AKABAKO   作:万年レート1000

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シリアスさんは死んだ! もう居ない!

うん、ていうかこの二人が対立したり喧嘩する展開を書きたくないっていうか……。
お膳立てしといてなんだけど割とあっさりした展開です。ごめんなさい。


わりとすぐ泣く

「本日よりシズク様のサポートとして任命されました、戦闘用サポートパートナーの『レィク』です」

 

 よろしくお願い致します。

 と、レィクと名乗ったリィンそっくりの猫耳メイドサポートパートナーは丁寧にお辞儀をした。

 

 ……が。

 お辞儀を受けた方――シズクは固まっていた。

 

 頭の回転には自信がある方だったのだが、何一つ言葉が出ない。

 

「…………シズク」

「う……ば……」

 

 くるり、とリィンはゆっくりと振り向いた。

 

 表情は、真顔。

 何を考えているのか、全然察せない。

 

「この子……何? シズクのサポートーパートナー?」

「は……はい。そうです……」

 

 思わず敬語になって頷くシズクだった。

 

 「ふぅん」とリィンは呟いて、レィクの猫耳を指先で突いた。

 

「何で猫耳付いてるの?」

「それは……その……」

「何でメイド服なの?」

「ええっと……うば、うばー……」

 

 言いながら、リィンはシズクの方へと足を進める。

 一歩一歩、ゆっくりと。

 

「ん?」

 

 ずい、っと。

 リィンはシズクの瞳を覗きこむように顔を近づけた。

 

 海色の瞳は、光らない。

 

「あ……う……」

 

 代わりに、海色の瞳が潤みだした。

 頬は紅潮し始めて、眉は八の字に歪みだす。

 

「う、うぅぅ……」

「ちょ、シズク!?」

 

 突如。

 ぼろぼろと、シズクの瞳から涙が溢れ出した。

 

「ぐす……うぅ……」

「な、何で泣くのよ。どうしてこんな姿にしたのか訊いてるだけじゃない」

「ううう……だってぇええええええ」

 

 ぐしぐしと目を服の袖で拭い始めたシズクの腕を掴んで止め、ハンカチを取り出し渡す。

 

「リィンに嫌われるかと思ったら……ぐすっ……ぅばー……」

「あーもー……まあびっくりしたけど、これくらいじゃ嫌いにならないわよ」

 

 安心させるように、リィンはシズクを抱きしめた。

 背中に腕を回して、ぎゅっと身体を引き寄せるように。

 

「…………ほんと?」

「ええ。……生理用品コレクションされてたのに比べれば、うん、これくらい」

 

 某姉の顔が頭をちらついたので、かき消す様に首を振る。

 

 ぽんぽんと頭を撫でるように叩いていると、ようやく落ち着いたのかシズクの眼から流れていた涙が止まった。

 

「……あのね、ほんと出来心だったの。つい作っちゃってつい決定ボタン押しちゃって」

「そう……」

「不快だったよね? 自分と同じ顔なんて――ごめんね」

「いいよ、許すわ」

 

 引っ付いていた身体を少し離して、目線を交わす。

 

 あれ、何だか、凄く良い雰囲気じゃないか――なんてシズクが涙とは別の理由で頬を紅潮させた、瞬間。

 

「――許す、けど」

「うば?」

 

 ふいに、リィンが身体を離してレィクの方へと歩み寄った。

 

 レィクはシズクとリィンが話している間、一歩も動かず同じ態勢で待機していた。

 これこそが本来サポートパートナーのあるべき姿勢なのだろう。ルインはほんと何なんだアイツみたいなことを頭の片隅で考えながら、リィンはレィクの猫耳とメイド服を撫でる。

 

「何で猫耳メイドなの?」

「…………」

「こういうの好きなの?」

「…………」

 

 沈黙は、時に言葉よりも雄弁に真実を伝えるという。

 

 シズクが猫耳派のメイド好きというのは確定的に明らかであった。

 

