この守銭奴に祝福を!   作:駄文帝

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一章
プロローグ


ようやく堅苦しいのが終わったと私は思わずため息をついてしまいました。

 

今日は幼稚園からの知り合いである佐藤和真の葬式がありました。

死んだ和真と私の関係は、悪友と言えばいいのでしょうか。彼とは、ある時には私の金儲けに協力させたり、またある時には彼の復讐に手を貸したりなど、上げれば切りが無いほど沢山の事を一緒にやってきました。このことを踏まえると悪友よりは相棒と言ったほうがしっくりくるかもしれません。

 

そんな彼が死んだ……それを初めて聞いた時は冗談かと思いました。だってあの男は働かないで遊んでいたいなどのふざけ切ったことを言いまくったり、そのくせして運は非常に良かったり、からめ手や悪質な考えは得意だったりなど、一言でいえば狡賢い卑劣な男です。

てっきり私より長生きするものだと思ってましたよ。

 

それにしても、死因だけはどうにかならなかったのですかね……

その死因を聞いた時は思わず声に出して笑ってしまいましたよ。葬式でもお経を読んでいるお坊さんが時折思い出し笑いをしていましたよ。

多分人類史上最も情けない死に方になったと思います。

 

でもひとしきり笑った後にこみ上げて来たのは、なんとも言えない空虚感だけでした。

例えるなら自分の体の一部を失ったと言えばいいのでしょうか……それほど私と和真の過ごしてきた時間が大きかったってことですね……

どうして私を置いていってしまったのでしょう……

 

私がそんな事を考えながら葬式会場から最寄りの駅に歩いている時でした。

 

プー!プー!

 

急にクラクションの音が聞こえて来ました。

それに驚いて音のする方向を向けば大型トラックがこちらに迫ってくるのが見えました。どうやら考え事をしていて、道路に出たのに気付かなかったようですね。

 

もうどうにかできる距離じゃありません。トラックは相当の速度を出しているようで私をひく前に止まれそうにありません。これは諦めるしかないでしょう。

交通事故(かは微妙だが)で死んだ人の葬式に来て交通事故で死ぬ……笑えませんね。

 

せめて痛くないように……そして出来ればまた和真と再会出来るようにと思いながら目を瞑ると、激しい衝撃と共に私の意識は闇に途絶えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

私がうっすらと目を開けるとそこは真っ白な部屋でした。

そして目の前には羽の生えた女性が立っています。ここは天国なのでしょうか?それにしては殺風景だと思いますが……

 

「加藤麻奈さん。あなたは残念ながら死んでしまいました」

 

目の前に立つ女性に私は自らの死を告げられました。

まあ、大型トラックと正面衝突して生きている方が不思議ですし、もし生きていても半身不随などの悲惨人生が待っていると思います。

そこで私は自分が死んだにも関わらず妙に落ち着いていることに気がつきました。死ぬ前に諦めてたからでしょうか?それともこの世にあまり未練がなかったからでしょうか?

 

私がそんなことを考え、思い悩んでいると目の前の女性……とりあえず羽が生えているので天使にしましょう。その天使が言葉を紡ぎました。

 

「あなたにはこれからどうするか、いくつかの選択肢があります」

 

選択肢ですか……テンプレ道理なら、天国に行くか、転生するか、異世界に飛ばされるかと言った所になりますが、あくまでこれは創作上の話ですからね。

現実が同じとは限りませんが、どんな選択肢が示されるのでしょう。

 

「日本に赤ん坊として生まれ変わるか、それとも天国に行くか、それとも異世界に転生するかです」

 

テンプレ通りでしたね。それにしても、どうしましょう?

赤ん坊は……まだやり残したことがあるので勘弁願いたいので、残るのは天国に行くか異世界に行くかの二つになりますね。

まずは天国とはどんな場所なのか、目の前の天使に聞いてみることにしましょう。

 

「あの、天国とはどういった場所なのですか?」

 

「はい、一般的に考えているような天国ではなく、娯楽の類は一切ありません。そこに行けば、危険な事は一切ない代わりに、起きて食べて寝ると言った趣味のない老人のような生活を送ることになります」

 

それは天国と言うのでしょうか?

