『しかも気づいたらドゥドゥの弟子として、アイテムラボショップを継ぐことに!?』
『さらにさらに何故かマターボードを持った”あいつ”は居ない世界線のようだ……このままでは歴史を改変できず、戦力も足りないからダークファルスにアークスは敗北してしまう!』
『こうなったら武器強化に改革を起こしてアークス全体の能力を底上げするしかない!』
『突如飛ばされたPSO2の世界で武器強化職人見習いの主人公がドゥドゥと一緒にアークス強化計画を実行する新機軸ストーリー!』
『2030年春、ハーメルンより連載開始!』
というネタを思いついたので誰か書いてください(棒)。
メインヒロインはモニカで。
「アナル!?」
惑星リリーパ・採掘場跡。
その採掘施設の一角、元々作業員か何かが使っていたであろう部屋で【
とんでもない単語を発しながら。
「あれ? え……? アルナ? 誰? 夢?」
「変な単語叫ばないでくれる? 朝から気持ち悪いわね」
既に起き上がって、身だしなみを整え終えていた【
「本当、気持ち悪いわね」
「二回も言わないでよー」
へらへら笑いながら、【百合】もまた起き上がる。
毒を吐かれた事なんてどうでもよさそうで、むしろ寝ている間に逃げられなかったことを喜んでいるようだ。
「三回目を言うのも吝かでは無いわ」
「何回でもカモン! あたしはアプちゃんの全てを受け入れるわ!」
「はいはい。じゃあ休憩も済んだしそろそろ行くわよ」
こいつ相手にはやっぱり塩対応が最適解ね、と呟いて【若人】は窓から外に出た。
それに続くように、【百合】も外に飛び出して、【若人】の横に並ぶ。
採掘場跡。
砂漠だらけの惑星リリーパに少しだけ点在するオアシスを利用した、『誰か』が『何か』を採掘していた跡地。
砂場と水場、それと採掘用の大型機械や機甲種が闊歩する危険区域である。
……まあ尤もダークファルスである二人を脅かせるようなエネミーは存在しないのだが。
「さて、アンタの言うとおり採掘場までやってきたけど……どう? 私の力は何処にあるか分かる?」
「うばー……、うん。分かる、分かるんだけど……」
目を擦りながら、【百合】は右左と辺りを見渡す。
その後、「うーん」と唸って首を傾げた。
「三つ……いや四つ? 細かいのを含めればもっと沢山……色んな箇所で【若人】の力を感じる」
「……何?」
怪訝そうに、【若人】は眉をゆがめた。
「どういうこと?」
「うばば……あたしもよく分かんない」
「…………」
【百合】が嘘を吐いているわけではないだろう。
ここで【若人】を陥れるようなことをする理由が彼女には無い。
ならば考えられる可能性といえば……。
(アークスの、仕業か?)
