「ねぇ、美空」
「あいあい。なんスかシスター」
麻帆良教会でシスターシャークティと美空は教会の掃除をしていた。
因みにココネは手伝いに来たヴァルゼルドと共に外の掃除をしている。
「貴女、ヴァルゼルドの事をどう思う?」
「んー……」
シャークティの発言に美空は指を顎に沿わせて小首を傾げる。
「最初は武骨な機械兵士とか異世界の戦闘マシーンとか言われてビビってましたけど、実物見たらそんな考え消えちゃいましたね」
「そうよねぇ……」
ケラケラと笑いながら話す美空にシャークティはハァと溜息を吐いた。
「それに……珍しくね、ココネが人見知りしないんスよ」
「え?ああ、そういえば……確かに珍しいわね」
美空の言葉に納得するシャークティ。美空の発言通り、ココネは若干人見知り気味なのだ。しかしそんな彼女が人見知りをせずにヴァルゼルドに懐いた事を思い出すシャークティと美空。
「ヴァルゼルドがここに来てから暫く経過するけど、ココネが私等が見てないとこでもヴァルゼルドと喋ってるみたいで」
そう言って美空は教会の窓から外を眺めた。そこには箒を自在に掃き掃除する機械兵士。それも三角頭巾にエプロンの完全装備。
その隣には相変わらずの無表情だがヴァルゼルドにチョコチョコと付いて回り掃除を手伝う褐色の少女。
「アレを見ちゃったら、もうヴァルゼルドが『危険な存在』って言う意見なんか信じられないッスよ」
確かに。とシャークティは心の中で思う。
ヴァルゼルドの教会での手伝いを許可したのはヴァルゼルドの監視の意味も含められていたのだが、そろそろ馬鹿馬鹿しいという思いも生まれていた。
一部の魔法先生から『ヴァルゼルドが危険な存在として尻尾を掴んだら破壊しましょう』と言われたがハッキリ言って掴む尻尾すら無いのが現状であり、彼を疑う方が悪い気すら起きる。
「それに色々と手伝ってくれるから、大助かり」
「そうね、貴女より真面目だわ」
不真面目なシスター見習いはヴァルゼルドをお手伝いロボットと思っているのだろう。割と本気で。
実際にヴァルゼルドが手伝いと称して働く最中、美空はサボっており、未来から来たお手伝いロボットと駄目な主人公を思わせる面が有る。その後のお説教も教会の日常と化しているのもある意味で問題だ。
話を元に戻すが結局の所、ヴァルゼルドが危険な存在だとはシャークティには到底思えなかった。
同僚である刀子や高畑も同様の考えをしている様だ。魔法生徒の中にもヴァルゼルドを認めて友達同然に話す者も居る。
ヴァルゼルドの存在は麻帆良に存在する魔法使い達に多かれ少なかれ影響を与えていた。
「『正義』……か」
少し前まで自分や同僚が声高に唱えていた言葉をポツリと零したシャークティ。
しかしヴァルゼルドに会ってからその『正義』は揺らぎ始めていた。
ヴァルゼルドが以前話していた『教官殿』の方が遥かに『正義』と思える程に。
『お掃除完了であります!』
「終わったー」
シャークティが思考の海に沈みかけた際に外の掃除を終えたヴァルゼルドとココネが教会の中に入ってきてシャークティの意識は戻る。
「お疲れ様ですヴァルゼルド、ココネ。少し休憩にしましょうか」
「よっしゃー!」
「お茶にする」
『では本機は別の場所のお手伝いに……』
シャークティの言葉に美空とココネは喜び、ヴァルゼルドは外に出ようとした。
「ヴァルゼルドも一緒……」
「そうそうヴァルえもんも一緒に休憩休憩」
『ととっ!?ココネ殿、美空殿!?』
ココネはヴァルゼルドの肩に乗り、美空はヴァルゼルドの背を押しながら休憩に付き合わせようとする。
『シャークティ殿、美空殿達を……』
「そうですね……お茶は飲めないんでしょうけど一緒に休憩でも如何かしらヴァルゼルド?」
ヴァルゼルドがシャークティに美空達の事を頼もうとしたらなんとシャークティから休憩のお誘いが出た。
これには美空やココネも驚いた。まさかシャークティからお誘いが出るとは思わなかったからだ。
ヴァルゼルド達が驚いている間にシャークティはお茶を煎れに先に行ってしまう。
『ここで断ったら失礼でありますな』
「そうそう、シスターシャークティからのお誘いッスよ」
自身の後ろから聞こえてくるヴァルゼルド達の楽しそうな声にシャークティは頬を緩ませて静かに笑った。