「とりっくおあとりーと!お菓子をくれなきゃ二の腕貰うわ!」
「何だその物騒な選択肢!?」
しかも何故ピンポイントで二の腕なんだ……?首を傾げつつ、ポケットから取り出した飴をルーミアに三個あげた。
「はい、二の腕はあげられないから飴をやるよ」
「…………」
飴を握りしめながら不満そうな様子のルーミア。どうしたのだろう。チョコがよかったのだろうか。
「二の腕がよかった……」
「いやいやあげないからな!?っていうかなんで二の腕なんだ!?」
「柔らかくて美味しいんだもん」
じゅるりと舌なめずりする少女を見て、この子も妖怪なんだよなあとふと思い出す。別に生きる為に何かを糧にするのは当たり前のことだから、例え同族が食われてようが何も気にしないが。俺に手を出すならその……ちょっとは抵抗するが。
「ありがとう。じゃあ待たね〜」
「味わって食えよ〜」
ルーミアと別れ、のんびりと歩き出す。幻想郷にもいつの間にかハロウィンという文化が浸透していたようで、人里でも軽いお祭り騒ぎが起きているらしい。賑やかなのは良い事だ、子供たちに飴でもあげようかと家にあったものを幾らか持ってきたのだが、この量だと多分足りないな。全員に配れないのは不平等かなあ、と思い、どこか別の場所に向かおうと方向転換。
振り返ると丁度、どこか見覚えのある、空を飛ぶ黒い塊が見えたので声をかけてみる。
「おーい魔理沙ー!」
「おー、次郎ー!」
スカートを翻し、こちらに向かって飛行する魔理沙。若干下着が見えそうで怖かったんだが。
「お前はハロウィンでも仮装いらずで楽だなあ」
「あー?よく見ろよ。ちゃんと仮装してるぜ?」
そうはいうが、いつも通りのとんがり帽子に魔女っぽい黒服、魔女っぽいスカート。違いがあるとすれば防寒用のコートくらいしか思い浮かばないが……んん……?
「あ、頭の狐耳か」
「正解だ。このカチューシャなかなかいいだろ?」
「折角の仮装なんだからカチューシャ言うな」
大人が子供の夢を壊してはいけないのだ。幻想郷からも幻想が失われるなんて洒落にならないからな。
とは言ったものの、帽子の唾からひょこんと飛び出た狐耳は全く違和感なく魔理沙に似合っており、言われない限りカチューシャだと気づかないクオリティだ。
「ということで、トリックオアトリートだ」
「魔理沙が一言言って物を求めるなんて珍しいな」
「いつもは一言言っても貰えないから無言で借りてくだけだ。快く貸してくれるなら喜んで言うぜ」
「いつも魔理沙に物をたかられる店長の苦労が偲ばれるなあ……」
ポケットから飴を取り出し、魔理沙に手渡す。受け取る魔理沙は、しかし何故か不満そうだ。デジャヴを感じる。
「飴五個は流石に少なすぎないか?」
「魔理沙は欲張りだなあ。しょうがないからもう一個やるよ」
「お、さんきゅー……って六個じゃほとんど変わってないぜ」
何故だ。ルーミアは一個の飴を美味しそうに舐めていたというのに……魔理沙は質よりも量を求めるタイプなのだろうか。
「むう……まあ、今は飴玉しか持ってなさそうだし諦めるか」
「貰ってる側なのに図々しいなお前」
「んー、なかなかに美味いな、ありがとう。紅魔館にでも遊びに行ってくるぜ」
「お菓子もらいに行ってくるぜの間違いだよなそれ」
「お菓子と本を借りてくるぜ」
「堂々と図々しい!?」
ふらー、っと西の空に飛んでいく魔理沙の後ろ姿を見送り、再び歩き出す。店長はお菓子を欲しがるような人じゃないし、魔理沙にあげたから霊夢にあげに行くか。
「とりっくおあとりーと、お酒くれなきゃ喧嘩するぞ!」
「どっちも嫌だよ!?」
博麗神社に来たものの、霊夢はおらず。代わりにいたのは酔いどれ幼女、伊吹萃香だった。縁側で暇そうに足をパタパタと動かし、瓢箪ごと酒を煽っている。
「っていうかその瓢箪から酒が無限に湧き出るんじゃなかったのか?別にもういらないだろ」
「味が変わらないのが難点なんだよね」
水でも飲むかのようにゴクゴクと酒を飲みながら萃香はそう答えた。しかし残念ながら、喧嘩しても勝てっこないし萃香的には全く歯ごたえのない相手だろうし、酒なんか無論持ってない。
「じゃあツマミに飴なんかどうだ?」
「飴なんかツマミになりゃしないよ……」
呆れたように嘆息された。しかし妥協してくれたのか、一つ飴を受け取ってくれた。不満そうではあったが。何だお前らそんなに飴が嫌いなのか!?嬉しそうに貰えや!
