エヴァの好意に甘えヴァルゼルドは一晩、エヴァ邸に泊まる事になる。
「ヴァルゼルドさんは食事などはどうなさるのですか?」
『本機はバッテリーに充電を行うか、ソーラーパネルで日の光によるエネルギーを補給出来れば問題無しであります』
道すがら茶々丸とヴァルゼルドは会話していた。
エヴァも普段からあまり話をしない茶々丸が自ら進んで話をする様子を喜んで見ていた。
「ヴァルゼルドが茶々丸に良い影響を与えたか……まだ会って数時間しか経っていないのに大したものだ」
ヴァルゼルドと茶々丸に聞こえない程の声で呟くエヴァ。
エヴァの中でヴァルゼルドの評価が少し上がっていた。
そして、たどり着いたのは一軒の立派なログハウス。
そこでヴァルゼルドはエヴァの初代従者チャチャゼロと出会う。
「ケケケッ……変な奴が来やがった」
『おや、呪いの人形でありますか?』
「私の姉のチャチャゼロです」
部屋の中でヴァルゼルドを見たチャチャゼロはケラケラとヴァルゼルドを笑い、ヴァルゼルドはチャチャゼロを呪いの人形と思い、茶々丸はヴァルゼルドにチャチャゼロを紹介する。
「どちらも私の従者だ。さてヴァルゼルド、貴様の居た世界の魔法を聞かせて貰おうか」
エヴァは部屋のソファーに座り足を組む。
『ハッ……しかし何処から話せば良いのやら……』
「まず、お前が言っていた召喚術から話せ」
エヴァの要望にヴァルゼルドは元居た世界の魔力運用を話した。
『まず本機が居た世界の魔法は『召喚術』と呼ばれ、召喚石と呼ばれる石に契約を刻まねばならないであります。装備している召喚石を用いて他の世界からモンスターや無機物を呼び出して使役すると言うものであります。喚び出すモノの強さや使い勝手に応じて消費魔力が変動したり、魔力体質によって装備できる召喚石の属性や召喚石の装備数が決まっていたりするので決して万能ではありませんが、回復や攻撃補助、複数の敵への同時攻撃など、使いこなせば戦闘をかなり有利に進められであります』
「ふむ、我々の魔法と違い超常を起こすのでは無く、使役する物を召喚し魔力で制御すると言う事か」
ヴァルゼルドの説明に顎に手を這わせ思案するエヴァ。
『更に召喚獣には二種類存在し、通常の物は一度の使用に魔力に応じた力を発揮した後に元居た世界に戻され、護衛獣と呼ばれる召喚獣は召喚した者の側に寄り添うパートナーになるであります』
「その辺りは仮契約(パクティオー)と似ているか……さっき言っていた属性とは?」
ヴァルゼルドの説明は判りやすく、様々な知識を持つエヴァには好奇心を満たすものだった。
『本機が所属する機界ロレイラルは【機】鬼妖界シルターンは【鬼】霊界サプレスは【霊】幻獣界メイトルパは【獣】そして名も無き世界を【無】と記されます』
「名も無き世界とは何だ?」
『四つの世界に属さぬ別の世界から召喚された者であります。基本的には命を持たぬ者達であります』
エヴァの問いに次々と答えるヴァルゼルド。
「…………………おおよその魔力運用は理解した。その召喚術の中には呪いを解くのも有るのか?」
『呪いは物にも拠りますが召還術で消せるで有ります。おや、エヴァ殿は何かの呪いに?』
苦々しい表情になったエヴァにヴァルゼルドは心配そうにする。
「随分、昔にな……未だに解くことが出来ん」
『少々、失礼するであります』
ヴァルゼルドの瞳が光を発するとエヴァを包む。
「お、おい?何をしているんだヴァルゼルド」
『──ピーッ──解析完了』
電子音と共にエヴァを包んでいた光が消える。
『エヴァ殿に付加されている呪いは強固な物でありますな』
「わかるのか!?」
先程の光は呪いを解析していたらしくヴァルゼルドはエヴァの呪いを解析していた。
『無茶苦茶な呪いの仕様であります。まるで縄で体を縛った後に手錠をし海に沈めた様な状態になっているであります』
「………的を得ているだけに笑えん」
実はヴァルゼルドの解析結果は的確でエヴァに掛けられている呪いは、ある人物が力任せに付加した呪いであり、エヴァの魔力を封じた上に呪いの性でエヴァは学園の外には出られない。
ヴァルゼルドが出した解析結果は見事に正解だったりする。
「そう……か……手間を掛けたなヴァルゼルド。もう良いぞ」
エヴァは自身に掛けられた呪いはがどうにか出来ないかと悩んでいた。だからこそヴァルゼルドの他世界の知識も得たかったのだ。
『エヴァ殿、本機は明日以降学園長殿の下で働くでありますがエヴァ殿の呪いも調べるであります』
「おい、ヴァルゼルド……」
『教官殿が此処に居れば迷わずエヴァ殿を助ける筈。本機には教官殿の様な力はないでありますが全力を尽くすであります』
ヴァルゼルドの言葉にエヴァはポカンと口を開けていた。
今までエヴァの呪いを解くと言った者は居なかったからだ。
ヴァルゼルドが尊敬した『教官殿』はどれだけお人好しだったんだとエヴァは溜息を吐く。
「勝手にしろ……茶々丸。ヴァルゼルドに寝床でも与えてやれ」
「はい、マスター」
ヴァルゼルドと茶々丸に背を向けるエヴァは素っ気ない態度を取る。
ヴァルゼルドからは見えなかったがエヴァの口元は笑みが浮かんでいた。