「ふぅむ……なるほどのぅ……」
ヴァルゼルドの話を聞き終えた近右衛門は顎髭を弄りながら今の話を何処まで信じるか悩んでいた。
「ジジィ」
「む?」
熟考している近右衛門に話しかけるエヴァ。
「ジジィ、コイツに危険はないさ」
「何故じゃ?」
「ヴァルゼルドはここが麻帆良であるという事も、麻帆良がどういう土地なのかも、どんな物があるかもわかっちゃいない。そんな間抜けな侵入者など聞いたこともないだろう?」
「ふむ……じゃがのぅ」
しかし近右衛門とて、組織の長。はいそーですか、とはいかないものである。
「ここからは私の推論だ。確証もないがいいか?」
「ふむ、聞こうかの」
「ヴァルゼルドについて、不可解な点が幾つかある」
そう言いながらエヴァンジェリンは人差し指を突き立てる。
「今まで聞いた、コイツの周りの環境・常識。600年を生きた私でさえ聞いた事がない物ばかりだった。ヴァルゼルドが機械兵士だと言うのならば人形使いの私が知らない訳がない。以上から私はヴァルゼルドが所謂、異世界又は平行世界から来たと推測する」
「ふむ……異世界のぅ……」
近右衛門は推論を聞き終え、椅子に深く座り直して考える。
「ヴァルゼルド君、ワシから幾つか質問をしたい。良いかの?」
『ハッ了解であります』
近右衛門の問いにヴァルゼルドは頷く。
「まず、本当にここにきた原因は判らんのじゃな?」
『本機には不明であります。そもそも自分の意識は消えた筈なのにボディも含め武装も完全なのは謎であります』
近右衛門の質問に更なる謎を含めて返答するヴァルゼルド。
「暴走したと言っておったが今は大丈夫なのかね?」
『現在、違和感は無いであります。暴走の危険性は低いであります』
ヴァルゼルドの言葉なのフムと納得した様に頷くと今までで一番の眼光と威圧感を放つ近右衛門。
「機械兵士として戦っていたと言うが……その力、弱き者に向けるか?」
『本機は確かに戦闘の為に生まれた存在ではありますが……本機の存在は人を守る為に生まれたのだと教官殿が言ってくれました。本機はその信頼に背きたくないであります』
その言葉に近右衛門のみならずエヴァや茶々丸、高畑も心を動かされた。ヴァルゼルドは本当に『教官殿』と慕う人物を尊敬していたのだと。
「うむ!あい、わかった!どうじゃろうヴァルゼルド君、ここで働いてみんか?勿論、衣食住とお主の修理が出来そうな者も紹介しよう。どうじゃ?」
『が、学園長殿!?本機の様な者を麻帆良に招き入れて良いのでありますか!?』
近右衛門の提案に驚きを隠せないヴァルゼルド。
「ホッホッホッ、お主の監視の意味も含めてると思って構わぬよ。それにお主は『教官殿』との約束を破る気は無いのじゃろう?」
『学園長……ありがとうであります』
監視は名目であるが近右衛門はヴァルゼルドを信じた。そしてヴァルゼルドにもそれがわかったので礼をする。
「では最後に、ヴァルゼルド君が泊まる所じゃが」
「おい、ジジィ」
話が進む中、ヴァルゼルドの住まいに話になった際に黙っていたエヴァが口を挟む。
「今晩は我が家で預かってやろう」
「む、どういう風の吹き回しじゃ?」
エヴァが今晩だけはヴァルゼルドを預かると提案したのだ。近右衛門はエヴァの態度に疑問を感じる。
「フン……ヴァルゼルドの居た世界の魔力運用は興味深い。奴から話を聞く価値がある。それに茶々丸がヴァルゼルドを気にしているからな。話が終わったなら、もう連れていくぞ?」
「うむ、今日はもういいじゃろ。なら明日、ヴァルゼルド君を連れて来てくれるかの。明日までにはヴァルゼルド君の仕事を決めておくからの」
ヴァルゼルドの居た世界に興味を持ったエヴァ。ヴァルゼルドから異世界の魔力運用の話を聞きたい様だ。近右衛門は納得した。そしてヴァルゼルドの明日の予定も決める。
「ああ、なら明日の朝、ヴァルゼルドに此処に来させよう。行くぞ二人とも」
「失礼します学園長先生、高畑先生」
『失礼するであります』
ソファから身を起こし、部屋の出口に向かうエヴァと主の後を追う茶々丸。ビシッと敬礼をした後にエヴァと茶々丸を追ったヴァルゼルド。
三人が退室した後に静かになる学園長室。
「……異世界からの来訪者。学園長、何故、ヴァルゼルド君を雇うと言ったのです?」
「高畑君、キミも感じておったじゃろうがヴァルゼルド君は麻帆良に居る魔法使いよりも正しい心を持っておる様じゃ。よほどその『教官殿』が素晴らしい者だったんじゃろうな」
高畑の問いに飄々と返す近右衛門。
「つまりヴァルゼルド君が麻帆良にとってプラスになると?」
「それはヴァルゼルド君次第じゃろ。ワシは心配は杞憂じゃと思うがな」
高畑は近右衛門がヴァルゼルドが麻帆良に及ぼす影響を狙っているのだと感じた。
「……万が一ヴァルゼルド君が害を成すならばワシの責任において裁を下す」
「学園長……僕もヴァルゼルド君が人に害を成す存在だとは思っていませんよ」
全ての責任は自分にあると言う近右衛門に高畑は苦笑いと溜息を零した。