「この分の貸しは次の宴会の時にでも返してもらうからね」
「いや、だから!俺あげてる側だからな!?」
何故幻想郷の少女は皆偉そうなんだ……あげがいがないぞ……ッ!
萃香以外いないとなるとこの場所にはもう用がないので、霊夢の行きそうな香霖堂に向かってみる。
「お、いらっしゃい次郎くん。客としてくるのは新鮮だね」
「こんにちは店長。まあ、申し訳ないことに客じゃないんですけど……」
「それは残念だ……」
少し落ち込んだ様子の店長の横に、暇そうに店内を物色している紅白の巫女を発見。
「やあ霊夢、ハッピーハロウィン」
「トリートオアトリート!お菓子をくれなきゃお菓子もらうわよ」
「一択じゃねえか!?」
「霖之助さんがくれなかったからその分よ」
じとー、と霊夢に睨まれた店長は気まずそうに視線を逸らした。
「急に来られたって僕がお菓子なんか用意してるはずがないだろ?お煎餅ならあるけどそれじゃダメなんだろ?」
「やっぱりハロウィンは甘い物がいいもの」
そのせいで霊夢は大して興味もないであろう店内の物を物色しているのか。店員として一喝してやりたいところだが、手元には丁度いいものがあるので平和的交渉を試みる。
「じゃあしょうがない、店長の分も含めてこれを二個……いや、サービスで五個やるから許してくれ」
「ありがとう許す」
「なんてチョロい……」
店長がポカンと呆れたような表情で霊夢を見ているが、霊夢は気にもとめずに飴玉の包み紙を剥がしている。
「うん、美味しい。ありがとう次郎!」
「…もう余りそうだから全部あげるよ……」
「ありがとう!」
幸せそうな表情で飴を頬張る霊夢。こういう表情を見ると、あげているこちらまで幸せな気持ちになる。
えーっと、後はどこにいこうと思ってたんだっけ……ここから近いのは、人里……?ここからなら一度家によって飴を補充していけるから、その足で行くか……人里で子供が多そうなところって言ったらやっぱり寺子……ッ!?
「次郎くんどうしたんだ、顔色が悪いぞ?」
「……っ、あ、ああ……大丈夫です、気にしないでください」
嘘だ。頭は痛いし、寒気もしてきた。パズルのピースが散らばって、組み立てたのに幾つか穴の空いた部分があるような気持ち。寺子屋に関わる人と言えば、慧音さんだが……何だろう、この何かが足りない感じ……
「……すいません、今日はもう帰りますね」
「ああ……お大事にね」
「早苗にでも伝えて看病に行かせようか?」
「それはやめてくれよ」
心配をかけたくないし、アイツを呼ぶと色々大変なことになりそうだからな……誰かにいてほしい気持ちがないと言えば嘘になるが、遠慮しておく。
二人に手を振って、店から出て帰路につく。歩きながらも、胸の内の欠けた部分が気になって気になって仕方が無かった。
こうして、歪な物語は終局へと動き出す――
「お菓子をくれなきゃ犯すわよ?」って誰かに言わせようと思ったんですけどこの作品は健全小説なのでやめました(小声)
ところで筆者が書きたい子がいなくなっちゃったんでヤンデレリクエストを活動報告で募集することにしました。既出の子でもいいのでよろしければ是非是非