刹那にK.O.されたヴァルゼルドが意識を取り戻したのは、それから10分後ほど経過した頃だった。
目を覚ましたヴァルゼルドの瞳にライトグリーンの光が灯るとヴァルゼルドは起き上がり頭を振るう。
脳があるわけではないヴァルゼルドが頭を振って意識をハッキリさせているのかは兎も角、その人間臭い仕草に刹那はクスリと笑みを溢した。
そして刹那がヴァルゼルドをK.O.した事を深々と謝罪すると事情説明になる。自己紹介を互いに済ませると刹那はヴァルゼルドに一つ、心を許していた。
刹那は学園長や麻帆良に来てから剣の指導をしてくれている刀子からヴァルゼルドの為人を聞いていた。そして誰もが口を揃えて『彼を危険な存在として認識するならそこらの野良犬の方が危険になる』と言うのだ。その認識は正しいのだろう。事実、刹那は会って数分でヴァルゼルドと打ち解け始めているのだ。
「学園長や高畑先生に信頼されているヴァルゼルドさんには話してもいいでしょう。私は学園長のお孫さんである木乃香お嬢様の護衛を影ながら勤めております」
『何故、護衛が離れているでありますか?護衛ならば近くに居た方が良いのでは?』
刹那の説明に疑問を持つヴァルゼルド。先程、刹那から同じクラスで同じ寮で過ごしていると聞いているヴァルゼルドは護衛ならば近くに居るべきなのでは?と思う。事実、刹那が木乃香の近くで護衛をしていれば今回の件も未然に防ぐ事が出来たかもしれないでしょうのだ。
「そ、それは……ご両親の意向でお嬢様は魔法などを一切知らずに育ってきましたので裏の者である私があまり接触するのはちょっと……」
ヴァルゼルドの疑問に答える刹那だが最後の方は尻すぼみになっていく。その表情は後ろめたさや後悔といった感情が混ざって顔に出ていた。
『刹那殿、本機には刹那殿の悩みは見当も付かないでありますが何か協力出来るときには協力するであります』
「ヴァルゼルドさん……」
ヴァルゼルドはポンと刹那の肩に自身の手を乗せる。刹那はヴァルゼルドの言葉を嬉しく思い、ヴァルゼルドも迂闊に相手の心に踏み込むマネはしなかった。
これは余談だが他者がこの光景を見れば、某映画のワンシーンを連想しただろう。
『では、本機が救助にむかうであります。この先でありますか?』
「は、はい。この先にゴーレムが開けた穴があるのでその下にお嬢様達が居る筈です!」
刹那の言葉を信じ、ヴァルゼルドは救助に向かうべく、地下への穴へと迷わず飛び込んだ。
落下していくヴァルゼルドに刹那は少し悔しい思いをしていた。
護衛だが近くに居る事が出来ないジレンマ。だがそれは誰に言われた訳でもなく刹那自身が決めた事だ。
「ヴァルゼルドさん……お嬢様をお願いします」
刹那はヴァルゼルドが飛び込んだ穴を見詰めて、そう呟くしか出来なかった。
◇◆◇◆
一方のネギ達は地下に落とされ、広い空間に居た。
そこは神秘に溢れた『地底図書館』
図書館探検部の夕映や木乃香がここは地底図書館ではないかと解説。
それが本当なら帰還は困難であるとの説明に一同は脱出路を探すが見当たらず途方に暮れる。
そんな生徒達の姿を見て、奮起させようとネギが大声で呼びかける。
「皆さん!元気を出してください!根拠は無いけど、きっとすぐ帰れますよ!」
その言葉に諦めの色が濃くなっていた生徒達の目に再び、光が灯る。
そして更に励まそうと言葉を重ねようとしたネギだったがそれは叶わなかった。
ドッパァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!
全員のすぐ後ろの池に大きな水柱が立ったからだ。
「な、何事ー!?」
明日菜が叫び、一同が水柱の立った地点に注目しているなか、水柱は収まっていく。完全に波が収まったと同時に今度は何かが水面から飛び出してきた。
ザバァ!と勢いよく頭を出したのはヴァルゼルドだった。穴から飛び降りてきたヴァルゼルドだが着地点まで予想できなかったらしく池に着水する羽目になったのだった。
ヴァルゼルドが池から出てくる様は、さながら有名なスーパーロボットの出撃シーンの再現だった。
知る者が居れば、その場で「マジン、ゴー!」と叫んでいただろう。