(ダミーを幾つも置いて……私の目を惑わすつもりか……くそ)
忌々しい奴らだ、と呟き、【若人】は一歩前に出た。
「【百合】、大きい反応がある場所の方向を教えなさい。私がそっち行くから、貴女は細かい反応の方を調べてきて」
「うば!? 別行動ってことですか!? ヤダー!」
【若人】の提案に当然のように反対する【百合】であった。
まあこの反応は想定内。【若人】はコホンと咳払いを一つして、振り返り【百合】の方に向き返った。
「【百合】、言うことを聞きなさい」
「いやだー! アプちゃんと離れるなんて絶対やだからね!」
「…………はぁ」
駄々っ子のように叫ぶ【百合】に、【若人】は頭を抱えた。
できるだけこいつと行動を共にしたくは無いのだが(生理的に)……。
「…………」
「…………」
「……もし、あんたが私の身体を見つけ出してくれたら……」
背に腹は変えられない。
苦渋の表情で、仕方なく言い放つ。
「ご、『ご褒美』をあげるわ」
「大きな気配はあっちの採掘基地から感じたよ。大きな施設だから見れば分かると思う。じゃあ行って来ます」
早口でそう言って、凄い凛々しい笑顔で【百合】は何処かへ飛んでいった。
「…………はぁ」
扱いやすいのやら、扱いにくいのやら。
ため息を一つ吐いて、【若人】は【百合】の指差した採掘基地を見る。
採掘場の数多ある施設の中でも、一際大きく――真新しいその建物を。
*****
ショップエリア・アイテムラボショップ前。
ここしばらく過疎となっていた反動のように、ショップエリアは大盛況していた。
ドゥドゥの弱体期間でも無いのに盛り上がっている理由は、当然ある。
奴と交代制でアイテムラボショップ店員を担う少女、『モニカ』の初出勤日なのだ。
ドゥドゥを憎むアークスは多い――故に、それだけモニカに期待するアークスも多い。
『ドゥドゥの憎たらしい煽りのない武器強化』。
最早それだけで魅力的すぎるものに見えてしまうほど、アークスたちは調教され尽されているのであった。
「やりました! 大成功です、大成功!」
アイテムラボ内から、女の子が喜ぶ声が響いた。
ドゥドゥと同じ、薄紫の帽子と制服。
若干赤みが掛かった茶色のロングヘアと、まだ幼さが残る自信のなさげな表情が特徴の美少女ヒューマン。
彼女が、今日からアイテムラボショップの店員となった『モニカ』だ。
「うわわぁー……な、なんてお詫びしたらよいかぁ……」
次は、申し訳無さそうな声がした。
どうやら武器強化に失敗したらしい。
「どうなんだろうね、あれ。謝ってる分ドゥドゥよりマシなのかな?」
「いや私に聞かれても……まだ強化で酷い目にあったことないしなぁ」
「妬ましい!」
そして、混雑しているショップエリアの端で、少女が二人。
ていうかシズクとリィンがアイテムラボショップを眺めながら会話を交わしていた。
どうやら特に武器を強化しにきたわけではなく、買出しのついでに新しい店員というのを見に来ただけのようである。
「ま、今は混んでるし新店員のご尊顔を拝むのはまた今度ね」
「そだねー……ん?」
踵を返してマイルームに戻ろうとしたところで、シズクが足を止めた。
いつもの直感とかではなく、ただ単に奇妙なものが視界の端に映っただけのような反応だ。
「……あれは」
「? どしたのシズク」
シズクの視線の先を、リィンも追う。
コスチュームショップの角の裏。
人波から少し離れた場所で、隠れながらアイテムラボショップの様子を伺う男が一人、立っていた。
「……不審者?」
「いやあれは、多分……」
方向転換して、シズクは男に向けて歩き出した。
勿論リィンも、シズクの後ろを付いていく。
サングラスをかけ、深く被った帽子といつもと違うラフな服装で変装をしている男へ。
「ドゥドゥさん、ですよね?」
「む?」
男は、軽く肩を震わせた後ジロリと視線をシズクへ向けた。
帽子で隠れているが、ワカメのようにうねった黒髪。
見慣れた濃い髭と、服を変えても滲み出ている胡散臭さ。
近くで見ればますます間違いない。
この男はドゥドゥである。
「……おや、何か用かねお嬢さん方」
