この守銭奴に祝福を!   作:駄文帝

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エピローグ

カズマside

 

バニルとの闘いから一週間後……

冒険者ギルドの受付の前で俺……いや、俺達は冒険者達からの熱い視線を一身に浴びていた。

正直今までこの受付の前と言う場所はあまり好きではなかった……なぜなら、此処でうちの馬鹿共がやらかした事の報告を聞くはめになるんだからな。

でも、今回はそうったものでなければ、デュラハンの時の様にしっぺ返しを食らうもないだろう。

なぜなら今日は……

 

「冒険者、サトウカズマ殿!これまでの貴殿の活躍を称え、ここに感謝状を贈るものとします!!」

 

そう、今日はバニルを倒した功績を称える祝賀会が行われているからだ。

なぜこんな事が行われているかと言うと俺のパーティが二人も魔王軍幹部を倒したから……なんて都合の良い話ではない。

デュラハンの事と言い、デストロイヤーの件と言い、この国の対応に対して苛立っていた俺がほんの少し意趣返しをしたのだ。

 

その内容と言えば、俺やルリ、そしてギルドマスター(アクセルのギルドで一番偉い人)など様々な人の人脈を使ってある噂を流してやったのだ。その噂の内容とは、魔王軍の幹部を撃破した冒険者がこの国に失望、隣国に逃げ出そうとしているっと言う噂だ。

俺のパーティーは実態はあれだが、成果だけを見れば魔王軍幹部二人の撃破にデストロイヤー討伐の中核を担うなどと凄まじいものがある。そんなパーティーが国から居なくなる。

そんな噂にビビった国がご機嫌取りの意味を兼ねて、今の祝賀会が行われているってわけだ。

 

まあ、上にはそんな事情があるわけだが、下の者はそんな事実など知るはずもなく。

今目の前に立って感謝状を手渡そうとしているセナや、ギルドの受付の人、大勢の冒険者達はそんなことなど知らずに、純粋に俺達の功績を祝ってるのだがな。

 

ともかく、俺がセナから感謝状を受け取るとギルドの中に冒険者達の喝采が響き渡った。

異世界に来た当初はこれを夢見ていたんだが……正直、今となっては平穏の方が欲しい。

本当に心の底から癒されたい。この望みって間違っているのかな……

 

俺がそんな事を思いながらもアクア達のいる席まで戻っていくと、再び受付の方から声が聞こえてきた。

 

「ダスティネス・フォード・ララティーナ卿!今回の貴公の献身は素晴らしく、貴方無くてはバニルの討伐は成しえなかったでしょう。その功績を称え、王室から第一級の技工士達による鎧が送られます」

 

セナがそう言うと奥からは立派な鎧が運び込まれていた。

しかしそれも目の前にしてダクネスは顔を真っ赤にしてうつむいている。こうなった理由は簡単。

 

「よかったじゃないか、ララティーナ!」

 

「流石、ララティーナだ!」

 

「可愛いぞ、ララティーナ!!」

 

そう騒ぎ立てる冒険者一同。

その声が聞こえる度にダクネスは顔をより真っ赤に染めていく。

なぜ冒険者たちがダクネスの本名を知っていると言うと……俺はゆっくりその原因のある後ろへと目を移す。

すると、そこには………………ダクネスの巨大な肖像画があった。

 

その肖像画には鎧姿ではなく、屋敷で見せていた綺麗なドレスを来たダクネスが映っており、その下にはでかでかと本名が書かれている。

なんでこの肖像画がギルドに置かれているのかと言うと…………俺がダクネスに勝った要求として作ってもらったものだ。

 

いやー、ダクネスに通さないで直接親父さんに掛け合ったかいがあったよ。親父さんにダクネスのこれまでの功績を称えて肖像画を作りたいと言ったら嬉しがってたからな。

しかもどうせなら可愛い姿を描きたいって俺の意見にも同意してくれた。

ともかく、こうしてダクネスの功績を称える意味でギルドに飾られる事となった肖像画は暫くの間このままになるらしい。

 

「こ、これは……私の望む辱しめでは…………っ!!」

 

ほら、俺の宣言通り泣いて嫌がってるじゃないか。

何も間違ってないだろ?

