プロローグ
「はぁ……はぁ……クソ!なんで毎回こうなるんだよ!!」
「カズマ、愚痴を言ってないで足を動かしてください!敵に追いつかれます!!」
一面に雪が降り積もった山の麓、そこで私とカズマは声を掛け合いながら他の仲間達と一緒に走っていました。
なぜ走っているかと言うと、私達の後ろからブラックファングと言う巨大熊が追っかけてきているからです。本来はそれなりのレベルに達した冒険者が討伐するこのモンスターは、今の私達のレベルでは手に負えない程強く、追いつかれたら異様に硬いダクネス以外は死んでしまうかもしれません。
だからロープで縛られて引きずられているダクネス(モンスターに突っ込んで行こうとしたため)以外は、皆必死に走って逃げています。
「カズマさん!カズマさん!!あのモンスター、私を標的にしている気がするんですけど!血走った目で私を睨みつけてるんですけど!助けて!!」
「知るか馬鹿!大体こんな事になってるのは、お前のせいだろ!!」
「そうですよ、アクア!作戦ではルリの隠密スキルで隠れた私が爆裂魔法で吹き飛ばす手筈になっていたじゃないですか!?なんで余計な事をしたんですか!!」
そう、そんな相手に正面から挑むはずもなく、ブラックファングから距離を取った所でルリと一緒に隠れた、めぐみんが爆裂魔法で不意打ちをすることになっていました。
これなら、強敵でも十分に仕留めることが出来ますし、私達も安全です。唯一の心配事項である雪崩も、この場所はゆるやかな斜面なので起こる可能性は低いでしょう。この完璧とも言える作戦は、ほぼ順調に進んでいました。
アクアが馬鹿をやらかすまでは……
「カズマ、マナ!!貴方達なら分かるでしょう!ほら、日本で見たテレビの事を思い出して!芸人が、落とすなよ、落とすなよ、って行った時は後ろの人が蹴落としてたじゃない!あのモンスターが同じ様な仕草をやっていたのよ!!これは落とせと言っているようなものでしょう!!」
「言ってないから、俺たちは今追いかけ回されてんだろうが!この駄女神!!」
そう、私達が見つけた時、ブラックファングは目の前にあった天然の温泉の温度を知るために、伸ばした足を水面に当てていたんですよね。で、それを見たアクアがブラックファングを後ろから突き飛ばし、ブラックファングはお尻から温泉の中に飛び込むことになりました。
そして、どうやらその温泉は相当熱かったらしく、激怒したブラックファングに襲い掛かられて、今に至る…………アクア以外に悪者はいませんね。
でも、今はそんな事よりも、この巨大熊からどうやって逃げ切るかです。私達の走る速さよりもブラックファングの方が早いみたいで、徐々にですが距離が詰められています。
唯一、ブラックファングから距離を離せているのは、ルリくらい……って彼女はダクネスを引きずっているのに、なんで私達よりも早いんですか!?おかしくないですか!?