「……うば」
何か用、と聞かれたら特に何も、と答えるしかなかった。
ただ単に、変装しているドゥドゥっぽい人が見えたので真偽を確かめたかっただけなのだ。
だがまあ、地味に勤務外中のドゥドゥと話せるなんてレアな体験だ。
折角だし、色々お話しよう、とコミュ力の高いシズクは思った。
尚コミュ力の低いリィンは早く帰りたいなと思った(勿論口に出さないが)。
「何やってたんですか? こんなところで変装して」
「ふふふ、見て分からないかね。可愛い愛弟子の初陣を見守っているのだよ」
相変わらずの厭らしい笑みだったが、言っていることはマトモでシズクは感心するように「へぇ」と呟いた。
聞けば、新しいアイテムラボショップ店員であるモニカはドゥドゥの弟子だという。
まあ現状アイテム強化を行えるのがドゥドゥしか居ない以上、そのドゥドゥから学ぶのは当然ともいえるが……。
(この人が普通に師匠っぽいことしていることにびっくりした)
「……随分失礼なことを考えている顔をしているが」
「イエナンデモ」
視線を逸らして、アイテムラボショップの方を向く。
ショップ前は、以前変わらず大盛況だ。
……でも、その人波も少しずつ減っているような……。
「順調だな」
「え? あ、うん。モニカさん初めてなのに順調に捌いてますね」
「……ふ」
「……?」
ドゥドゥは、意味深な笑みを浮かべた。
いつもの嫌な笑みとは違う、楽しそうな顔。
否――愉しそうな、顔。
「く、ふふ……いや、そうだな。彼女は私以上の天才だから、実のところ心配は杞憂だったのかもしれないな……」
「…………うば?」
――読めない。
いや、察してはいるのだが、読めない。
今ドゥドゥは、かなりの愉悦に包まれている。
愉しくてしょうがない。
そんな顔をしている。
でも、何で?
そりゃ愛弟子が活躍してれば嬉しいだろうけど――と、そこまで思考したところで。
アイテムラボショップからモニカの申し訳無さそうな声が響いた。
「うわああ……な、なんてお詫びしたらいいかぁ……」
「え……?」
感じたのは、大きな違和感。
謝っているのに、謝っているように感じられない。
他人事だからいいが、もし今のセリフが武器強化に失敗した自分が言われたとしたら――。
「彼女は、私以上の天才だ」
ドゥドゥは、同じセリフを繰り返した。
もう、シズクには察することができた。
そのセリフの、真意を。
ドゥドゥの顔に浮かぶ、下衆い表情の意味を。
「ま、また来てくださいます、よね?」
「二度とくるかー!」
罵声が、アイテムラボショップから響いた。
武器強化に失敗したであろう男が、泣きながら何処かへ走っていくのが見えた。
「…………えげつねえ」
「ふっふっふ」
シズクの海色の瞳が、モニカの表情を捉えた。
心底申し訳無さそうな表情の裏に隠れた、とんでもない下衆顔を。
人が減っているのは、武器強化を順調に捌いているのではない――彼女の下衆い本性を見抜いた人たちが去っているだけなのだ。
新しい店員の増員で、武器強化から苦痛が無くなるなど。
初めから、幻想だったわけだ。
「よく考えたらドゥドゥの弟子がマトモなわけなかったのか……うばば」
「ふっふっふ、何、心配せずとも武器強化の技量についても彼女は天才だった。強化成功率は私とそう変わらぬよ」
「…………」
そういう問題じゃ、ないんだよなー。
態度が、問題なんだよなー。
「それでは、また会おう少女たちよ。できるだけ、メセタを貯めて、な」
と、シズクが苦笑いしていると、ドゥドゥは踵を返した。
どうやらもう帰るらしい。
背中を向けながら手を軽く振って、テレパイプの方へと歩いていく。
「……あ、待って! ドゥドゥさん!」
「む?」
ふと思いついたことがあって、シズクはドゥドゥを呼び止めた。
手持ち無沙汰なのか端末で漫画を読んでいるリィンを尻目に、シズクはドゥドゥに歩み寄る。
「何かね?」
「うば。アイテム強化の(一応)スペシャリストであるドゥドゥさんに聞きたいことがあるんですけど……」
シズクは、アイテムパックからブラオレットを取り出した。