まさかダクネスは、自分の望む辱しめでもされると思っていたのか?俺はそんなに優しくねぇよ。

ともかく、ダクネスの一件はこれで終わりとして後は……

 

「冒険者、カトウマナ殿!貴殿を魔王軍の関係者と疑った事を謝罪すると共に、デストロイヤー討伐の報酬を此処に進呈します!!」

 

そう言われたマナはホクホク顔で報酬を受け取る。

今回の一件によって、本当に魔王軍の関係者であれば幹部と命がけで戦わないはずと判断されたマナは、国家転覆罪の疑惑は見事晴らされる事になった。

流石に城の修繕費までなくなると言う事はなかったが、それでも死刑が執行される心配がなくなっただけありがたいだろう。それに修復費についても、時間的にかなりの猶予が与えられることとなり……そのあても、どうにかつける事ができた。

これで万事解決……そう思っているとルリが俺の袖を引っ張ってきた。

 

「……冒険者の喝采が少ない……心当たり、ある?」

 

そう言って首を傾げるルリ。

先日のダクネスでの一件と言い、ルリは本当に察しが良いよな。

確かに、ルリの言う通りマナの喝采はダクネスや俺と比べると小さくなっている。叫んでいる人を見れば女性はそれほど変わりないのだが、男性は激減しているっと言えば良いのか……結構の奴が顔を俯いて落ち込んでいるように見える。

俺は一応こうなった理由を知っているんだが……まあ、ルリになら教えても問題はないだろう。

 

「ルリ、声を上げてない奴をよく見て見るんだ。心当たりがあるはずだ」

 

「……心当たり?……何か……………………あっ!?」

 

ようやく気付いたようだな。

今落ち込んでいる冒険者はサキュバスの店の常連……つまりデストロイヤーの討伐に参加して、その報酬を受け取り…………マナを裏切った奴らだ。

でも一つだけ勘違いしてもらうと困るのは、別にあいつらはマナを裏切ったことに罪悪感を感じているわけではない。

あんな簡単に裏切る奴らだ。また手の平を裏返してマナの事を褒め称えるだろう。

だったらどうして落ち込んでいるか…………それは簡単、マナに復讐をされたからだ。

ルリは詳しい説明まではしてないが、その結論に達する事が出来たようで、落ち込んでいる冒険者達を哀れみの視線を向けている。

 

「……それで具体的に……何をしたの?」

 

「別に難しい事じゃない。あいつらの持った共通の弱点を使ったまでだ」

 

「……共通の弱点?」

 

なんの事か見当が付かないと首を傾げるルリ。

これも結構簡単な事なんだけどな……あいつらの共通点と最近マナが手にした道具を踏まえれば、直ぐに思いつくことだ。

しかしルリはお手上げのようで、俺に答えを催促するかのような視線を向けている。

 

「本当に簡単な事だぞ。まず、あいつらはサキュバスの店に通ってる。そしてマナは最近魔道カメラを買った」

 

「ま、まさか……」

 

「ルリの思っている通りだ…………サキュバスとの密会の写真を撮られて、デストロイヤーの報酬の五割を持っていかれただけだ」

 

「うわぁ…………」

 

真相を聞いたルリは、冒険者達を心の底から同情したような顔をして見つめている。

かく言う俺は、冒険者達を可哀想だとは思うものの同情の視線などを向けることはない。

なぜかと言うと、守銭奴を売ってこの程度で済んでいると言うのは幸いの事であるし、なにより…………その写真の撮影に俺が協力している。

なぜ協力をしたのかと言えば、マナ一人にやらせてしまえば、本当に路頭に迷う奴が続出しかねないからだ。だから俺が協力と言う名の枷になる事で、あの守銭奴を抑え込んだ。

もしそうでなければ、あの守銭奴。五割なんて生易しい数字じゃ済ませなかったからな……

 

