やんでれびより   作:織葉 黎旺

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一。ヤンデレ少女に愛され過ぎて永遠の眠りにつきそう

 頭が痛い。二日酔いの翌日の様な鈍い痛み。確かに昨日は宴会だったが、そんなに酔う程飲まなかった筈だ。筈なんだけれど、昨日の記憶が無いから何とも言えない。

 

「……ん」

 

 体を起こそうと大きく伸びをした時に気づく。両手が何故か手錠で縛られている。とりあえずそれは良いとしても、俺の首に冷たい鉄の首輪がつけられているのは何でだろう。しかもそこから伸びる頑丈そうな鎖が恐らくこのフカフカなベッドの両足に付けられている。

 

「……はあ」

 

 思わずため息が出た。何故手錠がつけられているんだろう。何故首輪がつけられているんだろう。そもそも何故俺は今全裸なんだろう。その理由は今までの経験からある程度予想出来たので、とりあえず布団が被さっている隣の誰かを蹴った。

 

「……?」

 

 おかしい。反応が無い。もう一度、今度は思いっきり蹴ってみる。ピキピキと骨が罅割れる様な感触。手応えあったな、と思いつつ、しかし反応が無いことを疑問に思い、布団を捲り上げた。

 

「ふふふ、かかったわね!」

 

 布団の中身は等身大の人間の大きさをした人形だった。全てを察して声のした方を振り返るとそこにいたのは人形遣い、アリス・マーガトロイドだった。

 

「貴方がその行動に出ることは既に予想していたわ。だから起きるであろう時間の前にお楽しみを一度止めて身代わりを仕込んでおいた」

「お楽しみの詳細が気になるんだが」

「お楽しみって言ったらそれは……ね?」

 

 アリスはこちらに軽くウインクし、歪んだ笑みを浮かべ懐から魔導書らしきものを取り出した。それを開き、何やら触媒らしきものをベッドの周りに円形に置き始める。丸く置き終えると触媒が光り輝き、その場に魔方陣が現れた。

 

「おい、これから何の魔法をするんだよ」

「ふふふ、自分に素直になるための魔法よ」

 

 俺の質問には意外と答えてくれるようだ。質問攻めで時間を稼げるなと思ったけれど時間の無駄だからやめた。

 

「…………」

 

 バレない様に然り気無く、首輪を引きちぎる。幾ら鉄製の頑丈そうな物だろうと壊せない訳じゃない。そして目を瞑って詠唱を行っているアリスを無視して堂々と歩いて部屋を出た。プカプカと浮かんでいる上海人形もなんかため息を吐いている。色々と同情に値するな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *******

 

「あ」

「もう、探しましたよ次郎さん!」

 

 アリスの家から出るとそこにはボロボロで泥々な巫女服を纏った緑髪の少女、東風谷早苗がいた。服がボロボロなせいで色々と年齢制限がかかりそうな格好になってるけどもうこういった状況には適応したので気にはしない。幻想郷に常識と年齢制限は通用しないのだ。

 

「もう……昨日の宴会の途中でいなくなっちゃうから心配してたんですよ?先輩が悪い妖怪に食べられてたり悪い人間に襲われてたり悪い魔法使いに○されてたりしたらどうしようかと心配で心配で幻想郷中を探し回っちゃいましたよ!まあでも貴方が見つかって本当に良かったです。で当然これはこの家の人形遣いのせいなんですよね?先輩の人権も意思も意見も無視して薬でも使って拉致監禁して一晩中○しあってたんでしょうね?分かってますよ、貴方のせいじゃないって。全部あの女が」

「そうそうそうなんだ大変だったんだ、ということであとはよろしく」

所々何言ってるか聞こえなかったけど何だったんだろうなー。○されるって何だろうなーワカラナイナー。

 軽く頭を撫でてやると早苗はヤンデレ特有の歪んだ笑みを浮かべ、嬉しそうにアリスの家に入っていった。

 

「次郎さんに褒められた次郎さんが私を頼ってくれた次郎さんが私を……」

 

 なんか後ろから聞こえるけどもう気にしたくないので走って帰ることにした。マッハで帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 お昼時である。朝から何やかんやあったせいでお腹が空いた。人里で何か食べてくか、と気ままに散策する。

 

「貴方は食べてもいい人間?」

「あ、ルーミア」

 

 考え事をしながら歩いていて出くわしやすい妖怪ランキング一位にして、幻想入りしてすぐの人間が遭遇しやすい妖怪ランキング十年連続一位の記録を持つ(嘘)ルーミアに声をかけられた。っていうか初対面でもなく普通に仲良しの筈なのに毎回こう絡まれるのは何でだろう。挨拶にしては半端なく物騒だ。

 

「そんなこと言うならお前を食ーべーちゃーうーぞー」

「出来るものならやってみなさいよー」

 

 不敵に笑うルーミアを見て少し心が安らぐ。これだよ。こういう女の子とのお喋りが楽しいんだよロリコンとかじゃないけど。ヤンデレなんて求めてないのだ。ストーカーもな!

