『考えたはいいけどキャラは濃いわ設定は掘り下げると話数使いすぎてシズクやリィンの出番を喰ってしまう』という理由で没にした没キャラを「マイキャラです! 是非使ってください!」とか言って投げたくなる。
そんな日曜日の夜。
……勿論やりませんけどね?
「『【腹パン】モニカ愚痴スレ15【したい】』……うばば、もう15スレ行ってるとか凄いなぁ」
「シズク、何それ? 掲示板?」
「ネットのアンダーグラウンドさ。リィンは知らなくていい世界だよ」
三十分後。
ブラオレットを無事潜在Lv3の+10まで強化しきったシズクと、リィンはショップエリアを歩いていた。
目的は、『ジグ』というキャストの捜索だ。
ドゥドゥ曰く、『クラフト』というシステムの普及を担当している武器職人らしい。
そんな彼にクラフトについて教えてもらうのが、目的だ。
「クラフトっていうのは、軽く調べたらどうも弱いレアやコモン武器でも一定以上の強さまで引き上げる技術みたい」
「ふぅん……調べれば分かる技術なら別に教えてもらわなくてもいいんじゃ?」
「いや、ネットの情報を鵜呑みにするのはなぁ……結局のところ熟練者に直接教えてもらうのが一番良いと思う」
普及を担当してるなら、教えるのも慣れているだろうし、とシズクは検索サイトに『ジグ 武器職人』と入力して画像検索を開始した。
一秒も経たず、刀匠ジグの顔写真が画面一杯に映し出された。
高名な武器職人というのは本当らしい。あっという間に顔は割れた。
「黒いキャスト、ね。シズク直感で今何処にいるか分からない?」
「分かんないー。なんていうかな、視覚外にあるモノに対しては直感が働きにくいみたいなんだよね」
「ふーん、そういうものなの」
シズクの言葉をさらりと流して、リィンは辺りを見渡し始めた。
ジグを探しているのだろう。
確かに背の高めなリィンが辺りを見渡せば、それだけで結構な索敵範囲となるので有効な手といえよう。
しかしまあそれはそれとして……。
「リィンってそういうとこメイ先輩と似てるよね」
「え? どういうとこ?」
「いや、なんていうか……不思議なことを不思議なまま不思議として受け入れるところが……」
上手く言語化できないが、そんな感じ。
「何それ?」
「いやあたしも何か上手く言葉に出来ないや。ごめんね」
「別に謝らなくても……ん?」
リィンが、ふと何かに気づいたように声をあげた。
視線はシズクではなく、左前方の遥か先に向いている。
「どうしたの? リィン」
「ジグさん、見つけたよ。ほら、あそこ」
「うば?」
リィンの指差した先をシズクは目を凝らして見つめる。
ショップエリアのライブステージ近くにあるベンチの近く。
何かしているわけでもなく、ただただ単に黒いキャストが佇んでいた。
「……ああ、ホントだ。写真と同じパーツと色だね……何してるんだろ」
「お爺ちゃんだし、日向ぼっこじゃない?」
「キャストが? ……いや、まあこういう偏見はよくないか」
キャストは、俗に言うアンドロイドやロボットみたいな種族だ。
故に合理的思考を好み、無駄なことをしない――というのが基本的なキャストの性質だが、最近はそうでもない。
機械だからこそ、人間らしい生き方を好むキャストは年々増えている。
なのでキャストが日向ぼっこをしていても、なんらおかしな話ではない。
「……む?」
「うばっ」
ジッと見つめていたら、ジグがシズクとリィンに気づいたのかこっちを向いた。
気づかれてしまっては仕方が無い(?)と二人は真っ直ぐにジグの元へ歩み寄り、ぺこりと会釈をした。
「こ、こんにちは」
「こんにちはー、貴方がジグさんですか?」
「ああ、如何にもわしは刀匠ジグだが……何か用かな?」
シズクの問いに、ジグは頷いた。
このキャストこそ、探していた『ジグ』で間違いないようだ。
(……案外早く見つかったな)
「えっとですね、あたしたちクラフトについて知りたいんですけど……」
「ほう、そんなに若いのにクラフトに関心があるとは珍しいの」
