高価そうなシャンデリア。テーブルの上の立派な装飾の施された食器と、それに盛られた豪華な料理の数々。多分アレだろ、フォアグラやらキャビアやら俺みたいな庶民には聞き慣れない長ったらしい横文字の名前の料理が乗ってるんだろう。
ワイングラスに注がれているのは六十年物のワインだと聞いたし、何故こちらの"客"である筈のスカーレットさんに、俺が"客"としてもてなされているのか、不思議で不思議で仕方ない。
「では客人、乾杯でもしようじゃないか」
「は、はい」
見た目だけみれば自分より遥かに下の年齢であるスカーレット氏におどおどとした対応をする俺は、客観的に考えると情けない奴にしか見えないだろうが、こんな訳の分からない状況になったら誰だって困惑する。
――事の発端はこうだ。
いつも通り香霖堂に出勤し、いつも通りゲームをして遊んでいると、珍しく本物の客(魔理沙や霊夢が来ることはあるが、あいつらはノーカウントなのだ)が来店した。
「こんにちは。ここ、素敵なティーカップとか置いてないかしら?」
「いらっしゃいませ。一応ありますよ」
メイド服に身を包んだその人は、確か人里で何回かすれ違ったことのある、紅魔館のメイドさんだった。
「次郎君、そこのちっちゃい木箱を取ってくれ」
「了解です」
この汚い店内にある割にはあまり汚れていないその箱をメイドさんに手渡した。開けると、何かの花の模様があしらわれた、少し小さなティーカップが出てきた。
「あら、いいですわね。で、お幾らほどで譲って頂けるのかしら?」
「まあこのくらいで……」
「もう少し下げて頂けると……」
値下げ交渉が始まったようだ。うちの店主は意外と頑固だし多分相手のメイドさんも粘るだろうから、この交渉は長引くだろう。一つ欠伸をして、静かに店を出た。
「……ん?」
今日は曇ってて天気が悪いなー、なんて思ってたら、日が出ていないのに日傘の様な物を指しながら誰かが飛んできた。魔理沙だろうか、いやでも魔理沙が日傘なんか差す筈がないし……そんなことを思ってると、人影が段々近づいてきて、その姿がはっきりと見えた。
面識はなかったが、そこはかとなく滲み出る威圧するようなオーラ。恐らくこの少女は……
「こんにちは。香霖堂というのは、ここであってる?」
「え、ええ。一応ここですが……」
「そう。ならもしかして、ついさっきうちのメイドが来たりした?」
「来ましたけど……うちのメイドってことはもしかして貴方が、」
俺の言葉を受けて、少女は胸を張って、鋭い牙を覗かせながら不敵に笑った。
「そう。私こそが紅魔の主、レミリア・スカーレットだ」
どんっ!という効果音が聞こえてきそうな程立派なドヤ顔をするスカーレット氏。格好良いけど、あれ、もしかしてこの子世間一般的に言われてるほどカリスマ無いんじゃ……
「あ、お嬢様。わざわざこんなところまで何をしにいらっしゃったんですか?」
「こんなところって言われるとちょっと傷つくんだけど」
買い物が終わったようでメイドさんが木箱を片手に店から出てきた。店主の表情から察するに、どうやら粘り勝ったのはメイドさんのようだ。
「ちょっとしたお散歩よ、良い天気だしね」
「人間的には悪い天気だけどね」
結構な安値で買われたのか、ちょくちょく店長が会話に茶々を入れる。対するメイドさんは心無しかちょっと嬉しそうだ。へそくりでも貯めるのだろうか。
「じゃあ大切に使わせてもらいますね、ティーカップ」
「今後ともご贔屓にね」
帰りましょうお嬢様、そう言ってメイドは主の日傘を持って歩き出したが、メイドの服の袖を掴み首を振った。
「ちょっと待ちなさい咲夜」
「何でしょうお嬢様」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべた少女は、俺を指差して言った。
「客人を連れて帰るわ」
「えっ」