 

「ごめんルーミア、ちょっとしゃがんで」

「分かった」

「堕ちろクソガラスぅぅぅ!!」

「きゃあああああ!?」

 

 その辺に落ちてた手頃な石を上空から隠し撮りしてたパパラッチに向かって投擲する。結構な速さで飛んでいったそれは、見事に天狗の額にヒットした。惜しい、カメラを狙ったつもりだったのに外してしまった。まだまだ精進が足りない。

 

「ルーミア良かったな、俺たちの昼ごはんだぞ。今夜は焼鳥だ!」

「わはー」

「ちょ、無言で右羽をもごうとしないでください左羽を噛まないでくださいっていうか食べないでください!!?」

「ルーミア噛み千切っていいぞきっとまた生えてくるから」

「わはー」

「や、やだそれはらめぇっ!?」

 

 悶える烏天狗、射命丸文の首から提げられたデジカメを奪い取り中身を見る。写っているのは早苗の頭を撫でる俺。削除。ルーミアと談笑する俺、削除。文の方に石を投擲する俺。保存。

 

「やっ、返してくれません……?」

「ほらよ」

「ってちょ、ちょっと!何削除しちゃってるんですか!?まだ現像してないのに!?」

「カメラ壊してないだけマシだと思えよ」

「むうぅ……」

 

 不満げな表情の文だが結構こちらは譲歩してるつもりである。なんかごねてきたら壊す。

 

「さて、昼ごはん食べるかルーミア」

「焼鳥ー♪」

「待ってください何でこっち見てるんですかもしかして私焼かれるんですかそういうプレイなんですかその後(性的な意味で)食べられちゃうんですか!?」

「よーしルーミア人里でなんか食べよう」

「焼鳥が良かったなー……」

 

 後半何か嬉しそうだったからもう文は放置することにした。やっぱり、してって言われるとしたくなくなるよね。

 

「あ、昼ごはん食べてないなら私が作りましょうか!?」

「それなら人里で何か奢ってよ」

「え、えええええ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

「はー、ご馳走さまでした」

「ご馳走さまー♪」

「うう…………」

 

 すっかり軽くなった財布とにらめっこしてる文の目には心なしか水滴が溜まってた気がするが、あれはきっと汗だ。冬だけれどそういうこともある。

 一応断っておくと、俺はちゃんと分を弁えてちまちま食べてた。悪いのはルーミアである。考え無しに食べまくるんだもん、しょうがないね。たっぷりと食後の和菓子まで食べて、その上3時のおやつまでしっかり食べるとは色々恐るべし。

 心の中で文に感謝する。いや、なんかもう本当にありがとう。ただし決してごめんなさいとは言わない。

 

「あー、もう日が暮れてきたなあ」

「私はそろそろ帰って寝るよー」

「私も早くこの写真を現像しなきゃ……」

 

 もうパパラッチは気にしない。後は帰ってさっさと寝る。きちんと結界を張って。

 

「じゃあなルーミア、文は次盗撮してきたらカメラ壊す」

「じゃあねー」

「はい!バレない様にやるんで大丈夫ですよ!」

 

 反省してないなこいつ、と思ったけど振り向いた時にはもう天狗はいなかった。逃げ足速い。

 

 

 

「はああ……」

 

 何だろうなこの日々、すごい疲れる。さっさと帰って眠りたい。しかし眠るのは常に危険と隣り合わせである。無防備で隙だらけな就寝時は襲われやすいからな。博麗印の結界が大変重宝される。

 

「……ん?」

 

 家に着いた。着いたのだが、何故か戸が開いてる。結界を張り忘れたのだろうか、と思ったがそもそも常時張りっぱなしにしてるのでそれは違う。ということはまさか……

 

「…………」

 

 焦る心を鎮め、急いで部屋に入ると一階は地獄絵図だった。なんか色々と散らばっている。しかも幾つか減っているものがある。机の上には『死ぬまで借りてくわ♡』というメモ。うっせえ今すぐ殺すぞ。そして二階は逆の意味で地獄だった。部屋の全ての物が綺麗に整理整頓されているのだ。これは怖い。すごく怖い。机の上には『片付けがいがありました。今度から毎日掃除しに来ますね♡』という文字。あのヤンデレ共結託しやがった。

 

 どうやら今日も今日とて安眠できないようだ。ヤンデレ少女に愛され過ぎて夜も眠れない。


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