ジグの言葉に、シズクとリィンは首を傾げた。
珍しいのだろうか。
弱い武器を強くする――なんて需要がありそうなものだが。
「弱い武器を強くするより、強い武器を新たに新調したほうが楽だし強いのでな。
クラフトは本来、思い入れはあるが性能が着いていけなくなった武器を戦えるようにする技術なんじゃよ」
不思議そうな顔をしていたシズクに補足するように、ジグは言った。
成る程、とシズクは頷く。
確かに若者は思い入れのある武器を無理して使うよりも、新しい武器を鍛える方を選ぶだろう。
何せ、そっちの方が楽に強くなれるのだ。
ゲームじゃあるまいし、自分の生死を左右する武器に過剰な思い入れは不要という意見の方が多いのは仕方が無いだろう。
「刀匠としては、武器は一つ一つに魂がある。使い込むことでその真価を発揮できる道も あると思うのじゃが……っと、すまんな、話が逸れてしまった。えーっと……」
「あ、そういえば名乗っていませんでしたね。あたしはシズク、こっちがリィンです」
「シズクと、リィン……? 何処かで聞いた名じゃな」
ずい、っとジグはリィンの顔を覗き込むようにしてそう言った。
「うば? 多分戦技大会の記事を見たんじゃないんですかね」
「戦技大会……? ……いや、そんな最近のことではなく、もっと昔に……むぅ、思いだせん」
まあいいか、とジグは呟いて、おもむろにアイテムパックを開きだす。
そして箱型のアイテムデータを二つ取り出すと、それをシズクとリィンに渡した。
「これは?」
「クラフト用の素材じゃよ。初めての人には配っておるものじゃから、遠慮なく受けとっておくといい」
「うば、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
箱型アイテムデータを解凍すると、中から複数のアイテムが出てきた。
アイロニアとか、PAフラグメントとか、見知らぬアイテムで一杯だ。
「わ、全然見たこと無いアイテムが入ってるわね……」
「クラフトの基礎的なやり方を書いた教科書も入っておる。それを読めば誰にでも基礎的なクラフトはできるから、まずはその通りにこなしていくことじゃな」
「うば? そんなに簡単なんですか?」
箱の隅に入っていた薄い冊子をぺらぺらと捲りながら、シズクは首を傾げた。
見た感じ、相当簡単だ。
手順に従って、武器の構造を器具で弄ったり機械に放り込んでボタンを押すだけだったり。
「基礎は、な。極めるとしたら、それ相応の努力が必要なのは当然じゃ」
何事も、極めるのが大変なのは当然のこと。
それはどれだけ技術が発展しようと、科学が進展しようと変わらぬことだ、とジグは言った。
「クラフターの道は、一日にしてならず。頑張るんじゃぞ、若人」
*****
それから、数十分後。
ジグの軽い説明を終えた後、シズクのマイルームに戻ってきたシズクとリィンは、早速クラフトの準備に取り掛かっていた。
「『クラフトは、”性能を強化する”というより”性能を画一化する”ものである。クラフトレベルという”型”に武器を押し込んで、一定の能力になるまで能力を上乗せする技術である』」
さっき渡された教科書を読みながら、シズクはマイルームに『クラフトコンソール』と『クラフトエクスビルダー』と呼ばれるクラフト用のルームグッズを置いていく。
どちらもFUNと呼ばれる何故か頻繁に手に入る良く分からない通貨を使って買ったものだ。
尚似たようなものにACと呼ばれる極稀にいつの間にか手に入っている通貨もあるのだが――まあこの辺りについて話すと世界の深淵に触れかねないので
「……つまり、ブラオレットみたいな弱武器なら中堅武器まで性能を上げれるけど、星9とか10以上の強い武器をクラフトすると逆に弱体化しかねないってことね」
「運がいいと本来適正の無いクラスの装備適正が付与されたりもするみたいね……あ、もしかしてメイさんがメインファイターなのにツインマシンガン使えてたのってこれのおかげ?」