「ふーん」

「う、うば……べ、別にいいじゃん。猫耳もメイド服も超可愛いじゃん」

「ふーーん……」

「そ、そんなに特殊な性癖じゃないでしょ! アヤ先輩の執事フェチに比べたらまだマシだよ!」

「……今度同じ格好してあげようか?」

 

 是非お願いします、と。

 シズクは即行で土下座した。

 

 迷いの無い――完璧で迅速な土下座だった。

 

「嘘よ」

「うばあー! 土下座! 土下座までしたのに!」

「流石に猫耳メイドは恥ずかしいわ」

「えっ」

 

 レィクがリィンの発言に、軽くショックを受けたような反応を示した。

 

 流石に普通のサポパといえど、自分の格好を恥ずかしいと言われたらそりゃショックだろう。

 

「え、あの」

「あっと……そろそろ帰らなきゃルインに怒られちゃうわ」

「ちょ」

「また明日ね、シズク。あ、それとレィクちゃんもこれからよろしくね」

「あ、はい」

 

 ふりふりと手を振って、リィンはシズクの部屋を出て行った。

 レィクの制止は届かなかったようである。

 

 ……何と言うか、まあ。 

 

「…………強くなったなぁ、リィン」

「あの、マスター……私のこの格好って恥ずかしいものなのでしょうか」

「うばー、そうだねー……正直顔も含めてその格好を他の知り合いに見られたら気まずいし……」

 

 ラッピースーツでも買って着せようか、と。

 

 シズクは薄くなっていく財布に内心涙しながら微笑んだ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「遅い! 牛歩にも程がありますよ乳牛女(マスター)!」

 

 リィンが自分のマイルームの扉を開けた直後、罵声が飛んできた。

 

 当たり前だがルインのものだ。

 もう慣れてるので、罵声はスルーして一直線に食卓へ向かう。

 

「ごめんね、ちょっと色々あって」

「色々ぉ? ワタクシの美味しい出来立てほかほか料理より大事なことがあったのですか?」

 

 リィンのコップに飲み物を注ぎながら、ルインは怒りの表情を隠そうともせずに言った。

 

 そう言われるとルインのご飯より大事なものとかあまり多くは思い浮かばない辺り流石の一言だが……今回ばかりはご飯より大事なことだった。

 

「うんまあ、かいつまんで言うとシズクが泣いたから抱きしめて慰めてた」

 

 ガラスの割れる音と、液体が零れる音が同時に響いた。

 

 ルインが、持っていたコップを落としたのだ。

 

「ちょ、ルイン何やって」

「何ですかそれ!? 詳細を詳しく細かく教えてください! 何でもしますから!」

「お、落ち着きなさいよ。頭痛が痛いみたいになってるわよ」

 

 どうどう、と猛るルインを抑える。

 ホント、サポートパートナーらしくない子だ。

 

「別に詳しく話すようなものじゃないわよ」

「くっ……気になる……!」

 

 後でシズク様にも聞いてみよう……! と何か決意を固めているルインをスルーして、リィンは食事を口に運ぶ。

 流石の味だ、若干冷めているところは不満だがまあそれは自業自得ということで甘んじて受け入れよう。

 

「ん?」

 

 と、その時だった。

 

 リィンの端末が、メールの着信を告げるように鳴り響いた。

 シズクでも、元【コートハイム】の二人でも、【アナザースリー】でも無い――けれど見慣れたアドレス。

 

 アークスの管制室から送られてきた通知だ。

 当然こういったお知らせメール的なものが来ることは珍しいことではない。

 

 まあ尤も自分にはあまり関係ないような、あるいは興味が無いような内容が多いので、慣れた手つきでメールを開封して、既読だけ付けてすぐ閉じる。

 

 そして、件名が目に入り急いで再び開いた。

 

「…………これだ」

 

 ルインに聞こえないように、呟く。

 

 管制室から送られてきたメール、そこにはこう書かれていた。

 

 『サポートパートナー定期メンテナンスのお知らせ』、と。




登場人物の名前の頭文字がラ行多すぎ問題。

これ以上は増やさんぞ……!

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