むしろ地獄と言った方がいいような気がします。中には行きたい人も居るのでしょうが、少なくても私は御免です。

でも残りの異世界の方には少し恐怖があります。おそらくそこは科学が発展した地球のような世界ではなく魔法がありモンスターがいるファンタジーな世界なのでしょう。

そんな世界に日本育ちの私が行ったらすぐに殺される可能性もあり得ます。流石にもう一度死ぬのは勘弁願いたいです。

でも違う世界の可能性もありますし、一応聞いてみることにしましょう。

 

「異世界とは、どういった世界なのでしょうか?あまり危険な世界には行きたくありませんが」

 

「貴方たちの言葉で表すならファンタジーの世界、魔法があり、モンスターの居る世界です。その世界に行く際には何かしらの特典を持たせるようになっていたのですが……」

 

急に目の前の天使の顔に陰りが見え始めました。異世界に行く際の特典といえば俺tueeeeが出来るようなものを思い浮かべましたが……

目の前の天使が顔を暗くしている事を考えると、それが全て他の転生者に取られたのでしょうか?それとも特典に対抗できるスキル的な物を覚えた者が出たのでしょうか?

私が天使の返事を待っていると彼女は覚悟を決めたのかこちらを真っ直ぐ見てとんでもない事を言ってきました。

 

「それが、特典を渡す女神様が先ほど来た異世界への転生を望まれた方に特典として持っていかれまして……」

 

「what?」

 

おっと、いけない。衝撃のあまりに英語になってしまいました。

それにしても、女神が特典とはいいのでしょうか?それが出来たらチートすぎるような気もしますが。良くある聖剣などの類と違って自分は一切苦労しない……少し羨ましいです。

 

すると私の顔を見て、私が考えている事に気がついたのか天使が補足してくれました。

 

「まぁ、女神と言っても頭の足りないお調子者で色々なトラブルを起こす厄介な人なんですけどね。つい先日も騒ぎを起こしてメイさんにかなりしごかれてましたし……」

 

頭が痛いかの様に手を当ててそう答える天使、日本の無能な上司の尻拭いをするサラリーマンに似ていますね。

すると天使がどこからか出した錠剤(おそらく頭痛薬でしょう)を飲んだあとにこちらを向いて言いました。

 

「ともかく、本題なのですが彼女が居ないと特典を渡す事が出来ないのです。それでは異世界で生きていくのには、あまりに過酷なのでステータスの面で多少優遇されますが、特典のような強さは得る事は出来ません」

 

うむ、これは困りました。

強大なモンスターが蔓延るであろう異世界に特典なし……

その世界で生きている人にとってはそれが普通なのですが、日本で過ごし平和ボケしている私が生きていけるかどうか……でもまだ赤ちゃんに戻るのはごめんですし、天国と言う名の牢獄に行く気もありません。

 

でも遣り残した事……札束の風呂に入って埋もれたいと言う夢を諦める訳にはいきません。

かなり厳しいことになるかもしれませんが、夢のために腹を括るしか道はないでしょう。この夢を諦めるわけにはいかないです。

 

私はそう決意して、天使を真っすぐと見据えて言いました。

 

「異世界に送ってください」

 

「分かりました。ではその魔方陣の上に乗ってください」

 

天使が指をさす方向には幾何学的な魔方陣が淡い青色の光を放っていました。

私は天使の指示に従いその上に乗ります。すると徐々に光が強くなってきました。

 

「では、加藤麻奈さん。異世界で平穏な日々が続く事を祈っています」

 

天使がそう言って手を合わせ祈りを捧げるのが見えたのを最後に私の視界は眩い光で包まれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

私が目を開けるとそこはアスファルトに覆われた地面ではなく、真っ白い部屋でもなく、石が敷き詰められた道路にその両脇に建つ煉瓦製の建物、どうやら街中に移動させられたようですね。一安心しました。

 

もし、ラノベのように草原に移動させられたら死亡フラグですしね。

それでも主人公なら生存フラグに変えるのでしょうが、私はあいにく特別な力を持った主人公ではありません。モンスターに殺されるか野垂れ死ぬのがオチでしょう。

 

それにしても私はどうすればいいのでしょうか?