「ともかく、これで城の修繕費もめぐみんの借金も返す算段がついた。今はそれを喜ぼうぜ」

 

「……凄く微妙……」

 

俺もそうなんだから、余り強くは言わないでくれ。

ともかく、今は折角の祝賀会だ。そんな事は忘れて純粋に楽しむことにしよう。

テーブルには美味しそうな料理がずらりと並んでるわけだしな。アクアなんかは酒を飲み始めてるし、めぐみんも酒を欲しげに見つめている。ダクネスは……

ああ、ダクネスはもう行ったみたいだな。それじゃあ俺も後を……

 

「……カズマ?……何処に行くの?」

 

「いや、ちょっとウィズの店に方に……」

 

「……バニルの件なら大丈夫……」

 

ルリも気づいていたみたいだな。

今回討伐する事となったバニルと言う悪魔だが……あいつは古い友人に会うと言っていたが、こんな駆け出し冒険者しかいない場所に居る魔王軍の関係者、そして働くと貧乏になっていく店主なんて俺はたった一人しか知らない。きっとウィズの事だ。

ウィズ自身も前にある幹部とは仲が良かったと言っていたし……それは恐らくその仲の良かった幹部がバニルの事で間違いはないだろう。

一応相手の方から襲い掛かられたわけだから、正当防衛と言えるのかも知らないが……いい気分ではないのも事実だ。

 

「ルリ、確かにウィズなら俺達を恨んだりは……」

 

「……そう言う話じゃない……悪魔と言う生き物は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

マナside

 

裏通りの一角にあるウィズのお店、そこの前に思いつめた様子で佇んでいるダクネスに私はそっと声を掛けました。

 

「ダクネス、こんな所に一人で来てどうするつもりなのですか?」

 

「ま、マナ?気づいていたのか?」

 

まさか私が気づかないと思っていたのですか?甘すぎますよ。

あれだけ、挙動不審な様子でギルドを出て行こうとすれば、浮かれていなければ普通に気づくと思います。

ダクネス、なぜギルドから一人居なくなったか……それはウィズの件でしょう。

今回私達が討伐したバニルと言う悪魔は彼女の友人の可能性がある……ダウネスはきっとそれを謝るために一人ギルドを抜け出したんでしょうね。

 

「私も一緒に行きますよ」

 

「良いのか?マナは別に……」

 

「それを言うなら、ダクネスも同じじゃないですか。バニルに止めを刺したのはめぐみんなんですよ」

 

「そうなのかもしれないが……あいつがそう選択するように追い詰めたのは私だ。それに身体を共有して一緒に暴れまわった仲……私が報告するのが、筋と言うものだろう」

 

やっぱりあれ、共同で動いていたのですね。

道理でダクネスの動きがキレが良いと思ったら、彼女が抵抗する事をやめていたからですか……

そんなに攻撃を当てたいのなら、両手剣のスキルを取ってください。バニルが付いてた時ほどは無理かもしれませんが、かなり活躍できると思いますよ。

まあ、言っても無駄だと思うので口には出しませんが……

 

「ともかく、まずは店の中に入りましょうか」

 

まだ季節は冬なので、外は寒いですしね。

私が店の扉を開けて中に入ると、ダクネスはそれに続きました。

すると聞こえてきたのは、ウィズの「いらっしゃいませ」と言う元気の良い声……

バニルの死を知ってしまったら、これがどう変わるかと思うと……

 

「いらっしゃいませ、店の前で恥ずかしい事を呟いていた娘達よ。吾輩が滅んだと思ったか?残念、生きていました!!」

 

店の奥には店のエプロンを来たバニルの姿が……

もしかして、爆裂魔法を食らって生きていたのですか?もしそうなのだとしたら、瀕死になったとは言え生きてたダクネスと言い、防御力がおかしいんじゃないですか?

