やんでれびより   作:織葉 黎旺

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弐銃弌。幻想入りしてないなら自分で作ればいいじゃない!

 

 「お、いい匂いがするね」

 「店長の分も作ったので良かったらどうぞー」

 「ありがとう。頂くよ」

 香霖堂の台所を借りて、ふと食べたくなったので洋菓子を作成してみた。何分レシピが無かったので勘と記憶に任せて作ったのだが、果たして。

 

 「うん……中々美味しいね」

 「ふふ、ありがとうございます」

 「多彩な色があって見栄えもいいな。何ていうお菓子だい?」

 「マカロンっていうお菓子なんですけどね。フランスだかヨーロッパだか、とにかく海外のお菓子です」

 何処のお菓子だかうろ覚えだったから結構適当に答えた。まあ洋菓子なんかみんな似たようなもんだから別にいいだろ。

 

 「次郎君は料理とか上手いの?」

 「人並み以上には出来る自信がありますよ」

 「ほうほう、今度何か作ってもらおうかな」

 「それなら丁度いいから何か作ってくれ」

 ドアの開く音。振り向くと、元気な笑顔を浮かべる普通のの魔法使いの姿があった。

 

 「魔理沙か、いらっしゃい」

 「いらっしゃってやったぜ」

 店長の言葉に何故か偉そうに答える魔理沙。品物であろうその辺の壺に遠慮なく腰掛けた。

 

 「買い物もしないのに偉そうな客だなあ……」

 「買い物はしないけど飯は食べに来てやったぜ」

 「うちは定食屋じゃないんだが」

 しょうがない、台所は向こうにあるからよろしく――と店の奥を指差して、店長は読書を始めた。しょうがない、何か作るか……

 

 

 「はいお待たせ」

 「早かったな、待ちくたびれたぜ」

 「それは何かおかしい」

 店じまいして、店の奥の居間に料理を運ぶ。いや料理って言えるような物でもないんだけど。

 

 「まあ適当に作ったんで期待はしないで下さい」

 作った、って言っても具材を切って突っ込んだだけだけど。今日の夜ご飯は鍋にしました。

 

 「暑いのに鍋か、辛いぜ」

 「辛くはないから魔理沙でも食えるぞ」

 「文字でしか伝わらないボケはよくないと思うよ次郎君」

 八月半ばのこの暑い時期だからこそ鍋を食べるべきだと思うのだ。っていうか魔理沙は暑いならもうちょっとそのフワフワした格好を変えてみればいいと思うのだが。

 

 「でも中々旨いな」

 「食材切って煮込んだだけだから誰でも出来るぞ」

 「暑い時期の鍋も悪くないね。まあ進んでやろうとは思わないけど」

 俺ももうやりたくない。用意する側も大変である。空になった鍋を抱えて店の倉庫に向かった。

 

 戻ってくると、少し大きくなったお腹を摩りながら魔理沙がゴロゴロしてた。いつの間にか布団も敷かれている。今日は泊まる気なのだろうか。

 「時間が時間だからね。次郎君も泊まっていきなよ」

 「あっ……そういえばもう七時過ぎてますね」

 まだ少し明るいが、もう妖怪が活動的になる時間だ。帰るのは危険である。魔理沙レベルであれば結構普通に帰れそうな気もするが、楽しげな表情から察するにお泊まりを楽しみたいんだろう。

 

 「ちょっと狭いが、二人はここで寝てくれるかい?」

 「大丈夫ですよ」

 「問題ないぜ」

 まだ早い時間だが、眠そうに欠伸をして店長は自室に戻っていった。うーん、最近は色々あったし俺も早めに寝ようかなあ。

 

 「なあなあ次郎」

 「なんだよ魔理沙」

 「次郎ってさ、いないのか?」

 「ん?」

 「これだよこれ」

 意味あり気に小指を指指す魔理沙。ああそういうことか、と言いたいことを察する。

 

 「いないよ」

 「そうなのか?モテてそうだし結婚しててもおかしくない歳だろ?」

 「モテてないし俺はそんなに歳取ってないぞ」

 「よく言うぜ。変なヤツラに良く好かれてるじゃないか。紫とか早苗とかアリスとか」

 「そうか……?普通に仲いいだけだぞ?」

 「うーん、アイツらは中々大変だな」

 大変って何がだ。魔理沙は時々よく分からなくなる。

 寝ようと思って目を瞑ったが、暑さが気になって眠気が覚めてきてしまった。

 

 「魔理沙、ちょっと夜風を浴びてくるわ」

 「分かった。悪い妖怪には気をつけろよ?」

 「縁起じゃないからやめてくれ」

 立ち上がり、外に出て空を見上げてみる。外の世界を知っている身としては、幻想郷の星空は本当に綺麗だと思う。夏の大三角を眺めつつ、その辺の芝生に座り込んだ。両手を伸ばして寝転ぶ。一度大の字に寝て、誰かが来る気がしたから即座にやめた。

 

 「隣、いいかしら」

 「どうぞどうぞ」

 最早聞き慣れた声。見ずとも相手が誰かは分かる。この熱帯夜だというのに、きっとあの暑そうなドレスに身を包んでいるんだろう。

 

 「星が綺麗な夜ね」

 「本当に。あ、あそこの三つが夏の大三角であってましたっけ?」

 「そうよ。ちなみにその隣のアレが小鬼座で、アレが吸血鬼座ね」

 そんなのがあったのかー、と信用せずに相槌を打ちつつ、ふと思う。

 

 「……貴女に出会わなければ、俺はこんな星空があることも知らずに野垂れ死んでたでしょうね」

 「そんなことないでしょ。貴方は外でも友人が多かったし、助けてくれる子も沢山いた」

 「一方的に()()()()()()()()()はいましたね」

 暫しの沈黙。思い返すと色々あったなあ、なんて思ったり思わなかったり。

 

 「……貴方はこれからどうするのかしら?」

 「…え?」

 「もう知らぬ存ぜぬじゃあいられないわよ。分かってるんでしょう?」

 「………………」

 分かっている。分かってはいる。知らん振りはもう通じないと。そろそろ決断しなければいけないと。

 はっきりと――言葉にしなければいけない、と。

 

 「近いうちに答えを出します」

 「まあ、のんびりでいいわよ」

 ()()()()()()()()()()()()()()――そういって、妖怪の賢者は闇の中に消えていった。


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