服装は死んだときに着ていた学校のブレザーですし、この服装でモンスターと戦ったら死にますよね……と言うか、そもそも武器すらも持っていませんでした。

 

ここはテンプレに従って冒険者ギルドのような場所に行くべきなのでしょうか?

ラノベの設定とかだと初期装備を貸してくれる所もあるようですが、この世界もそうなのでしょうか?

 

しばらく首を傾げて悩んでいましたが、分からないものは分からない、そう結論づけて、ギルドらしき場所を探すことにしました。

 

今日中に見つかるといいですけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

私はその後、秘技「人に場所を尋ねる」を使って冒険者ギルドの場所を知って、その前まで来ることができました。

そういえば、天使には聞いていませんでしたけど自動翻訳機能的な何かを付けられているみたいですね。人に尋ねる際にそれに気づいてひやひやしましたよ。

聞かなかった私も悪いですがちゃんと言ってほしかったです。

 

そんなことは置いといて私がギルドの中に入ると、そこには酒場も兼ねているようで鎧を着た人たちが椅子に座ってたむろしてました。

 

「いらしゃいませ!お仕事のご依頼でしたらカウンターにどうぞ!」

 

すると赤髪のウェイトレスのお姉さんが愛想よくこちらに話かけてきてくれました。

するとこちらに気づいたのか冒険者の皆さんがこちらに振り向いて私をまじまじと見つめてきました。

 

な、なぜでしょか?新人は注目を集めるものでしょうが度が過ぎていると思います。毎日と言う訳にはいかないでしょうが、それでも月に二~三人はいるはずです。その中の一人をじっと見つめてどうしたいのでしょか?

 

冒険者が私を見つめる理由は分かりませんが、私はこのギルドに登録しなくてはいけません。一旦その視線を無視してカウンターに私は向かいました。受付は今は混雑していないのか人が並んでいなかったので一番近くの場所に並ぶことにしました。

 

「今日はどうされましたか?」

 

「冒険者になりたいのですが、どうすればいいでしょうか?」

 

「それならこちらで出来ます。ただし登録手数料がかかりますが大丈夫でしょうか?」

 

手数料……よく考えてみれば無料で全てやってくれるわけがありませんよね。

しかしどうしたらいいのでしょう?私はこの世界のお金など持っていませんし、お金を貸してくれる知り合いもいません。

 

このままでは、飲まず食わずで餓死をしてしまいます。異世界に来て何も出来ずに餓死など冗談じゃありません。

こうなったら体を売るしかないのでしょうか?でも初めては好きになった人にあげたいですし、後々でそれをネタに脅されると言ったことがあるかもしれません。

でも今はそんなことを言ってはいられないですし……

 

私がどうすればいいか悩んでいると後ろから声が聞こえてきました。

 

「だから、やめろって言ったじゃねえか。人の言う事聞かねえからそうなるんだぞ」

 

「だって、あのカエルに打撃が効かないと思ってなかったのよ!知っているなら言ってくれてもいいじゃない!どうして教えてくれなかったのよ!カズマの人でなし!!」

 

カズマって……私の悪友の和真じゃありませんよね。

いや、流石にそれはないでしょう。和真までこの世界に転生しているかどうかすら分かりませんし、もし仮に転生していたとしても、同じ世界に居るというだけで会える保証はどこにもありません。

きっと同じ名前をした人なのでしょう、そのほうがまだ現実味があります。

 

でも一応は確認しようと、淡い期待を抱きながら後ろを振り向いて固まってしまいました。

だって、そこには……

 

「か、和真なのですか……」

 

そう、名前の同じ人ではなく、私の知っている佐藤和真本人が泣きじゃくる青髪の美女をあやしながらそこに立っていたのです。

私がその事実に驚いて身動きが出来ずにいると、彼も私に気づいたようで驚愕しながらも尋ねてきました。

 

「麻奈……なんでお前、ここにいるんだ?」

 

これが、後に「アクセルの鬼畜男」と名前を轟かせることになり、私の所属するパーティのリーダーとなる男、佐藤和真との再会でした。


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