既に最大まで強化してある、愛用品を。
「このブラオレット、更に強化する方法とかって無いですかね?」
「ふむ……ブラオレット+10か……この武器は潜在能力を解放しても威力は変わらないものだしな……」
「潜在能力?」
シズクは首を傾げた。
潜在能力。
聞き慣れない単語だ。
「ああ、+10の域にまで達した武器が解放できる隠し能力ともいうべきものだ。基本的に威力の上がる潜在能力を持つ武器が多いのだが……残念ながらブラオレットは違うな」
大人しく新しい武器に乗り換えることを推奨する、と言って、ドゥドゥはシズクの手にブラオレットを返した。
「そうですか……」
「……ふむ。だがまあ、どうしてもそのブラオレットで戦いたいというのなら方法が無いこともない」
「うば?」
「『ジグ』という老齢のキャストを訪ねるといい。そして、『クラフト』について教えてもらいたまえ」
『クラフト』。
初めて聞く単語だ。
「……その、ジグという人は今何処にいるか分かります?」
「最近はショップエリアでよく見かけるが……まあ探してみたまえ、高名な武器職人で、最近ではクラフト普及の担当をしているから知っている人も多いだろう」
「そうですか……」
ドゥドゥからの情報など、信頼に値しないと思う人もいるかもしれないが、それは誤りだ。
実のところドゥドゥは、仕事に対しては真摯なのである。
いやほんと信じられないかもしれないが、ドゥドゥはアイテム強化を失敗する人をあざ笑いたいだけで、強化自体は真面目にやるのだ。
それと同じで、『強くなりたい』と言う少女に、わざわざ嘘を言うことはない。
…………多分。
「ありがとうございます。探してみます」
「ああ、頑張りたまえよ若人よ…………ああ、そうだ」
「うば?」
シズクに背を向けて、ドゥドゥは思いついたように口を開いた。
表情は伺えないが、少なくとも厭らしい笑みを浮かべているわけでは、ない。
「モニカは、立派に働いているが年齢は君らと同じくらいでね」
「……?」
「今の情報と引き換えにというわけではないが……できれば仲良くしてやって欲しい。あの子はお金が大好きなだけで、根は良い子なんだ」
シズクは、あんぐりと口を開けた。
ドゥドゥが去った後も、開いた口が塞がらない。
背後から「シズク?」とリィンが声をかけて、ようやく硬直が解けて――微笑んだ。
「どしたのシズク、嬉しそうだけど」
「……話聞いてなかったの?」
「最後の辺だけ聞き取れなかったわ」
「……いや、まあ大したことじゃなかったよ」
ドゥドゥのちょっと意外な一面が見れただけ、とシズクは笑った。
何それ見たかった、とリィンは後悔するように落ち込んだ。
「はぁー、それで、ジグって人を探すの?」
「うん。リィンはどうする? 着いてくる?」
「んー……まあ、クラフトっていうのには興味あるし……(シズクと一緒じゃないと初対面の人と話せないし)行くわ」
「うば。じゃあ手始めに聞き込みから始めよっか」
言って、シズクとリィンは歩き出す。
そして歩きながら、シズクは端末を開いた。
「? 調べもの?」
「うん。ブラオレットの潜在能力って何かなって……あったあった」
ブラオレット。
潜在能力、『幸運の祥』。
効果は、スペシャルウエポンの出現確率が上昇する。
「…………」
ぴたり、とシズクの動きが止まった。
「し、シズク?」
「リィン……ちょっと待ってて」
シズクはショップエリアに幾つか配置してある倉庫へと走り、持ちうる限りのメセタとグラインダー。
それと潜在能力解放に必要なアイテム――『フォトンスフィア』を持ち出した。
「モニカちゃんと、『仲良く』してくる」
「…………いってらっしゃい」
止めても無駄なことなんて、リィンは分かりきっている。
自分に出来ることは見守ることだけね、とリィンは近場のベンチに腰を降ろし、アイテムラボショップへ走っていくシズクの後ろ姿に生暖かい笑顔を向けるのであった。
かつてここまで綺麗なドゥドゥが居ただろうか。
いや、無い(反語)。
まあ二次創作全部をチェックしているわけではないので、もしかしたらいるかもしれませんが……。