駅の通学ラッシュで学生達が次々に走ってくる。
それはヴァルゼルドの予想を遥かに上回る量の学生達だ。
『なんとも……凄い光景であります』
「ハハハッ驚いたみたいだね」
ヴァルゼルドは目があるわけでは無いが目を丸くして加速的に増えていく生徒達に驚いていた。
そんなヴァルゼルドを見て、高畑は笑みを溢していた。
「ヴァルゼルド君、これからまだまだ生徒達は増えていくからトラブルが起きないように見ていかないと」
『ハッ!了解であります』
そしてこれから初仕事が始まるヴァルゼルドに指示を促す高畑。
しかし、予想外の事態が発生し始めていた。
「わー!スゲェ!ロボだロボ!」
「格好いい!」
「素材は何だ!?麻帆良大学でもこんなロボ見たこと無いぞ!?」
渋滞やトラブルを回避する為に来ていた筈のヴァルゼルドの周りに人が集まってきてしまったのだ。
見た目がロボットのヴァルゼルドは好奇の目にさらされていたのだ。小中高大とそれぞれの学生達がヴァルゼルドの周囲に集っていく。
しかも当のヴァルゼルドはあわあわと狼狽するばかりで対応に困っている。
そんな光景を近くで見ていた高畑はやはりこうなったかと苦笑いだった。見た目が子供のストライクな姿をしているヴァルゼルドだから学生達の前に現れれば騒ぎになると予想はしていたのだが高畑の予想を遥かに超える人数が集まってしまったのだ。
「ほらほら、君達。早くしないと遅刻するよ。これからヴァルゼルド君と触れ合う機会はあるから早く登校しなさい」
パンパンと手を叩き、学生達を登校へと促す高畑。
生徒達は「はーい」と返事をすると散っていった。
『た、助かったであります』
「ハハハッ早くも人気者だねヴァルゼルド君」
トラブル回避所かトラブルの元になったヴァルゼルドはノロノロと高畑に歩み寄る。
そんなヴァルゼルドを見て、高畑は笑っていた。
「ま、最初の内だけだよキミの存在に皆が馴れれば友達みたいに気さくに接してくれるよ」
『暫くの辛抱でありますか。しかし凄い熱気であります』
ヴァルゼルドに助言を出す高畑。ヴァルゼルドはそれを聞きながら自身を追い越しながら走って行く学生達を見て呟いた。
「あ、高畑先生!」
「高畑先生やー」
そんな中、高畑の名を呼ぶ女子学生が近付いてくる。
一人は髪をツインテールに纏めて、オッドアイの少女。一人は黒髪の長く関西弁の少女だった。
「おはようございます高畑先生!」
「おはようございますー」
「やあ、おはよう明日菜君、木乃香君」
ツインテールの少女は神楽坂明日菜。黒髪の少女は近衛木乃香。
二人とも高畑のクラスの生徒である。
『高畑殿、この二人は高畑殿のお知り合いでありますか?』
「ああ、二人とも僕の担当しているクラスの子達なんだ」
気さくに会話をするヴァルゼルドと高畑。
しかしそれどころじゃ無いのヴァルゼルドが初見の二人だ。
「何コレ!?ロボット!?」
「格好ええなー」
明らかに動揺している明日菜とのほほんとヴァルゼルドを見上げる木乃香。
『本機は【麻帆良警備兼お手伝いロボット・ヴァルゼルド】であります。気軽にヴァルゼルドとお呼び下さいであります』
「ヴァルゼルド君は学園長のお知り合いが作ったロボットでね。稼働試験も兼ねて麻帆良に置くことになったんだ」
自己紹介をするヴァルゼルドと捏造されたプロフィールをサラッと話す高畑。
明日菜はまだ驚いたままだが木乃香は説明の中に有った「学園長」の言葉に反応した。
「お爺ちゃんが?」
『お爺ちゃん?お嬢さんは学園長殿のご親族でありますか?』
木乃香の言葉にヴァルゼルドは質問を重ねる。
「木乃香君は学園長のお孫さんでね」
『そうでありましたか。では、お嬢様とお呼びした方が宜しいでありますか?』
ヴァルゼルドの言葉に木乃香はプーッと頬を膨らませる。
「お嬢様は止めてやー。そう言われるの嫌やねん。あ、ウチは近衛木乃香や。木乃香でええよ」
『了解であります。木乃香殿』
ヴァルゼルドに訂正を求める木乃香にヴァルゼルドはビシッと敬礼をする。
「あ、私は神楽坂明日菜。私も明日菜で良いわ。それにしても凄いわ、このロボット」
「ほらほら、仲良くするのは良いけど急がないと遅刻するよ」
明日菜も呼び捨てで良いと言ってヴァルゼルドにペタペタと触る。
そんな中、高畑は明日菜と木乃香に遅刻すると促す。
二人は慌てて学園に向かって走っていくが木乃香はクルリと振り返る。
「また後で話聞かせてなー、ヴァル君!」
木乃香はヴァルゼルドを『ヴァル君』と呼んだ。
「なによ木乃香、ヴァル君って」
「ヴァルゼルドってなんや硬い感じやん。ヴァル君の方が親しみやすいで。明日菜もロボットやのーてヴァル君って呼んだら?」
ヴァルゼルドのニックネームを木乃香に聞く、明日菜。
「わ、私はいいわよ。またねヴァルゼルド!」
「またねーヴァル君」
そのまま元気よく走っていく二人を見送ったヴァルゼルドと高畑。
「なかなか、良いニックネームを付けられたねヴァルゼルド君」
『親しみを持って頂けたのは喜ばしい事であります。高畑殿も本機は呼び捨てで構わないであります』
クックックッと笑いを耐える高畑に木乃香から付けて貰ったニックネームに妙に照れているヴァルゼルド。
自分の事は呼び捨てで構わないと言うヴァルゼルドに高畑は「わかったよ」と再びタバコに火を灯した。
こうしてヴァルゼルドの朝の仕事は無事に終わりを向かえた。