「んぅ……」
コンコンコン、と玄関をノックする音が聴こえる。しかし眠くて眠くて、どうにも行くのが億劫なのだ。時にはそういう場合もある。どうせ来ているのは早苗だとかアリスだとかその辺だろうし、無視でいいだろう。
コンコンコン。
「……粘ってるなあ………」
コンコンコンコンコンコン。
「……頑張ってるなあ………」
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。
「…………………」
ノックの音が気になって、遂に目がぱっちりと覚めてしまった。しかしここまでくると逆に行きたくない。体を捻って目覚まし時計を確認すると、時刻は十時半。珍しく貴重な休日を寝過ごしてしまっている。十時半と言えば世間一般的には出かけていてもおかしくない時間だし、居留守を使うことにしよう。
「………………まだ聴こえるなあ……」
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン。何が怖いって、規則正しくきっちりと、寸分違わず同じリズム同じ力で叩いてるのだ。無駄に几帳面なのが怖い。
「……とりあえず朝ご飯作るか」
訪問者は全面無視することにした。いずれ諦めるだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
コンコンコンコンコンコン。
「………………」
ふう、味噌汁美味しい。ご飯美味しい。お肉美味しい。
コンコンコンコン。
「………………」
牛乳を入れ忘れてたことに気づく。やはり朝と風呂上がりは牛乳に限る。はー、美味しい。
コンコンコン。
「ご馳走様でした」
さて、貸本屋で借りてきた本でも読むか。
コンコン。
「………………」
貸本屋で『犯人が語り手の推理小説特集!』という大変興味を惹かれるコーナーがあったので久しぶりに推理小説を借りてみたが、果たして犯人は誰なのだろう。昨日半分ほど読んだが、まだ犯人の目星がつかない。個人的に第一発見者である被害者の友人が怪しいと思っているのだがどうなのだろう。気になるなあ。
コン。
「………………」
……………………
「よし、やっと諦めたか……」
好奇心を抑えるのに苦労した。心を鬼にしてグッと堪えた甲斐があった、これでやっと読書に集中出来る。さあ、やっと解決編だ。一つ目の事件の第一発見者も殺されたし、一体犯人は誰なんだ……
「……………………」
ページを捲ろうと指をかけ、ふと止まる。はて、結局ノックしていたのは誰なのだろうか……?
「…………」
我が家の前は長い一本道だ。ノックが止んですぐの今なら、まだ訪問者の後ろ姿が見えるのではないだろうか……?
「…………気になる」
そー、っと音を立てずに素早く玄関に向かう。引き戸をゆっくりと静かに開けて表を確認しようとしたが、唐突に視界が暗くなった。
「ひゃんっ!?」
誰かの指の感触。思考と行動がフリーズする。
「あら可愛い反応。だーれだ?」
「……え………?」
声からして、紫さんではない。はて誰だろう、と首を傾げる。というかいつの間に後ろに……?
「気づいてもらえないとは残念です。振り返っていいですよ?」
「………………え、誰?」
例えるなら天女だろうか。ヒラヒラとした羽衣のような物を身に纏い、青色の髪を束ね頭の上で二つ輪を作り、それを簪のような物で止めている。心当たりがない。誰だ。
「誰なんだー?」
「ふわっ!?」
またも背後から声が聞こえ、表の方へ振り返る。肩程度の長さのくらい藤色の髪。額に御札のような物が貼られ、学生の頃にやらされた"前ならえ"の姿勢のように両腕を前に突き出している。
「いや、それ俺の台詞だからね!?誰なの!?」
「霍青娥です」
「宮古芳香だ」
「……え、本気でどこのどなた………?」
「だから霍青娥です」
「宮古芳香だぞ」
「それだけじゃ分からないって!」
「壺の件はどうもありがとう」
「ああ!」
年の瀬に変なのに好かれてしまったようだ。果たして大晦日までに振り払えるだろうか。
どうにか間に合わせようと思ったのでとても雑ですごめんなさい。やんでれびより一周年ー!皆様ありがとうございますー!!これからもよろしくですっ!