色違いメタモンを択ミスで殺しちゃったので中途半端ですが前後編で投稿することにしました(逆ギレ)
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
走る。走る走る走る。焦る心を落ち着け、乱れる鼓動を押さえつけ、呼吸を整わせる。
夜の闇に包まれた森。幻想郷において丸腰の人間がそこを走るというのは、死と同義と言っても過言ではないのだが、なりふり構ってはいられない。
果たして妖怪に捕まるのが先か、追手に捕まるのが先か……どちらにせよ、恐らく今度ばかりは助からないのだろうという嫌な予感が渦巻いていた。
「ふふふふふふふふふ」
森の中に不気味な笑い声が響き渡った。得体の知れない何かを感じ取ったのか、鳥が一斉に明後日の方角へ飛び立つ。
「ふふふふふふふふふ」
近づいているようで遠のいているような――ぐわんぐわんと、脳が揺らされているような錯覚を味わう。まさか、この逃走すら彼女の掌の上で行われていることではないのか、と――
「はっ、はっ、はっ、はっ!」
暗闇にも目が慣れてきた。いくらなんでもアテもなく夜の森に逃げ出すような真似はしない――いや、そうしなければいけない状況にあったのも確かだが――。ある程度考えながら走ってきた。助けてくれるような知り合いの元に向かって。
いつの間にか森は抜けていた。そして、赤い鳥居はもう目の前に迫っていた。
△▼
「次郎くん、ちょっと宅配を頼まれてくれないか?」
「全然大丈夫ですけど……珍しいですね」
朝八時頃、出勤してすぐ。店長にそう声をかけられた。
ただでさえ人気の無……いや、通好みというか一見さんお断りというか、まあ兎に角客の少ない香霖堂である。大抵客の方から出向いてくるので、そんなシステムがあったことすら知らなかった。
「ああ。面倒だし、断るつもりだったんだけどその……な?」
「……あー………」
店長が左手の親指と人差し指で小さく輪っかを作り、そのジェスチャーで察する。なるほど。いくら積まれたのだろう。その辺は気になるところだったが、聞かないでおこう。
「とは言いましたけど、流石にあまりにも重いものとかなら無理ですよ?」
「ああ、その点は大丈夫。運んでもらうのはこの壺だから」
店長は足元に置いてあった壺を指差す。抱えてみると、そこそこ重かった。うーん、距離にもよるがこれを運ぶのは辛いのでは……?俺には得はないし、やはり断っちゃおうか
「あ、この壺運び終わったら臨時ボーナス出すよ?」
「何処まで運べばいいんですか?」
そういえば最近ここにポケモンの新作が入荷したことを思い出した。ゲームの魔力には勝てなかったよ……
運び先はとある民家。人里から少し離れた、かといって森の中でもないその中途半端な場所へと運ぶ。場所自体は時折通っていたので知っていたが、はて。誰も住んでいない廃屋という印象があったのだが……?
「……この辺でいいか」
店長に言われたように、入口の前に置いておく。距離が結構あったので中々疲れてしまった。うーん、ちょっと人里にでも寄って休憩してから戻るか。
「……そういえば」
そういえば、この壺の中身って何なんだ?という疑問が脳裏に過ぎる。このなかに何が入っているかということは知らさらていなかった。今更だが、少し気になってきた。見るなとは言われていないので、見ても問題ないと思うのだが……
「…………」
しかし――わざわざ上に蓋をされているということは、中に何か保存しておきたいような物が入っているということだろう。やはりやめておくか。さっさと店に帰――
「こんにちは」
「はぅっ!?」
――俺の見間違いでなければ、
例えるなら何だろうか。天女――という形容が真っ先に脳裏に浮かんだ。ヒラヒラとした羽衣のような物を身に纏い、青色の髪を束ね頭の上で二つ輪を作り、それを
「あ、急に大きな声出してすいません……こんにちは」
「いえ、突然声をかけたのはこちらなのだし気にしないで」
そういって彼女は無邪気な笑顔を見せた。あまりにも綺麗だったもので――一瞬心臓がドキリと。
「ええと、何かご用でしょうか?」
「香霖堂の方ですよね?壺を運んでもらったお礼を言おうと思って」
「ああ、わざわざご丁寧にどうも。仕事ですのでお気になさらず……」
「結構重かったでしょう?この壺」
「いえ……それほどではなかったような、ああでも持ち上げたときは結構重たかったですかね?」
「……そう……」
品定めするような目を向けられる。一歩後ろに後ずさるが、すると二歩差を詰められた。
「むむむ……」
「……あの、何か……?」
「いえ、何でもないの」
何か気になるが、あまり追及することでもないのでこの辺で適当に切り上げるか。
「あ、俺店帰って仕事しなきゃいけないんでそろそろ……」
「一つ聞きたいんですけど、もしかして貴方が次郎?」
「…そうですけど、それが何か?」
「いえ、お噂はかねがね聞いていたから、ちょっと気になっただけ。良い名前ね」
何故だか分からないが、彼女の笑みを見て鳥肌が立った。どうも。それでは、とだけ言って、逃げるようにその場を離れた。
「……次郎、ね。ふふ」