そういえば、以前めぐみんにルリの腕力の話をした時に「アサシンは力よりも素早さよりのステータスのハズなのですが」って言ってましたね。あの腕力はスキルとかじゃなくて素だったのですね。
でも、今はそんな事はどうでもいいです。早くどうにかしないと…………
「カズマ!何とかして下さい!!」
「もう少し待ってろ!後もうちょっとで……よし来た!!」
カズマは一体何をしたいのですか?来たって……先程と変わったのは地面の上から凍った川の上に移ったくらいですよ。
まあ、カズマが何時もの笑みを浮かべてるので、どうにかはするのでしょうが……
「お前ら、作戦を思いついたから、しっかりと聞けよ!まずルリは、ダクネスを引きずるのを止めて、めぐみんを隠密スキルで隠して此処から離れろ!めぐみんは距離を取ったら爆裂魔法の指示があったら打てるように待機!アクアはダクネスの『バインド』を解いて、ダクネスが怪我をしても治せるように回復魔法を唱える準備をしておけ!ダクネスは、あの熊を一瞬でいいから食い止めろ!鎧が無いけど、出来るよな!?」
「ああ、任せろ!ドンと来い!!」
「よし!後はマナ、お前は確か最近、攻撃系のスキルを思えたよな!?」
「は、はい。『スラッシュ』って言う衝撃波を飛ばすスキルを覚えましたが……あの熊は倒せませんよ」
「十分だ!マナは俺と一緒にダクネスのそばで待機しろ!皆、わかったな!?」
私達は各々に返事を返すと、カズマに言われた通りの作業を進めていきます。
そんな、間にもブラックファングは徐々にこちらへと迫って来ます。正直、逃げ出したいのですが、だぶんそんな事をすれば他の仲間が殺された後に私が殺されるだけでしょう。
今はカズマを信じるしかありません。
そして、私達の目前まで迫ったブラックファングとダクネスが衝突しました。
「な、なんのこれぐらい!あの魔王軍の幹部にくらべれば……」
そういって、顔を赤く染めて興奮したダクネスがブラックファングを受け止めました。その結果、軽い怪我をしたようですが、アクアが直に魔法で治療しました。
このまま、拮抗出来ていたら良かったのですが、相手はモンスター、ダクネスがブラックファングに拮抗出来ていたのは一瞬で徐々に押され始めます。
まあ、ルリのように人間から逸脱した腕力を持っている訳ではないので、当たり前の事なのですがね。
ともかく、カズマはダクネスがブラックファングを止めている時間を使って……
「『クリエイト・アース』ッ!『ウインドブレス』ッ!!」
墓地でアクアにやった方法でブラックファングの目を潰しました。これなら暫くの間、ブラックファングは行動不能になると思いますが……時間稼ぎにしかなりませんよ。
なんせ、ここには障害物がないもありません。ブラックファングの視界が回復するまでに目の届かない場所に逃げるのなんて不可能です。
しかし、カズマもそんな事は知っているのでしょう。めぐみんに爆裂魔法の待機させていますからね。でも此処では私達も巻き込まれる……
「マナ、『スラッシュ』を熊の足元の氷に打て!!」
「こ、氷ですか!?そんな事をして何の意味が……「いいから、早くやれ!!」わ、分かりました!行きますよ!『スラッシュ』ッ!!」
私の打った衝撃波はブラックファングの足元の氷を砕きました。
その結果、ブラックファングは凍りついていなかった川の中に落ちました。たしかにこれならより時間稼ぎは出来ますが……それでも爆裂魔法の効果範囲からは……
私がそう思っていると、カズマは手を払って此処から逃げろと伝えてきました。とりあえず、私は残念そうにしている変態の首元を掴んで引きずりますが……あまり早く走れませんよ、これ。
よく、ルリは簡単そうに引きずりますね。軽く尊敬してしまいますよ。
それにしても、カズマは一人残ってなにをする気なのでしょう?私が後ろを振り向くと……
「『フリーズ』ッ!!」
氷の初級魔法を使っていました。
本来なら、この魔法で川を凍りつかせる事など不可能なのでしょうが、今は冬で表面が凍りつくくらい川の水が冷えています。そのため、カズマの魔法は川に落ちたブラックファングを取り込む形で、私の壊した箇所を再び凍りつかせました。
なるほど!カズマはこれを狙っていたのですね!!
完全にブラックファングの動きを封じたカズマや、私とダクネス、そして私とは別の方向に逃げていたアクアが凍りついた川から逃げ出した時でした。カズマの大声が響きます。
「めぐみん!今だ、やれ!!」
「分かりました!!『エクスプロージョン』ッ!!」
どうも、駄文帝です。
書籍の二巻に相当する場所がようやく書き終わったので、何もなければ毎日一話のペースで投稿していきたいと思います。
今回は全九話で文字数は十万程になると思います。