超と葉加瀬の所を後にしたヴァルゼルドは麻帆良学園に戻ってきていた。
時刻は既に夜となり、生徒は下校する時間になっていた。
「ばいばーい、ヴァルゼルド!」
『気をつけて帰るのでありますよ』
部活帰りの生徒達は見回りをするヴァルゼルドに声を掛けて帰っていく。この数週間でヴァルゼルドの知名度は相当高くなっていた。当然、まだ会っていない生徒も居れば話したことも無い生徒も居る。だがヴァルゼルドの名は麻帆良学園中に広まっていた。
「ヴァルゼルドさん」
『おや、千鶴殿。お疲れ様であります』
そんなヴァルゼルドに声を掛けたのは那波千鶴。ヴァルゼルドが良く行く幼稚園で保母のバイトをしている生徒である。
「お疲れ様、ヴァルゼルドさん。見回り?」
『はい、下校中時刻なので見回っていたであります』
ヴァルゼルドと千鶴が出会ったのは数週間前でヴァルゼルドが幼稚園に顔出しした際に初めて会ったのだが、当初はヴァルゼルドの外見に警戒を露わにしていた千鶴だが子供達と遊ぶヴァルゼルドを見て、その気持ちは直ぐに四散する事となった。
因みに正しくは子供達に『遊ばれている』ヴァルゼルドではあるが。
『千鶴殿はバイトでありましたか?』
「ええ、ちょうど帰るところだったの」
柔やかに会話するヴァルゼルドと千鶴。
『では、本機が寮までお送りするであります』
「あら、じゃあお願いしようかしら」
並んで歩くヴァルゼルドと千鶴。身長差もあり、かなりシュールな光景である。
しかし、この手の光景も実は見慣れた光景だったりする。
ヴァルゼルドは帰りが遅い生徒を寮まで送ったり、屋台で酔い潰れた教師を運んだりと世話を焼くヴァルゼルドの姿は既に当たり前と化していた。
しかし見慣れたと言ってもロボと女子中学生が並んで歩く光景はシュールな以外何物でも無い。
「…………………」
寮へと並んで歩く二人を見詰める影が一つ。
それは茶々丸だった。いつもと変わらぬ無表情な顔付きだったが、それは何処か寂しそうで。
「茶々丸にも本当に良い影響与えてるみたいネ」
「本当ですね-。あ、エヴァさんはどうお考えで?」
「茶々丸のしたいようにすればいいさ。もっとも最初にヴァルゼルドを拾ってきた時は驚いたがな」
屋台で食事をしながら、ニヤニヤと茶々丸を見ている超、葉加瀬、エヴァ。それはさながら、我が子の恋愛を楽しんでみている母親だろうか。
その後、千鶴を寮へと送り届けたヴァルゼルドだが寮からエヴァ邸へ帰る際に茶々丸と合流するが妙に茶々丸の雰囲気が恐かったりする。
『ちゃ、茶々丸殿?何か……あったのでありますか?』
「何がですか?」
ヴァルゼルドの少し前を歩く茶々丸。その足取りはいつもより少し早くヴァルゼルドが後を追う形になっていた。
『茶々丸殿……本機は何かしてしまったでありますか?』
「いえ、何も?」
ヴァルゼルドが焦った様子で茶々丸に話し掛けるが茶々丸の態度は素っ気ない。それどころか茶々丸の頭に怒りマークが浮かんでる様にすら見えた。
「いいなー若いって……ズズッ……」
「老け込み過ぎじゃないかいエヴァ?」
吸血鬼で600年生きたエヴァは二人を若いと称して茶を啜り、高畑はそんなエヴァを見て苦笑いしながら煙草を吹かしていた。