私だったら肉体の欠片も残さず吹き飛ぶ自信がありますよ。っと言うか普通はそうなります。

 

ともかく、バニルが生きてたのは良かったのかもしれませんが……結果的にバニルにいじられる事になったダクネスが膝を抱えてますね。カズマの策略による肖像画の件もあって精神的に限界のようですね。

まあ、可愛いと思うので放っておきましょう。

 

「あっ、マナさんじゃないですか。聞きましたよ。バニルさんを倒した事で疑惑が晴れたとか。これで後は借金だけですね」

 

「いえ、その借金についてもお金をうば……じゃなくて、なんとかあてはついたので気にしなくていいですよ。それよりもそこの悪魔はどうして生きてるのですか?爆裂魔法を食らったはずですよね?」

 

「なにを言う。流石の吾輩でも爆裂魔法を食らって無事で済むものか。ほら、此処を良く見るが良い」

 

そう言いながら仮面に指をやるバニル。

そこを良く見つめれば、先日戦った時にはなかったⅡと言う数字が書かれていました。

もしかしてデザインを変えてみたのですか?ですがそれが爆裂魔法と何か関係が……

 

「爆裂魔法で残機が一つ減ったので、二代目バニルだ」

 

「喧嘩売ってるんですか?」

 

何ですか、その残機って……

現実はゲームじゃないんですよ。ふざけ……っと少し思いましたが、ふざけてるのはこの異世界。

悪魔が残機制とかでもでもおかしくないですよね?空飛ぶ野菜や、ふざけた名前のモンスターが居るくらいですからね。何があってもおかしくはありません。

カズマがたまに枕元で「元の世界に帰りたい」っと言いながら涙を流すくらいですからね……

最も、カズマがそう言ってる原因は私達によるものが大きいと思いますが……

 

「バニルさんは前々から魔王軍を抜けたがってたんですよ。今は結界の維持はしていないので、無害なはずですよ」

 

そ、そうなのですか?

まあ、襲ってこないのであれば別に私は構いませんが……

それにしても、悪魔と言うのはめちゃくちゃですね。爆裂魔法を食らっても残機が一つ減るだけで……

一つ減る?………………あっ!!もしかしてそれは……

 

「その減った残機と言う物は一つしかないんですか?」

 

「むっ?どうしたのだ?頭の六割がお金の事で残りはあのきち…………」

 

「うああああああああッ!!そ、そんなデタラメを言ってないで!私の質問に答えてください!!」

 

「ふむ、良い羞恥の悪感情だ!この美味な悪感情に免じて、その質問に答えよう!!吾輩は地獄の公爵、そこら辺の悪魔とは比べものにならない程の残機を持っている!!」

 

って事はつまり……

 

「バニル、これはお金稼ぎが出来ますよ!!まず貴方が適当に街を襲ってください!その後は私達が来るのでアクアの退魔魔法かめぐみんの爆裂魔法を食らってください!!その後は貰った賞金を山分けと言う事に……」

 

「ま、マナ!?お前は一体何を……」

 

「そうですよ、マナさん。そんなマッチポンプみたいなやり方は……」

 

「ふむ……確かにその方法は一度のみに限れば有効であるな。爆裂魔法であるなら報酬次第では……」

 

「バニルさん!?だめですよ!絶対に駄目ですからね!!」

 

ふふふ……そんな事を言っても今の私を止められると思わない事ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局ですが……

あの後飛んできたカズマによって正座させられた挙句、三時間にも及ぶ説教を食らいました。

しかもその最中に私の姿を見て笑っている悪魔が居ましたし……彼、こうなる未来が見えたから協力した振りをしたのですね……

絶対に許しません……いつか復讐してやります。




また遅くなってしまってすいません。
次の章ですが……これからは忙しくなるので今年中は不可能かもしれません。
出来るだけ早く投稿できるようにするので、それまで待ってもらえると嬉しいです。

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