「プラシーボ効果って知ってるか?」
「――え、知らない?偽薬効果、プラセボ効果とも言うのだけど、要は、"病は気から"みたいなもので、医者が『これは薬です。これを飲めば、貴方の病気は治ります』って何の効果もない栄養剤を渡しておくと、医者の言葉を信じた患者の病気は治った――」
「みたいな有名な話のあるモノで、人間の『思い込みの力』というものをひしひしと感じる現象よね」
「――さて。マジシャンが手品をするときに、例えばそれを種明かししながら行ったとしよう」
「『このトランプはこれこれこういう仕掛けになっているから、貴方の選んだカードは必ず一番上に現れるんですよ』――という風に」
「そこでその証拠を見せられて、更に数々の手品を種明かししながら見せられたとする」
「数々の隠されていた事実に落胆している中、明かされた手品の中にもし実はタネが違うものがあったとしたら――」
「果たして、お前は気づけるのか? 貴方なら、偽りのタネを信じてしまうんじゃないかしら?」
「例えそこに、何か違和感を覚えていたとしても―――」
「――まあ、全てはただの、戯言に過ぎないのだけれど」
―――――――――
春先であるが故、博麗神社では花見と称して宴会が行われる。どうせ働いてもいない、楽に暮らしてる連中が多いのだからわざわざ口実を作ってまで酒を飲む必要はない気がするが、集まって騒ぐこと自体が楽しみの一つなのだから、細かいことは気にしなくても構わないだろう。
「意外ね、※※も来たの」
「何だよ、俺が来ちゃ悪いって言うのかお前は」
「別にそんなことは言ってないでしょ。というか早くも酒臭いわね……!」
ぶっきらぼうにこちらを睨む紅白の巫女は、程々にしときなさいよ、とだけ言って何処かへと駆けていった。彼女はこの神社の顔であるが故、顔を出さなければいけない場所が多いのだろう。まあそこまで広い会場ではないし、すぐに終わって定位置に戻るのだろうが。
「おー、※※じゃないか。こっち来て飲みなよ」
「お言葉には甘えたいけれど、いいの?私に飲ませたらその瓢箪一本くらい余裕でなくなるわよ?」
「言うねえ。ささ、飲んだ飲んだ!」
「鬼のお酌とは何とも贅沢な」
ぐいっとお猪口一杯を飲み干す。この程度では私の腹は全然満たされないし、酔いも全く回ってこない。
「あ、※※!お前に相談があったんだ!この魔法のことだけど、どうにも上手くいかないんだよなあ」
「どれどれ……これなら多分、材料はイモリよりも蠍の方がいいんじゃない?」
「なるほどな。確かにそのほうがいいかもしれん、相変わらずお前は物知りだぜ」
聞くことだけ聞いて、白黒の魔法使いは風のように去っていった。
「相変わらず魔理沙は忙しそうね」
「あー、※※ー? 久しぶりじゃない、一緒に飲まない?」
「貴女にとっては酒よりも、つまみの方がメインでしょ幽々子?」
亡霊の姫君に付き合い、飲んだり食べたりしながら久々の思い出話に花を咲かせる。旧知の仲だけあって、ゆったりした和やかな時間を過ごせた。
「ふわー……ちょっと眠くなってきちゃったわ。そろそろ帰ろうかしら」
可愛らしく口元を押さえながら、幽々子は小さく欠伸をした。
「じゃあ近道を作っといてあげるから、好きな時に帰りなさい」
「ありがとう※※ー」
好きなときに帰れるよう冥界への出入り口を作ってあげたのだが……幽々子はすぐにそこを通って帰っていった。食べて眠くなってすぐ帰るなんて、まるで子供みたいだなと思わなくもない。
「…………」
ふと高所からの花見がしたくなったので、博麗神社の屋根に登った。高みから見下ろす桜は見上げるのとはまた違って、優雅な趣があった。
「ふう……」
ごろん、と屋根に寝転がり晴天の空を見上げる。
春先のほんのり涼しい風が心地よい。何というか、長時間かけて難しい仕事を終わらせた後のようなとても晴れやかな気持ちだった。大きく伸びをして、誰に憚るでもなく呟く。
『やっぱり、みんなでいるのは楽しいね!』