「あー……、そういえばそうね。地味に前から不思議だと思ってたわ」
話しながら、設置したクラフトコンソールを起動する。
強化する武器の種類と、型と、強化値などのデータを設定していくと、クラフトの手順や方法が画面に映し出された。
後はこの通りにやっていくだけだ。
慣れている人なら大成功も起きやすいが、まだ素人であるシズクがやっても大成功が起きる確率は低いだろう。
「……さて、と」
シズクがクラフトしている間、漫画でも読んでるかな、とリィンは端末を開いた。
メイから借りた、『サクラとジュリエット』。
あと少しで読み終えられそうなのだ。
「…………」
「…………」
ページを捲る音と、クラフトの機械音だけが鳴っている。
シズクのマイルームだから、ルインも居ないので家事の音すらしない。
(なんか、先輩たちが居なくなってからこういう時間増えたなぁ……)
ページを捲る手を止めて、リィンはシズクの背中を見る。
順調にクラフトは進んでいるようだ。
まあシズクは器用な方だし、元々あまり心配していないが。
「ねえ、シズク」
「んー? 何?」
「早く後輩欲しいね」
シズクが驚いたように振り返って、リィン見つめた。
「……な、何よその顔」
「びっくりした……早く子供欲しいねって聞こえたから何時の間に新婚夫婦になったのかなって……」
「んにゃっ!? そ、そんなわけないじゃない! 何考えてんのよ!」
「うばっはっは……いやー、焦った」
シズクは笑いながら冷や汗を拭い、
リィンは照れた顔を隠すように書籍データを顔の前に引き上げた。
「もー……ところでクラフトはどう? いい感じ?」
「とりあえず一回やってみたけどかなり強くなったよ。……ただ、素材が最初に貰った分だけだと足りないかもしれない」
一段階クラフトしたブラオレットを手元でくるくると回しながら、シズクは答えた。
見た目は変わりないが、スペックはそれ相応に上がっているのだろう。
「素材ってどうやって手に入れればいいんだっけ。アイテム分解?」
「えっと……星7以上の武器を分解だって」
「うわぁ……」
教科書を読んで、シズクはずーんと擬音語が聞こえそうな声色で呟いた。
星7以上の武器なんて、シズクはほぼ持っていない筈である。
「うばー……しかもPAフラグメントはLv11のフォトンアーツディスクを分解、か……まあ素材はマイショップにも出品されているらしいからそっちから買うしかないなぁ」
「お金がかかりそうねぇ……」
なるほど、新しい武器を買ってそれを強化する方がお手軽だわ、とリィンは納得するように頷いた。
ドゥドゥは運さえよければそこまでメセタはかからないし。
……運さえよければ、だが。
「ん?」
その時、リィンの端末がメールの着信を伝えるように音を鳴らした。
ルインからだ。
内容は、シンプルに一行だけ。
晩御飯ができたから帰ってこいというものだった。
「シズク、私そろそろ帰るわ。ルインがご飯できたって」
「うばー。もうそんな時間かー。明日もウォパルだっけ?」
「うん。明日辺りにはボス級と戦ってみたいわねぇ」
「そだねー。雑魚はもうリィンがいると楽勝すぎるし……」
立ち上がって、出入り口の扉へ向かう。
扉の開閉スイッチを押そうと手を伸ばした――その時だった。
扉が、開いた。
スイッチを押していないにも、関わらず。
「失礼します」
落ち着いた女性の、声がした。
しかし声の主の姿がリィンには見えない。
――それもそのはず、相手はリィンの高身長だと首を曲げないと視界に入らないような低身長。
猫耳メイドの格好をした――小さいリィン・アークライトがそこに居た。
もうすぐ100話じゃん、100話で丁度シズクの正体判明できないかな、とか考えて計算してみたんですけど無理でした。畜生。
というわけで、シズクのサポートパートナー、登場です。
どうでもいいですが、シズクは猫耳派、リィンは兎耳派、メイは狐耳派、アヤは犬耳派です。