒虫。見つけ次第駆除せねば。

 『葉山隼人』……特に言うことは無いな。色々と複雑だし。周りに女王様とか風見鶏とかいた気がする。

 材木……何だろうな、キャンプファイヤーとかで使ったのかな。めんどくさいから火が欲しくなった時に燃やしてあげよう。よく燃えそうだしな。なんか『我の神体が、この世界を救うために燃えているぅっ! さらだばーっ!』とか言いながら燃えそうだが、イヤホンつければ聞こえないしな。燃えてなくとも黙殺で。

 

 ざっと思い出すとそんなところだろうか。朝食を食べていたら時間が来てしまった。……とりあえず家、出るか。

「じゃあな、また学校でな」

「は~い。行ってらっしゃ~い」

 

 小町にそう言ったが、本当に学校で会えるのかは俺にもまだ分からなかった。

 

 




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