「大丈夫だったかい、長谷川君」
「え、ああ……はい、大丈夫です」
ヴァルゼルドの後を追ってきた高畑達。
千雨は呆然としたまま生返事を返した。
『よそ見運転はマナー違反であります。まして携帯電話の通話も駄目であります』
「うむ、ヴァルゼルド君の言う通りだ。これから警察へ出頭してもらうぞ」
「は、はい!」
ヴァルゼルド&新田のダブル説教に車の運転手はタジタジだ。ロボットと中年に叱られる運転手。かなりシュールな光景である。
「あ、あの……高畑先生。あのロボットは……?」
「ああ、彼の名は『ヴァルゼルド』学園長のお知り合いが作成した、お手伝いロボットだよ。モニターとして麻帆良に今日から配属されたんだ」
座り込んだままだヴァルゼルドを指差し、高畑に問う千雨。
高畑からは一応の説明責任を聞いたが心の中では「いや、あり得ねーだろ、あんなロボット!」と叫んでいた。
『お待たせしたであります。車の運転手は新田殿とガンドルフィーニ殿が連れて行ったであります』
「ああ、ご苦労さま。ヴァルゼルド」
高畑の前まで来て、報告するヴァルゼルド。
新田は運転手をそのまま警察へ連れて行き、ガンドルフィーニは車をレッカーで移動させる為に離れた様だ。
もっともガンドルフィーニに関しては先程の事も有り、気まずさから離れたのかもしれないが。
「ヴァルゼルドさん、大丈夫だったんですか?車を受け止めて怪我とか……」
『本機はあの程度では傷も付かないであります』
愛衣が心配そうにヴァルゼルドに問い掛ける。ヴァルゼルドは問題ないと返答するが千雨は「車受け止めてかすり傷も付かないってどんなボディしてんだよ!超合金Zで出来てやがんのか!?」と叫びたくなっていた。
「助かったよヴァルゼルド。生徒を守ってくれてありがとう」
『千雨殿に怪我が無くて何よりであります』
高畑もガンドルフィーニもヴァルゼルドが走り出したと同時に千雨のピンチに気付いたが魔法使いは人前じゃ魔法が使えないと言う縛りに反応が遅れた。今後はヴァルゼルドの活躍の場も増えそうである。
「ヴァルゼルドさん」
『茶々丸殿』
突如、呼び掛けられた声に振り返れば其処には茶々丸が居た。
「お迎えにあがりました。学園長とマスターの間で話し合いが有ったようでヴァルゼルドさんは当面、マスターの家で預かるとの事です」
『そうなのでありますか?』
茶々丸の言葉にヴァルゼルドは高畑に視線を移すが高畑は首を横に振る。
どうやら学園長とエヴァの間で決められた事らしい。
「そうか。じゃあ茶々丸君、ヴァルゼルドを頼むよ。ああ、そうだ。長谷川君を寮まで付き添ってあげてくれないかな。無事だったとは言っても車に轢かれ掛けたからね」
『了解であります』
高畑はそう言い残すと刀子と行ってしまう。千雨は口を挟む間もなく決められた事実に口をパクパクとするのが限界だった。
「では、参りましょうか」
「あ、私達も一緒に。行きますよ愛衣」
「は、はい。お姉様」
茶々丸、高音、愛衣の行動は早く、既に寮に足が向いている。
「あ、おい。私はまだ……」
『まだ立てないでありますか?では、本機がサポートするであります』
「うわっ!?」
まだ自分は承認していないと言おうとした千雨を抱き上げようとする。それに対して千雨は悲鳴を上げる。
「ば、馬鹿……下ろせ!」
『しかし、千雨殿が歩けぬのなら……』
ヴァルゼルドの腕の中でバタバタ暴れる千雨。しかしヴァルゼルドも善意と心配から来ている行為なので悪気は無い。
「歩けるから下ろせ!」
『アダッ!?』
我慢しかねた千雨は鞄をヴァルゼルドの顔面にヒットさせる。痛がるヴァルゼルドに車はノーダメージなのになんで鞄は効いたんだろうと愛衣はタラリと汗を流しながら見ていた。
これは余談だが寮に行く前に茶々丸が野良猫に餌を与えに寄り道をするが、その際に猫に囲まれて『猫は苦手であります!』と叫ぶヴァルゼルドに愛衣は「なんか可愛い」と呟き、高音は「本当に機械兵士なのかしら」と心の中でヴァルゼルドの存在を改めて疑っていた。
「なんなんだよ、あのポンコツは……」
千雨は猫に囲まれて悲鳴を上げるヴァルゼルドを見て『あり得ない高性能ロボット』から『不思議なポンコツ』に評価を下方修正していた。